着替えて戻ってきた友則が、向かいに座り
友則「ん、お母さんと何を話してたんだ?俺の悪口か?」
と言った。
桜「違うって」
友則「そうか?で、体はもう大丈夫なのか?」
桜「うん大丈夫。それより二人でどこかに行ってたの?」
桜の問いに、少しドキッとした後
友則「ああ、隼人のお墓にな。明日の命日には皆が来てくれるから、掃除をしに行ってきたんだ」
と答えた。
桜「ああ、そっかそうだよね」
友則「でも、よく帰って来る気になったな。あの頃のお前からは、想像も出来なかったが。ここから離れて良かったんだよな」
桜「うん。でもお母さんにはさみしい思いさせてしまったな」
お茶とお菓子を持って来る希美。
希美「なに言ってるのよ。隼人があんなふうに亡くなって、あの日から毎日毎日泣き叫ぶあなたを見てるのが、どんなに辛かったか」
友則「そうだな、桜はお兄ちゃん子だったからな」
希美「このままじゃ、この子まで失くしてしまう。だから、まだ7歳だったあなたを、叔父の正也さんに預けて」
友則「あの頃は、桜の事まで考える余裕がまったくなかったからな、本当にす
まなかった」
桜「やめてよ、二人とも」
希美「でも、そのおかげでこうやって帰って来てくれた。時々は会っていたけれど、この家で会うのと向こうで会うのとでは意味が違うの。本当に預けて正解
だったわ、こんなに元気になって」
桜「ごめんね、心配かけて」
友則「親子なんだから当たり前だろ」
桜「うん、そうだね」
希美「あ、もうちょっとでお昼出来るから、待っててね」
桜「うん」
去って行く希美。
友則「そうだ、お父さん新しい立体パズルを買ったんだが、桜いっしょに作ってくれるか?」
桜「お父さん、パズル好きだったものね、いいよ」
友則「そうか、じゃあすぐに持って来るから待ってろよ」
去って行く友則。
桜「そういえば、私この家がすごく怖かった。どうしようもなく…でも、なんで怖かったんだろう」
人の気配。
桜「だれ?」
振り返るが誰もいない。
桜「この感じ、前にも…あれは何時だったんだろう」
ふと思い出す桜。
桜「そうだ、これだ私がココから出ていった理由。いつもジッと、誰かが私を見ていた」
暗くなりスポットライト。《わたし》が立っている。
わたし「やっと、少し思い出したみたいね。久しぶりね卑怯者さん」
桜「そうあなただ。あなた、なぜまだ居るの?」
わたし「なぜ居るのですって?まだ居いるのじゃなくて、まだ思い出せないの?あなた」
桜「え?」
わたし「何なの?本当に、思い出さないつもりなの?」
桜を冷やかかな眼で見る《わたし》。
桜「その眼、いつも感じてたあなたの憎悪。そうよ、私はあなたが怖かった、だから小学生だったけどこの家を出たのよ」
わたし「それが何?お兄ちゃんは、あなたのせいで死んだのよ」
桜「私のせい」
わたし「お兄ちゃんは、頭が良くて誰からも好かれていた。十歳も年のはなれた私のわがままを、いつも笑顔で聞いてくれる自慢のお兄ちゃんだった」
桜「やめて、私の兄さんよ!」
わたし「私のよ!私の大好きなお兄ちゃんだわ」
桜「いい加減にして」
わたし「それは、こっちのセリフよ」
動きの止まる桜。
桜「……」
わたし「あなたあの日、何をしたのかまだ思い出せないのね」
桜「いったい何なの、どうして」
わたし「どうして!どうしてあなたは、そんなに私をイジメるの?」
驚く桜。
わたし「あの日、あなたが私に言った言葉」
桜「そ、そんな」
桜の逃げる姿勢に呆れて笑う《わたし》
わたし「本当に、いい加減にしなさいよ」
桜「(息をのむ桜)……」
わたし「いつまでも、逃げられると思わないで。あなたのせいで、お兄ちゃんの時間と私の時間はあの日のあの森の中で止まったままだわ」
桜「…」
わたし「そうね、あなたはそうやって都合の悪い事は全部私に押し付けてきた」
桜「やめて、やめて」
わたし「だから、あなたは誰も幸せにできない」
驚き《わたし》を見る桜。
桜「……」
わたし「せっかく帰って来たんだもの、これからじっくり思い出すといいわ。あの日、あなたが死ねばよかったのよ」
去って行く《わたし》
桜「あの日、兄さんが亡くなったあの日。何も思い出せない…思い出せない」