夜になりました。
椅子に揺られ、編み物をしている、おばあさんが、あくびをひとつあげました。
「ふああ。眠くなってきた。さて、そろそろ眠るとしようかね。」
おばあさんは、ゆっくりと立ち上がり、ベッドへと向かいました。
ありは、テーブルの上でタオルに包まれ眠っていましたが、むくっと顔を持ち上げました。
「しめしめ。これから 眠るんだな。」ありはニヤリと笑います。
おばあさんは、ベッドに入るとありのいるテーブルをみつめました。
「ゆっくり おやすみ。」
そして、パチンとベッドの上の灯りを落としたのでした。
部屋が暗くなると、 ありはタオルの中から飛び起きました。
そして、するする シャカシャカ とテーブルを降り、あっという間に ベッドの上にたどりつま
した。
ありは、おばあさんの頭の方から、顔をそーっと、のぞきこみました。
「よーしよし。よく眠っているな。」
おばあさんは、スースーと寝息をたてて、気持ち良さそうに眠っているではありませんか。
おばあさんの指に、そーっと、そして シャカシャカと ありは登ります。
「よーし。この辺でいいだろう。ひと思いにガブッとかみついてやるか・・・」
そーれ!!
ありが、大きな口を開けた瞬間。おばあさんのもう一方の手が、ありをすくい上げました。
「あれれ。どうしたことだ!!」
ありは、手の中で行ったり来たりの繰り返し。
すぐに手は、おばあさんの目の前でとまります。
おばあさんと目があった ありは立ち止まりました。
「さみしくて眠れないのかい。さあさ、ふとんの中にお入り。」
おばあさんは、ありを抱いた手をふとんの中に入れました。
ふとんの中はいよいよ暗く、静かな夜の音がします。
ありはなつかしい気持ちになりました。
家族と過ごした土の中の巣を思い出したからです。
昔、ありはたくさんの兄弟と暮らしていました。
ありは、働くことが大好きでした。
兄弟はどんどん大きくなっていくのに、ありは小さいままでした。
兄弟はどんどん大きなものを運べるようになりましたが、ありは小さいものしか背負うことができ
ませんでした。
ありは、どんどん働くことがつまらなくなり、ついには、働くことをやめてしまいました。
そんなありに、話しかけてくれる兄弟は誰もいなくなってしまいました。
あり に、まがりや根性が生まれました。
ありは、大きなものを持っている兄弟を、とおせんぼ したり、せっかく運んできた食べ物を、
ひとり内緒で食べることもありました。
そして、ついに ありは 巣から追い出されてしまったのでした。
思い出しているうちに、あり の こころは、深く 深く沈んでいくかのようでした。
それでも、おばあさんのやわらかく、温かい手のひらは ありを包み、いつしか 夢の国へと あ
りを招き入れたのでした。
(つづく)