私立探偵の劉雅弦の元に富豪の令嬢である葛令儀が訪れる。
行方が分からなくなった学友の岑樹萱を探して欲しいとの依頼を受けた劉は樹萱の足取りを追うと、樹萱の映画館を経営していた父も借金を抱え行方が分からなくなっていた。
さらに劉の前には調査を妨害する者も現れ…。
1930年代の中国の架空の都市を舞台にした探偵小説。
謎解きミステリでは無く、地に足がついたようなハードボイルドの王道をいくような物語なんですが、主人公の探偵が女性というのが大きなポイントでしょうか。
この時代に女性一人で探偵業を営むという事は現実としては難しかったろうとは思いますが、女性探偵とする事で、より〈強さ〉というものが浮き上がって感じ取れるようです。
主人公の、決して過度には描かれないながらも、自分自身に嘘をつかず己の道を歩む姿はなんとも凛々しく、その姿を追ってしまいます。
感傷的過ぎず、かといってドライ過ぎず、それでいて現実的であり、どこか厭世的でもあったり。
少女のある願いをはねつける場面での劉の言葉は残酷なものでしたが、それはある種の優しさなのでしょうか。
また、劉に対してある登場人物は「なにも信じていない」と口にしているのですが、それが彼女の事を端的に表しているのかなとも思ったりしました。
そんな主人公の劉雅弦が、行方知らずの少女を探した果てに浮かび上がる思いがけない真実には、関係した少女たちの心の内を思うと物悲しくもあり、なんとも言えない苦みを口に残します。
この辺り、樋口有介の青春ミステリを思い出したりも。
けれど、そんな少女たちの中に逞しさも感じ取れて、彼女たちにはどのような形でさえ生き抜いていく強さがきっと備わっているとの希望を抱きたくもなりました。
また、舞台となるこの時代特有の風俗や考え方、富裕層から貧困層までの描かれ方もその情景や匂いが浮かんでくるようで、だからこそ女性たちの強さや逞しさが引き立っているのでは無いでしょうか。
それにしても劉に行方を探して欲しいと依頼を行った、葛令儀の岑樹萱に対する友情とは実際にはどんなものだったのでしょうか。
また、逆に岑樹萱の葛令儀に対する心の内というのは果たして。
全てが終わった後に訪れるどこか虚しさめいたものも含め、想像するしか無いのですが…。

