0.3μSVの中で生活する子どもたち~宮城県のホットスポット・丸森町を歩く | 民の声新聞

0.3μSVの中で生活する子どもたち~宮城県のホットスポット・丸森町を歩く

ガイガーカウンターの警報音が鳴る町は、福島だけではない。伊達市に隣接する宮城県丸森町も、福島原発の影響で放射線量の高い地域だ。文科省のまとめでは、町内2地点で0.3μSV/hを超える。自然豊かな町には、除染で生じた汚染土の保管先をめぐって町民の間に溝が生じていた。わが子を守ろうと奔走する母親に冷ややかな視線が浴びせられていた。そして、汚染土と〝同居〟しながら生活する子どもたち…。3.11以降、放射能汚染に翻弄され続けている丸森町を歩いた。


【故郷を捨てて避難はできない】

福島駅から阿武隈急行線で約40分。改札口もない無人駅・富野で降りると、カエルの大合唱が広がっていた。ここはまだ、福島県伊達市。線路近くの水田では、男性がコシヒカリ用の肥料を散布していた。

「線量はどのくらいだ?0.27μSV?低くねえな。原発事故が起きる前は0.04μSVだったって言うんだから、やっぱり高いわな。他の地区に比べれば、低い方だけどよ」

乾いた水田の所々に、砂をまいたような個所がある。

「ゼオライトをまいたんだよ。本当に効くんだか分からないけど、何もしないわけにはいかねえから。昨年収穫した米は、2回測ったけれどND(不検出)だったよ。でもよ、福島の米は有名になっちまったから、誰も買わなくなっちまったな」

うつむきがちにそう言って、男性は再び、肥料を散布しに歩き始めた。

水田では、繁殖期を迎えたカエルが盛んに鳴いていた。

菜の花の間を縫うように走る「あぶきゅう」を見送り、阿武隈川沿いを歩く。線量計は0.3μSVを行ったり来たり。時折、警報音が鳴る。ウグイスやカワセミの鳴き声に包まれて一時間ほど歩いたか。橋を渡り、しばらくすると宮城県丸森町に入った。大きな看板を過ぎると、警報音は鳴りっぱなしになった。「兜岩」の辺りでは、0.5μSVに達した。2時間ほど歩き続け、ようやく、国のモニタリングポストが設置されている「耕野まちづくりセンター」に着いた。モニタリングポストの値は、0.35μSVを超えていた。

センターの女性スタッフが嘆息交じりに語る。

「この辺り一帯が、高い放射線量なのは誰もが知っています。ええ、0.3μSVを超えていますよね。でもね、ここで生まれ育った人たちばかりだから、避難するというわけにもいかないんですよ。故郷は捨てられないんです。反対に、他所から移って来られた方々は皆さん、町外に避難していきました」
民の声新聞-丸森町入口
兜橋を渡り、阿武隈川沿いにしばらく歩くと

宮城県丸森町に入る。手元の線量計は0.3μSV/h

を超えた


【児童との〝同居〟が続く汚染土】

丸森町立耕野小学校は、全校児童わずか15人の小さな小学校。過疎化の波を受け、児童数は減少。今年は6年生がいない。静かな学校だが、除染が行われた昨年6月から、校庭の一角にブルーシートで覆われた汚染土が置かれたままになっている。中間貯蔵施設が決まるまでの仮置きのはずだったが、原発事故から1年以上が経過した今でもまだ、搬出先は決まっていない。

除染は東北大の協力で実施された。作業によって生じる汚染土を極力減らすため、2㌢ほどの表土から放射性セシウムを吸着させた粘土質だけを分離して取り出す方式を採用。汚染土は埋めずにポリバケツに入れられ、校庭の一角に保管されている。除染によって最高で1.0μSV/hを超えていた空間線量は0.3-0.4にまで下がったが、依然として高い値が続いている。同校では昨夏も水泳の授業は通常通り行われた。今月は、運動会が予定されている。原発事故以降も、屋外活動の制限などは無い。体育館では、運動会で披露される和太鼓の練習が行われていた。

町教委によると、国が最終処理施設を造るまでの間、汚染土を保管する中間貯蔵施設を地域に設けようと地権者らと交渉を続けているが難航。学校外に搬出できるめどは立っていないという。

「何回か説明会を開いたが、最後は『何でウチの近くにそんなものを持って来るんだ』ということになってしまう。中には地権者も区長も了承したが、近隣住民の反対で立ち消えになったケースもあった。原発事故のおかげで、無用の対立が生まれてしまっている。国がリーダーシップをとって決めてくれないから、全部しわ寄せが下に来ている。住民の間に溝ができている地域もある。今まで平和に暮らしていたのに」(町教委幹部)
町は、今年度中にも2回目の除染を実施できるよう国に働きかけているが、やはり汚染土を校庭に保管することになる。保管されている汚染土の前には児童が近づかないよう看板が立てられているが、15人の子どもたちとの〝同居〟は続いたままだ。

民の声新聞-町立耕野小学校
丸森町立耕野小学校の一角に設けられた仮置場。

昨年6月の除染作業で出た汚染土がポリバケツに

入れられ保管されている。搬出先は決まっていない

=宮城県伊具郡丸森町


【被曝のリスクより心の傷を重視】

「子どもたちにマスク着用を奨励?果たして現在の線量が本当に子どもたちにとって危険なのか。そうやって大人たちが騒ぎ立てることの方が心に傷を負わせやしませんか?。誰が子どもにマスク着用を強要するというんですか?果たしてそれが、子どもを守ることになるのでしょうか」

ある学校関係者は、いら立ちを隠せない様子で話した。

被曝、被曝と言うがダイオキシンの方がよほど危険なのではないか、なぜ放射線ばかり取り上げるんだ、とも続けた。被曝リスクは当然、下げる努力はするが、ここで生活している以上ある程度の線量はしょうがない、避難することで人生がめちゃくちゃになることもある、とも。「せめてマスクを」という筆者の言葉には終始、首を傾げた。

町教委幹部も、同様の考えを口にした。

「被曝のリスクと心のリスクを比較してみると、心のリスクの方が高いのではないかと思うんです」
小学校生活は今しかない。小学校での水泳の授業も一生に一度。「もし、被曝の恐れがあるからといって水泳の授業を行わなかったら、泳げない子どもが出てきてしまうかもしれません」
水泳の授業や給食の食材に対して、被曝を不安視する声が母親らから上がったという。

「安全と安心は違う。安心の基準も個々に異なることも承知しています。では、ある子どもだけ水泳の授業に出ない、学校給食を食べないとします。その子はいじめの対象になりますよ。何であいつだけ弁当を持ってきているんだ、と。その時、子どもが受ける心の傷はどうしますか?。そもそも、プールの水にしたって、検査を行って放射性物質が検出されていないのだから、心配は要らないのです。それを、一部の母親は『水を飲んでしまったらどうする』『雨が降ったらどうする』と騒ぎ立てる…。専門家に言わせれば、空気中の放射性物質はもう、心配しなくて良いそうじゃないですか」

この町でもまた、わが子を守ろうと必死になる母親は、奇異な存在として扱われていた。町は独自に、中学生以下の子どもたち約2000人の甲状腺検査を実施する予算を組んだが、いくら検査を行っても、日常的な被曝を回避する取り組みをしなければ、何の意味も無い。

先の学校関係者は、こうも口にした。

「丸森町の線量が高いと言うけれど、私に言わせれば都会の方がよほど汚れていて危険ですよ」

(了)