漫画【推しの子】完結したので備忘録 | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

漫画【推しの子】完結したので備忘録

須々木です。

 

漫画【推しの子】が連載を終え、コミック最終巻も発売されましたね。

 

RWでもたびたび学びのネタとして扱ってきましたが、せっかくなので個人的に思ったことなど記録しておこうと思います。

 

 

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※※以下、漫画ラストまでのネタバレを含みます※※

また、ここに書くのはあくまで個人的見解であり、単なる個人的な備忘録です。

 

 

 

 

 

【推しの子】は、総じて非常に楽しませてもらいました。

特に第1巻のインパクトは半端なく、その後も先を読ませぬ展開、魅力的なキャラ、コミカルとシリアスの妙など、見事な吸引力を発揮し続けた作品だと思います。

 

ただ、漫画の最終話にかけては、少なくともSNS上ではちょっとした“炎上”が発生していたように思います。

そもそもSNSがネガティブな意見を増幅させやすい点には注意が必要ですが、それ以前の当作品への反応と比較しても、かなりネガティブに寄っていた気がします。

 

その直接的なトリガーは、この魅力的なストーリーが、なかなか受け入れがたい結末を迎えてしまったためでしょう。

どう言い繕っても、キャラたちにとってはバッドエンド。

誰も幸せにはなっていないエンドです。

特に、推しのキャラがいて作品を追っていた人は、ダメージがデカかったかもしれません。

その意味で、炎上に関しては「さもありなん」という印象です。

 

あとは、消化不良によるマイナス評価も多かったような気がします。

「回収されると思っていたもの(伏線)が放置されたまま終わってしまった」と感じた人が多かったのではないでしょうか。

 

この点に関しては、第6章から謎キャラ“ツクヨミ”が登場して、スイッチが入った気がします。

“ツクヨミ”は、当作品における「超常的な存在」。

チートな舞台装置なのか、巧みな伏線なのか――これが判然としないまま、モヤモヤとした気持ちで読んでいた人たちが、結局、スッキリした気持ちになれなくてネガティブ反応に繋がったのではないでしょうか。

つまり、読者のストレスケアが不十分だったと。

 

超常的な存在が作品に現れると、読んでいる側としては、心持ちが明確に変わります。

「転生」というある種のファンタジー展開からスタートしている以上、「超常的な存在」は論理的に受け入れられます。

ただ、論理的に受け入れ可能でも、気持ち的に受け入れ可能かは別問題。

これが、「ひぐらしのなく頃に」の古手梨花のような感じなら、キャラとして確立していて、また違った反応に繋がったのかもしれません。

しかし、結局、徹頭徹尾、超常的な存在であり、チートな舞台装置でした。

 

超常的な存在が登場したので、もしかして「“転生”という展開自体を伏線として回収する気なのか?」と思った人もいたかもしれません。

転生直後(第2話)でアクアが(ギャグテイストではあるものの)「いずれ仕組みを解き明かすつもりだ……」と言っているので、ないとは言えないなと。

ただ、この点も結局スルーでした(敢えて言うなら、神の力?)。

その点で言えば、“ツクヨミ”は、古代ギリシャの演劇におけるデウス・エクス・マキナのようなもの。

作品全体として、前半がハラハラドキドキでエンタメ成分多め、途中で超常的な要素(ちょっとメタっぽい風味もある)が投入され、ラストで鬱展開……という見方もできると思いますが、これは作風としては、2000年前後に多く見られたタイプの気がします。

恐らく、原作の赤坂先生が摂取していた作品の影響なのでしょう。
これを2020年代にマッチするよう練り直したものが、【推しの子】を形作っているイメージです。

 

【推しの子】の全体的なストーリーラインは、古代ギリシャの悲劇「オイディプス王」(男子が父を殺し、母を娶る悲劇)、もしくはこれを語源とする「エディプスコンプレックス」を感じさせます。

関連するものとして、村上春樹の「海辺のカフカ」が知られていますね。

【推しの子】も、作品を駆動するのは、母に対する異常な執着と、父に対する執拗な殺意。

この点から考えると、作品として根幹を貫き通しただけという気もしてきます。

悲劇の要素を排除するわけにはいかなかったのだと。

アクアはしっかり父を殺し、死なねばならなかったのだと。

 

「デウス・エクス・マキナ」も「オイディプス王」も、神なる存在を想起させる要素ですが、振り返れば【推しの子】もいろいろ神なる存在を感じさせる作品でした。

舞台が日本なので高千穂に置き換えられてはいますが、そこで神託を授かっているとも解釈できます。

というか、「転生」がそもそも神話っぽい概念です。

 

そして、そもそも「アイドル(偶像)=神」である以上、「アイドルの話=神話」なのかもしれませんね。

よって、ある意味で、神話をなぞり貫いた結果が、この【推しの子】のストーリーラインだったのではないかと。

そして、「アイドル」はただのハッピーエンドにはならないが、少なくとも、嘘を吐きながら輝いている間は、誰かをハッピーにするのだと。

だから、アイドルサイドを描くなら「ハッピーなだけの話」にはできないと。

そんな思考過程から、「悲劇」を下地に、「アイドルの話=神話」を組み上げていったのではないかと。

 

……というふうに勝手に解釈しました。

 

 

sho