- 著者:五十嵐 貴久
- 『1985年の奇跡』 (双葉文庫)
ワンマン校長が進学校にすべく推し進める管理学校。
その中で、1勝もした事の無く、部員達もやる気のない野球部のキャプテン岡村の前に、中学時代のチームメイトである、とんでもない才能を持った転校生、沢渡が現れる。
「ひょっとして・・・」
沢渡は部員達の夢を乗せてマウンドにあがり、野球部は快進撃を続けるのだが・・・。
ダメ野球部が、一人の天才投手の出現によって甲子園を目指し始める、少年漫画などではよくありがちなストーリー。
練習するグラウンドも無く、そして練習する時間さえ限られていて、更には部員達自身にやる気のない野球部が、例え一人の天才投手がいても激戦の地区大会を勝ち抜いていくことははっきり言ってありえない訳で、そういうところもやはり漫画っぽい感じ(笑)。
しかし、マウンドに立つ沢渡に敵のチームからヤジとして浴びせかけられる、チームの快進撃を止める事になる、ある事実。
これはちょっと予想付かなかったぁ。
1985年の当時、いや、現在でさえ冷たい視線を浴びせられる事は間違いない。
期待が大きかっただけに、挫折したチームに対するやり場のない非難は大きく、また、それを受ける部員達の怒りの矛先も夢を見せてくれた沢渡に集中する。
だけど、一時は沢渡に全てを押し付けようとする部員たちも「言い訳ばかりする事に飽きた」と、自分達の力で見返そうと努力しだす、その青臭いまでの熱血ぶりはまさに青春だ。
ところで舞台が1985年という事で、当時の時事ネタがたっぷり。
その時代、青春時代を過ごしたという読者にとっては懐かしく当時の自分達の青春を思い出させるだろう。
ただ、そういった描写が多過ぎるように感じると、少々鼻に付くような気もしないでもないけど(笑)。