冨安由真展 漂泊する幻影 | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

冨安由真展 漂泊する幻影

どうも遊木です。

年明けからもう一ヶ月過ぎる……だと?

 

最近はサークルメンバーと直接会うこともなく、ミーティングもリモートなので、なかなか刺激が少ない日々を送っております。

しかし、来月以降はいろいろ忙しくなる可能性があるので、1月は主に作品のインプットに励んでいました。

今回はそのひとつとして、先日お邪魔してきた『冨安由真展 漂泊する幻影』について感想を書きたいと思います。

(須々木氏も記事をあげているので合わせてどうぞ)

 

 

会場は神奈川芸術劇場、期間は明日の31日までです。

横浜に住んでいて良かったと思うのはこういうときですね。公共交通機関を使わなくても展覧会に行ける。芸術劇場も特別近いわけではありませんが、運動不足解消のウォーキングがてらに行ける距離です。

ついでに、みなとみらいなどは観光客がいないと人口密度が急に下がるので、ソーシャルディスタンスも完璧。もともと歩道も広いですし。

 

例によって個人的な感想です。

展覧会の構成上、これから鑑賞する人はネタバレ要注意。

 

 

 

 

 

冨安由真展 漂泊する幻影

 

平日の真昼間に行ったので、会場も3~4人程度しかおらず、ゆっくり鑑賞できました。噂によると休日はなかなかに混んでいたようです。

劇場で行われる展覧会に行ったのは今回が初めてでしたが、なかなかに面白い取り組みだと思いました。

美術館よりは“アートのため”に空間が整えられておらず、かといってBankARTや関内周辺にあるアートスペースのような、本来は違う使用目的だった場所を再利用している“場所の剝き出し感”はない。

綺麗に整えられてはいるけど、本来アートのための空間ではないからこその安定感と不安定感のバランスが心地よかったです。

 

まず面白いなと思ったのが、入ってすぐの演出です。

展覧会のキャプションから始まり、いざ会場に入ろうと思って扉を開けると、そこに在るのは何もない狭い空間。そして一つの扉。まるで「ここから先は違う世界ですよ」と言われている気分になります。

 

 

そして、その扉を開けるとまっすぐとした廊下があり、奥には鏡が設置されています。扉を開けるとまず自分と目が合うという演出です。

これだけでも、何か不思議な気分にさせますよね。私は個人的に、映画のマトリックスで定期的に使用される不思議空間の演出に近いものを感じました。

 

 

この展覧会は総じて鏡の使い方が上手いなぁという印象を受けます。よく考えたら遊園地にミラーハウスがあるぐらいなので、鏡ってエンタメ力の高い媒体なんですよね。空間を広く見せたり、ない筈のものをあるように見せたり。今後の参考にしようと思います。

 

廊下を抜けるとようやくメイン会場です。

会場は基本真っ暗で、その空間に設置されているインスタレーションを順番に照らしていく演出でした。

光の当て方も作品によって変えてあり、天使の梯子のようなものもあれば、廃墟に朝日が差し込んだようなもの、深夜の部屋を淡く照らすスタンドライトのようなもの、様々です。スモークの使い方と合わせて、現実から切り離されたような、不思議な気分にさせる光の演出でした。

 

 

 

 

 

設置されているもの自体も、動物の剥製と様々な廃れたものを合わせた独特の空気感を醸し出しています。

退廃的であるようで、神聖さも感じる不思議な作風です。鑑賞者の心をどこか不安定にさせる一方で、何故か目が離せない誘惑的な魅力もある。“静”の作品でありながら、心は異様に揺さぶられます。まったくそんな要素がないのに、何故かエロスすら感じる作品でした。

会場では定期的に映像も流れており、その内容は無人の廃墟をひたすら進むというもの。この映像だけでも、作者の感性が伝わってきます。

 

 

 

 

メイン会場を抜けると、そこには再び先ほどと似たような廊下が。

明滅するライトとポツンと置いてある車いすが、想像力を掻き立てます。

 

 

二つ目の会場では、先ほどの映像で出てきた廃墟のペインティングが何枚か設置されています。

これも単なる絵画の展示ではなく、暗い空間で、順番に絵画が照らされていく演出です。

 

 

 

鑑賞者に委ねる部分を制限し、あえてわかりやすい道筋を作っている演出、そして光と空間の使い方は、どこか舞台芸術を彷彿とさせます。確かに劇場という場所で展示するのに相応しいものなのかもしれません。

 

アート的な部分とエンタメ的な部分のバランスが見事な配分で、初心者でも入りやすい企画展だったと思います。

必ず「刺さるなぁ」という人がいる展覧会でした。

 

ところで、こういう展覧会に行くと良いカメラがめっちゃ欲しくなる。

 

 

aki