トントントン・・・シャッシャッシャ
音で目覚めた ありでした。
昨夜は、おあばあさんの手のひらで眠ったのに、もうベッドの上にはおばあさんはいませんでした。
布団の隙間からは、朝日のまぶしい道ができています。
目を細め、布団から出ると、すっかり夜が明けていました。
トントントン・・・シャッシャッ
ありが窓の外に目をやると、キツツキが木をたたき、朝ごはんを食べています。
その木の横では、おばあさんがホウキで庭を掃いていました。
ホウキの掃く音を聞くと、ありは住む家々で掃き出された日のことを思い返しました。
「んーー!!今日こそは、指にかみついてホウキを作れないようにしてやるからな!!」
ありは、ドンと足を踏み鳴らすのでした。
おばあさんが掃除を終え、部屋に戻ってきました。
そして、キッチンに入ると、朝ごはんの準備を始めました。
間もなく、バターの香ばしいにおいが、ありへと届きます。
においに誘われて、ありはテーブルの上へと昇りあがりました。
食事をテーブルに運んだおばあさんは、ありに気づきました。
「おはよう。昨日はよく眠れたかい?お腹が空いただろう。さあ、召し上がれ。」
おばあさんは、コトンとありの前に小さな小さなホットケーキを置きました。
お腹がペコペコのありは、うなずくと、すぐさまホットケーキにかみつきます。
温かい食べ物を初めて口に入れたありでした。
「なんだ。うまくて うまくて仕方ない。」
あっという間に お皿は空っぽになりました。
ありの頭の上を何かが通り過ぎます。そして、ありのお皿の上に乗りました。ホットケーキでし
た。おばあさんは、自分のホットケーキを分けてあげました。
ありの胸が、きゅーっと叫びました。
昼下がりになると、今日もまた、ホウキを作る手が休みました。そして、おばあさんがウトウ
トし始めました
ありは、おばあさんの様子を伺いながら、忍び出ます。
「ドンドン!!おばあさんいますか?」
玄関で男の人の声がしました。ありは、びっくりして右に左にテーブルの上を慌てて駆け回りま
す。
「はいはい。いますよ。ちょっと待っとくれ。」
おばあさんは、パチッと目を覚まし、ゆっくりと玄関に向かいます。
そして、ドアを開けました。
「やあ。おばあさん。今日はお願いがあってきたんですよ。」
ドアの先には、この森で働く きこりが立っていました。
「そうかい。じゃあ、中にお入り。」
きこりは、うなずき帽子を手に取りながら、家に入ってきました。
テーブルの椅子に腰かけた きこりは、すぐにテーぶるの上にいる ありに気づきました。
「おばあさん。ありがいますよ。指でつぶしましょうか?」
ありに、きこりの指がせまります。
ありは、ブルブル震えて、動けなくなりました。
「ダメダメ。その子は私の家族になんだよ。」
「おっと。家族か。それは怖い思いさせてしまったね。」
きこりが指をひっこめると、慌ててありはテーブルの上に転がった枝にかくれました。
「そうだ、おばあさん。お願いというのは うちの娘が今度結婚するんですよ。幸せになれる
おばあさんのホウキをぜひ持たせたいと思っているんです。」
きこりが照れくさそうに切り出すと、おばあさんは、うなずき、微笑みました。
「よろこんで。では、できたら玄関に立てかけておくからね。」
きこりは おばあさんに深く礼をして、再び森の中に戻っていきました。
夕方になると、おばあさんのホウキを作る手が休むことが多くなりました。
「ごほごほ・・・」咳をして、苦しそうなのが ありにもわかりました。
「ばあさん。大丈夫かい?」
「ありがとう。なんだか きついから今日はもう寝ようとしようかね。」
そういうと、おばあさんは ベッドに体を横たえました。
ありは、おばあさんの手のひらに乗ってみました。
手のひらは とても熱く、燃えているようです。
「お前がいてくれるから、心強いよ。」
おばあさんは、ありに話しかけました。ありは、何と言っていいかわかりませんでした。。
「私が作ったホウキでお前のすむところをなくして悪かったと思ってるよ。少し私の話も聞いて
くれるかい?」
ありは しょっかくで「ああ いいさ」とツンツンとおばあさんの手をつつきました。
ありがとう。
ずっと昔、私が少女だった時の話だよ。うちは とても貧しくてね。いつの日か、おとうさん
が遠くの町で働くようになった。大好きだったお父さんと会えなくなり、寂しくてね。
私は誰とも遊ばなくなっていったんだよ。ただ、この森で鳥たちが自由に空を羽ばたくのをみる
のだけが楽しみだったのさ。
そんな、ある日、いつものように空を見つめていたら、ホウキに乗った魔女を見たんだよ。そし
て、私と目が合った魔女は私の方に舞い降りてきてさ。 魔女は長い鼻を私の鼻にくっつけて、大
きく目を見開て叫んだんだよ。
「さっきからみてりゃ、お前なんて顔してんだよ。まるで、ほっとけやしないよ。」
私が下を向くと、魔女は長い爪で地面の木の枝を指さした。
「どうせ、下向くならこの木の枝を拾え。ただし、どんな小さなことでも良い。うれしかった時
だけだ。そして、木の枝が集まったら、ホウキを作れ。」
そう言い残すと、魔女は行ってしまった。
そこから、私は、木の枝を集め始めた。最初はうれしことが見つからなくて、あつまらなかった木
の枝も、次第に集まるようになり、ホウキを作れるようになったんだよ。
そういうと、おばあさんは、赤くほてった顔に手をやり、静かに目を閉じるのでした。
(つづく)