※一次
「願い事があるんだ」
ぽつ、とその人は言葉をこぼす。
今まで一度も聞いたことないその声音は、今にも泣き出しそうに思えた。それなのに、甘く柔らかい。
ふ、と緩められた口元。下がった眉尻。その表情はどんな意味を持っているというのか。
「一生をかけて、叶えてほしいことがある」
その言葉に目を見開く。驚きで息が止まった。それは、つまり。
「……教えてくれるの?僕に?」
「諦めた、んだよ。諦めさせやがったんだよお前」
粗雑な言葉は、しかし、細い。ぷつ、と切れてしまいそうな糸のように紡がれていく。
華奢な指が頬に触れて、腕が首もとに回された。きゅう、とすがるような強さで抱きつかれる。
その薄い体を胸に抱き止める。この人の存在を感じている、それだけで、泣いてしまいそうだった。
「なぁ、もし、もしもよかったらだけど」
肩口に埋められた顔、くぐもった声。押さえつけられて、それでもなお落ちるのは間違いようもなく本心だと理解できる。それを聞き遂げたくて、背を丸めて必死にそばにいようとする。
「うん」
「もし、願い事、叶えてくれるんなら」
「愛を理由にいつまでもそばにいてくれよ」
懇願を、聞いた。
幸せな懇願を、聞いた。