夕景 | 伴に歩んで

伴に歩んで

ガンと闘った老夫婦の人生日記です。

昨日。721号室。

 

妻の個室からは、大阪の南東部が一望できます。

 

妻が中学時代に耐寒訓練で登った金剛山。

1,200メートルある関西最高峰です。

その手前に、妻の高校がある町の大きな塔。

甲子園で有名だった学校があります。

妻は、テニスラケットを小脇に、別の進学校へバスを乗り継いで通いました。

僕は、そのバス停をよく通り、そこに妻がいるような錯覚を楽しんでいます。

そして職場の建物=病院も見えます。

僕が医療機器の営業マン、妻が技師として出会った妻の職場です。

さらに我が家のある地域。

いつも行くスーパーの灯りが見えます。

ここが、これほど遠かったとは。

 

この景色の夕暮れは、大好きなこの歌が聞こえるようでした。

 

「この町で」

 

この街で生まれ この街で育ち
この街で出会いました あなたと この街で
 この街で恋し この街で結ばれ
 この街でお母さんになりました この街で
あなたのすぐそばに いつもわたし
わたしのすぐそばに いつもあなた
この街でいつか おばあちゃんになりたい
おじいちゃんになった あなたと歩いてゆきたい
   
 

坂の上に広がる 青い空
白い雲がひとつ 浮かんでいる
あの雲を追いかけ 夢を追いかけて
喜びも悲しみも あなたと この街で

   
 

この街でいつか おばあちゃんになりたい
おじいちゃんになった あなたと歩いてゆきたい
 この街でいつか おじいちゃんになりたい
 おばあちゃんになった あなたと歩いてゆきたい
いつまでも 好きなあなたと
歩いて ゆきたい

 

 

 

「もう、治療法がないの」

午後、見まいに来てくれた友人は、妻の手を取って泣きだしました。

     

夕方、妻と二人でベッドに腰かけて、並んで日暮れを見ました。

妻の手を両手で包むと、暖かくても細い手が握り返してきました。

数分、いや数秒だったかもしれません。

でも、とっても幸せな時間でした。