※一次創作
月もなく、星だけがささめく夜。
そんな夜はいつも、あの人はぼんやりとどこかを眺めている。
毛布を肩にかけて、窓枠に肘をついて、何を発することなくただじぃと、どこかを見ている。
外に向けられた視線のありかなど、その後ろ姿しか見えない千閃にはわからない。
ただ決まって新月の夜、その人は外を見ていた。
声をかければよいのだろう。手を触れればよいのだろう。
そんなことはわかりきっていて、だけど、なにもできない。
息を吸い込んで、はく。ゆっくりと。ただそれだけしかできない。
静謐の水に満たされたその時間は、きっとあの人にとってはどうしようもなく大切なものだ。その水のなかでしか聞こえないものをあの人は聞いているのだろうと、そんなことを思う。
呼吸の音と、衣擦れの音と、そんなものに囲まれてあの人は遠くを見ている。
いつだって、目指す場所ばかりがハッキリしている人だ。まっすぐとそこだけを見ている。
それは終わりを見ている。それは望みの叶う日を見ている。
その願いをひきずり下ろしたいと願って、必死でその背を追いかけているけれど。
千の光だけがある夜は、そんなあの人の視線がちょっとだけ変わるのだ。意味もなく、決意も覚悟もなく、ただ無意味にその視線を送る。
いつだって前を向きたがるその人が。遠くを目指すその人が。座り込んで動けないでいる。
それを壊してしまえるほどの勇気は、きっと永遠にでない。
それでもいい。
この人が自分の横で、静かに息ができるのなら。
夜の中、誰にも知られないままで、ふたりでいられたら、それでいい。