放課後。

いつもの様にヤエは学院をサボっていたので、私は亜紀と二人で近くのカラオケBOXに行った。


 「亜紀ー2時間でいいのー?」

「任せるー」

自販機の前で亜紀が煙草を買う間、私は受付を済ます。

店員から説明を受けていると、聞き覚えのある声がして振り向いた。


 「あっれー? ゆまちゃん?」

そこには健君と雅人君の姿があった。

「おおーなぁに? 健君達も?」

亜紀が戻ってきて健君達に話しかける。

「そーなんだけどー……混んでるっぽいかぁ………」


この時間帯は、いつも専門学生で混雑しているので、早く受付をしないと入れない。

「あっじゃあウチらと一緒する? 今ギリはいれたみたいだし。チョト待ってて」

亜紀が店員に人数の変更をしに行った。


 「亜紀ちゃん行動力あんなー」

健君が亜紀の素早い動きに関心している。

「でも、良かった? 俺達と一緒で」

雅人君が私に聞いてきた。

「大勢のが楽しいし全然大丈夫だよー」

私が笑顔で答えると、健君が驚いた顔をした。

「ん? どーしたの?」

「えっ? あ……ごめん」

健君の顔がほんのり赤い。

「なにー? なんかついてる?」

「ううん。ゆまちゃんてそんな風に笑うんだーって思って」

「え?」

言っている意味がよくわからず首を傾ける。

横で雅人君がニヤニヤしながら健君を見ていた。


 「4人入れるってー!」

亜紀がカウンターから少し張った声で話してきた。

「あっ、人数いってなかったっけ……裕也も来るから5人なんだけど」

雅人君が亜紀のいるカウンターへ行く。



――――裕也も来るから



その言葉だけが私の頭をぐるぐる回る。


(あーもぉぉぉぉ! あたし変だぁぁぁ!)


まるで初恋の時の様な感覚に襲われる。

その様子を見て健君が吹き出して笑う。

「ゆまちゃんてさー、表情コロコロ変わって可愛いねー」

目を細めて優しい目で見つめてくる健君にドキっとした。

「そんな事言ったって何も出ないよーだ」

「なんだー出ないのかぁー」

「あっムカツク」

お互いに顔を見合せて笑ってしまった。


(健君や雅人君とはこーやって普通に話せるのに………)


笑いながらそんな事を考えていたら、背後から声がした。




「部屋とれた?」




振り向かなくてもわかる声。


「それがさー満席だったんだけど、ゆまちゃん達が一緒にって言ってくれたんだよねー」

健君が私の肩にポンっと手を置いた。

一瞬裕也先輩の眉が寄る。



「あ、よ………よかったら一緒に……どぞ」


恥ずかしくなって俯きながら喋った私に、裕也先輩の変化をくみ取る事は出来なかった。



ペタしてね

 昨日亜紀の家にそのまま泊まった私は、亜紀と一緒に学校へ向かった。


 東校舎は、階段を上がるとすぐに休憩室がある。

「あたしちょっと煙草吸ってくるわー」

「じゃぁあたし先に教室行ってるね」


亜紀と休憩室の前で別れて渡り廊下を歩いていると、裕也先輩が壁にもたれて立っていた。


(えぇぇっ!! ぁっどどどどーしようっ)

1年生の教室に行くには、2年生の教室の前を通らないと辿り着けない。

つまり、先輩のいる前を通らなければならないのだ。


亜紀の所に戻ろうかどうしようかオロオロしていると、裕也先輩が私に気づいた。




―――ドクッ



昨日自分の気持ちに気づいたからか、いつもよりも鼓動が速い。

心臓が飛び出そうになる。



「………ねぇ」



裕也先輩に声をかけられて、肩が跳ね上がった。

「おっおおおおおはようございますっ!」

下を向きながら足早に通り過ぎようとした私の腕が裕也先輩につかまれた。



「待って」



すぐ後ろで低い声が聞こえる。


私は振り返らないままその場で硬直した。

(やばい………泣きそう………)

極度の緊張で、私の視界が涙で歪む。


「昨日………俺変な事言った?」


少し掠れた様な声にビックリして振り返った。

「いっ、いえっ! 全然っ……」

顔の前で両手を左右しながら先輩に言うと、私の顔を見て吹き出した。


「すっげー顔真っ赤っ」


先輩は肩を上下しながら笑いをこらえている。


「ぁっ……す…みません」

「なんで謝んだよ」

笑いながら私の頭をポンッと撫でて言った。



「可愛いじゃん」



その言葉で鼓動が加速したのが分かった。



「かっ……可愛いって……」

その言葉を発するだけで精一杯だった。



 そこへ亜紀がやって来た。

「あれ?ゆま教室行ったん……」

そう言いかけて止まる。


「先行ってるねーっ」

亜紀がニヤニヤしながらその場を通り過ぎようとした。

「あっまま待ってっ! あたしも行くっ!!」

私は裕也先輩にお辞儀をして、亜紀を急いで追いかけた。





 「いーのー? せっかくのチャンスだったのにー」

亜紀が机で頬杖をついて私を笑いながら見る。

「なんのチャンスよ! グダグダだよあたしっ!」

まだ緊張がおさまりきれず、私は机に突っ伏した。



(もーっ!こんなんじゃ前途多難だよぉ………)




その姿を見ていたある姿に、私はまだ気づいていなかった……。


ペタしてね



 亜紀の家に着くと、私はソファに座って溜息をついた。


「で? 何があったの?」

酔いがさめてきたらしく、亜紀が私の顔を覗きこみながら聞いてきた。


「う……ぅーん………」

「あの裕也って先輩の事?」

核心を突かれた私は一瞬たじろいだ。


 亜紀は勘が鋭い。

いつも私の考えている事を見抜いてしまうから、こーゆう時頭が上がらない。

「あのさ、ゆま。 アンタ自分で気づいてないかもしれないけど」

「え………?」




「ゆま、あの先輩の事いっつも探して目で追ってるよ」




ビックリした。

自分が無意識の中でそんな事をしてた事に。

そしてそれを亜紀には知られていた事に。


「ゆまってほんっとわっかりやすいよねー」

亜紀がケラケラ笑う。

「でも、さっき初めて話したし……なんかよくわかんない………」

この気持ちが何なのか自分でもよくわからなかった。




「それってさ、普通に………恋でしょ」




亜紀が半分呆れたように言う。


 そう言われた途端、自分の中にある何かがガタガタと音を立てて崩れ始めた。


固くて


大きくて


分厚い壁。



浮気のトラウマが作り上げた壁を、その彼はいとも簡単に崩れさせた。


 「ゆま顔真っ赤なんだけどー! ァハハハ!!」






芽生えた小さな恋のつぼみ。


―――私が彼を好きになるのに、それ程時間はかからなかった。



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