お昼休憩が終わって店に戻ると、智幸の姿が見えた。

「とも………じゃなくて長谷部くん」


私が声をかけても智幸はこちらを見てくれなかった。

(なんだかお昼から様子が変……)


「ねぇ長谷川くんってば」

私が智幸の肩を触った途端、智幸はそれを勢いよく振りほどいた。




え……………?




私はそのまま魔法をかけられたように固まってしまった。


「仕事……戻らないとまずいんじゃないの?」

冷たい声で言う智幸の顔は、軽蔑している様な顔をしている。




「………何? あたし何かした?」

私の問いに一瞬眉をピクッと動かした智幸は

「別に」

と言って作業を再開してしまった。


(ちょっと待ってよ………完全にあたし何かしてるじゃん、それ!)



気になって問いただそうとした時、吉岡君に呼ばれた。


「おい」


振り向くと、吉岡君が機嫌の悪そうな顔で私の手を掴んだ。

「サボってんじゃねーよ、ちょっとこっちこい」

「えっ、ちょっと! あたしまだ話が……」

「うるせー! いいから来い」

吉岡君に引っ張られながら智幸を見ると、一瞬目が合ったがすぐに逸らされてしまった。






お店の裏にものすごい速さで連れて行かれた私は、息も絶え絶えになりながら聞いた。

「ちょっと……っ、いきなり何…っ?」


肩で呼吸している私をみて、吉岡君が口を開いた。



「お前さ、長谷部と付き合ってんの?」

「えっ………」



少しの沈黙のあと答えた。


「う………ん、まぁ……そうなんだけど」

「……あれで?」


グサッと突き刺さる事を言われる。



「う、うん………」

「お前さ、ほんとに愛されてんの?」

「なっ、関係ないでしょ吉岡君にはー!」

「それが関係あんだよ」

「なんでよっ」


少し顔を赤くして吉岡君が言った。


「俺お前の事好きかもしんねー」







「………………はい?」



あまりに唐突で、気の抜けた返答をしてしまう。

「お前なー………はい? じゃねーだろ」

吉岡君が呆れた顔で言った。


「いや、だっておかしな事言ってるから」

「別におかしくねー、好きって言ってるだけだろ」

「そうなんですけども………」


思ってもみなかった状況に頭が混乱している。



「長谷部やめてさ、俺と付き合えよ」


また変な事を言う彼に、もはや回転が追いつかなくなってきた。

「あの………何を言って…」

そう言いかけた時、聞き覚えのある声が聞こえた。



「リカ」



思わず体がこわばる。



「何してんの? リカ」

智幸が、一部始終聞いていましたと言わんばかりの顔で問う。


(顔こわばってる!!)


「えっと………」

何から話せばいいか分からない。

智幸が吉岡君をにらみながら言った。



「リカは僕のなんだけど、勝手に誘惑しないでくれるかな」


その言葉に不謹慎ながらドキドキしてしまった。


「あんなにうまくいってなさそうなのに、自分のとかゆーんだ」

吉岡君が呆れた笑みを浮かべながら答える。

「吉岡には関係ないだろ」

「あるね」


吉岡君は片方の口の端をニヤッと上げて続けた。


「俺、絶対村上の事落とすから」



その言葉に智幸が冷静に答えた。


「無理だと思うよ」

そう言いながら智幸は、私のあごをくいっと持ち上げてキスをした。


フレンチなキスではなくて



すごく深いキス。




「んっ……ぁ………はぁっ」


智幸のキスが気持ちよくて、思わず声を漏らしてしまう。


それをみて吉岡君は顔を真っ赤にした。



「吉岡にリカは落とせない」



そう言って智幸は、私の手を引きその場から去っていった。


ペタしてね

リカが吉岡と楽しそうにしている所を見てから、そればかりが脳裏をグルグルとまわっている。


やはり、ネットカフェであんな事するんじゃなかったんだろうか…。


リカの感じている顔を見て

あの時、本当に

あの場所で襲ってしまおうかと理性が吹っ飛びそうだった。


僕は、元々感情を表に出さない性格なのだが

リカの前では、それが全く意味をなさなくなってきている。




独占したい。




その思いだけが日々募って、頭がおかしくなりそうだ。



せっかくリカと休憩が重なったというのに

僕は、リカと吉岡のあの光景に苛立ってリカを避けてしまった。


(子供だな僕は………)


そう思いながら満たした腹で店へ戻ろうとした時、

ふと横を見ると、パスタ屋にいるリカが視界に入った。



「………!!」

そこで僕は受け入れがたい光景を目の当たりにする。

そこにいたのは

リカと




吉岡。


リカが吉岡に向かって笑っている。





なんだ。







なんなんだ、あれ。





見ている光景と脳内での処理が追いつかない。



気がつくと僕は

店に向かって早足で歩き出していた。


ペタしてね

その日、たまたま私と智幸は休憩が一緒になった。


一緒にご飯を食べようと思った私は、智幸の所へ行ったが

「今日は一人で食べるから、すまない」

と言いながらそそくさと歩いていってしまった。


(せっかく休憩一緒になれたのにな………)

少し寂しくなった私は、一人で近くのパスタ屋に入った。



「あれ?お前も休憩?」



そこにいたのは吉岡君だった。


「吉岡君も?」

「おー。 そろそろあがりだけどな」


「お客様お待ち合わせですか?」

店員に言われて慌てて否定しようとしたが、吉岡君から意外な言葉が帰ってきた。


「あぁ、そうです。連れなんで」


店員はお冷お持ちしますねーと微笑みながら行ってしまった。


「まぁ座れよ」

「う、うん………」

どうしていいかわからずに向かいに座ると、吉岡君がニヤニヤしながら言った。


「なに? ドキドキしてんの?」

「はっ? してないし!」

「そんなムキになるなって」

冗談だ、なんて言いながら吉岡君が笑っていると、店員さんがデザートを持ってきた。


「いちごパフェのお客様」

頼んでないものが来て一瞬あせったのだが、どうやら吉岡君が注文したらしい。

普段からは想像できない組み合わせに、なんだかおかしくなった。


「吉岡君甘いもの好きなんだね」

私がクスクス笑うと、吉岡君は少し顔を赤くして言った。

「んだよ、文句あっか」

「別にないんだけど……ぷっ」

思わず吹き出すと、吉岡君は更に顔を赤くして続けた。

「笑うな!」

「だって……あははっ! なんか想像つかなくてその組み合わせーっ」

ツボに入って笑っていると、吉岡君が急に優しい顔になって言った。



「お前、笑ってると可愛いな」



突然の言葉に思わず笑いが止まってしまう。

「へっ………」

「なんでもない、早く頼め。 俺はこれ食ったら出るぞ」

「あ、そそそーでした」





しばらくして、吉岡君が食べ終わり席を立った。

「これ払っといて」

と言いながら、自分の分のお金を渡して出て行ってしまった。


(もしや払うのがめんどくさくてここに呼んだ!?)

一瞬そんな事を思いながら、吉岡君が出て行った入り口をみると

いつの間にか待ち人でいっぱいになっていた。

(そういえばあたしが入った時も結構待ってたなぁ……)



そこで初めて思う。

(もしかして吉岡君、あたしを待たせないようにしてくれた…のかな)


吉岡君て、口悪いけど意外と気配りやなのかも……。


この日、吉岡君の事を少し見直したと思ったけれど

これから起こる事によってその思いがガタガタと崩れていくとは

思いもしなかった―――。


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