「ネット空間における同人系即売会」に関する考察(その2)
須々木です。
続きはまた改めて~とか言っていた記事の続きです。
だいぶ日が経ってしまいましたが・・・。
未読の方や、内容を忘れてしまった方は、読み直してもらうのがよろしいかと。。
→「ネット空間における同人系即売会」に関する考察(その1)
さて、サクッと本題に入りましょう。
11月28日~12月1日にかけて開催された「APOLLO」を切り口に、「ネット空間における同人系即売会」を議論しようとしていたわけです。
そして、論点として以下の4つを挙げました。
① 音楽以外のジャンルにも広がりを見せるのか?
② 広がったとして、そのまま定着していくのか?
③ リアルの即売会(コミケなど)にどのような影響を与えるのか?
④ そもそもこの流れは、何を意味しているのか?
4つ並べはしましたが、最終的にはすべて④に集約されるので、そんな感じで話を進めていきましょう。
まず、①~③については、先に結論を述べておきます。
① 音楽以外のジャンルにも広がりを見せるのか?
→ 技術的制約をクリアできるものから順に、サブカルのあらゆるジャンルに広がっていくと思われる。
② 広がったとして、そのまま定着していくのか?
→ 一過性のものではなく、徐々に定着していくと思われる。
③ リアルの即売会(コミケなど)にどのような影響を与えるのか?
→ 競合より相乗効果の方が大きく、全体として同人業界の拡大に寄与すると思われる。
ということで、理由もあげずに個人的見解だけ書きましたが、以下で、④に答えつつ、①~③の理由についても触れていきます。
さて、どこから話を始めるべきか・・・
とりあえず、どうしてpixivが「同人音楽」に手を出したのかという点について。
※当たり前ですが、すべて僕の個人的見解です。
「ネット空間における同人系即売会」という論点とは少し離れますが、なぜ「イラスト」のpixivが「音楽」に手を伸ばしたのか?
この後で述べていくことになる“大きな流れ”が前提となりますが、表面的には、以下のように考えられると思います。
・事業拡大(収益確保)のために、縄張りを拡大させたい。広告収入モデルは飽和状態に達しつつあるため、それに頼っていては今後の発展が怪しい。
・近年の同人音楽の勢いは結構すごい。特に、若年層を多くひきつけているので、彼らが経済力を持つ頃に収益性がアップする可能性がある。
pixivがBOOTHを始めたのも、この文脈に合致すると思いますが、事業拡大(収益確保)が大きいでしょう。
ネットにおけるイラスト公開の場として、pixivの存在感は絶大です。
むしろ、絶大過ぎて、次にどこを目指すべきか?という感じです。
そこで、新たな領域に手をだし、同時に収益性のアップを画策しているのではないかと。
ユーザーから金をとるのは、広告収入モデルにネガティブな影響を与えるのであまり推進できません。
すると、これらとは別の方法を模索する必要があります。
そこで、同人作品のネット売買、すなわち「BOOTH」に至ったわけです。
現状を見る限り、多くの人が望んでいたサービスであり、反応は上々という印象です。
そして、さらにこの流れを推し進めるための起爆剤が「WEB同人即売会」となるわけです。
しかし、「同人誌」や「イラスト」を売買の対象としてしまうと、すでに確保している自分のテリトリーの中で小さく収まってしまいますし、自分ですでに展開しているサービスとの間でつぶしあいになってしまいます。
すると、この状況で残された選択肢は、「同人音楽」と「同人ゲーム」です。
同人業界において一定の需要があり、商品をデジタルデータとして扱えるというのが必須条件です。
この2つのうち、「同人ゲーム」については、
・成人指定作品の存在感が大きすぎる。
・「音楽」の視聴と比べると、お試しのハードルが高い(技術的制作を含む)。
・制作の手間が大きく、参加者を確保しにくい。
・商品単価が高くなり、気軽に買えなくなってしまう。
・・・というような理由で、「初の試み」としてリスクが高くなってしまいます。
そうすると、消去法でも「同人音楽」が残ります。
一方で、考慮しなくてはならないのが、先行する「ニコニコ動画」との関係です。
「同人音楽」(特にボカロ)に関しては、ニコニコが圧倒的なことは言うまでもありません。
よって、単に「同人音楽を発表する場」では、活路を見出せません。
そもそも、現状において、勢いづいているとは言っても、「同人音楽」の市場規模はたかが知れています。
客層の多くが経済力のない若年層である点が大きく影響していると思われますが、そのような市場での「奪い合い」は得策ではありません。
むしろ、市場開拓を進め、将来への布石とする方が良い。
そう考えると、今回「同人音楽」以上に「即売会」であることをプッシュし、ニコニコとの差別化を図ったことは理に適っている印象です。
「(おそらく)初のWEB同人即売会」というのは、宣伝文句としてインパクトがありますし、このまま新分野のパイオニアとして、その地位を確立してしまいたいのでしょう。
※pixivが「イラスト」を売買の対象としにくいのと同様に、ニコニコは「音楽」を売買の対象としにくい。自分の先行サービスと競合してしまうというジレンマを潜在的に抱えています。
ただ、このような棲み分け状態が今後も続くのかといえば、かなり怪しい気がします。
共存か競合か?
ニコニコはすでに「動画」のみならず「静画」に手を出していますし、言い方を工夫してはいても、pixivは「音楽」に手を出しました(「動画」っぽいものにも既に手を出しましたし)。
すでに、「イラスト」はpixiv、「動画」はニコニコという完全な棲み分けはかなり崩れてきています。
状況的に、あらゆる競合を避けるというのは厳しいような気がします。
その際に、それぞれが持つ強みがポイントになると思います。
ニコニコとしては、とりあえず「KADOKAWA」とのつながりが大きいでしょう。
対するpixivは、「リアルの即売会」との結びつきを強めていることが大きいでしょう。
この点からも、pixivが今回、「即売会」から攻めたのは、戦略的なものを感じます。
得意分野を足場にして、新領域に少しずつ踏み込んでいる感じです。
いずれにせよ、様子を見つつ互いに動き出している印象であり、どちらも座して待つわけにはいかなくなっているような気がします。
そんなわけで、「WEB同人音楽即売会」ですが、以上の話から、「音楽」からスタートするのが妥当だと思いますが、「音楽」に限定する必然性はないでしょう。
むしろ、ポイントは「WEB同人即売会」であり、可能なら他のジャンルにも広げていきたいと考えていることでしょう。
このことは、BOOTHで扱っているものを考えれば明らかです。
というわけで、pixivは「音楽」に限定せず、広く「WEB同人即売会」を展開したいと考えていると推測できます。
しかし、これはそのまま「WEB同人即売会」の定着を意味するものではありません。
コミケなどの「リアルの同人即売会」と同様の広がりと定着を見せるのかどうかという点は、pixivの戦略とは別次元のものです。
同人を愛する人々に受け入れられるかどうか?
そもそも、「同人即売会」においては、「場の共有」がとても重要な要素となります。
対面によるやり取り、肌で感じる空間の高揚感などは、単なる売買の空間であること以上に大きな意味を持っていると思われます。
「WEB同人即売会」の定着は、基本的には、このハードルをクリアすることを意味するはずです。
ネット空間における「場の共有」(っぽい感覚)。
これは、ツイッター上で同時に「バルス!!」とツイートする昨今の状況を見れば、感覚的に可能だという印象を受けます。
また、この点で、もっとも巧妙かつ大規模に切り込んできたのが、ニコニコ動画のコメント機能です。
動画を視聴する人それぞれのタイムラグを、動画の再生時間を基準に補正することで、まるで同時にみんなで見ているかのような感覚を生み出す。
こうして生み出された一体感は、明らかに独特の雰囲気をもつ「場」を生み出しています(同時に、YouTubeとの見事な差別化を果たしている)。
つまり、人間の認識として、「リアル/ネット」の障壁を破ることは可能と思われます。
現在、明らかにこの障壁は希薄化しつつあるので、この流れで行けば、「即売会」に求められる「場の共有」の感覚はネット空間であっても達成できそうです。
※今年のメディア芸術祭に触れた記事でも、「デジタル/アナログ」の境界が曖昧になってきた点について言及しているが、同人即売会においてもあてはまると言える。
さらに、対面によるやり取り、肌で感じる空間の高揚感についても、究極的には「情報」であることを考えれば、デジタルデータとして扱える技術が登場する可能性があり、理屈の上ではすべてをネット空間で再現できるようになると考えることができます。
※インターフェイスは明らかにその方向に向かっている。特に、ヘッドマウントディスプレイが普及していけば、技術的障壁は極端に下がる。
というわけで、「WEB同人即売会」を人々が受け入れるだけの素地(心理的側面と技術的側面の両方)はすでにかなりあると言うことができ、その流れで定着していく可能性は高いと推測できます。
そうすると、気になるのは「リアルの即売会」との関係です。
「WEB同人即売会」は「リアルの同人即売会」(コミケなど)にどのような影響を与えるのでしょうか?
「WEB同人即売会」がそれなりに広がっていった状況を想定し、その場合、「リアルの同人即売会」との間にどのような差異が現れるか推測してみました。
「リアルの同人即売会」:
・質的コミュニケーションの場(より密度の濃い対面コミュニケーション、ある種の同窓会的機会を提供)。
・販売に関しては、疑似的なロングテール(リアルだと容易に利益は出せないが、多様性、個々の物量の少なさという点ではかなり近い)。
・ブランド向上効果(参加することが一種のステータスになる。本当の意味で聖地化)。
・一体感を出しやすい。
・面倒(初心者がいきなり踏み込むのはキツイ)。
「WEB同人即売会」:
・量的コミュニケーションの場(密な交流は厳しいが、そのかわりたくさんの人と関わる機会を持てる)。
・真のロングテールが成立。利益確保(デジタルデータ販売に特化すれば、生産、輸送、保管コストを大幅に削減し、在庫の心配もいらない)。
・一体感の創出がやや困難。
・より気軽に客を呼び込める(関わるきっかけとして、より適している)。
※「ロングテール」について、わからない人はwikipediaへ!
これらを見ると、両者が互いに弱点を補強しあう関係であることがわかります。
特に、収益性に関しては、はっきりと違いが出ます。
現状、リアルの同人即売会で黒字化は厳しいものがあります(一部の大手を除く)。
この点に関して、それを承知の上で参加する人が現時点での「場」を構成していると考えられますが、「WEB同人即売会」が成立すると、ここに大きな影響を与えると思われます。
「WEB同人即売会」では実質的に赤字とはならない、つまり、利益が出やすくなります。
すると、「WEB同人即売会」と「リアルの同人即売会」を併用することで、リアルの赤字を補填することもできます。
そうすると、売り物の価格はより低く設定することが可能となります。
全体として価格帯が下がれば、買う方のハードルも下がります。
予算が少なくても手を出せるし、同じ予算なら多くのものを買えます。
故に、活性化(市場規模拡大)へとつながります。
また、「WEB同人即売会」は、スペース不足による減速感に対抗するものであるとも言えます。
特にコミケについて言えることですが、潜在的に求められる規模は、時間的に3日間では不足しているし、空間的にビッグサイトでは不足していることは明らかです。
しかし、求められる規模を達成することはかなりの困難を伴います。
つまり、「規模拡大への圧力」が「現実的制約(物理的制約)」を上回りつつあります。
※効率性をあげることでどうにか凌いでいるのが現状。
少し話がそれますが、「2020年」がターニングポイントになるかもしれません。
2020年の東京オリンピックの都合上、ビッグサイトの使用には大きな影響が出るものと思われますが、もしかするとこれは何らかの転換点になるかもしれないと思ったりします。
使用できない期間が長いので、隣に仮設の展示場を建設するという発表がありましたが、コミケのキャパとして十分なものとはならないでしょう。
他の会場を使用するか、ビッグサイトの仮設展示場で開催するのかはわかりませんが、少なくとも現状より物理的制約は大きくなるでしょう。
そうすると、それは逆に変化のチャンスと捉えることもできます。
そして、そのとき「ネット空間」の強みはこれまでにないほど大きく発揮できるわけです。
そんなわけで、空間的な制約から解放されれば、「同人即売会」は新たな局面を迎えることになるでしょう。
リアルが許容できない部分も取りこぼさないようになっていくと考えられます。
また、すべてが「WEB同人即売会」に移行していく可能性についてですが、個人的にはかなり低いと思います。
ネット社会になって一定の期間が経過しましたが、リアルはその価値を多少変容させても、価値を失ってはいません。
「同人即売会」についても同様のことが言えると思いますが、「ブランド化」が加速するような気がします。
当然、ネットよりもハードルが高いので、その場に集うことそのものに価値が見出される傾向が強くなるのではないでしょうか。
また、人間は、意外とめんどくさいことを欲したりするものですし。
※アプリなどでも、本来なら省略できる操作を敢えて残し、めんどくささを演出することは一般的。
以上の考察が、基本的には最初に並べた①~③の論点に対応しますが、その上で、より大きな枠で考えてみましょう。
「WEB同人即売会」の定着と、それに伴う同人業界の拡大を経て、その後どのように展開していくのか?
これについては、商業的なコンテンツ企業(商業系)の動きがカギを握ると思われます。
同人系が盛り上がっている中、商業系も盛り上がっているのかといえば、そういうわけでもありません。
商業コンテンツの収益性は、全体として悪化しています。
漫画雑誌の発行部数は低下し、音楽CDの売り上げは下がっています。
では、この状況で商業系はどういう手を打つのか?
例えば、「漫画」に関して言えば、変なプライドを持たなければ、同人からの引き抜きという手が現時点ではまだ有効です。
これは、現状、「漫画を描いて生きていく」と言えば、ほとんどの人が「プロの漫画家になる」を意味するのだと認識していることから明らかです(プロ漫画家が、ポジションとして最上位であると認識されている)。
今「プロデビューできるよ」といえば、それなりに引き抜けるはずです。
出版社として、育てるコストを削減し、さらに一定の客をすでに確保している人材をゲットできるのは、かなりの利点でしょう。
しかし、この構図は、同人市場だけで経済的に成り立たせることが難しいことによります。
もし、技術レベルが同等という条件で、同人でもプロでもあまり極端な経済格差が生まれない状況となれば、自由度の高い同人を選択する人は圧倒的に増えるでしょう。
すると、出版社は、同人からの人材発掘が厳しくなっていきます。
すでにいっぱいいっぱいなのが、音楽CDです。
若年層では、プロの歌手ではなく、いわゆる歌い手に憧れを抱くことも珍しくなくなってきました。
メジャーデビューの価値は、大きく低下していると言えるでしょう。
「憧れ」こそが最大の人材収集マシーンであることを考えれば、ここの破綻は致命的です。
※「アイドル」の成功がまさに比較対象として最適。
「漫画」についても、プロ漫画家と比較して同人漫画家の地位が向上すれば、同様の現象が起こると思われます。
というか、すべてのジャンルで同様のことが言えるでしょう。
なお、これは明確な優劣の存在する「ピラミッド構造」の崩壊であり、逆転とは違うというのは少し注意が必要です。
平たく言えば、多極化です。
誰もが信じ、目指してきた、たった一つのポイントが、複数のポイントにおきかわっていく状態です。
さて、そんなわけで、「商業系が同人系から人材を吸い取る」という方法は、いつまでも有効ではないような気がします。
手厚い保護を受けていたコンテンツ産業界は、このまま変化を否定したら衰退の一途をたどりそうです。
よって、今後考えられる流れは、以下の3つです。
1.商業系が大規模に同人市場に介入(資金投入)し、実質的吸収(従来型のシステムの中の新たな要素として定着する。すなわち、商業の対立項としての同人ではなく、商業の中の一カテゴリーとしての同人となる)
2.商業が力尽き、同人のみ(全体がフラット。基本的にみんなセルフプロデュース)
3.両者が均衡をとり住み分け(現状にかなり近いイメージ。つまり、現状が移行期ではなく、すでに安定期にあり、この状態が続いていくと考える)
商業系(特に大きい会社)は、当然、1を目指すでしょう。
個人的に、KADOKAWAの昨今の動きは、これに該当すると思っています。
ラノベ業界の主要な部分はおさえ、メディアミックスについては大きな力を持っていますが、そのメディアミックスの構成要素の一つとして、現在の同人系を吸収していこうと考えているのではないでしょうか。
※ラノベは、原作量産マシーンとして、メディアミックスの肝となる。例えば、アニメ化するためには最低限主要なキャラが一定数に達する必要があるわけだが、揃うまでにかかるリアルな時間は、漫画と比べるとラノベは圧倒的なものとなる。そして、アニメそのものの利益は厳しくても、その宣伝効果は群を抜いているわけで、相乗効果を狙う上で、ラノベとアニメを押さえていることは大きい。
大量の原作を生産できる体制に目途がたち、続いて、それを無限増幅させる「同人」を手中に収められたら、当分安泰です。
ただ、業界全体として、実際には2にかなり近い状態に至る気がします。
同人と適切な距離感を確保できたところはある程度勢力を保つ一方で、かなりの数の会社は規模を縮小。
人々の選択肢として、「商業(プロ)」と「同人」は並列となり、会社に付き従うプロの作り手は減少(この状況で人材を確保するためには、「育成」などの付加価値が求められる)。
この場合、同人に関わって企業が利益を上げるには、基本的には「プラットフォーム」しかありません。
個々の同人クリエイターに「場」を提供することで収益を上げる方式ですが、簡単に言えば、pixivやニコニコです。
というと、結局この流れの中で、「WEB同人即売会」はドンピシャです。
もしこれを単独で定着させれば、極めて大きな効果が将来的に見込まれるのではないでしょうか。
そして、様々なところにその影響が現れそうです。
そう言う意味で、「創作」に関わる全ての人にとって、「WEB同人即売会」に関する一連の動きというのは、非常に身近で注目すべき話題であると言えそうです。
・・・長かった。。
皆様お疲れっス
sho
続きはまた改めて~とか言っていた記事の続きです。
だいぶ日が経ってしまいましたが・・・。
未読の方や、内容を忘れてしまった方は、読み直してもらうのがよろしいかと。。
→「ネット空間における同人系即売会」に関する考察(その1)
さて、サクッと本題に入りましょう。
11月28日~12月1日にかけて開催された「APOLLO」を切り口に、「ネット空間における同人系即売会」を議論しようとしていたわけです。
そして、論点として以下の4つを挙げました。
① 音楽以外のジャンルにも広がりを見せるのか?
② 広がったとして、そのまま定着していくのか?
③ リアルの即売会(コミケなど)にどのような影響を与えるのか?
④ そもそもこの流れは、何を意味しているのか?
4つ並べはしましたが、最終的にはすべて④に集約されるので、そんな感じで話を進めていきましょう。
まず、①~③については、先に結論を述べておきます。
① 音楽以外のジャンルにも広がりを見せるのか?
→ 技術的制約をクリアできるものから順に、サブカルのあらゆるジャンルに広がっていくと思われる。
② 広がったとして、そのまま定着していくのか?
→ 一過性のものではなく、徐々に定着していくと思われる。
③ リアルの即売会(コミケなど)にどのような影響を与えるのか?
→ 競合より相乗効果の方が大きく、全体として同人業界の拡大に寄与すると思われる。
ということで、理由もあげずに個人的見解だけ書きましたが、以下で、④に答えつつ、①~③の理由についても触れていきます。
さて、どこから話を始めるべきか・・・
とりあえず、どうしてpixivが「同人音楽」に手を出したのかという点について。
※当たり前ですが、すべて僕の個人的見解です。
「ネット空間における同人系即売会」という論点とは少し離れますが、なぜ「イラスト」のpixivが「音楽」に手を伸ばしたのか?
この後で述べていくことになる“大きな流れ”が前提となりますが、表面的には、以下のように考えられると思います。
・事業拡大(収益確保)のために、縄張りを拡大させたい。広告収入モデルは飽和状態に達しつつあるため、それに頼っていては今後の発展が怪しい。
・近年の同人音楽の勢いは結構すごい。特に、若年層を多くひきつけているので、彼らが経済力を持つ頃に収益性がアップする可能性がある。
pixivがBOOTHを始めたのも、この文脈に合致すると思いますが、事業拡大(収益確保)が大きいでしょう。
ネットにおけるイラスト公開の場として、pixivの存在感は絶大です。
むしろ、絶大過ぎて、次にどこを目指すべきか?という感じです。
そこで、新たな領域に手をだし、同時に収益性のアップを画策しているのではないかと。
ユーザーから金をとるのは、広告収入モデルにネガティブな影響を与えるのであまり推進できません。
すると、これらとは別の方法を模索する必要があります。
そこで、同人作品のネット売買、すなわち「BOOTH」に至ったわけです。
現状を見る限り、多くの人が望んでいたサービスであり、反応は上々という印象です。
そして、さらにこの流れを推し進めるための起爆剤が「WEB同人即売会」となるわけです。
しかし、「同人誌」や「イラスト」を売買の対象としてしまうと、すでに確保している自分のテリトリーの中で小さく収まってしまいますし、自分ですでに展開しているサービスとの間でつぶしあいになってしまいます。
すると、この状況で残された選択肢は、「同人音楽」と「同人ゲーム」です。
同人業界において一定の需要があり、商品をデジタルデータとして扱えるというのが必須条件です。
この2つのうち、「同人ゲーム」については、
・成人指定作品の存在感が大きすぎる。
・「音楽」の視聴と比べると、お試しのハードルが高い(技術的制作を含む)。
・制作の手間が大きく、参加者を確保しにくい。
・商品単価が高くなり、気軽に買えなくなってしまう。
・・・というような理由で、「初の試み」としてリスクが高くなってしまいます。
そうすると、消去法でも「同人音楽」が残ります。
一方で、考慮しなくてはならないのが、先行する「ニコニコ動画」との関係です。
「同人音楽」(特にボカロ)に関しては、ニコニコが圧倒的なことは言うまでもありません。
よって、単に「同人音楽を発表する場」では、活路を見出せません。
そもそも、現状において、勢いづいているとは言っても、「同人音楽」の市場規模はたかが知れています。
客層の多くが経済力のない若年層である点が大きく影響していると思われますが、そのような市場での「奪い合い」は得策ではありません。
むしろ、市場開拓を進め、将来への布石とする方が良い。
そう考えると、今回「同人音楽」以上に「即売会」であることをプッシュし、ニコニコとの差別化を図ったことは理に適っている印象です。
「(おそらく)初のWEB同人即売会」というのは、宣伝文句としてインパクトがありますし、このまま新分野のパイオニアとして、その地位を確立してしまいたいのでしょう。
※pixivが「イラスト」を売買の対象としにくいのと同様に、ニコニコは「音楽」を売買の対象としにくい。自分の先行サービスと競合してしまうというジレンマを潜在的に抱えています。
ただ、このような棲み分け状態が今後も続くのかといえば、かなり怪しい気がします。
共存か競合か?
ニコニコはすでに「動画」のみならず「静画」に手を出していますし、言い方を工夫してはいても、pixivは「音楽」に手を出しました(「動画」っぽいものにも既に手を出しましたし)。
すでに、「イラスト」はpixiv、「動画」はニコニコという完全な棲み分けはかなり崩れてきています。
状況的に、あらゆる競合を避けるというのは厳しいような気がします。
その際に、それぞれが持つ強みがポイントになると思います。
ニコニコとしては、とりあえず「KADOKAWA」とのつながりが大きいでしょう。
対するpixivは、「リアルの即売会」との結びつきを強めていることが大きいでしょう。
この点からも、pixivが今回、「即売会」から攻めたのは、戦略的なものを感じます。
得意分野を足場にして、新領域に少しずつ踏み込んでいる感じです。
いずれにせよ、様子を見つつ互いに動き出している印象であり、どちらも座して待つわけにはいかなくなっているような気がします。
そんなわけで、「WEB同人音楽即売会」ですが、以上の話から、「音楽」からスタートするのが妥当だと思いますが、「音楽」に限定する必然性はないでしょう。
むしろ、ポイントは「WEB同人即売会」であり、可能なら他のジャンルにも広げていきたいと考えていることでしょう。
このことは、BOOTHで扱っているものを考えれば明らかです。
というわけで、pixivは「音楽」に限定せず、広く「WEB同人即売会」を展開したいと考えていると推測できます。
しかし、これはそのまま「WEB同人即売会」の定着を意味するものではありません。
コミケなどの「リアルの同人即売会」と同様の広がりと定着を見せるのかどうかという点は、pixivの戦略とは別次元のものです。
同人を愛する人々に受け入れられるかどうか?
そもそも、「同人即売会」においては、「場の共有」がとても重要な要素となります。
対面によるやり取り、肌で感じる空間の高揚感などは、単なる売買の空間であること以上に大きな意味を持っていると思われます。
「WEB同人即売会」の定着は、基本的には、このハードルをクリアすることを意味するはずです。
ネット空間における「場の共有」(っぽい感覚)。
これは、ツイッター上で同時に「バルス!!」とツイートする昨今の状況を見れば、感覚的に可能だという印象を受けます。
また、この点で、もっとも巧妙かつ大規模に切り込んできたのが、ニコニコ動画のコメント機能です。
動画を視聴する人それぞれのタイムラグを、動画の再生時間を基準に補正することで、まるで同時にみんなで見ているかのような感覚を生み出す。
こうして生み出された一体感は、明らかに独特の雰囲気をもつ「場」を生み出しています(同時に、YouTubeとの見事な差別化を果たしている)。
つまり、人間の認識として、「リアル/ネット」の障壁を破ることは可能と思われます。
現在、明らかにこの障壁は希薄化しつつあるので、この流れで行けば、「即売会」に求められる「場の共有」の感覚はネット空間であっても達成できそうです。
※今年のメディア芸術祭に触れた記事でも、「デジタル/アナログ」の境界が曖昧になってきた点について言及しているが、同人即売会においてもあてはまると言える。
さらに、対面によるやり取り、肌で感じる空間の高揚感についても、究極的には「情報」であることを考えれば、デジタルデータとして扱える技術が登場する可能性があり、理屈の上ではすべてをネット空間で再現できるようになると考えることができます。
※インターフェイスは明らかにその方向に向かっている。特に、ヘッドマウントディスプレイが普及していけば、技術的障壁は極端に下がる。
というわけで、「WEB同人即売会」を人々が受け入れるだけの素地(心理的側面と技術的側面の両方)はすでにかなりあると言うことができ、その流れで定着していく可能性は高いと推測できます。
そうすると、気になるのは「リアルの即売会」との関係です。
「WEB同人即売会」は「リアルの同人即売会」(コミケなど)にどのような影響を与えるのでしょうか?
「WEB同人即売会」がそれなりに広がっていった状況を想定し、その場合、「リアルの同人即売会」との間にどのような差異が現れるか推測してみました。
「リアルの同人即売会」:
・質的コミュニケーションの場(より密度の濃い対面コミュニケーション、ある種の同窓会的機会を提供)。
・販売に関しては、疑似的なロングテール(リアルだと容易に利益は出せないが、多様性、個々の物量の少なさという点ではかなり近い)。
・ブランド向上効果(参加することが一種のステータスになる。本当の意味で聖地化)。
・一体感を出しやすい。
・面倒(初心者がいきなり踏み込むのはキツイ)。
「WEB同人即売会」:
・量的コミュニケーションの場(密な交流は厳しいが、そのかわりたくさんの人と関わる機会を持てる)。
・真のロングテールが成立。利益確保(デジタルデータ販売に特化すれば、生産、輸送、保管コストを大幅に削減し、在庫の心配もいらない)。
・一体感の創出がやや困難。
・より気軽に客を呼び込める(関わるきっかけとして、より適している)。
※「ロングテール」について、わからない人はwikipediaへ!
これらを見ると、両者が互いに弱点を補強しあう関係であることがわかります。
特に、収益性に関しては、はっきりと違いが出ます。
現状、リアルの同人即売会で黒字化は厳しいものがあります(一部の大手を除く)。
この点に関して、それを承知の上で参加する人が現時点での「場」を構成していると考えられますが、「WEB同人即売会」が成立すると、ここに大きな影響を与えると思われます。
「WEB同人即売会」では実質的に赤字とはならない、つまり、利益が出やすくなります。
すると、「WEB同人即売会」と「リアルの同人即売会」を併用することで、リアルの赤字を補填することもできます。
そうすると、売り物の価格はより低く設定することが可能となります。
全体として価格帯が下がれば、買う方のハードルも下がります。
予算が少なくても手を出せるし、同じ予算なら多くのものを買えます。
故に、活性化(市場規模拡大)へとつながります。
また、「WEB同人即売会」は、スペース不足による減速感に対抗するものであるとも言えます。
特にコミケについて言えることですが、潜在的に求められる規模は、時間的に3日間では不足しているし、空間的にビッグサイトでは不足していることは明らかです。
しかし、求められる規模を達成することはかなりの困難を伴います。
つまり、「規模拡大への圧力」が「現実的制約(物理的制約)」を上回りつつあります。
※効率性をあげることでどうにか凌いでいるのが現状。
少し話がそれますが、「2020年」がターニングポイントになるかもしれません。
2020年の東京オリンピックの都合上、ビッグサイトの使用には大きな影響が出るものと思われますが、もしかするとこれは何らかの転換点になるかもしれないと思ったりします。
使用できない期間が長いので、隣に仮設の展示場を建設するという発表がありましたが、コミケのキャパとして十分なものとはならないでしょう。
他の会場を使用するか、ビッグサイトの仮設展示場で開催するのかはわかりませんが、少なくとも現状より物理的制約は大きくなるでしょう。
そうすると、それは逆に変化のチャンスと捉えることもできます。
そして、そのとき「ネット空間」の強みはこれまでにないほど大きく発揮できるわけです。
そんなわけで、空間的な制約から解放されれば、「同人即売会」は新たな局面を迎えることになるでしょう。
リアルが許容できない部分も取りこぼさないようになっていくと考えられます。
また、すべてが「WEB同人即売会」に移行していく可能性についてですが、個人的にはかなり低いと思います。
ネット社会になって一定の期間が経過しましたが、リアルはその価値を多少変容させても、価値を失ってはいません。
「同人即売会」についても同様のことが言えると思いますが、「ブランド化」が加速するような気がします。
当然、ネットよりもハードルが高いので、その場に集うことそのものに価値が見出される傾向が強くなるのではないでしょうか。
また、人間は、意外とめんどくさいことを欲したりするものですし。
※アプリなどでも、本来なら省略できる操作を敢えて残し、めんどくささを演出することは一般的。
以上の考察が、基本的には最初に並べた①~③の論点に対応しますが、その上で、より大きな枠で考えてみましょう。
「WEB同人即売会」の定着と、それに伴う同人業界の拡大を経て、その後どのように展開していくのか?
これについては、商業的なコンテンツ企業(商業系)の動きがカギを握ると思われます。
同人系が盛り上がっている中、商業系も盛り上がっているのかといえば、そういうわけでもありません。
商業コンテンツの収益性は、全体として悪化しています。
漫画雑誌の発行部数は低下し、音楽CDの売り上げは下がっています。
では、この状況で商業系はどういう手を打つのか?
例えば、「漫画」に関して言えば、変なプライドを持たなければ、同人からの引き抜きという手が現時点ではまだ有効です。
これは、現状、「漫画を描いて生きていく」と言えば、ほとんどの人が「プロの漫画家になる」を意味するのだと認識していることから明らかです(プロ漫画家が、ポジションとして最上位であると認識されている)。
今「プロデビューできるよ」といえば、それなりに引き抜けるはずです。
出版社として、育てるコストを削減し、さらに一定の客をすでに確保している人材をゲットできるのは、かなりの利点でしょう。
しかし、この構図は、同人市場だけで経済的に成り立たせることが難しいことによります。
もし、技術レベルが同等という条件で、同人でもプロでもあまり極端な経済格差が生まれない状況となれば、自由度の高い同人を選択する人は圧倒的に増えるでしょう。
すると、出版社は、同人からの人材発掘が厳しくなっていきます。
すでにいっぱいいっぱいなのが、音楽CDです。
若年層では、プロの歌手ではなく、いわゆる歌い手に憧れを抱くことも珍しくなくなってきました。
メジャーデビューの価値は、大きく低下していると言えるでしょう。
「憧れ」こそが最大の人材収集マシーンであることを考えれば、ここの破綻は致命的です。
※「アイドル」の成功がまさに比較対象として最適。
「漫画」についても、プロ漫画家と比較して同人漫画家の地位が向上すれば、同様の現象が起こると思われます。
というか、すべてのジャンルで同様のことが言えるでしょう。
なお、これは明確な優劣の存在する「ピラミッド構造」の崩壊であり、逆転とは違うというのは少し注意が必要です。
平たく言えば、多極化です。
誰もが信じ、目指してきた、たった一つのポイントが、複数のポイントにおきかわっていく状態です。
さて、そんなわけで、「商業系が同人系から人材を吸い取る」という方法は、いつまでも有効ではないような気がします。
手厚い保護を受けていたコンテンツ産業界は、このまま変化を否定したら衰退の一途をたどりそうです。
よって、今後考えられる流れは、以下の3つです。
1.商業系が大規模に同人市場に介入(資金投入)し、実質的吸収(従来型のシステムの中の新たな要素として定着する。すなわち、商業の対立項としての同人ではなく、商業の中の一カテゴリーとしての同人となる)
2.商業が力尽き、同人のみ(全体がフラット。基本的にみんなセルフプロデュース)
3.両者が均衡をとり住み分け(現状にかなり近いイメージ。つまり、現状が移行期ではなく、すでに安定期にあり、この状態が続いていくと考える)
商業系(特に大きい会社)は、当然、1を目指すでしょう。
個人的に、KADOKAWAの昨今の動きは、これに該当すると思っています。
ラノベ業界の主要な部分はおさえ、メディアミックスについては大きな力を持っていますが、そのメディアミックスの構成要素の一つとして、現在の同人系を吸収していこうと考えているのではないでしょうか。
※ラノベは、原作量産マシーンとして、メディアミックスの肝となる。例えば、アニメ化するためには最低限主要なキャラが一定数に達する必要があるわけだが、揃うまでにかかるリアルな時間は、漫画と比べるとラノベは圧倒的なものとなる。そして、アニメそのものの利益は厳しくても、その宣伝効果は群を抜いているわけで、相乗効果を狙う上で、ラノベとアニメを押さえていることは大きい。
大量の原作を生産できる体制に目途がたち、続いて、それを無限増幅させる「同人」を手中に収められたら、当分安泰です。
ただ、業界全体として、実際には2にかなり近い状態に至る気がします。
同人と適切な距離感を確保できたところはある程度勢力を保つ一方で、かなりの数の会社は規模を縮小。
人々の選択肢として、「商業(プロ)」と「同人」は並列となり、会社に付き従うプロの作り手は減少(この状況で人材を確保するためには、「育成」などの付加価値が求められる)。
この場合、同人に関わって企業が利益を上げるには、基本的には「プラットフォーム」しかありません。
個々の同人クリエイターに「場」を提供することで収益を上げる方式ですが、簡単に言えば、pixivやニコニコです。
というと、結局この流れの中で、「WEB同人即売会」はドンピシャです。
もしこれを単独で定着させれば、極めて大きな効果が将来的に見込まれるのではないでしょうか。
そして、様々なところにその影響が現れそうです。
そう言う意味で、「創作」に関わる全ての人にとって、「WEB同人即売会」に関する一連の動きというのは、非常に身近で注目すべき話題であると言えそうです。
・・・長かった。。
皆様お疲れっス
sho