「日本の生命線」シーレーン(海上交通路/SLOCs)講座 第4回 | 日本シーレーン問題研究会

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近い将来「日本の生命線(含むシーレーン)」となる南太平洋、特にパプアニューギニア(PNG:Papua New Guinea)周辺の情報を先取りして分析し公開しています。

太平洋地域に対する中国軍の海上覇権確立計画
かつてのパクス・ロマーナが「強国が弱国に押しつける平和」であり、それは「敵意のひそむ不安な統治状態」とみなされてきたことを思い起こすなら、アメリカが中東での戦争で国力を疲弊させ、危機的な財政問題に直面している今日、著しい経済成長を続ける中国の軍事力の急激な増強は、日本の資源政策においても極めて深刻な問題である。事実、中東での混乱を助長しただけに終わったイラク戦争やアフガン戦争の結果、「アジア太平洋に回帰する」としたアメリカは、最近では新たにシリア問題に拘泥し、しかもその主導権をロシアに奪われつつあり、また、長年「悪魔」と見なして来たイランとさえ、現実的な対話を始めざるを得なくなっている。これは、第二次大戦後に続いた「パクス・アメリカーナ」の終焉を予感させるものであり、この間隙を縫うようにして中国が一気呵成なる海洋進出を目指した事実は、ここ数年に限っても、誰に目にも明らかである。

かつて、経済的にも脆弱であった頃の中国外交の基本となっていたのは、鄧小平が唱えた「韜光養晦(とうこうようかい)」という考え方であった。これは「能力を隠してひけらかさない」という意味であり、国力に限りがあった頃の中国としては、極めて現実的な選択肢であった。しかし特に近年、中国首脳部の考え方が大きく変化している。例えば、中国空軍の戴旭という大佐は、「韜光養晦の考え方が中国人の思考を萎縮させ、外交を弱気にさせている」と発言しており、「いかなる妥協もせず軍事力による解決も辞さない」という強硬論が軍部の間で強まっている。また2011 年6 月8 日、中国国家海洋局の劉賜貴(リウ・シーグイ)局長は「辛亥革命100 年・海洋強国振興学術交流会」において、「中国は海洋強国を目指す」と誓い、「中国が領有権を持つ海域の支配力を強化する」と宣言した。最近では、この種の「強硬発言」は軍部以外でもその数を増しており、いちいち指摘する事すら出来ないくらいだ。

1980 年代後半以降の中国における国防予算は、20 年連続で二桁増(08 年は17.6%増、日本を超えてアジア1位に)を実現しているが、中でも「中国人民解放軍海軍(PLAN)」増強の動きが顕著である。東南アジアなど周辺国の間では、いずれ中国海軍が南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、ペルシャ湾に至るシーレーンを確保し、太平洋地域における政治的影響力拡大と権益支配を目指すのではという声が強まっているが、この懸念は中国海軍の空母建造を伴うブルーウォーター・ネイビー(遠洋型海軍)化によって急速に現実味を帯びている。その過程で、南沙諸島や東シナ海の海洋資源開発が紛争の火種となる可能性も否めない。こうした中国の「南方政策」が周辺諸国との軋轢をもたらす可能性があるため、これらの海域におけるシーレーン確保は、エネルギー安全保障にとって重要なポイントである。   

石油、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)の供給をこの海上交通路(SLOCs)に依存しているのは、日本、韓国、そして台湾であるが、近い将来ここで中国海軍が圧倒的な優位性を構築し場合、「日本だけ」をターゲットにした石油および天然ガスの供給途絶が起きる可能性がゼロであるとは限らない。その心配は、昨今の尖閣諸島周辺における中国公船の活発かつアグレッシブな動きを見ても、決して絵空事ではないとだろう。

中国海軍は、今から約30年前の1982 年に海軍司令官・劉華清が「中国人民解放軍近代化計画」のなかで初めて、中国海軍の拡大における指標となる「第1 列島線」および「第2 列島線」の概念を示したが、1997 年に海軍司令に就任した石雲生が打ち出した「海軍発展戦略」では、この概念が一層強調され、その基本ラインはまったくぶれる事なく今日に至っており、中国海軍はその方針に従って粛々と南シナ海や日本周辺海域に対する圧力を強めているのだ。

次回は、そんな中国海軍の「発展戦略」における基本ラインを説明する。 

(続く)


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