ゆまから電話があった私は、電話を切った後少し気まずくなった。

雅人君がいるなら行くーなんて言ったけど本当は今、会いたくなかった。


 この前、勢いで雅人君に告白してしまった私は見事に断られたのだ。


「ごめん……亜紀ちゃんの事は好きだけど………」


雅人君に言われた言葉が何度も頭をよぎった。


「いやっべ、別にあたしが好きなだけだしっ! 謝らないでようっ」

私はなるべく笑顔でその場を乗り切った。

「今まで通り友達でいてくれればそれでいいしっ!」

「それは………亜紀ちゃんがそれでもいいなら…だけど……」

「いいに決まってるじゃーん!」



 それからそういえば雅人君に会ってない。

ゆまにも告白して振られた事を言うつもりだったけど、なかなかタイミングがつかめなかった。


 その夜、雅人君達や同じ学科の人達と飲み会があった。

なんでも、学科同士で親睦を深めるとかなんとかいう理由で、私達の学科からも何人かメンバーがいた。

午後コースの人たちが殆どで、私もゆまも同学科なのに知らない人達ばかりだった。


 「ゆまちゃーん! 亜紀ちゃーん!」

先に飲み会の場にいた健君が私達を呼んだ。

雅人君も隣でお酒を飲んでいた。


「遅くなってごめんねー」

「あれ? 健君、裕也は?」

ゆまがキョロキョロと裕也先輩を探す。

「あー今日鍋するってなってたじゃん?みんなの都合で飲み会今日になっちゃったから家で片づけしてる」

「あっじゃあ……あたし手伝ってくるねっ」

裕也先輩の家は、学校から割と近い場所にあったのでゆまはその足で裕也先輩の家に向かってしまった。



「なーんだ…ゆまちゃんいないとつまんないなぁ……」

健君が口を尖らせて文句を言う。

「健君ー? あたしじゃ役不足ー?」

私が健君を睨むと、こえーっなんて言いながら女の子がいる方へ移動した。



(う………気まずい……)



残された私と雅人君は、お互いに気まずい雰囲気を察して黙り込んでしまった。

「あ…っあたしもみんなと話してこよーっと!」

知り合いなんていないのに、私は一番遠くにいた男の子達の所へ走って行ってしまった。




顔が見れない。


あんなに近くにいたのに、今は雅人君がすごく遠くに感じる。




 「どーしたの? 元気ないじゃーん」

横にいた男の人が話しかけてきた。

聞くと同学科らしいが、午後コースの彼は毎日遅刻しているらしく、顔を合わせる事がなかったのも納得できた。


「俺、尚(ナオ)ってゆーの」

「あたしは亜紀。 午前コースだから会ったことないよねー」

「見た事あったらとっくに話かけてるし。 亜紀ちゃん俺のタイプだもん」

ニカッっと少年ぽく笑う尚君に一瞬ドキッとしてしまう。


「なぁに言ってんのー持ち上げすぎだしー」

「いやマジだって」

いきなり真剣な顔をして、本気とも冗談とも取れる尚君の発言。

今の私には、揺らがない理由なんてなかった。



 「あたしも尚くん結構タイプかもー」

お酒の勢いでついそんな事を口走る。

「うっそ! すっげー嬉しいんだけどー」

尚君もお酒が入ってるからか、私の肩に手を回して密着してくる。


いつもの私なら触んなっ!なんて言ってただろうけど、今はそんな事どうでも良かった。




 「学院の皆さーん! そろそろ2次会のカラオケ行きますよ!」

幹事の男の人が大声で言った。


「亜紀ちゃんの歌声聞きてーなー」

「あたし結構うまいよ」

「自分でゆーなっ」


そんな会話を笑って交わしながら私と尚君は、みんなに続いてカラオケBOXに向かった。


ペタしてね

 「今度の日曜日さ、どっか行かない?」

パスタ屋でパスタを食べていた私に裕也がそう言った。


「んぅ?」

パスタを口に頬張ったまま顔をあげた為に、発した声はなんとも気の抜ける声だった。

「その顔可愛いからやめて」

裕也がいつもの様に声をころして笑う。



(恥ずかしい……)



「どんだけ腹減ってんだよ」


そう言いながらも裕也は優しい笑顔を向ける。



「で、日曜空いてる?」

「あ、今週は……亜紀と遊ぶ約束してるんだ」

いつもの事だからきっと、買い物→カラオケ→ゲーセンだろうけど。


「そか。 じゃあまた誘う」

「うん……ごめんね?」


 少しの沈黙が二人を襲う。





 「あのさ」

先にそれを破ったのは裕也だった。

私が裕也を見ると、裕也は少し赤くなって言った。



「今日俺んち来ねぇ?」



あまりに唐突な言葉に私はびっくりしてしまった。


「えっ………?」

「いや、別に変な意味とかじゃなくてさ」

少し慌てた裕也は、弁解するように言葉を続けた。

「今夜、健と雅人が鍋しに家に来んだよ。 で、ゆまとゆまの友達も誘えって言われて」


そーゆー事か……。 

………って何ガッカリしてんだ!


 「あっじゃあ、亜紀に聞いてみるね」

亜紀に電話をかけて事情を話すと、亜紀は雅人君来るなら絶対行くー!と即答された。



 「OKみたい」

私が笑いながら言ったので、裕也は少し首を傾げた。

「なんで笑ってんの?」

「亜紀がね、雅人君来るなら絶対行くーとか言うから」

それを聞くと裕也の顔が一瞬曇った。

「ゆまの友達って雅人の事好きなの?」

「えっ? ……うーん…好き……まではいってないかもだけど、気にはなってると思うよ」

「そっか………」

裕也が難しい顔をしたので、私も難しい顔になる。

「雅人君てなんか………マズイの?」

「いや………そうじゃないんだけど………」

私の問いかけにしぶしぶといった感じで言葉を返した。





「あいつ………彼女いるんだよね」


ペタしてね


 結局、朝一緒にいた女の人の事は何も聞けないまま授業が始まった。


 この学院は午前コースと午後コースに分かれていて

私達は9時~の午前コースの為

授業が終わる13時になると大抵空腹になる。

今日は遅刻すると思って朝も食べてこなかったからか、余計お腹がすいていた。


 「亜紀ぃ~なんか食べ物持ってない? 飴とかー」

隣に座っている亜紀に聞いても、いい返事は返ってこなかった。

相変わらずヤエは学校をサボっている。というか多分いつもの寝坊だ。

遅刻するんだったらぁー休んだ方がいいもぉん♪

なんて言ってたなぁ……。


 あまりの空腹に気分が悪くなってきた頃、やっと授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「終わったぁー!」

早く何か食べたかったけれど、思ったより身体がだるくてすぐに動けない。

「ゆまー、お昼どっか食べに行く?」

「行きたいけど動けない……」

「なにそれ。 授業中あんなお腹すいたーって連呼してたのに」

「だってー今日は朝から色々ありすぎて…」

そんな話をしていたら後ろから誰かに呼ばれた。



「ゆまちゃん」



 振り向くとそこには、以前仲良くなってよく話していた同じクラスの人がいた。

哲次(テツジ)と言う名前で、皆からはてっちゃんと呼ばれている。

社会人を経験した後ここに入学してきたてっちゃんは、私達よりも7つ年上だった。

黒いフチのメガネをかけていて、黒髪でヒョロっとしている。

背もそれなりに高いので、一見亜紀の好みの様に思えるが亜紀は

「あー…あたしあーゆーファッションにうとい人、無理」

と以前即答していた。

身なりを整えればきっとそれなりにかっこいいはずなのに

彼は服に興味があまりない様で、髪もいつもボサボサだ。

俗に言う秋葉原にいるような感じ…と言うのは言いすぎだが、何か少しずれている感じもする。

見た目はともかく、社会人として経験があるからか話し上手なのは確か。

周りからはお兄さん的存在として一目おかれているらしい。


 「あーてっちゃん、どしたの?」


私とてっちゃんは学院祭の出し物をする際に仲良くなり、よく話していた。

けれど学院祭が終わってからはパッタリ話もしなくなっていた。


「なんか、授業中ずっとお腹すいてたみたいだから。 あげるよ」

そー言うとてっちゃんは、パンとおにぎりの入ったコンビニの袋を私に差し出した。

「えっ!? いーよっ! てっちゃんが食べるって買って来たんでしょ?」


そー言うと、てっちゃんは少し赤くなった後私の机の上に袋を置いた。

「おっ俺、みんなと飯食いに行く事になっちゃってさっ、どーしよーかと思ってたしっ」

「えっでも……」

「いーからいーからっ!好みじゃなかったら捨てていーからーっ」

てっちゃんはそう言いながら走って教室を出て行ってしまった。



 「どーしよう……コレ……」

袋に入っていたのは、私の大好きなクリームパンとツナのおにぎり。

私がいつも飲んでいるお茶まで入っている。



 「つーか………下心丸見えだし」

亜紀が溜息をついてボソっと呟いた。

「え?」

「気づいてないのアンタだけだよきっと」

亜紀が呆れたように言う。

「え? 何が?」

「はぁ……まぁいーけど」

2度目の大きな溜息を吐いた亜紀は、立ち上がって帰る支度をしだした。


「で、ゆま昼どーすんの?」

「もちろん行くってー」

「大好きなクリームパンとツナおにぎりはどーすんのよ」

「う………」

袋を見て言葉が詰まる。

「裕也先輩にでもあげたらー?」

亜紀が私の後ろを見ながらニヤニヤしている。


振り向くと教室の入り口に裕也が寄りかかって立っていた。

「せんぱ…っ」

言いかけて止めた。

(危ない……先輩って言う所だった……)


 「今度奢ってもらうからねぇ」

亜紀が耳元で喋ってから先輩おつかれっすーと言って教室を出て行った。

私も素早く帰り支度を済ませて裕也の元へ向かう。



 「これから時間ある?」

「あっはい……っじゃなくて……う、うん、大丈夫」

裕也はフッと笑ってから私が持っている袋を見た。

「飯買ったの?」

「えっ…あっぃゃ……買ったとゆーか…」





「……あいつ誰?」

「へ?」

いきなりの質問に私は間抜けな返事をした。

「それ。 ゆまに渡した奴」


見てたんだ……。


「学院祭の準備の時に話す機会があって、たまに話してた人だよ」

「たまの割にはゆまの好み知ってんじゃん、よく」

「えっ?」

「クリームパンとツナおにぎり」

そーいえば他のって私あんま食べてないかも……。

「そのお茶だっていつも飲んでんだろ」

「あ……うん、このお茶一番好きだから…」

自分の好みを裕也が知っていた事に驚きと嬉しさがこみ上げる。



「ゆまさ」


裕也が私を覗きこむ。


「あんま人に隙見せんなよ」

思わぬ顔の近さにドキっとする。



「う……うん……わ、わかった」

ほんとにわかってんのかよ、と裕也は苦笑して歩き出す。



 私も……今朝の事…確かめたい。


「ゆ………うや」


裕也は振り向いて私を見る。

「今朝………一緒にいた女の人って…」

そこまで言いかけて口ごもると、裕也は察してくれたらしい。

「あー美衣(ミイ)? 同じクラスだけど……どした?」


(呼び捨てなんだやっぱり………)


私が俯いていると裕也は私の頭の上で少し笑った。

「もしかして……妬いてんの?」

図星をつかれて一瞬ビクっとした私を、裕也は見逃さなかった。

「ゆま可愛いな」


思わぬ言葉に息が詰まる。

と同時に私のお腹の虫がグゥーと音を立てて鳴った。


「アハハハ!緊張感ねぇ奴ー」


ゲラゲラ笑われて私は恥ずかしさで頭がいっぱいになった。

「飯食いに行くかぁ」

裕也が涙目で見てきたが、私は目を逸らした。


「怒んなって。 美衣とは別になんでもないし、俺が好きなのはゆまだけだよ」


さっきとは一転して優しい声になる裕也に再び鼓動が速まる私。

意地悪をされたかと思えば急に優しくなる。 裕也はそーゆー所がズルイ。

付き合ってまだ浅いけれど、私だけどんどん好きになっていってる気がする。



「行くぞ」


裕也が私に手を差し伸べてきたので、私はコンビニの袋を鞄にしまってそれに応えた。


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