ご存知、オスカー2020の11部門にノミネート、主演男優賞と作曲賞に輝いた社会派作品。
そう、バットマンの宿敵としてあまりにも有名な悪役「ジョーカー」だが、本作品はエンターテインメントではない。貧富の格差が激しいゴッサム・シティで、どのようにしてこの稀代の悪役が生まれたのかに焦点を当てたもの。つまり、現代のアメリカ都市部の問題を重ね合わせた、社会派の作品なのだ。
映画は、主人公の暮らしぶりから始まる。社会の底辺に暮らす者がいかに苦しんでいるのか? が、嫌というほど描写されている。街の悪ガキにリンチされ、会社(ピエロ派遣業)の同僚からは蔑まされ(底辺にいる者はより弱い者を見つけていたぶる構図)、経営者からはいわれのない叱責を浴びせられる。社会福祉士からは疎まれ、バスの中では汚いもののような扱いを受け、家に帰れば痴呆症気味の母親の世話。マシなことといえば、一流のコメディアンになる自分を想像することと、同じアパートに住む女性といい仲になったこと。この辺の描写は、生きていればこそのエピソードと感じ一息つけるが、油断禁物、後半からエンディングにかけて衝撃の事実が観客を襲う。母親が定期的に出している手紙が伏線となっているのだが、驚愕である。混乱する。悲しすぎる。しかし、ある意味納得もしてしまう。そこがまた切ない。
ともあれ、モチーフがそういうものなので、暗い翳が全編を覆っている。元気なときでないと、メンタルやられそう。
監督は、あくまでもジョーカー誕生という個人に焦点を当てたと言っているようだが、嫌でも社会格差を意識せざるを得ない。
最近、日本でも『万引き家族』や『岬の兄妹』といった、社会問題を取り上げた作品が話題になっている。作り方はまったく異なるが、問題提起をはらんだ作品という意味では、共通するものがあるのではないか。
主演のホアキン・フェニックスの怪演も見どころ。
硬く重たい作品がお好みなら、強くおすすめする。