サウスダコタ、ローズバッド居留地にて、雇われ処罰屋を生業とするヴァージル。
部族評議会の議員でもあるベン・ショートベアから、少年時代のヴァージルを虐めていたリック・クロウがその居留地でヘロインを売ろうとしているので調べて対処して欲しいとの依頼が舞い込む。
居住区にてFBIにも部族警察からも見捨てられる事案に取り組む、「ラコタ族」の流れをくむ処罰屋のヴァージル。
そのヴァージルがヘロインなど薬物に関する問題について否応なく巻き込まれていく様子が、先住民の思想や文化、そして今なお続く差別と共に描かれるハードボイルド・ミステリ。
ミステリとしては多くの方が察しがついてヴァージル気づけよと思ってしまうかも。
しかし割と淡々と進むものの、どこか味わいのある筆致もあって、地味ながらも読ませます。
かつての恋人との間に再び芽生る慕情。
唯一の家族として甥のネイサンを見守り、その成長を助けようとする想い。
亡くなった家族や先住民の血、そして伝統や文化に対する複雑な感情。
先住民の歴史や今なお続く差別。
また、居住区の間でもその血によって差別があり、白人文化の法律からは見捨てられた土地で蔓延る暴力や貧困。
それらを背景に、自身も白人と先住民の血を引き差別や暴力にさらされ生きてきたヴァージルは、自分自身の心を守るために処罰屋して孤独な地位を確立していたのかも。
そんなヴァージルが、ネイサンが麻薬密売に関するトラブルに巻き込まれた事から、思いがけず自分自身のアイデンティティに向き合う事になっていきます。
前半に比べ後半は、危機に陥った甥のネイサンを助けようとする展開もあって緊迫感も溢れ、一気に読ませるものが。
そこで目に付くのは、やはり暴力。
暴力によってでしか出来ない解決、これが今も変わらぬ現実を表しているのか、やるせなく感じさせるむきも。
それでも、その中でヴァージルが自身のルーツと向き合い、そして変わっていこうとする様子に希望を感じる事ができました。
そう、ラストもきっと…。