陳情令感想③陰鉄探索編 | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

陳情令感想③陰鉄探索編

どうも、今月は映画を沢山見てほくほくしている遊木です。

 

『陳情令』感想の続きです。

②から3ヶ月経ってしまいましたが、今後もこんなノリで進行すると思います。

生暖かい気持ちで、ゆるりとお付き合い下さい。

 

①プロローグ編 1話“目覚め”~ 2話“再びの大梵山”(+前置き)

②座学編 3話“運命の邂逅”~ 7話“天灯に託す願い”

 

 

 

以下の点にご注意下さい。

 

 

※『陳情令』全話、および原作、アニメ(完結編まで)、ラジオドラマ等の盛大なネタバレ。

※書き手による批評、深読み、独自解釈、萌え語り、乱文。

※原作がBLであることを前提とした解釈。

※長いです。

 

以上が大丈夫な方はどうぞ~。

 

 

 

 

陰鉄探索編 8話“不吉な影”~ 11話“手負いの雲紋”

 

8話は、冒頭からウサギと戯れるのが可愛すぎた。

江澄の「食べるつもりか」に対して、ウサギちゃんの耳押さえて「恐ろしいことを言うなよ」って魏嬰お前その発言覚えとけよ?ってなります。

意外と、こういうちょっとしたくだりでキャラの魅力は増すんだよなぁ……心に留めよう。

その後に現れた藍湛。このときの「また会おう」は絶対ウサギに対してじゃなくて、魏嬰に対してだった!(確信)

 

温晁はマジでムカつくなぁ。

こういうところのキャラ表現、上手いと思います。

父親の権力がなければ雑魚キャラでしかないのに、ことごとく人の大切なものを踏みにじっていく感じとか。

でも作り手からすると、ムカつくキャラを本当にムカつくように表現できるのが羨ましいです。

いや、意外と難しいんですよ。ちょっとでも手心を加えると、見る側はすぐに勘づいてしまう。キャラづくりは永遠の課題です。

 

で、ここから陰鉄探しが始まるわけですね。

ここはまるっとオリジナルですが、『魔道祖師』ではなく『陳情令』として物語が展開するために、重要な要素がぎゅっと詰め込まれている印象です。

 

すごくどうでも良いけど「夜狩へ行くなり」の言い方に笑ってもうた。

中国語の発音って可愛いよね。

 

あと、このときの江澄と師姉の反応の差がちょっと興味深いと思いました。

「急用ができたのよ」という師姉と「奴に急用だって?」となる弟。

実際、このときの魏嬰は藍湛を早急に追いかける必要がありました。

藍湛が陰鉄関連で姑蘇を離れたことはわかっていたので、危険な旅になる予感が当然あった。だったら、一人で行かせるわけにはいかない、と。

ふざけた書置きに誤魔化されますが、実際に急用だったわけですね。

 

「魏嬰の行動には必ず意味がある」と思っている師姉は、内容までは分からずとも“何かがあった”ことは直感しています。

彼女の“本質を見抜く力”は作中でも随一ですが、こういうちょっとしたところでもしっかり描かれているので、後に金家から魏嬰を庇うシーンも、取ってつけた感じにならない。

一方、魏嬰に急用があるとは思えない江澄。この裏には「自分には心当たりがないんだから、奴にもあるわけない」という考えが見え隠れしていますよね。

江澄は、最初から最後までこの感覚が抜けなかった故に、魏嬰とすれ違ったとも言える気がします。

こう思わせたのは長年の魏嬰の言動なので、一概に江澄だけが悪いとは言えませんが「魏嬰と自分は立場も考えも違う別々の人間」という意識がすごく薄いように思えます。

こういうところ、末っ子坊ちゃんって感じですよね。

 

さて、藍湛に追いついた魏嬰。

この辺は、嵐の前の静けさですね。

合流した魏嬰の落ち着きない感じが可愛いし、懐桑との年相応の戯れも良いです。

なんだかんだ江澄が魏嬰を探しに行く感じも含めて、この頃はみんなそれなりに仲良かったな……。

 

ところで、蒔花女の使い方は上手いと思いましたね。

原作でも出てくるけど、“花の精”という特徴的な設定のわりに、彼女、本筋とは全然関係ないじゃないですか。

それを「陰鉄を所持している」という重要な役割を与えることで、蒔花女のバックグラウンドにも興味が出てくるというか。

なんで陰鉄を所持することになったのか、とか知りたくなるもの。

上空から花が降ってくるシーンは、藍湛の能力や人柄に興味を持っていた魏嬰が、初めて彼の外見に言及する場面で視聴者をニヤッとさせます。

ただ何度か見直して思いましたが、冷静に考えると、このとき蒔花女は温晁に襲われていたんですよね。

つまり、あの花吹雪は彼女の断末魔ってことでしょうか?

え、怖い。

 

この辺りから、温情の立場がなかなか辛くなってきます。

温情は魏嬰と同様、義を重んじ、強さと優しさを兼ね備えている。でも、一族と弟を守るために渋々温若寒に従うしかない。

何とか魏嬰たちが最悪の事態にならないよう手を回してくれるけど、かといって自分が彼らの仲間扱いされることは望まず、助けて欲しいとも言わなかった……温情、本当に強い子です。

この自己犠牲は本当に魏嬰と被る。

『陳情令』の温情は他媒体より描写が多いので、よりキャラを深掘りできます。

 

そして、ここで2話の“再びの大梵山”の謎が解ける訳ですね。

温情と江澄のやりとりは可愛いかった。

本当に、この二人のロマンスが進展していればもっと違う未来があったように思う。

一方、師兄の方はおばあさんにおねんねポーズをしているわけですが……本当何なん?あざと過ぎか。

ところで村に着いたとき、魏嬰は異変に気付いていますが、これは彼の勘が良い故なのか、それとも詭道を修める前から、元々そういう体質だったのか。

どっちなんだろう?藍湛は気付いてなかったしなぁ。

一応、9話で「大梵山は地形も良く霊力が溢れる地~」と説明がありますが、着いて早々ここで言っている違和感に気付いていたなら、それはそれですごいというか、魏嬰の飛びぬけた非凡さを感じますね。

 

舞天女との戦いは、例によってワイヤーアクションとCGなので私は結構違和感を覚えちゃうんですが、特撮とか見慣れている人は普通なのかしら。

それにしても懐桑、戦っている二人の横での役立たずっぷりが良い味出してますね。

彼、もはや帯刀すらしてないからね。非常事態に「私の金の雀が!」とか言ってたらそりゃ禁言術も食らうわ。

藍湛と二人のときは騒がしい魏嬰なのに、懐桑が加わると急にしっかり側になる。

こういうところがキャラ表現の面白さだなと思いますね。正直、魏嬰の「ぴったり俺にくっついてろ」はキュンときた。

そして江澄が合流しますが、初見のときにも思ったけど、いつから舞天女の後ろにいたの?っていうかどこから入った?隠し通路とかあるのかな。

あと「どれだけ私が心配したか」って言い切って良かったんやで?

 

しかし、江澄はこの時点ですでに、師兄が藍湛を庇うのが気に入らないみたいですね。

まぁ江澄からすれば、魏嬰が懐いてるのに(一見)冷たい態度を取る藍湛がそれなりにムカつくのでしょう。しかも危険な目に合わせてるし。

違うの江澄。この頃の藍湛はまだあなたに負けないぐらいのツンデレさんなの。十数年後には最強のセコムになるから。

 

梟を倒しに行くときも、江澄からしたら複雑なんだろうなぁと思いました。

きっと蓮花塢では、何かに立ち向かうとき魏嬰と組んでいたのは自分だったろうに、当然のように藍湛と向かってしまって。

魏嬰からしたら江澄を置いていくのは、残された懐桑と温情を守るために必要だからで、つまりは信頼しているからだろうけど、それがしっかり伝わってはいなさそう。

江澄は、有能な魏嬰に嫉妬や劣等感がある一方で、“相棒は自分だ”という自負があったと思う。でも藍湛が現れて、しかも、魏嬰自身が好敵手と認めるほどの能力を持っている。

絶妙なバランスで成り立っていた江澄の心は、ちょっとずつ揺らいでいったんだろうな……。

だからこそ“雲夢双傑の誓い”は彼の心に響いて、大切過ぎるものになってしまった……うう。

 

それはそれとして、忘羨の背中合わせでの共闘は萌えますね。

純粋な能力で戦う藍湛と、最終的に知恵で敵を仕留める魏嬰の差が良い。

魏嬰は座学の成績や、推理を披露するときは何かと鋭くて生来の賢さが光る一方、真面目な会話中でもふざけたり、重要な使命を帯びているのに街中をふら付いちゃう。

この頃の藍湛は、「なんでこいつは能力を正しく使わない?」ってすごく歯痒いんだろうなぁと思います。

でも、魏嬰の気が抜けるような言動の根底には、他者に対する気遣いや優しさがあるんだよね。藍湛がそれを察したのは、多分玄武洞のあれこれの時だと思う。

 

大梵山を下りた後、街で聞き込みをするときの会話は、鬼腕を追うときに交わしたやりとりのオマージュですね。

ちょいちょいこういう表現があるところが、原作へのリスペクトを感じます。

でも「外では俺と離れちゃダメだな」とか簡単に言っちゃダメよ魏嬰。

どんどん藍湛への刷り込みが加速していく。罪な男だ!

 

藍湛と江澄の手を引いて酒屋に行くシーンは、何度見てもほっこりしますね。こんな時間が永遠に続けば良かったのに。そして、このときはまだ無銭哥哥じゃなかった魏嬰。

 

常氏が出てきた時点で薛洋の登場は予見できましたが、暁星塵と宋嵐が出てきたときは「あー、なるほど。その事件に魏嬰たちを関わらせる展開か!」となりました。

これも上手い改変ですよね。

暁星塵や宋嵐と直接繋がりを作ることで、今後起こる事件に、原作以上の説得力を持たせられるわけです。

個人的には、義城組を過去編にも登場させるオリジナル展開は胸アツでした。

義城編だけの登場にはもったいないキャラだもの。

でも、ここで登場させたことによって義城編の絶望がさらに膨れ上がったけどな。

 

薛洋に関しては、どうしようもない悪童だし、彼の結末にも納得なんだけど、どこか嫌いになれない。

仙門にとっては疎まれる型破りな魏嬰の言動に、好感(面白さ)を抱いた薛洋。

「仙門で俺より面皮が厚い奴はいない」という魏嬰の言に、「アンタ面白いな」と返した言葉は本心だと思う。

後々、夷陵老祖として成し遂げたことも含め、義城で魏嬰を“先輩”と呼んだのは皮肉じゃないのでしょう。

薛洋はもっと幼い時に魏嬰と出会っていたら、全然違う未来があったろうに。

この二人は“はみ出し者”として、何かシンパシーみたいなものがあったように思います。

 

あと、魏嬰が暁星塵としっかり出会えたのは良かったですね。

天涯孤独の魏嬰に、残ったわずかな母との繋がりが暁星塵。

しかも仙門のいざこざとは距離を置き、志だけを指針に人助けをするそのあり方は、本来魏嬰が一番肌に合う生き方。

別れのシーンで、暁星塵と宋嵐を見送る魏嬰の表情には切なさと羨望が滲んでいるし、それを横から見ている江澄も、魏嬰の本質を理解しているからこそ複雑なものを感じている。

藍湛に関しては、「そういう生き方もあるのか」と眩しいものを見ている風でもある。

ここのシーンは、自由に生きられない彼らの悲哀が表現されているなぁと。

そして、暁星塵と宋嵐を主人公たちの理想形としてしっかり表現したことで、後の義城編ではより儘ならない悲しみが視聴者の心を抉るわけです。

き、鬼畜…!

 

舞台は不浄世に移りますが、他媒体だと他の四代世家と比べて聶氏の情報は少ない印象なので、ここの描写はナイスな判断だと思いました。

やっぱり赤鋒尊は重要なキャラですもんね。

何なら彼の言動がもう少し違ったら、後の悲劇のいくつかは回避できたかもしれない。

もしくは、聶兄弟の関係がちょっとでも違う形だったら、魏嬰の復活はなかったかもしれない。

 

個人的に赤鋒尊は、とても歯痒いキャラだったなぁと思います。

苛烈な性格だけど、正義の在り方というか、義に対する考えは魏嬰に近い人物だっただけに、夷陵老祖となった魏嬰にもっと理解を示してほしかった……。

いや、それが出来ない人だったからくだんの事件は起きたのか……。

 

金光瑤に関しても、この頃の魏嬰の態度というか、自分への接し方にもっと気付いて欲しかった。金光善は見る目がないと彼の実力を認め、気さくに話しかける魏嬰の人柄をもっと見ろよ!と。

でも良く考えたら金光瑤は、「出自を気にせず他者と同じように接して欲しい」が願望じゃないんですよね。

「高貴な血を引き、その上優秀な自分が誰よりも優れた存在であると認めて欲しい」が願望なので、そう考えると、魏嬰が彼を評価しても大して響かないのかもしれない。

沢蕪君に固執したのも、“宗主”であり、“皆に認められている”沢蕪君が“非凡である”と評価したからなんだろうな。

 

藍湛は一旦姑蘇に戻りますが、別れの挨拶、絶対魏嬰に届かない声量だからこそ、秘められた想いの大きさが見えますよね……見える…見えるぞおお!

 

夜が明けて始まる不浄世の襲撃。

何周かすると、“本格的な歯車の狂い始め”はここの気がします。

最初は温氏の攻撃が始まったからだと思いましたが、違いますね。

多分、孟瑶が具体的に暗躍し始めたからでしょう。初見だと気付かないけど。

そもそもこの時点で、彼がラスボスになるって気付く初見さんはなかなかいなさそう。

こういう配役は自作でもやってみたいです。

 

そして、11話にしてようやく蓮花塢がしっかり出てきます。

街の人たちと仲良く接する魏嬰を見ると、夷陵老祖の悪評が広まったときに「そんなバカな」と思った人がいたと思う。

江澄との仲違いを悲しんだ人が絶対いたはずだよ……!

「来世でもいい兄弟分でいようぜ」って言葉は、本当に辛すぎる。

 

実家に帰ったことで、お調子者キャラだった魏嬰の微妙な立場が明らかになります。

これは120%妄想ですが、魏嬰のやんちゃな性格は江澄を気遣っての事の気がする。

例えば剣や弓で手を抜いて、江澄より劣っているように見せることも出来ただろうけど、それは義弟への冒涜だし逆に怒りを買いそう。だから、能力は勝っているけどやんちゃな師兄を、能力は劣るけどしっかりものの義弟が面倒を見る、という構図を作り上げたのかなって。

その場合、損をするのは魏嬰だけですもんね。

単なる楽天家のお調子者ではなく、あえて“そういること”が江姉弟や周囲への気遣いであり、魏嬰の優しさなんじゃないかな、と。

 

家族での食事シーンは、虞夫人の初登場シーンでもあります。

初見だと、とにかくヒステリーがひどい毒親に見えますね。

でも最後には、彼女の生き様は一本筋が通った誇り高いものだとわかる。

個人的に脇役の中では、かなり上位に食い込む魅力的なキャラだと思ってます。

 

あと、「何度言っても関わりを断とうとしない」ってくだりは、かなりひどい言い回しに感じますが、未来を知っていると、実は虞夫人は正しかったのでは?と思わなくもないです。

魏無羨を江家に置くことが、双方にとって本当に良いことだったのか?と聞かれると、自信を持って肯定はできないというか。

本来、暁星塵や宋嵐のような生き方が合う魏嬰は、一人で生きられるぐらいまで成長したら、さっさと野に放した方が彼のためになったかもしれない。

そして、魏嬰がいない江家は、江澄が劣等感に苦しむことも、虞夫人は蔵色散人と夫の噂、家僕の子より能力が劣る息子に気を揉むこともない。

少なくとも今よりは平和な家庭がある筈です。

虞夫人は、実はそんなifが見えていたのかもしれないなぁと。

ただ、後の彼女の言動から察するに、疎ましく思いながらも魏嬰の忠義心や能力は認めていたようなので、力ずくで追い出すことも出来なかったのでしょう。

虞夫人はなかなか奥深いキャラです。

 

ところ変わって雲深不知処では、温氏からの攻撃で藍氏が大打撃を受けます。

清河から姑蘇に向かった藍湛も、途中温晁の追撃を食らいますが、魏嬰の符で何とか逃げ延びます。

この場面、正直「え?その符はいつ貰ったの??プレゼント??受け取ったの?仲良しかよ」ってなりました。

そして、温晁でもすぐ魏嬰作だとわかるぐらい、魏嬰の符制作の才は有名なんですね。

まぁ、赤鋒尊も江おじさんも陰鉄の精錬は非常に難しいと言ってる中、陰鉄剣から陰虎符を作る魏嬰ですからね。

 

多分彼は本当の天才で、だからこそどこかの陣営に肩入れすることは、非常に危険なのかもしれない。

特に既得権益に縋りついてる古狸たちからしたら、「家僕のくせに高い能力」「飼いならせたら強い力になる」「飼いならせないなら始末しろ」という方程式があっという間に構築されそう。

魏嬰が沢蕪君、もしくは金光瑶のような性格だったら、逆に古狸をころころ出来そうだけど、それが出来ないのが魏嬰の魅力でもあるからな……。

“持つもの”にしかわからない、シビアな現実だ。

 

さて、雲深不知処に戻った藍湛ですが、寒潭洞のシーンで「心に恥じぬように生きる」という信念を掲げたときは、うあああとなりました。

本当にこの信念を貫き通すことが出来ていたら、十数年も帰らない人を待ち続けることはなかったんだろうな……。

このときは、「心に恥じぬように生きる」の真の意味をわかっていなかった藍湛。

だからこそ魏嬰の帰還後は、絶対に揺るがない強い意志を持っているわけですが。

 

今作は本当に、徹底して「人は痛みからしか学べない」を表現している。

 

11話ラストから、舞台は不夜天に移ります。

この辺りから、温氏の動きが容赦のないものに変わります。

すべての悲劇の始まりが描かれていくわけですね。

 

ただ、教化司編は結構好きなエピソードが多いです。

展開的には不穏なのに、全体からするとここでもまだ「平和だったなぁ」と思うものね。

これからどんだけ地獄なんだ……。

 

 

というわけで、陰鉄探索編でした。

次回は教化司編です。

 

 

aki