亜紀達の所へ行くと、それなりの人数が打ち上げを始めていた。

「おーゆまーっ! こっちこっち!!」

亜紀が立ち上がって手をブンブン振っている。


「あー……亜紀もーそんな飲んでんのー?」

「ゆまちゃんいるから介抱してもらえるもーん(はーと)」


 亜紀はいつもこんなだ。

私が一緒の時は、ベロンベロンに酔って私に介抱させる。

逆のパターンもたまにあるのだけれど、どちらかが酔ったらどちらかは酔わないようにする

それは私と亜紀の間では暗黙の了解だった。


 普段男勝りな亜紀は、酔うとすごく女の子になる。

それは私と二人で飲んでいる時もそう。

きっと亜紀は私よりもずっと女の子らしいんだと思う。


「ゆまちゃん? でいいのかな? 俺ら学科違うから初めて会うよね? オレ健(ケン)。よろしくねー」

たこ焼き屋の客引きの人がニコニコしながら声をかけてきた。

「ぁっ俺は雅人(マサト)。俺達北校舎なんだけど、ゆまちゃん達と同じ学科にダチがいてさ、東校舎で一緒にたこ焼き屋やってたんだよねー」

たこ焼きを作ってた人がビールを飲みながら話してくる。


 この学院は、学科毎に校舎が分かれていて、私達は東校舎で授業を受けている。

もちろん同学科の2年生も同じ東校舎だ。


「え? でも二人しかいませんでしたよね?」

「あーそいつサボリ魔なんだよねー、結局何もしないでフラフラしてたし」

「今日も打ち上げ呼んだんだけど、気分屋だから来るかわかんねぇなぁ……」


(同じ校舎って事はクラス一緒なのかな……)


そんな事を思ってると、健君が立ち上がって大声をあげた。


 「裕也ー!! こっち!!!」


 裕也(ユウヤ)と呼ばれている人物の方を見ると、それはさっき廊下でぶつかったあの人だった。

途端、鼓動が速くなる。


(あの人裕也って言うんだ……)


「ワリィ、忘れ物取りに行ってた」

「裕也の遅刻は毎度の事だろー?」

「でも珍しいじゃん、裕也が飲み会来るなんて」

「別に、ヒマだったし」


愛想のない返事に特に健君達はツッコむ事もなく、また飲み始める。

すると突然私の横に彼が腰をかけてきた。


(ゎっ………)


打ち上げの席は人数が多かった為、ギュウギュウ詰めでみんな座っていた。

肩が触れて更に緊張が走る。


(何……何コレ…なんでこんなドキドキしてんのっ)


 自分の顔が真っ赤になっているのは見なくても分かる。

誰にも見られたくなくて俯いていると、彼がボソっとつぶやいた。



「……暑い?」


横を向くと、こちらを覗きこんでいる顔と目が合った。

余計緊張した私は、慌てて首を横に振った。

「ぇっ…ぁっだだだいぢょぶでしゅっ」







………………………………噛んだ。




最悪だ。



それを見て彼は吹き出して大声で笑った。

「でしゅって! アハハハッ!! お前面白いなー」



それを見た健君達もビックリしている。

「裕也が………声出して笑ってる……」

「明日雪だな………」


 まだ夏が終わったばっかなのに降るわけないじゃーんと酔っぱらった亜紀が爆笑している。

私は恥ずかしさのあまり亜紀を無理やり引っ張って

「あのっ! 今日はごちそうさまでしたっ!!」

と言ってその場を逃げるように去った。


 「ゆまー? ちょっとろーしたのー?」

亜紀がろれつの回らない口で引っ張られながら言っている。

「用思い出した、帰ろ」


えぇぇーっと文句を言ってる亜紀の言葉を聞かないフリして、私は小走りで亜紀の家に向かっていた。



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ヤエも誘ったけど、もちろん答えはノーだった。

「男の人のいる飲み会なんて行ったらダーリンに怒られちゃぅもぉん♪」

いつものラブラブぶりにあきれる私と亜紀だったけど

私は少なからずそんなヤエをうらやましく思っていた。


 高校1年の時に半年付き合った彼がいた。

その彼氏に浮気されてからというもの、私は彼氏を作る気を失くしていた。


(ヤな事思い出しちゃった……)


 「ゆまー? 早くしないと置いてくよー」

誰にでも打ち解けられる亜紀は、既にさっきのたこ焼き屋にいた2人とすっかり仲良くなっていて

私の前を3人並んで歩いている。


「あっごめん、ちょっと先行っててー」

教室に忘れ物をした事に気づいた私は、お店の名前だけ聞いて一人で学院に戻った。


 (えっとー………ぁっ、あった)


頭につけていたヘッドドレスを見つけた私は、夜の学院から早く出ようと足早に歩いていると

たまたま通りかかった人と廊下の曲がり角でぶつかりそうになった。


(あ……この人…)


 その人は、同じ学科の2年生で、よく見た事のある人だった。

耳にかかるくらいの少し長めのミルクティー色の髪。

一重で大きな瞳。

背はそれほど高くないけれど、バランスのとれた体型。

大きめのパーカーに大きめのダボパン。


私は何度か廊下で一人でいるのを見つけた事がある。

友達らしき人と一緒にいる姿を見た事がなかったので、少し気になっていた。





 「すません」





その声にハッと我に返り、私も慌ててお辞儀した。

「ぁっ、こちらこそごごごめんなさいっ」


私の慌てぶりを見てその人は少し笑った様な気がした。

でもすぐにその人は私の横を通り過ぎて行った。





(あたし…なんでこんなドキドキしてんだろ……)

自分の心臓の音が聞こえるんじゃないかと思うほど鼓動が早かった。



(あっ そだ飲み会!)


その心臓の音をかき消す様に私は走って学院を出た。


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――――――私が彼を好きになるのに、それ程時間はかからなかった。







 専門学生になって初めての学院祭。


高校の時とは違って、個人の催し物は何でも有りだったから

私(ゆま)と友達の亜紀(アキ)、ヤエは3人で不要な服を持ち出してフリマを出品する事になった。



 「ゆまぁー! 亜紀ぃー!」

一人遅れてきたヤエが息を切らしながら教室に入ってきた。


「おっせぇーよ!」

少し男勝りな亜紀は、そう言いながらヤエのみぞおちを殴るフリをする。

「ごめぇん、昨日彼氏家に来ててェー寝坊しちゃったぁー」

甘めの声でヤエが話す。

「お前はヤリ過ぎなんだよっ」

「亜紀の変態! そーゆー意味でなくてぇー!」


二人のいつものやり取りが心地良くて笑ってしまう。



「それにしても……ゆまそれ似合ってるねぇ……」

ヤエが関心したように私を上から下まで何度も眺める。


 私と亜紀は、趣味が合って仲良くなったってゆうのもあって

お揃いでゴスロリの格好をしていた。

もちろん亜紀はそんなフリフリなんか絶対着ねぇとか言って

真っ黒のゴス衣装を身に纏っている。



「ゆまはそーゆーフリフリ系着せたら右に出る者はいないっ」

亜紀が珍しく人を褒めている。

「なぁに? 亜紀、褒めたりして気持ち悪い……」

「気持ち悪いって何だよコラ」

「………なんかお願い事?」

「さっすがゆまちゃん! 実は昨日の課題終わってないんだー……」

「………1階にあったたこ焼き屋さんで手を打とう」

「まぁぢで! 奢る奢る! 何箱でも奢るー!」


亜紀はゆまの手を引っ張って1階に降りようとした。

「ちょ……亜紀フリマどーすんのっ」

「ヤエに任せる! 店番しといて!」

「何それぇぇー!! 亜紀ひどぉい!!」

そー叫ぶヤエを尻目に亜紀と私は階段を駆け降りる。





「ちょっと亜紀ー?そんな急がなくても」

「たこ焼きなくなったらどーすんのっ」

「学祭始まってまだ30分しか経ってないってば……」

そー言った私は、すぐに後悔した。



 「ごめんなぁー今ので売り切れになっちゃったー」

たこ焼き屋の前で客引きをしていた男の人が顔の前で手を合わせて申し訳なさそうにしている。

「えぇぇっ!? もー売り切れ!? 早すぎないですか!?」

亜紀が驚いて男の人を問い詰める。

「こんな売れると思わなくてさ、材料あんま用意してなかったんだよね……」

「はぁ!?」

「まぢでごめんてー」

男の人は亜紀に迫力負けして泣きそうになっている。



なんか………可哀想になってきた。



「亜紀もーいーって、違うの代わりでもいーからー。」

私も元々すごい食べたかったわけでもなく、たまたま通りかかった時に見つけたのを

思い出して言っただけだったので、特に執着もなかった。

「だってゆまがどーしてもってゆーからさぁ」

「あたしがいつ言ったよそんな事……」


そんな会話を聞いていたのか、たこ焼きを作っていた男の人が私達を見て言った。


「ぁっじゃあさ、お詫びって言ったらなんだけど今夜打ち上げあるから来ない? モチこっちの奢りで」

「えっ…でも」

「まぢっすか!? 行きます行きます!!」

私が間髪入れる間もなく亜紀が快諾した。


「ちょっと亜紀っ………」

私が小声で話すと

「タダで奢ってもらえるなんて最高じゃん! お言葉に甘えようよー」

なんて言いながら顔がほころんでいる。

(亜紀はタダとか弱いもんなぁ……)




こーなったら亜紀はもう話を聞かない。

仕方なく私も亜紀について打ち上げに参加する事にした。


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