※一次
「アイツは言ってしまえば極度の阿呆だから」
始まったのは、そんな罵倒からだった。その言葉とは裏腹な、穏やかな声。
心から誰かを想うような、愛しさを詰めた箱のようにその言葉は開けられた。
「根元を歪めて、自らを変革して、そうやって何もかもを変えてしまいながらも、アイツはアイツだった。俺は、絶対にアイツはアイツじゃなくなってしまうと疑ってかかっていたのにな」
膝の上に揃えられた手がきゅうと握りしめられる。うつむいて下がった髪、その下にどんな表情があるのかは窺いしれない。
見えない顔が、だけど見えるような気がしていたのはどうしてなのだろう。
「アイツは、どこまでも揺るぎない大地のままだった。俺が見つけてしまった道のままだった。そんな、変わらなさを与えられてどうしようもなく泣きたかった。どんな未来も捨て去りたくなるほど」
静かに、たんたんと想いは語られる。今まで見てきた道と辿ってきた景色と。それがここにある。それを語る。
「だから、俺は、アイツの手を離さない。すべての願いを忘れ、未来を捨てて、それでも俺はアイツの、千閃のそばにいたかったから」
それは、全てを捨て去ったとしても失われなかったただひとりの誰か。
その誰かが唯一自分のために祈った、道の果てに待つたいせつなひとへの夢。