「アンタがいつまでも寝てるからね!」
目の前でハタキを上下に激しく揺らす。
要は邪魔だから出て行け、と言う事らしい。
「分かったから振るな!今出てくから……」
正直、まだ少し眠っていたかったが。
「ちょっとお待ちなさい」
と、部屋を出ようとした時、婆さんが声をかけてきた。
「何だ婆さん」
「ちょっとアンタに頼みたい事があってね」
ニヤっと口元を歪ませながら婆さんはそう言った。
「頼みたい事?」
「アンタ、エリックから仕事の依頼が無い間は暇なんだろ?だったらちょっと私の仕事の手伝いをしてもらいたくってね」
「はぁ?何で私が……」
この婆さんの仕事を手伝う?
冗談じゃない、掃除なんてごめんだ。
「エリックからも仕事を依頼していない間はアンタをこき使っても構わないって言われてるんだけどねぇ」
何を勝手に許可しているんだアイツは。
私だって自由時間は欲しいと言うのに。
「断る、私だって暇な訳じゃない。他を当たれババァ」
私は婆さんにそう告げ、そのまま廊下に出る。
そしてエレベーターの方へ向かおうとした瞬間だった。
「働かざる者、食うべからず!」
デカい声で婆さんがそう叫ぶ。
思わず振り返ってしまう。
すると婆さんは私を鋭い目付きで睨みつけていた。
「な、何だよ!」
私がそう言うなり、持っていたハタキを私の頭に投げつける。
「痛ッ!」
ゴツン、と音を立てながら見事にヒット。
思わず頭を抱え込んでしまう。
「何するんだクソババァ!」
そう怒鳴りつけながら私は顔を上げる。
するといつの間にか婆さんの顔が目の前にあった。
先程同様、鋭い目付きで睨みつけている。
「……え、えっと」
情けない声が出てしまう。
すると婆さんが私の両肩に物凄い勢いで両手を乗せてきた。
そのせいで思わず膝をガクっと床に着きそうになる。
「他の子は毎日ちゃんと学院に行ってるんだ。アンタは他の子が勉学に励んでいる間、エリックの仕事の依頼が無い時はニート同然の生活を送るつもりかい?」
「ふざけるなババァ!誰がニートだ!」
「仕事がなくてフラフラしてるのはニートってんだよ小娘!」
このババァ……強引にも程があるだろ。
しかし、ニート呼ばわりされるのは我慢ならない。
「……分かった、何を手伝えば良い?」
私がそう言うと婆さんは両肩に被さっている両手をどけ、投げつけてきたハタキを拾う。
「そうだねぇ、じゃ最上階のリフレの掃除を頼もうかねぇ~」
「そこだけで良いのか?」
「他の学生部屋はもう掃除が済んじまってるって言っただろ?」
要は残っているのは最上階だけって事か。
私は鼻で軽く笑いながらエレベーターに乗り込む。
そして最上階のボタンを押し、ドアを閉めようとした時だ――。
「ちょっと待ちな小娘」
と、あと少しで締め切られそうなドアが婆さんの手により強制的に開けられる。
「お前、本当に七十代なんだろうな!?」
「今どきの老人、この程度の事が出来なくてどうするってんだい」
いや、得意げな顔をされても困る。
この婆さんは強化手術でも受けたのか?
どこぞの仮面ヒーローの様な……。
「それよりアンタ、何も持たずにどう掃除するつもりだい」
「最上階にも清掃道具くらいはあるだろ?」
「生徒がチャンバラゴッコで使って皆壊れちまってるよ」
……ここの寮に居る生徒は正気なのか。
小さい小学生ならまだしも高校生が清掃道具でチャンバラゴッコって。
ついため息が出てしまう。
「ほら、これ使いな」
すると婆さんはモップやら雑巾やらを私に貸してくれた。
「良いかい?雑巾がけとモップがけ、蛍光灯磨き、ゴミ広い、全部こなすんだよ?」
そう私に何ども念を押す婆さん。
ここまで信用されていないと少し悲しい気持ちになる。
「分かってるよそれくらい。大丈夫だから任せておけ」
私はそう言いながらエレベーターのドアを閉じた。
エレベーターは最上階へと上がって行く。
それから数秒後。
エレベーターは最上階に到着した。
ドアが開かれエレベーターから降りようとした、その時だ。
「うわ……」
目の前の光景に思わず見とれてしまう。
何なんだこの学生寮は……。
食堂と言いリフレッシュルームと言い。
「豪華すぎるだろ……」
ここも食堂同様、かなり洋風なデザインだ。
しかもかなり広い。
ここを一人で掃除しろと言うのかあの婆さんは。
ガクっと肩を落としてしまう。
でもまぁ、良いか。
掃除は得意だしな。
「さっさと終わらせるか……」
私はそう言いながらリフレッシュルームの掃除を開始した。
/続く