【記念日にショートショートを】結婚指輪を追いかけろ【結婚記念日】 | そうでもなくない?

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『結婚指輪を追いかけろ』

 明後日はオレたちの結婚記念日。今年は5回目だ。令和元年だし、いつもより盛大に祝おう!と、意気込んでいたのだが…… いま、気づいた。結婚指輪がない。家も会社も行きつけの飲み屋も、散々探したのだがどこにもない。困った。嫁はブチギレること必至だ。似た指輪を買ってごまかすか? 今日買いに行けるかな……。ふと、洗面所の排水口を見ると、奥で何かがキラリと光った。懐中電灯で照らすと、なんとそこに指輪がある。急いで針金を曲げて釣りあげようとするが、奥深い場所にあり届かない。仕方なく台の扉を開け、排水パイプを取り外す。よしあった! と針金を引っ掛けたが運悪く、指輪はコロリとさらにその奥へ落ちていった。オレはアパートの裏へダッシュし、下水管理用の蓋を開ける。と指輪発見! 動くなよーと手を伸ばすオレの上からぐごごごごと音が。直後、下水道に勢いよく水が流れてきた。えー? ここでトイレ流すぅ? 指輪は汚物といっしょに流れ去った。どこだ?この下水道はどこにつながってるんだ? オレは本屋へ駆け込む。「オヤジ! この町の下水道の位置がわかる地図をくれ!」「あいよ、1万円」「高えっ!」オレはカウンターに諭吉を叩きつけ、書店を飛び出し地図をばさぁっと広げた。我が家の位置、現在地、排水速度を計算し、目的地を定めダッシュ。目的のマンホールにたどり着くと、蓋を外し中を覗く。指輪がちょうど闇の奥へ流れてくところだ。オレは手近にあった雑貨屋へ飛び込む。「オヤジぃ! 頭につける懐中電灯だ!」「あいよ、2万円」「高えぇっ! 」すばやく懐中電灯を装着し、オレは下水道に飛び込む。強烈な刺激臭に涙がだばだばあふれてくる。臭ぇ臭ぇとわめきながらばしょばしょと飛沫を上げて、オレは暗闇を突っ走る。どこだ? 指輪はどこだ? ネズミの大群を蹴散らし、手足のもげたキューピー人形に足を取られ、壁際に横たわる謎のオヤジを飛び越える。そしてついに、ゴミをせき止めている鉄格子に引っかかった指輪を発見した。ようしいい子だベイビィ、大人しくするんだぞ……。ジリジリと指輪に迫るオレの手。いよいよあと3センチ、と指輪の向こうで何かがギラリと光った。ばしゃり。魚は指輪を口に咥えて身を翻し、そのまますいーっと泳ぎ去ってしまった。オレはとっさに踵を返す。うぉぉぉぉ! 謎のオヤジを踏んづけ人形を蹴り飛ばしネズミを踏み潰し、出口へ向かった。梯子をマッハで駆け昇ると、この下水道がつながる海へ猛ダッシュ。5分も走ると、堤防が見えた。釣り糸をたれている爺さんがこちらを向き、あんぐり口を開けている。オレはその横を、ライオンに追いかけられるシマウマより速く駆け抜け海へ飛び込む。ざぼぁぁぁん! 水しぶきで爺さんはびしょ濡れだ。オレは潜る浮かぶを繰り返し、二十を数えて堤防へ這い上がった。指輪は見つからない。幸せだった結婚生活はおしまいだ。さらば愛しき人よ…… とうなだれていると、海面がムリムリ盛り上がり、後光をまとった嫁が現れた。右手に指輪、左手にホホジロザメを抱えている。「あなたの失くしたのはこの百均の指輪ぁ? それともこのホホジロザメが飲み込んだプラチナの指輪ぁ?」「サメの方です!」「あんたこいつと浮気したね! ゆるさん!」「はぁ? 意味ワカンネ」「サメ! 殺っておしまい!」ホホジロザメは海面を蹴り、禍々しい牙をガチガチと噛み鳴らしながら飛びかかってきた。大口を開けたその奥に、指輪をくわえた魚がくたばっている。オレは死に物狂いで手を伸ばし、魚ごと指輪を掴んだ!「とった!」次の瞬間、魚と引き換えにおれの首はサメの口に収まった。ちっ、せっかく指輪取り返したのにしゃくに障るぜ。サメだけに。シャークだけに。 

〈了〉