※一次
しとしとと降り注ぐ水の粒を窓の向こうから眺める。待ち合わせには悪い天気だ。店内に人も少ない。
もっとも、待ち人がいるわけではない。今日は一人だ。部屋の中、本の山に埋もれることに飽きて、外に飛び出してきた。
客人が来る予定だったが知ったことではない。そもそも、朝突然に行くからねと言われたのだ。待っててあげる義理はなかった。
運ばれてきたときには湯気が立っていたコーヒーが、静かな黒い湖面を見せる。恐る恐る口に含めば酸化して不味くなっていた。猫舌にホットコーヒーは天敵だと今更ながらに思う。かといって、アイスを頼むには肌寒い。
ぬっとりと苦味が張り付くのをどうにか無視して飲み下していく。不快だとか、なんだとかはない。ただ飲まねば、という使命感にも似た何かでコーヒーカップを傾けている。
ご、ご、ともはや優雅さの欠片もない勢いで飲み干す。白い陶磁器のそこには半月型の黒い残り物があった。
ふー、とひとつ息をはく。すると、まるではかったかのように一番近くのガラスが鳴った。
こんこん、というノックに反射的に振り替えって悶える。
だって、逃げてきた相手がにんまり嫌な顔してこっちを見ているのだもの。