アメリカのマフラー | Do You Want to Know a Secret?

Do You Want to Know a Secret?

馬に乗るズワイガニのブログです

唐突に何か書きたくなることがあり、書くことにした。お久しぶりです。

帰省した。犬がかわいい。帰ってきたのは一昨日の夜で、これから書くのは昨日考えたことである。

美容室に行った。先客がおり、忙しそうだった。キリキリ働く美容室のひとたちを見るのは楽しかったが、わたしの真顔はむすっとして見えがちなので、ここの人間たちがわたしが待たされて怒っているように思ってしまっては申し訳ないな、と口元をもごもごさせてしまった。まあ誤解はされていないと思う。なにせわたしはこの美容室に自力で椅子に上がれない幼児の頃から通っており、幼児の頃のわたしはびっくりするほど無愛想であったので。

美容室に行くと「髪増えたね〜!」と言われるのが恒例であったが(実際に増えていたので)、今回は言われなかった。たしかに前回髪を切った時からあまり増えていないなと思う。髪が増えたねと言われなかった回は過去にも一度あり、それは学生のときだった。あのころのわたしよりも今のわたしはストレスの少ない幸せな生活をしているはずだが、栄養の問題だろうか。そういえば最近は自宅であまり動物性タンパク質を摂取していなかった。面倒なので。肉を食おう。


美容室はいつも有線放送を流しており、今回ももちろんそうだった。毛先を揃えてもらっている間、DA PUMPU.S.A.が流れていた。それでわたしは考えた。音楽作品における「アメリカ」の存在について。


少し調べると、U.S.A.DA PUMPのオリジナル曲ではないことがわかった。原曲はイタリア人がリリースしていたが、歌詞は英語だった。歌詞のニュアンスは日本語とかなり異なっていた。歯の浮くようなラブソングである。どこぞの伊達男に歌ってほしい。爆笑必至である。ともかく、わたしはDA PUMPの歌詞のほうが好きだ。ネットで調べていたら、DA PUMP版の歌詞を「意味が無くて、ダサくて、笑える」と言う人もいたけれど(たしかにわたしもダサいとは思う)


「アメリカ」は様々な概念の象徴である。

ウエストサイドストーリーにおけるAmericaは讃歌だった。アメリカ最高!故国は海に沈んじまえ、と歌われた。差別も貧乏も歌われたが、それにもかかわらず自由と豊かさの象徴だった。これが1950年代のこと。

サイモンとガーファンクルのAmericaは喪失感と不安を比喩していた。戦争や差別など、それまで見えなかったものが目に見えるようになり、アメリカ人が自国に不信感を抱き始めた時代。"I’m empty and aching and I don’t know why"というフレーズが、1960年代の「アメリカ」が象徴していたものであるように思う。

上記はアメリカ人によるアメリカ観。外の人間から見たアメリカは、かつて憧憬の対象だった、という懐古の象徴である。憧憬そのものよりも、憧憬の懐古のほうが歌にしたとき受け入れられやすいのではないかと思う。それがDA PUMPU.S.A.であり、斉藤和義のアメリカであり、浜田省吾のAMERICAなのだろう。ちなみにわたしのいちばん好きな「アメリカ」楽曲はスティング&シャギーのDreaming in the U.S.A.であり、これもまた憧憬の懐古である。アメリカというのは奇特な概念だなあと思う。わたしはアメリカを憧憬したことがないから、アメリカへの憧憬を見聞きするのが面白い。

そんなふうに考えていたら美容師のおいちゃんに前髪をアレンジされていた。楽しそうでなによりである。


帰り道、唐突に幼少期のことを思い出した。わたしが幼かったころ、町から女子高生がひとり消えた。女子高生は今も見つかっておらず、捜索の看板が市内にいくつか残っている。警察が一軒一軒家を回って聞き込み調査をしていて、うちにも警察が来て母が応対していた記憶がある。それと時期を同じくして、わたしは当時の遊び場だった空き地にマフラーが落ちているのを見つけた。どこから来たのかわからないタータンチェックのマフラーは、しばらく我々子供たちの遊び道具だったが、その後どうなったのかは覚えていない。消えた女子高生は、最後に目撃されたときバーバリーのチェックのマフラーをしていたという。女子高生がアルバイトしていたというパン屋は当時のわたしの家の近くにあり、何度か親に連れられて入った記憶はあるが、どんなパンを買っていたのか、どんな味だったかは何も覚えていない。パン屋は随分前に潰れた。わたしは潰れたパン屋と尋ね人の看板の横を歩いて習い事に通い、消えた女子高生が通っていたのと同じ高校に進み、卒業した。高校はバイト禁止だったが、当時は禁止ではなかったのだろうか。わたしたちが遊び道具にしていたチェックのマフラーはあの女子高生のものだったのだろうか。そんなことを思い出していた。