- 著者:J・J・コノリー 訳:佐藤 耕士
- 『レイヤー・ケーキ』 (角川文庫)
麻薬ディーラーとして狡猾に立ち回ってきた29才の“おれ”は、30で裏社会からの引退を決意していた。
そんな“おれ”の思惑を知ったマフィアのボスから2つの指令が与えられる。
その指令を果たせば引退出来ると“おれ”は奔走するのだが・・・。
「レイヤー・ケーキ」とはクリームやジャムなどを何層も重ねたスポンジケーキの事で、それを“何層にも分かれていて、それぞれに旨みがある犯罪社会”の事を比喩的に表したスラングであるらしい。
で、この作品は主人公の“おれ”がボスから恫喝というムチと引退というアメで与えられた指令によって、裏社会の掟を痛感させられる物語。
主人公は麻薬ディーラーでありながら、自身ではドラッグもやらないし常に慎重に行動する事によってこれまで警察のやっかいになる事もなく信頼できるディーラーとして地位を築き上げてきた男。
だが、引退を目の前にして取る行動は、狡猾なイメージのある主人公とは思えぬような抜けたもの。
その事から犯罪社会の闇の深みに陥る様は喜劇だ。
正直頭の切れる男の物語と期待してただけに、全てが裏目に出て転がり落ちていく主人公の間の抜けた様子はそれはそれで面白かったけど、ちょっと期待はずれな感じもした。
ラストも悪くはないが、作中で「レイヤー・ケーキへようこそ」と言われた主人公が、ケーキの表面の旨みのある部分としてのし上がっていくような終わり方も面白かったんじゃないかな。
ところでこの作品は、新ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグが主役で映画化され、日本でも公開された。
近々DVDにもなるので、映画ではどのようになっているのか確かめてみたいところです。