苛めにあい不登校になった美緒。
教師でもある母親からの叱咤もあり、なんとか登校しようとしてもどうしても体調を崩してしまう。
亡くなった父方の祖母から贈られたホームスパンのショール。それを自分を守る避難所として大切にしていたものの、逃げているだけだと母に取り上げられた美緒は、怒りや悲しみに溢れ、祖父が住む盛岡へと一人向かう。
登場人物たちが抱える悩みや痛みに触れ、それぞれに共感するものがあったからこそ、読んでいて何度も胸が痛く、苦しくなるもがありましたが、最後はやはり希望が見えて温かい気持ちになれました。
自分の思った事や考えた事を口に出すのが苦手で学校で苛めを受け不登校になった美緒。
美緒の父親もリストラなど自身の仕事の事で悩む中で娘や妻へかける言葉をもたず、教師である美緒の母親もまた学校内での悩みなどもあり夫や娘への鬱屈を募らせています。
それぞれが内面に問題を抱えているけれど、家族なのに、それとも家族だからこそか互いに向き合うとせず崩れていきます。
一人、祖父が住む盛岡に向かった美緒は、そこで祖父の作るホームスパンに魅了され、そのまま祖父の元でホームスパンを作る事を決意します。
ただ、美緒がホームスパンを作ると決意するまでは、実は簡単ではありません。
両親の事を含め、自分は何をしたいのか、どうしたいのかと悩む姿というのは、同じように将来について漠然としか考えてこなかった自分のような人間にも共感できるものがありました。
そしてそんな美緒を見守り、そっと背中を押すのは祖父の存在。
決して強く引っ張るのではなく、最小限の言葉で優しく見守りつつも、ここぞという時には傷つき、悩み、言葉にできないその思いや考えを表に導く姿は、読者から見ても格好いいお爺さんじゃないでしょうか。
ただ、方向性の違いにより仲違いし、離れ離れに暮らした妻への想いと後悔の念を今も抱いていたり、息子である美緒の父親への不器用な接し方など、スーパーマンのような人物では無く普通の年を取った一人の男である様子が伺えるからこそ、魅力的な人物に映るのかも知れません。
それにしても、美緒の母親が美緒に投げ掛けたあの言葉は強烈過ぎました。
あんな風に言われたら一生癒えない傷になったり、許せなかったりするかも。
言葉というのは一度発せられると二度と元に戻らないですし、それがきっかけで修復できないほどの傷ができるかも知れないんですよね。
それは言葉を投げ掛けられた方だけで無く、発した方も同じだと思います。
けれども美緒たちは、ホームスパンを編むように、失敗しても丁寧に編みなおし、あらためて向き合っていけるようになるのは、どれほど壊れたように見えても、それはやはり家族だからなのかも知れないですし、美緒を始め、それぞれが真剣に相手の事を、家族の事を考えたからなのかも知れません。
美緒が繊細で鮮やか、そしてとても心地よい感触のホームスパンに触れたように、少しずつ心の奥底にある澱みや歪みといったものが解れ、未来へと紡がれていく様子は優しく、美緒を始め、皆が成長する姿が清々しい物語でした。
ところで作中、盛岡の様子がふんだんに描写されており、美緒と共にまるでそこに一緒にいるかのような雰囲気を楽しめましたし、盛岡の地を訪れてみたくなりました。

