【リレー小説】一杯のコーヒー | そうでもなくない?

そうでもなくない?

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「アンリーブル…」と呟いてみる。

 

 

あたしは木製のドアを開ける。カランカランと小気味よい音がして、カウンターの向こうにいる薄毛顎髭のマスターがこちらに顔をあげた。

おひとりですか?と聞くので、軽く頷いてそのとおりと告げる。こちらの席へどうぞ。と促されたが、あたしは自分の好きな席へ座る。暖かい光がさす窓際のいちばんいい席へ。

あたしはSNSの女王。インスタのいいねはいつも2000を越えるし、軽くつぶやけばのRTが1000は下らない。インスタ映する席はお見通しよ。あなたみたいな、松…松…松藻?なんとかって朝ドラのあまちゃんに出てた場末俳優みたいな顔した男より、あたしのほうが知ってるんだから。

さてと、iPhoneを取り出しすかさず顔認証。ちょっと変顔にするのが、不正アクセスを防ぐコツ。このあいだSNSで教えたら、みんな真似してたわね。

あたしくらいになるとちゃんと礼儀もわきまえる。マスター、お店の中撮影していいかしら?あら、ありがと。でも、そんなことわかってるわよ。他のお客が写ったらちゃんとモザイクかけるわよ。あたしはSNSの女王。そういうことはわきまえてるわよ、失礼ね。

では、さっそくパシャリ。いいわねこのテーブルと椅子。こげ茶色の木製で、木目があって…アンティークっていうのよね。アール…アール…なんとかだわ、このデザイン。あとでググっておこう。あのカウンターの向こうに並んだカップも素敵だわね。はいパシャリ。いいわね。さっそくアプリでフィルターかけてっと…インスタへアップ!ふふふ、またいいねが増えちゃうわ。

しかしこの店、インターネットのうわさどおり雰囲気のいい店ね。でも、お客はあんがい少ないのね。たまたまそういう時間だったのかしら。こういう運のいいところも、SNSの女王だからこそなのかしらね。さて、もう一枚パシャリ。

あ、まだ頼んでなかった?ごめんなさい。2000人のフォロワーにサービスしてたので。ブレンド、ホットでくださる?おねがい。

音楽もいいわね。ジャズ、かしら?曲名がわからないわ。こんなときはアプリを立ち上げて…ポチッと、流れてる音楽を聞かせて…あら、not found。出てこないわ。あんまり有名な曲じゃないのね。

あら、猫ちゃん?かわいいー(はぁと)。ねえ、これお店の猫?いやされるぅ(はぁと)猫ちゃんもパシャリ。アプ!

はい?はいはい、ありがと。コーヒーね。うーんいい香り。これもうわさどおりね。パシャリと。湯気を写すために背景をダークなアングルにするのがコツよ。真横からパシャリ。真上からパシャリ。自撮りであたしも入れてパシャリ。で、アップ!ふふふ、いいわね。さっきの写真、もういいねがいっぱいついてる!まあ、当たり前だけどね。

さて、冷めないうちにコーヒーをいただきましょ。ふぅ、ふぅ、あたし猫舌だから、ふぅ、ふぅ、ズズズッ…あー、深いコク、おいしい!ねえマスター、これなに豆となに豆のブレンド?ふんふん、ふんふん、あ、ちょっとまって、メモ追いつかない。あとでインスタに載せるんだから。はーい、ありがと。

さあ、もう一口。今度は飲んでる口元をアップでふぅふぅ…ズ…ぎゃあ!なんじゃい!うわーなによ、猫?え?飛び降りてきたの?なんで?コーヒー、めちゃこぼしちゃったじゃん。あーもうどうすんのよ。もう!(怒)

でも、あたしはSNSの女王。こんなアクシデントも味方にする。こういうのはツイッターね。SNSを使い分けるのもコツよ。こぼれた洋服を自撮りでパシャリ。『アンリーブルで猫にコーヒーこぼされちゃったにゃん(ΦωΦ)アンビリーバブルwww』はい、アップ!

マスター、ちょっとごめんなさい。拭くものもらえるかしら。あら、いいのよいいのよ、猫は飛びかかるものなのよ。SNSの女王はそんなことでは怒らないわよ。うん、ありがと。

あー、でもコーヒーなくなっちゃったわ。まだひとくちしか飲んでないのに。え?マスターお詫びのしるしにもう一杯くださるの?えーなんか悪いわよ…まあ、当たり前よね。お店の猫に迷惑かけられたんだしね。ふふん。

さて気を取り直して…おっ?つぶやき、さっそく誰かRTしてるわ。え?誰これ?コーヒーこぼしたbotって…やだわ、変なやつに拡散されてるわ。ブロックしちゃおうっと。ん?コーヒー…ふたつ?あれ?マスター、またいれてくださったの?悪いわ。そんなに飲めないし。

ん?マスター、お顔、そんなに白かった?コーヒー…カップみたい…な顔…それに頭?カップの縁からコーヒーがこぼれてるわよ…。

 

にゃぁん

 

<了>