いきてていいとは、だれもいってはくれなかったのに。
そんなことを思い出す。夢見心地のまま、目を瞬かせれば静かに眠る人がいた。
カーテンの隙間さえわからないような暗さの中で、夜明けさえ遠いことを知る。星はまだ輝いているだろうか。千の輝きに値する光は、ここにあるけれど。
前髪をさら、とすいてやると、いつもより数段幼い顔があった。寝顔はかつてを思い出す。一番、出会ったときの呆け顔に似ているから。
なぜこんな夜半に目が覚めてしまったのだろう。鈍い頭がちらりちらりと回想を作る。
夢を、見たような気がする。
思い出す作業の中での錯覚にも思える感覚だ。夢を見ていたとして、景色の影さえわからないのに。
しかし、起き抜けに思い出したものは決して、目覚めのときの挨拶にはなりえないだろう。口にしたら怒られてしまう。
「生きていても……」
いいんだろうか。続きはいつも、言えないまま。こんなのんきに寝こけているやつにであってから、ずっと。
腹が立ったので眉間に親指をぐりぐり押さえつけてやる。このひとがこんなところにシワを寄せるのはだいたい自分が勝手をしたときなのだけど。このひとは、いつだってこんな自分のために苦しさを握りしめている。
いきてていいよ、なんて、わざわざ誰かに告げる言葉でもなければ、聞きたい言葉でもない。実際、隣の物好きに言われもこともない。
だけど、だけどコイツは。
意地悪をしていた手をはなす。頬を撫で、首筋を確かめ、肩に触れ、腕を辿る。そうして行き着いた指を確かに握りしめる。
夜道を照らす灯のようなぬくもりが、そこにはあった。
「そんなのより、でも、確かにちゃんと、お前は」
いつだって、なによりも雄弁に、生きるための願いをくれる。
たいせつな、たいせつなしるべのひと。