※一次

「もう一度、会いたいと思った人がいるんです」
 くるくると毛先を指で巻き取りながら彼女はいった。固くタコとなった指とふわふわした髪質がどうにもミスマッチに思える。
「あの人に会うまで、『外』があるなんて思わなくって。あの人に会って、もしかして『外』にはキレイなものがあるのかなと思ったんです」
「それは、まあ、またその人は無謀なことをそそのかしたもんで……」
「そそのかされたのですか?」
「話を聞く限り」
 そういえば彼女は少し顔をうつむかせた。ぱちり、ぱちり、ゆぅっくりとまばたきをしている。まぶたの裏には思い出した景色があるのだろう。その様子の幼さに、『あの人』とやらは無責任で無謀で無体なことをしたなと一人納得する。
 彼女が顔をあげて、首をかしげた。
「あの人、別にそそのかしていません」
「はぁ?」
「あの人は別に『外に行け』『いろんなものを見な』などとは言いませんでした」
 キッパリと言い切る様に虚を突かれる。まっすぐで、だから幼い瞳が憧れを守って輝いている。
 促されてなどいない、私の意思なのよと、そう言外に訴えるそれに吹き出しそうになった。慌てて唇を噛んだのできっと変な顔になっている。
  夢見る子供、まさにそれだ。それを否定してやろうと思うのは底意地が悪いのだろう。
「……ああなるほど?いやね、違うよ」
「何がです」
「だって」
 知らぬ存ぜぬ、夢の旅路。それだけで進んでいけることなどない。そう思いたい。でなければ。

「美しいものがある、そう思わせただけでもうそれは、人間にとっちゃあひどい誘惑なんだよ」

美しいものがあると知っているなんて、羨ましくて死んでしまいたくなるから。