※一次

 僕が君に向ける願いは、出会ったときからかわらない。

「おまえにやりたいことってのはないんかい」
「え?」
 唐突な琥空の言葉に顔をあげれば、その人はちょうど積み上がった本の塔の隙間から顔を覗かせたところだった。
 話しかけるために、ではなく、タイミングがあった、というだけだろう。先程までこの人は資料を探しては積み、積んでは探しを繰り返していた。
 僕はといえば、積み上がってしまった塔をちょっと横に避けるくらいのことしかできないでかの人がぱらぱらばっ、と資料を見聞する様を見ていたのである。
 片付けてしまったほうが楽なんだろうけど、どれが必要で不要なのかは残念ながらわからなかったのだ。調べごとでは僕はなんの役にもたたない。
 琥空はまた、ファイルに視線を戻し、パラパラと開く。気になるページがあったのか、一ヶ所で止まる。その作業を続けながら口を開いた。
「だっておまえ、ここいたって退屈だろ」
「うっ、た、確かに役にはたててない、ね……」
「そーじゃーなーくーてー」
 ぱちん、と音がした。
 そこには目元に手を当ててうなだれるかの人。
 その姿に慌てる。
 この人はさほど体が強くはない。
 強くはない、というには語弊がある。魂と肉体の結び付きの弱さゆえに、この人は肉体の限界のほうには疎い。精神は元気でも体はフラフラ、などということはよくあることだ。
 そのうえ、そこまでいって、ようやく体の方がダメだってきがつくとちょっとだけ嬉しそうにする。
 その瞬間に「ちゃんと体がある」って感じられるから、らしい。
 こちらの心臓が止まりそうなのに、止められない理由はその実感の代わりをそうそう与えられないからだ。
 限界まで体がだめにならなきゃ生きてるとわからない。そんな、この人に対していつだって思うことがある。聞いてはもらえないだろうけど。
「別にここにいなくたっていーんだぜ?夕方まで俺はこの部屋から動かねぇし?ほかに用事はないのかよ?」
「え?あるよ?」
「おい、やっぱ言うな」
「君のそばにいるってこと」
「うーん、言うなっていったのに」
「それより、体の方は大丈夫なの?さっきから眉間おさえてるけど」
「へーきもへーきだっての。おまえのせいだよ」
「んん?」
「あー、もー、好きにしとけ……」
 はーっ、と大仰についたため息と共にかの人は新しいファイルを引っ張り出した。
 もう、こちらへ向けていた意識の欠片はひとつもない。
 その横顔をみて、思う。
 無茶をしないで。
 無理をしないで。
 必死にならないで。
 静かに息をしていて。
 笑って、ほしい。
 自分を追い詰めることを平気どころか喜んでやってしまう君に僕はいつでも願ってしまう。
  聞いてはくれない。やめてはくれないと、わかっていても、祈る。

 いつか、僕が君の手を握るだけで、君が生きてるって思って、笑ってくれたらいい。

 出会って伸ばした、空にはまだ届かない。