『アウシュヴィッツのタトゥー係』 ヘザー・モリス | 固ゆで卵で行こう!

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ヘザー・モリス 「アウシュヴィッツのタトゥー係」

 

第二次世界大戦下のアウシュヴィッツ・ビルケナウに収容されたラリ。

そこでタトゥー係として、同じく収容されてくる同胞達に識別番号の刺青を掘る事に。

いつものように刺青を入れていると、その中の一人の女性ギタに恋をし、二人は過酷な収容所の生活の中で二人は愛を育んでいくのだが・・・。

 

 

 

アウシュヴィッツ収容所でタトゥー係となったラリが、ある女性ギタと恋に落ち、好きな時に好きなだけ愛し合えるようになるまでなんとしても生き延びる事を決意し、「朝、目が覚めたなら、今日はいい日だ」と思う、想像を絶する収容所の日々を描いた事実に基づいたフィクション。

 

一瞬で命が奪われていく世界は実に恐ろしく、ほんのちょっと看守達の機嫌を損ねるだけでも、ラリ達が生き延びれたのは人が生来持つ優しさや強い意志があったから。

 

タトゥー係は他の収容者と違い仲間を売るような行為をする事で収容所での生活にて特権を持つ事ができるのだけれど、その事に葛藤を抱えたラリはギタと一緒に生き延びて自由に愛し合う事が出来るようになるには、自分の事だけを利己的に考えるのでは無く、「一人を救う事は世界を救う事」と、等しく他の人々を助ける行動に出ます。

 

中でも、ラリが収容所に入るまで接点のなかったジプシー(ロマ)達との出会いや交流、そして別れの場面などは切なく哀しいけれども、そういったところがよく表れているところの一つでもあり印象に強く残っています。

 

また、その他にラリを助ける人、ラリに助けられた人、助けられなかった人、それぞれがそれぞれの人生や物語があったんだという事を訴え、生きる事の尊さと戦争や虐殺の愚かさと虚しさを語り継げていく事が大事なんだと実感させられました。

 

 

そして最後、ラリとギタの息子さんによる結びの言葉で、どれだけラリがギタの事を愛していたのか、二人が自由に思いやり自由に愛し合っていたのかが分かる一文では、溢れる涙を抑えきれませんでした。