「裕也っ………!!」


教室に入り名前を呼んだけれど、彼の姿はなかった。

そこには………美衣さんが一人でボーっと立ちすくんでいた。


裕也の名前を呼ぶ声で彼女がハッと我に返ってこっちを見る。

私達に気づくと、美衣さんはいつもと違う表情になった。


 「裕也ならいないけどぉ?」

美衣さんはその綺麗な顔には似合わない程の口調で喋りながら、私を睨んだ。



「………アンタ、裕也とどーゆー関係なんだよ」

健君が美衣さんに向かって言った。

「はぁ? どーもこーも、普通に彼氏なんですけどぉー」

胸の辺りにあった内巻きの毛先をくるくる指で回しながら不機嫌そうに彼女は言う。


「ちょっと待てよ……それどーゆー「だーかぁらぁー」」

健君が言い終わるより先に美衣さんは更に口調を不機嫌にして話した。




「彼氏だっつってんでしょ?」




 聞きたい事はいっぱいあるのに、何故か言葉が出ない。


それを察したのか、健君が代わりに聞く。

「裕也がアンタの事好きって言ったのか?」

「そーよ! 裕也は美衣の事好きって言ったもぉん」

「………アイツ………」

健君が唇を強くかみしめている。

「だぁかぁらー、彼女ヅラされても困るんだよねぇそこの女にぃ」

勝ち誇った様に彼女が言うと、健君が静かに喋った。

「………んだよそれ………」



頭が真っ白になる。


やっぱり………もう私の事嫌いになっちゃったんだ………………。



知らずに涙がこぼれる。



 「えー? 泣いちゃうのぉー? 勘弁してよぉー」

美衣さんが見下した様に苦笑しながら私を見る。



「………こいったんだよ」

「なぁに? 聞こえなぁい」

「裕也どこ行ったって聞いてんだよ!!」


健君の声に驚く彼女。

「そ………そんなの知らないわよ」

何か隠した様子で美衣さんが言葉を返した。



「………んとに………ほんとに………裕也と………」

私が美衣さんに言葉を詰まらせながら話すと、美衣さんは笑いながら言った。


「だからぁー、美衣と裕也は付き合ってるってさっきから何回も言って………」

言いかけて、彼女が止まる。





その視線の先には










裕也がいた。






息を切らして


膝に手をついて


顔を上げて………私をジッと見つめる。










「それは違うよ」



ペタしてね



やだ。


やだ。



やだ!!




 過去のトラウマがよみがえる。

あの時の彼も………違う女の人とキスして………抱き合ってた。


男の人はみんなそうなの………?




 夢中で走り去る中誰かに腕をつかまれた。



「!!」



振り返るとそこには………


「ゆまちゃんっ………」




私を追いかけていたからか、息を切らして私の名前を呼ぶ健君がいた。


「なんで……っ泣いてるの」

無意識に出ていた涙に気づいた私は慌てて自分の手で涙を拭う。

「なんでもない………」

「なんでもなくないっしょそれは」

健君は悲しそうな顔で私を見ながら続けた。



「………裕也のせいで泣いてんの?」



たった二文字なのに敏感に反応してしまう私。

健君は溜息混じりに苦笑した後、私の頭をポンっとたたいて言った。

「今日さ、裕也にちゃんと話しに行こうと思って早く学院来たんだけど、ゆまちゃんが走ってくの見えて気になっちゃってさ」

「裕也に………?」

「うん。 ほら、あのまま裕也に誤解されたままなの気持ち悪いしさ」


「………でも………裕也…は…もうあたしの事……なんとも思ってないよ」

「え?」

健君が驚いた顔をして顔をしかめる。

「さっき………女の人と………キス…してた…し」

「は? なにそれ」

健君の顔が一瞬にしてこわばった。

「だからもう…いいの」




 しばらく無言になった後、健君が口を開いた。

「ゆまちゃんは………裕也の事信じてないの?」

健君が真面目な顔をして聞いてくる。

「信じたい………けど………あんな事あったから…もう嫌なんじゃないかって」

私が俯くと健君は私の肩を掴んで言った。

「あのさ、アイツ口数少ない方だし誤解する様な事多いかもしんねぇけど……」

健君が私の目をまっすぐ見ながら続ける。

「ゆまちゃんの事本当に大事に想ってるのわかるし、そんな簡単に乗り換えたりする奴じゃないよ?」

「………けど…」

私が泣きそうになると、健君が私の頭を撫でながら言った。



「俺さ、気づいたんだけど」

「……?」

「裕也の事が好きなゆまちゃんが好きみたいなんだよね」

少し照れた様に話す健君。

「だから、なんつーか………アイツとゆまちゃんに仲直りしてほしい」

「健君………」

「ゆまちゃんのいい顔ひきだせるのが俺じゃないのがすげー悔しいけどー」

健君がおどけて話した後、ニコっと笑って言った。

「だから、俺アイツと話つけてくるわ」




健君がこんなに私と裕也の仲を戻そうって考えてくれてるのに………

私、何でまた逃げたんだろう。


ちゃんと向き合わなくちゃいけないのは私なのに……。




 「……ゆまちゃん一緒に行く?」

私が考えている事がわかったのか、健君が優しく微笑みながら言う。



「あたし……ちゃんと向き合って話してみる」

「ゆまちゃんそーこなくちゃー!」




そして健君に手をひかれて

私と健君は、裕也のいる学院へと駆けて行った。


ペタしてね


 裕也から連絡がこなくなって1週間が経った。

あんな事があったせいか、私から裕也に声をかける勇気もなくて。


「もっと早く言ってくれれば良かったのに」


あの時の裕也の顔が頭から離れない。

(嫌われたのかな………やっぱり)


 その日の授業が終わって亜紀が話しかけてきた。

「ゆま………? 大丈夫? 先輩と全然話してないみたいだけど」

「正直あんまり大丈夫じゃない………けど、全部私が悪いからしょうがないの………」

そう言うと亜紀は私の背中をさすって言った。

「あのさ、そー思ってるならちゃんと話してきたら?」

「でも………」

またあの時の顔をされたら………泣かずにいられる保証がない。


「あたしが出来るなら代わりに言ってあげたいけど、そうじゃないでしょ?」

亜紀がさすっていた背中をポンっと叩いて泣きそうな顔をする。

「ゆまが元気ないと、あたしも調子狂っちゃうんだよね」

「亜紀………ぃ」

「溜めこんでないで泣きたかったら泣くのが一番でしょ、ホラ」

亜紀が両手を広げて手招きする。


「ふぇ………亜紀ぃぃ」

「おーよしよし、泣かずにがんばったねー」

亜紀が私の頭を撫でてくれた。


 亜紀には話していた。

健君に告白された事も、裕也を怒らせてしまった事も、全て。

私が悪い事は、亜紀だって分かってるのにそれでも私を想ってくれる。

「………っく………亜紀ぃ」

「んー?」

「友情ってすばらひぃねぇぇぇ」

「当たり前でしょーが」


亜紀にしばらく胸を貸してもらった後、気持ちが少し落ち着いた私が顔を上げると、亜紀に笑われた。

「ゆま、顔ブッサイク」

「む、うるさい」

手鏡を見ると、泣いてアイメイクが落ちた為に黒い涙の痕が残っていた。

「裕也………まだ教室いるかな………」

「いるにしてもその顔はまずいっしょ」

「………ですよね」


 明日一番に来て裕也に謝ろう。

健君との事も全部話そう。


裕也がもう私の事を嫌いになっちゃってても………。


私は裕也の事が大好きだから………。





 翌朝。

いつもより早めに起きてしまった私は、念入りにメイクをして学院に向かった。

授業が始まる1時間前に学院に着いてしまった私は、学院の入り口で深呼吸して階段をのぼった。

(裕也………来てるかな………)



 階段を上がってすぐに、裕也の姿を見つけた。



いた………………!

まだ誰もいない喫煙所を通り越して裕也のもとへ向かう。

けれどその足は数歩で止まってしまった。



私が見たのは………あの日と同じ、二人の姿。

美衣さんが、裕也と楽しげに話していた。

(こんな事で………負けるもんか)

私が裕也の後ろ姿を目指して歩いて行くと、美衣さんが先に私に気づいた。

その瞬間――――。





「!!」




私は持っていた鞄を思わず落としてしまった。

裕也が音に気づいて振り返る。

「ゆま……っ」

私は、その場から逃げるように走った。




美衣さんと裕也が

キスをしていたその場から―――――。


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