- サイロンの光と影 (ハヤカワ文庫 JA ク 1-121 グイン・サーガ 121)/栗本 薫
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記憶が“修復”されたグインのケイロニアへの帰還。
それは臥せっていたアキレウス大帝を何よりも元気付けるもので、黒燿宮、またケイロニアという国にとってグインという存在がどれだけ大きかった事かも伺いしれるような歓喜の声でグインは迎えられます。
しかしその凱旋の裏で后であるシルヴィアとの間には決定的な何かが生まれてしまっています。
グイン、そしてグインから相談を受けるハゾスの苦悩は、ケイロニアという国を揺れ動かす事件へと発展していくようです。
読み始めてきっとそういう事が待ち受けているんだろうなとは思いながらページをめくりました。
それでもやはり衝撃的でしたね。
そんな事になってもやはり「愛している」というグインは、その存在が完璧に近い彼の最も人間らしいところではないでしょうか。
しかしグインにとってその「愛」は本当に「愛」なんでしょうか。
庇護したいと思う感情を「愛」だと勘違いしていたという悲劇だったりしないのか、それが心配でもあります。
そして何よりもシルヴィアが可哀相でもあります。
その素行は誉められるべきでは決してないですし、たとえどんな過去があっても、そしてその境遇に不満をもっていたとしても、どうしても「責任」と「義務」はつきまとうもの。
これはマリウスにも言える事だし、この巻の前半でも語られていますが、何もかも捨てて自分の為だけに生きる事は個人差はあるにしても誰もが簡単に出来るものではないでしょう。
その中で責任や義務といった事に拘るのではなく、自分なりの生き方を見つけられるか、生きがいをみつけるかが重要なのかも。
まして王家に生まれてきた者ならば尚更・・・。
だからこそシルヴィアがとってきた行動は非難されて当然なのは間違いなく、多くの人から見ても嫌悪感を抱かれるキャラクターだと思います。
それでも、自分はシルヴィアを嫌いにはなれないです。
シルヴィアはシルヴィアなりに生きていたんだと思えるんですよね。
ほんのちょっとの差でグインと幸せな家庭を築けなかったし、この先も築けそうにはないのがやはり可哀相だなと思えるのです。
それにしてもこの巻もなかなかに話が進まなかったですね。
8月に続きがまた読めるとはいえ、やはりもうちょっと物語の展開をテンポアップしていって欲しいところであります。