あの事件があってから数日。
てっちゃんは午後コースに変更したらしく、全く顔を合わさなくなった。
午後コースの尚君を待っている亜紀は、たまにてっちゃんを見かけるようだった。
亜紀の性格だから、私にてっちゃんの事はあえて話さないけれど。
私の気持ちも随分落ち着いてきた頃。
授業が終わると必ず迎えに来る裕也が、今日に限って来なかった。
(まだ授業やってるのかな………)
私は尚君を待つ亜紀にバイバイした後、裕也のクラスへと向かった。
(あれ………終わってる)
裕也のクラスは既に授業が終わっていて、人がまばらだった。
ドクン―――。
鼓動が大きく波打つ。
愛しい人が笑っている。
けれど、その笑顔の矛先は
私ではなかった。
裕也が『美衣』と言っていたその人は、裕也の腕をちょこんとひっぱりながら頬を染めて笑っている。
裕也はそれに答える様にその人の頭を軽く叩く。
やだ………
触んないで。
私はその状況が耐えられなくて、その場を後にした。
~♪ ~~♪
裕也専用の着信音が鳴る。
電話に出ると息を切らせながら喋る裕也。
「どこにいんの?」
「………」
他の人と仲良くしてるのを見たくないから先に帰りました、なんて言えない。
自然と無言になると、裕也は少し怒った口調で言った。
「………先に帰るならそー言ってよ」
―――何で?
さっきまであの人の前ではあんなに笑ってたのに、私には怒るの?
「別に………毎日一緒に帰るなんて約束してないし」
自分で分かってても、嫉妬故にそんな酷い事を言ってしまう。
暫くお互い無言になった。
裕也の息切れが徐々に軽くなった頃。
「そ………わかった」
そう言って裕也は携帯を切った。
思わず涙ぐむ目。
(何してるんだろう私………最低…)
自分が嫉妬深い事に改めて気付く。
夜になっても、裕也からの着信もメールもない。
あんな言い方したら裕也が怒るのも当然だ。
(亜紀に電話しよっかな………)
そう思った時、着信が鳴った。
(この音………裕也じゃない)
亜紀かと思ってディスプレイを見ると健君だった。
「もしもし?」
私が出ると健君の明るい声が聞こえた。
「ゆまちゃん? ごめんね今平気? 裕也と一緒?」
「………ううん、一緒じゃないよ。 裕也に用事?」
健君は笑いながら答えた。
「裕也に用だったら直接かけるってー。 あのさ、もうすぐアイツの誕生日じゃん?」
「うん、そだね。 もしかして何かするの?」
「なんかサプライズパーティでもしようと思ってさぁ! ほらでも裕也とゆまちゃんデートする日が被ったらマズイと思って電話したんだー」
「………そっか。 今の所予定はない………かな」
健君が私の元気がない声に気づいたらしく、心配そうな声で聞いてきた。
「どした……? 何かあった? 裕也と」
その優しい声に身体がジワっと熱くなるのを感じた。
「………っごめ、なんでもない」
泣いているのを気づかれないように話す。
「………ねぇ、ゆまちゃん。 これからちょっと出てこれる?」
「………え?」
「夕飯まだ食ってないんだよね俺。 一人で食うより誰かと一緒に食った方がうまいし」
健君の顔見たら………少し元気になるかも。
「うん………いーよ。 あたしもまだ食べてないし」
「まぢで? じゃあ決まりね! 待ち合わせ学校でいい?」
「うん。 じゃあ支度して行くねー」
学校に着くと既に健君が待っていた。
「ゆまちゃん遅いー! 待ちくたびれたー」
頬をぷくっと膨らませた後、健君が笑う。
「ごめんねっ、考え事してたら降りそびれて」
「あはは、なにそれー!」
健君が笑いながら優しい顔をする。
「………やーっぱ泣いてたね」
私の顔に涙の跡が残っていたのを見つけたのか、健君が苦笑した。
「えっ………あっ…と」
私が慌てると健君がまた笑う。
「ほんとゆまちゃんて見てて飽きないよねー。 コロコロ表情かわるしー」
「う………」
私が口ごもると、健君は私の頭をポンと叩いて言った。
「飯食いにいくかぁ」
「………うんっ、そだね」
ご飯を食べた後、健君はゲーセンに連れてってくれた。
明るい健君のおかげで私もいつの間にか声にだして笑うようになっていた。
夜の10時半を回った頃、健君が言った。
「そろそろ帰るかぁ、ゆまちゃん送ってくよ」
「えっ? 大丈夫だよ、健君のマンションあたしの住んでる所と真逆だもん」
そー言うと健君は、苦笑しながら言った。
「俺が連れ回したんだし、こんな暗いのに一人で帰させれないじゃん」
それに………と健君が付け足す。
「ゆまちゃんに何かあったら、裕也も俺も嫌だからさ」
急に真面目な顔をして健君に見つめられて、私も頷くしかなかった。
「ここでいーよっ、あのアパートだから。 ありがとう」
私がアパートを指差して言うと、健君はフっと笑って言った。
「わかった。 あーでもよかったー」
「ん?」
「ゆまちゃん………笑ってくれたし」
「あ………」
確かに、健君といるとすごく楽しかった。
けれど………好きっていう感情とはやっぱり違うなって思った時
「………ゆま?」
そこにいるはずのない声に、一瞬にして身体がこわばる。
「………裕也……?」
寒さで身体を震わせながら私達の前に姿を現した裕也は、健君を見て一瞬驚いた顔をした後言った。
「は………そーゆー事か」
裕也は悲しみと憤りを含ませた顔をして私を見ている。
「違………っ」
裕也にまっすぐ見つめられて言葉が出ない。
「裕也ちげーって、俺とゆまちゃんはそんな……」
「お前は黙ってろ」
裕也に睨まれてグっと息が詰まる健君。
「もっと早く言ってくれれば良かったのに」
そう言った裕也の顔は、無表情で………私を軽蔑している顔だった。
そして裕也は、そのままその場を去って行ってしまった。
どうしよう。
きっと………私が酷い事言った罰だ……。
言葉も出ず、身体も動かず立ち尽くしていた私の背後が急に温かくなった。
「ゆまちゃん………まじで俺のものになんねぇ?」
無意識に流れる涙で視界がぼやける。
健君に後ろから抱きしめられても、私の心は凍えきっていた……。