- 著者:ジャン=クロード・イゾ 訳:高橋 啓
- 『失われた夜の夜』 (創元推理文庫)
犯罪者となったかつての親友二人の死。
マルセイユ中央警察の刑事ファビオは、二十年前に袂を分かってはいても消えぬ事のない友情の為に調べ始める。
そんな中、心惹かれていたアラブ人の娘の行方が分からなくなり、そして無残な姿で発見される・・・。
<マルセイユ三部作>の一作目。
主人公のファビオは孤独な男。
誰にも本当に自分をさらけだす事が出来ない。
しかし、かつての友たちが殺された理由を調べ始める事によって、ほんとうに生きるという事はどういう事か、そして誰かを信じる、そして愛するという事を知る。
それらはファビオの乾いた目で見た様子で描かれるが、ファビオ自身はタフだけれども殴られれば涙するし、そしてその強さは誰かに全てをさらけ出すことへの弱さの現われでもある。
ファビオが愛する女たち。
そしてファビオを愛する女たち。
だが、ほんとうにファビオが愛したい、そして愛されたい女は一人。
果たしてファビオは心から望むものは手に入るのだろうか。
そして幼馴染達への友情は色褪せず、いつまでも心の中で光り続けるのだろうか。
ラスト、疲れきった体でそれらを手に入れるために、そしてほんとうに生きるために対決に向かうシーンは感動的ですらあった。
移民の国フランス。
そしてマルセイユを舞台に、事件を通して人種問題や人種差別を大きなテーマとして見せる物語は切なくも悲しく、そしてやるせない。
しかしファビオはそんなマルセイユを心から愛しているのだろう。
著者は既に数年前に亡くなられて新作が読める事はないけれど、この<マルセイユ三部作>の二作目、三作目の邦訳が待たれるところだ。