よくできている映画だと思った。こじんまりとしているが、ホラー映画のエッセンスが詰まっている。
まず、冒頭の一家惨殺事件現場。
無残に散らばる死体と血飛沫。そして地下室で発見されたもう一体の犠牲者は、きれいな姿で土に埋まっていた。衝撃的な映像だ。でも、実はこの物語の鍵を握る重要なシーン。美しい死体の正体と目的が判明したとき、一家惨殺事件の理由に戦慄が走る。
このプロローグが、実は物語のすべてを語っているわけだが、もちろんそれがわかるのはクライマックス。
「ジェーン・ドゥ」とは、日本で言う「名無しの権兵衛」。なぜ素性がわからないのか、外傷もなく死因が不明なのはなぜか、なぜあんな場所で発見されたのか。謎が解き明かされていく過程も面白い。
舞台は、遺体安置所と火葬場を兼ねた場所で、主人公は検死官。息子とふたりで、死体解剖を行っている。こういう場所、日本のドラマでは、もっと無機質な病院のような場所で行われている印象だが、アメリカではこんなところでも行われているんだと驚く。歴史のある施設だからか、こういう知識を得られるのも映画の良さ。
そして、死体の目的は復讐だったわけだ。300年以上枯れることのない怨念は相手を選ばない。いや、恨みの相手は「人間」だ。復讐劇は一体どこまで続くのか。「ジェーン・ドゥ」により人類が滅びる。そんな未来も、一笑に付すことはできない。切り刻んでも燃やしても、その肉体とともに恨みは消え去ることができないのだから。
現代でも、小さな魔女狩りはあちこちで起きている。心当たりのある人は、この映画を観て己を振り返ってほしい。あなたのそれが、人類滅亡の引き金になるかもしれないのだ。