翔が玄関にやって来る。
翔「ごめんください」
希美「誰かしら」
虹子「私が行ってくるわ」
希美「じゃあお願い」
玄関に行く虹子。
希美「初めて聞く声だけど誰なのかしら」
虹子と翔がやって来る。
希美「虹子さんその方は?」
虹子「彼は増岡翔くん、桜とお付き合いしている人よ」
希美「この人が桜と」
翔「初めまして増岡翔です。突然押し掛けて申し訳ありません」
望美「それは良いのよ、あの桜になにか?」
翔「桜さんとの結婚を許していただきたいんです」
望美「結婚」
喜ぶ虹子。
虹子「やっと言ったのね心配してたのよ」
翔「桜には幸せになる資格がないって断られましたけど、諦めたくなくて押し掛けて来ました」
望美「幸せになる資格がない」
翔「もしかしたら、お兄さんが亡くなった事と何か関係があるんじゃないかと思って」
希美「桜がそう言ったのね」
桜出てくる。
翔「はい」
驚く桜。
桜「かける」
翔「桜」
桜「もう来ないでって言ったでしょ」
翔「頼むからちゃんと話をしよう」
友則と正也がやって来る。
正也「増岡君じゃないか」
翔にちかよる正也
桜「帰って私は幸せになっちゃいけないの」
正也「桜、何を言ってるんだ」
虹子「増岡君が結婚を申し込んだんだけど」
正也「まさか桜は断ったのか」
友則「桜が結婚」
桜のそばに行き肩にてをおく正也
正也「よく聞け、増岡君と幸せになれ。それは俺達の望なんだ」
桜「無理よ、だって兄さんは永遠に十七歳のままなのよ私だけ幸せになんてなれない」
正也「またそんな事を」
桜「だから結婚はしないって言ってるでしょ」
虹子「どうしてそういつも」
桜「もう決めた事なの」
正也「桜、お前それで隼人が喜ぶと思うのか?」
桜「これで、これでいいの」
家を出て行く桜。
翔「桜」
虹子「桜、待って何処に行くの桜」
追いかける虹子。
翔「お願いです、二十五年前に何があったのかちゃんと教えてもらえませんか」
友則「でも」
翔「知らなきゃいけないんです、桜の為にも自分の為にも」
正也「そうだな俺からじゃなく兄さんが教えるべきだ」
友則「分かった。二十五年前、桜の兄の隼人が亡くなったあのホタル池で」
翔「ホタル池」
正也「二人のお気に入りの場所だったんだ、よくホタルを見に行ってたよ」
友則「あの日二人は些細な事で喧嘩をして、夕方になっても帰って来ない桜を探しに隼人は森の中に入って行った」
翔は食い入るように聞いている
友則「日が暮れた頃、地主の一之介さんが気を失っている桜を連れて来てくれたんだが、隼人は戻って来なかった」
翔「戻って来なかった」
友則「一晩中、村人が総出で森の中を探したんだ。そして明け方、ホタル池で赤いサンダルを握り締めて浮いている隼人を見付けたんだ」
驚きなにも言えない翔
望美「そのサンダルは、あの日に桜が失くした物だった。それで桜は、隼人が死んだのは自分のせいだと思ってるの」
翔「でも、それだけじゃない。もっとつらい事があったはずです、もっと」
正也「そこまで、桜の事を知ろうとしてくれるのか」
翔「覚悟はしてます」
正也はうなずき
正也「そうかありがとう。兄さん、増岡君は医療用品の卸会社の社員なんだ」
友則「医療用品」
正也「桜の通っている病院に薬とかを納品しているんだ」
友則「そんな君が何で桜と」
翔「初めは取引先の病院で彼女を見かけて気になって。まさかそこで働いている先輩の患者だとは知らなくて。でも、そんなの関係なく彼女を好きになったんです」
驚く友則
友則「桜の病気を知っていたのか。実はあの日私は酷くあの子を責めた。何故だ何故あんな処に行った、隼人が死んだのはお前のせいだと」
何かに気付いた翔
翔「もしかしてお前が死ねばよかったのにって彼女に言ったんじゃないんですか」
驚く友則、正也、望美。
友則「なぜそれを」
翔「まさか父親に言われた言葉だったなんて、前に一度だけ治療に付き添った事があります。その時に彼女がつぶやいた言葉です。彼女は覚えていませんが」
正也「本当なのか?」
友則「…」
正也「本当に兄さんは桜にお前が死ねばよかったって言ったのか、そう言ったのか!」
友則「それは」
友則につかみかかる正也。
正也「どうして言ったんだ、それだけはその言葉だけは絶対に言っちゃいけなかったのに、どうして」
慌てて止めに入る望美と翔。
希美「やめてやめて」
翔「おじさん暴力はだめです」
必死に止める望美。戻ってくる虹子
虹子「2人とも何をやってるの❗️」
希美「お願いやめてお父さんのせいじゃないの私のせいなの、私が悪いのよ」
驚き望美を見る虹子
虹子「まさかそうやってずっと庇ってきたの?私がってそんなんじゃ何も解決する訳がないわよ」
希美「それは分かってる、でもこの人には立場があるの。それに子供を二人も亡くしたのは私の不注意のせいなのよ。家の中の事は私が何とかしなければいけなかったの」
虹子「希美さんそれは違うわ、子供の事もそう全部二人で乗り越えるべきだったのよ」
希美「…」
翔「彼女の解離性同一性障害の本当の原因はそこにあったのか」
驚く友則と希美。
友則「それはどう言うことだ」
翔「彼女は自分を見てもらいたかった。でもそれが叶わないと気付いてしまった。だから必死に心が壊れないように自分を守ってきた。もう一人の自分の力を借りて」
望美「もう1人の自分」
翔「でもその一言で壊れてしまった。もう一人の力も役に立たないくらいに」
うろたえる友則
友則「何を言っているんだ」
あっと思い出した正也
正也「そうだ、桜がうちに来た初めの頃は朝から晩まで叫びつづけ、何度も何度も壁に体当たりしたり何かから逃げようとして階段を転げ落ちたり、気を抜けば噛みつかれまるで別人のようだった」
翔「もがいて戦っていたんです、ずっと一人で」
正也「それでも俺達は根気強くあの子を抱きしめて来た。だから戻って来ていたんだやっと本当の桜に」
驚く友則。
友則「抱きしめる?暴れる子をか?」
正也「当たり前だその覚悟で預かったんだ、俺の子なんだ!なんとしてでも助けると誓ったんだ」
俺の子に引っ掛かる友則
友則「俺の子って」
正也「そうだったな兄さんは子供の頃から何でも完璧だった。一流大学を出て一流商社に入って重役にまで上り詰めて、最後は惜しまれての早期退職。父さんも鼻が高いって色んなところで自慢してたよ。俺の事はクズ扱いだったけどな。そうやってずっと比べられて俺がどんなに悔しかったか」
ため息をつく友則
友則「それは気のせいだと言っているじゃないか」
正也「いい人ぶるのはやめてくれ、だからなんだろうな兄さんと違ってすぐに桜を理解できた。あの子を俺に預けたのはていの良い厄介払いだったって、あの子が気付かないとでも思っていたのか」
希美「それは」
おろおろする望美
虹子「希美さんあなたも友則さんと一緒よ。あなたは心から笑った桜の顔を見たことがある?あなた達は本当のあの子を見ていなかったんだから」
希美「本当のあの子」
呆然とする望美
虹子「私に子供が出来ないって分かった途端、お義父さんに正也さんと別れろって言われたわ。でも私には帰る家も受け止めてくれる家族もなかった。だから桜を預かるって決めた時、この子を我が子として愛そうって決めたの。何があっても守り抜くって」
希美「私も虹子さんみたいに思えたら」
翔が望美に
翔「そう思えたはずです」
と声をかけた。驚く望美
希美「え?」
翔「あの時預けたりせずに、逃げずに正面からぶつかっていれば良かったんです」
希美「逃げずにぶつかっていれば」
虹子「そうねそうすれば本当の家族でいられたのよ」
希美「でもどう向き合えばいいのか分からなくて怖かった」
友則「ああ分からなかった、どうあの子を愛していいのか」
虹子「そんなの隼人君が死んだときに、苦しんでいる桜を何があってもただ抱きしめればよかったのよ」
虹子の言葉にハッとする友則と望美
翔「大事な時にあなた達は彼女を一人にしたから、彼女は自分を殺してもう一人に入れ替わる事にしたんです」
希美「入れかわる?」
驚く皆
正也「また本当の桜じゃなくなるのか」
友則「あの子にどう償えばいいんだ?どう向き合えば」
翔が正也と虹子を指し示す。
翔「素晴らしいお手本がここにいるじゃないですか、彼女の存在を認めてあげてください」
正也と虹子を見る友則
友則「正也か…なあ今さら虫の良い話だが桜と向き合う方法を俺達に教えてくれないか」
希美「虹子さんお願いします」
深々と頭を下げる友則と希美。
正也「わかった、桜が本当は何が好きで何が嫌いか何が嬉しくて何が辛いのか全部教えてやるよ」
友則「すまないありがとう。そうだ桜を探さないと桜は何処に行ったんだ」
虹子「それが見失ってしまって」
翔 「彼女の行きそうな場所分かりますか?」
ふと気付く希美。
希美「ホタル池」
翔「ホタル池、お兄さんが亡くなった場所ですね。そこ教えてもらえますか」
友則「すぐに地図を用意しようお母さん」
希美「ええ地図ね」
希美 奥に地図を取りに行く。ノートを持って戻って来る。
翔「これは」
希美「隼人と桜が子供の頃に書いた密基地のノート。地図も入ってるわ」
翔「二人の思い出ですね」
ノートを受け取る翔。
正也「桜を頼む増岡君」
虹子「お願いね」
友則「どうかどうか頼みます」
深々と頭を下げる友則と希美。
翔「必ず連れて帰ってきます」