【ショートショート】私の話【朗読イベント落選作品】 | そうでもなくない?

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 こんな夢を見た。

 

 池の畔(ほとり)にしゃがみ込む。

 

 池は鬱蒼と茂った樹々に囲まれており、池と私は薄暗い静寂に包まれている。深緑に濁った池面には、漣(さざなみ)が幽かな息遣いでうろうろと、行ったり来たりしている。私は、それを、ほうっと眺めている。

 

 気がつくと、池に何やら浮いている。白くて四角いそれは、ゆらゆらと揺れ、漣とともに近づいたり遠ざかったりしている。白いといっても、雪のように白いわけではなく、廃ビルの野ざらしの壁ほどに薄汚れている。私はそれを手に取ろうとするが、ついと向こうに行ってしまう。諦めてまたしゃがみ込むと、ゆらゆらと近づいてくる。腰を浮かして手をのばすと、またついと向こうへ行ってしまう。何度か、しゃがんだり立ったりを繰り返すが、一向に埒が明かない。

 

 ふと目を落とすと、白いものが足元に広がっている。私は、草叢(くさむら)にしゃがみ込んでいた筈だが、漆喰のような板の上にいる。板は硬いが、なにやら不安定で足元が覚束無い。思わず両手を着き、四つん這いになる。ようやく定まったのであたりの様子をうかがうと、白い板の周りは一面緑色の水だ。視線の少し先には、草の茂った縁がある。どうやら私は、池の上に浮かんでいるようだ。四つん這いのまま池の縁を見上げると、しゃがみ込んでこちらを見ている私がいる。太い眉毛に団子っ鼻、無精髭がだらしない。私は、私の乗っている板を拾い上げようと手を伸ばす。摘み上げられたらひっくり返って溺れてしまう、と怖れた私はふうふうと息を吹いて池の縁から遠ざかろうとする。いっときは離れるものの、風向きが悪いのか、すぐに縁へ戻ろうとする。ふうふう、ふうふうと息を吹く。

 

 ふと目をやると、正面に小さな白い板が浮いている。ゆらゆらとしながらそれは、近づいたり遠ざかったりしている。お互い揺れているのですぐにはわからないが、向こうの板にも四つん這いの私が乗っており、こちらに向かってふうふうと息を吹いている。その姿がなんだか滑稽で、ちょいといたずらをしたくなり、軽く息を吹きかけてやる。向こうの板はすうと池の縁に近づき、もう少しで私の手に捕まりそうになる。器用さに欠けるのか足腰が弱いのか、私は板をなかなかつかめない。私は必死で逃れようと、縁に向かってふうふうと息を吹く。ふうふう、ふうふう、ふうふう。

 

 額の汗を拭いながら顔を上げると、私の周りにはたくさんの白い板が浮いている。私のいる池の縁と私の乗っている板の間に、板が無数に浮いている。そしてその上には、無数の私が乗っている。無数の私がふうふうと息を吹いている。ふうふう、ふうふうと吹いている。その息が漣となって、池の縁に寄せている。

 私はしゃがみ込んで、それを眺めている。無数の白い板と尽きることのない漣。空に目を移せば満天の星空で、池にもその星が綺羅綺羅と反射している。

 

 足が痺れて少し痛い。    了

 

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先日アップした『お蕎麦畑でつかまえて』に続き、朗読イベント『「こんな夢を見た。」』に投稿したショートストーリーの落選作品です。夏目漱石の短編集『夢十夜』をモチーフにし、「こんな夢を見た。」で始まるショートストーリーが規定です。『夢十夜』オマージュ感が半端ありませんwww

図々しくもご開帳してしまった狼藉をお許しくださいm(_ _)m

お楽しみいただけましたら、作者も幸せです。