著者:スラヴォミール・ラウイッツ 訳:海津 正彦
『脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち』
(ヴィレッジブックス)
信じられないような物語だが、これはノンフィクション。
第二次世界大戦時に、ポーランド陸軍騎兵隊中尉だったラウィッツは無実にも関わらずソ連当局にスパイ容疑で逮捕され理不尽な扱いと裁判の結果25年もの強制労働を言い渡される。
極寒のシベリアは移送されるそこまでだけでも一冊の本になりそうな体験なのだが、シベリアの強制収容所に辿り着き、そこから脱出してからが凄い。
なんとシベリアから一路南へと向かい、シベリア→モンゴル→ゴビ砂漠→ヒマラヤ→インドと、徒歩で縦断していくのだ。
強制収容所での件も興味深いが、意外とあっさりと脱出に成功してからが圧巻。
まさに身も心も凍りつくよう極寒のシベリアの原野をひたすら歩き続ける7人の脱走者。
ろくな道具も食料も持たず、常に命の危機にさらされながらもひたすら前に進む。
そのシベリアを抜けても今度は灼熱のゴビ砂漠。
その存在自体殆ど知らなかった一行に待ち受ける苦難。
一人一人と倒れていく仲間達。
砂漠を抜けても安心できない。
今度はヒマラヤという大きな壁が待ち受けている。
一向は強靭な精神力と強烈な運、そして何よりも信頼できる仲間がいてこそこれだけの事を成し遂げられたのだろう。
だけれど、インドまで辿り着いた男たちを本当に助けたのは、途中で仲間になり誰もが守りたいと思った17歳の少女と、たとえ言葉が通じなくとも何の見返りも求めず旅人として彼らを助けてくれたアジアの人々の道義心じゃないでしょうか。
その中で彼らを歓迎しなかったのは西洋人の聖職者だけだったというのはなんとも皮肉めいた出来事でしたね(笑)。
そしてヒマラヤで見たあるもの。
うーん、これこそなんとも信じがたいけれども、もっとも信じてみたい事かも(笑)。
戦争によって起る悲惨な出来事。
それを忘れない、知ってもらいたいという事から書かれた本書だが、その悲惨な出来事も心に残るけれども、それ以上に人の優しさと希望が心に染み入りました。