「まだ先か……」


箒に乗りながら、ラグナが呟く。
空は快晴、スピードも快調だ。
そんな中、ラグナは『Alece』について考えていた。
何かが引っかかる……。
だが、その『何か』がわからない。思い出せない。
実を言うと、自分は過去の記憶がほとんど無い。
覚えているのは、『誰か大切な人が居た』という事だけ。
そんな事を繰り返し考えているうちに、目的地に到着した。


「ここが……サディークの居場所」


目の前に在るのは、巨大な要塞。
日本の中枢都市ではなく、さらに離れた島にあるこの場所に、このような建物があるとは予想外だ。
第一、こんな辺鄙な場所にこんな物を建てて、何がしたいのだろうか。


「ここで合ってるのか? ラグナ」
「ああ、ここからサディークの魔力を感じる。間違いねェよ」


レンの問いにラグナが答え、アンジェとバーナードの方に振り返る。
バーナードが剣を抜き、アンジェは戦闘態勢に入った。
それを確認し、ラグナが要塞へと入り、三人が後に続いた。
その様子をモニターで見ていたサディークは……。


「よし、エンド。牢獄から奴を出して来い。戦力にはなるはずだ」
「了解しました。で……、その後は?」
「お前に任せる。ラグナ以外は、どうしてもかまわない。この計画に必要なのは、あの男だけだからな……!!!」
「了解しました」


そう言ってエンドは姿を消した。
そして、エンドの隣に居た大柄の男がサディークに話しかける。


「サディーク様、あのバーナードとかいうガキ、殺してもいいッスか? アイツとは、ちぃと因縁があるもんで……」
「あぁ、良いぞ。行って来い」
「はっ」


大柄の男が姿を消し、一瞬でバーナード達の前へ。
不敵な笑みを浮かべ、バーナードに襲い掛かる。


「……ッ!!!」
「バーナード!?」
「お、お前は……!!!」
「久しぶりだな、バーナード・シュヴァルツゥ!!!」


男が、次々とバーナードに打撃を加えていく。
魔法は使っていないのに、すさまじい一撃だ。
そして、男の背中には大きな翼が。


「貴様……あの時の……!!!」
「ほぅ、覚えていたのか?」
「ッ!!! ラグナ! レン! アンジェリカを連れて、ここから逃げてください!!! コイツは……私が倒します!!!」
「で、でもッ!!!」


バーナードの叫びに反抗するように、アンジェも叫ぶ。
あの悪魔は強い……見ただけで、そう感じ取れた。
恐らく、アンジェの中の悪魔の血がそう感じ取ったのだろう。
アンジェ本人は、自分の半分が悪魔という事を、知らない。
だからこそ、最愛の友を殺したことを知らない。


「……バーナード、戻ってくるよな?」
「……当たり前です」


少し悩んでからバーナードが呟くのを見、アンジェの手を引っ張って駆け出した。
レンが後に続き、バーナードに「後で追いかけて来いよ」と言って、走り出す。


「……はい」


そして、戦いが始まった……。












†第十七話『愛してる』








「なんで……」
「?」
「なんで、バーナードを放って行ったの……?」


アンジェが哀しそうな顔でラグナに聞く。
何故、仲間を放って行ったのか。
何故、一緒に戦おうとしなかったのか、と。


「あの悪魔は……アイツが倒さなきゃいけねェんだよ。バーナードがさっき、テレパシーで俺に言った。『コイツは私の村を襲った悪魔の一人。だから、私が倒さなきゃならないんです』ってな」
「でも……協力すれば良いじゃん! 何で、何でバーナードを一人にしたの!?」
「……じゃあ、戻るか?」
「……」
「戻れるわけねェだろ。アイツが、お前を守ってくれ、って俺に言ったんだ。わざわざ約束破ってまで戻れねェよ」
「じゃあ……バーナードが死んでも良いの!?」
「……ッ!!!」


レンがアンジェの頬をひっぱたいた。
哀しそうな顔で。
どうして、理解できないんだ、という表情で。


「わからないのか……? バーナードは、アンジェを傷つけたくなかったんだよ! だから、アンジェを俺達に託して、一人で戦ってるんだ! それに……アンジェは、バーナードがあんな悪魔にやられるとでも思ってんのか!?」
「思って……ない」
「なら信じろ、アイツを。……な?」
「……うん」


一方その頃、バーナードは……。


「はあああああッ!!!」
「だりゃああああッ!!!」


バーナードの剣が、悪魔の拳が激しくぶつかり合い、あたりに地響きを起こす。
だが、その途端バーナードの剣が腐食し始めた。


「!?」
「なかなか効果が現れねェと思って焦ったが……やっと、か」
(コイツ……今、何をした!?)


バーナードが驚き、すぐさま剣を捨てた。
昔から使っている剣で、かなり気に入っていたのだが……最早、相棒とも呼べた剣は腐食しきっていた。
それを見てバーナードが少し考え込み、すぐさま悪魔に向き直る。


「貴様……今のは……?」
「俺がテメェに教えるとでも思ったか?」
「いえ、気になっただけなので」


静かにそういいながら、悪魔の腹を氷の剣で突き刺す。
剣が無くとも、氷で大体の物を造る事は可能だ。
だが、それ程長くは持たない。
この悪魔は、どういうわけか、自分の手で触れたものを腐食させる事ができるからだ。


「デュラン……! 私の……俺の村に人間として進入し、焼き尽くした悪魔め……!!!」


バーナードの怒りが頂点に達し、口調も、目つきも変わる。
彼は魔法で氷を出現させ、自分の体を包み込んだ。
デュランの攻撃をガードし、それから魔法を詠唱する。


(攻撃力は低いけど……弱点さえつけば!!!)
「無駄だ」


バーナードの考えをかき消すかのように、デュランの拳がバーナードの氷を貫き、彼に一撃を食らわせた。


「がっ……!!!!!」
「貴様程度の防御魔法で、俺の攻撃が防げるとでも思ったか? クズが」
「うがああああああッ!!!」


悪魔が両腕を魔法で巨大化させ、その両腕でバーナードの体を締め上げる。
バキバキと鈍い音が鳴り響き、バーナードの骨が折れていく。
デュランが笑みを浮かべ、バーナードを圧しつぶそうとした時―――


「バーナードを……放せッ!!!」
「!?」


突如、甲高い少女の叫び声が響き、デュランが壁際まで吹っ飛んでいく。
瓦礫の中から立ち上がり、デュランが目の前を見据えると……そこには、アンジェが。

「どっかで見た顔だと思ったら……アイツのガキか……」

「……アイツ?」
「いや、なんでもねェよ……。アンジェリカ=サフィーネヴィン・ジャイリーブ」
「気安く私の名前を呼ぶな!!!」


その叫びと共に、アンジェがデュランを蹴り飛ばす。
本当に、これがカオスクラスの攻撃力なのだろうか?
どちらかといえば、体術に秀でたイフリートクラスの蹴りだろう。


「ぐ……ッ!!!」
「漆黒の翼―ブラック・フェザー―!」


アンジェの叫びと共に、どこからともなく黒き羽が舞い降りる。
それは徐々に形を変え、一本の巨大な剣へと姿を変えた。


「全てを打ち滅ぼし、永遠の無を与えし剣よ……我に今、その力をッ!!!」
「そ、それは……ッ!!!」
「永遠の終焉―エンド・オブ・エタニティ―!!!」


異常なまでの爆発が巻き起こり、要塞の一部をかき消す。
圧倒的なまでの力。
アンジェとデュランの実力差は、誰が見ても明らかだった。


「ぐ……うぅ………」
「まだ生きてたのね……」
「キサ……マ………ッ!!! 何故……同族である我らを……!!!」
「……同族? 馬鹿馬鹿しい。私は……友達を、仲間を傷つけるような奴なら、例え同じ種族でも、家族でも……私がそいつを消す。ただ、それだけだよ」
「……そう………か」


デュランが消えると同時に、倒れていたバーナードが目を開けた。
そこには、悪魔と同じ翼を生やしたアンジェが。


「アンジェ……リカ……その姿は………」
「ごめん……私がスノエルを殺したって事も、何もかも全部、知ってた。けど……誰かの所為にしなくちゃ、まともな状態で居られなくて……ごめん」
「……良いですよ、貴女が理解していたのなら、それで良い。スノエルの死は、無駄じゃないはずです。だって―――」
「?」


クスッ、と笑みを浮かべ、アンジェを抱きしめる。
肋骨が何本か折れているが、そんな事は関係ない。


「―――貴女に、めぐり合えたから……」
「ちょっ、バーナード!? は、恥ずかしいからやめてよぉ……」
「愛しています、アンジェリカ」


やさしく呟き、彼は彼女の頬にキスをした。
絶対に、貴女を守る……。
その誓いを、胸に秘めて―――


                               つづく

あれから、一週間が過ぎた。
ソウ先生は死んでしまった……そのショックで、ルセアは未だに部屋にこもっているらしい。
もし、これから悪魔との戦いで誰かが目の前で死んだら……俺は、俺達は耐えられるのだろうか。
それとも、復讐の鬼と化すのか。
願わくば、俺は前者で居たい。
記憶は薄れているけれど……俺は、魔法学校に入学する少し前、何か大切なものを失ったから―――













†第十六話・ハジマリ†


「ふぁぁ……」


大きな欠伸をし、起き上がる少年。
眼前に広がるのは、いつもと同じ部屋。
一週間前のあの戦いがウソだったかのような静けさだ。
だが、ウソではない。
現に、ルセアがあれ程のショックを受けているのだから。
雪が毎日ルセアの部屋に通っているが、ドアを開けてもくれないらしい。
いったい、どうすればいいのか……。


「……ルセア、居るか?」


コンコン、と部屋をノックするが、返事が無い。
いざとなれば、窓から侵入するが……雪に止められているのでやめておいた。


「飯、置いとくぜ。今は雪、授業中だから」


そう言って、彼は部屋から離れた。
向かう先は、食堂。
今の時間だと、龍達が居るはずだ。


「居ないのかよ、ったく……アイツに借り作っとくのも嫌だから、今日は飯おごってやろうと思ったのに」


『借り』とは、昨日、ラグナの大好物である焼きソバパンを龍が買ってきてくれた事だ。
あんなバカに借りを作っては(ラグナもバカだが)、後々何を言われるかわかったもんじゃない。
それにしても……寝すぎた。
そんな事を考えつつ、寮を出て校庭へ。
いつものように焼きソバパンを口にくわえ、自販機でコーラを買ってその辺に寝転がる。
予定では確か、午後から実戦訓練のはずだ……。
しばらく寝ているとチャイムが鳴り、「やっべ」と彼が言いながら立ち上がった時……目の前に、見覚えのある人物が。
否、本来ここには存在していないはずの人物が居た。


「ソウ……先生……?」
「よう」
「……」


まだ夢の続きを見ているのか、と自分に言い聞かせ、その場を立ち去ろうとする。
だが、ソウの手はラグナの右腕をつかんだ。


(夢じゃない……? これは……現実か……?)
「あぁ、現実だ」
「!?」


心の中を見透かされた気がした。
今のソウの一言が、偶然だったのか本当に心を見透かしたのかはわからない。
だが……このままここに居ると、ヤバい。
それを、ラグナはとっさに察知し、ソウの手を振り解いて走り出した。


「遅い」


ソウのスピードは、人間とは考えられないぐらいの速さだった。
ガイアクラスは本来、スピードや攻撃ではなく『拘束魔法』と『遠距離攻撃』に特化したクラスのはず。
あっという間に自分の隣に現れたソウに向かい、殺気を込めながら言葉を放った。


「テメェ……何者だァッ!」


それと同時に、魔法を発動する。
ソウの体が炎に包まれていく。
だが、消えたような感じはしない……。
むしろ、何度も何度も何度も復活……否、再生しているような、そんな気がした。
そして炎が消え、目の前には―――


「何かしたのか?」


ソウが、何事も無かったかのように立っていた。

「……ッ!?」


目を白黒させ、目の前のソウを見つめる。
何が起こった?
いや、コイツは何をした?
今、確かに炎がコイツを燃やし尽くしたはずだ。
それなのに……何で、何で生きてやがる。


「『ある人物』の命令でな。貴様を……抹殺させてもらおうか!!!」
(ヤバイ……ッ!!!)


逃げようとしたが、ラグナの両足は太い木で拘束されていた。
足を燃やしてでも逃げなければ……そんな考えが、ラグナの頭をよぎったが、それも間に合いそうに無い。
まさに『絶体絶命』の状況……。
そこに、高らかに響く声が。


「氷盾―アイス・シールド―!」


ラグナの目の前に氷の盾が現れ、ソウの攻撃をガードした。
二人が声の聞こえた方……空を見つめると、そこには見覚えのある人物が。


「バーナード!?」
「ラグナ……でしたか? ここは私に任せてください。奴は私の追っている悪魔、『ミハイル』です。高度な幻術を操り、その幻術は如何なる者をも自分の操り人形とさせてしまう危険な悪魔……。恐らく、ソウ先生の姿はただの幻覚でしょう」
「ほぅ……俺の事を知っている奴が居たとはな。ならば、貴様も殺さねばならんな……。俺の情報を持つものは皆、死だ」


ニヤリとミハイルが笑い、二人に向かって突っ込んでくる。。
見た目はソウだが、中身は悪魔。
強さも、スピードも違う。


「で……バーナード、勝てんのか? コイツに」
「勝てますよ……。スノエルが命懸けで教えてくれた情報です、無駄にはしない!」
「え……? それってどういう……」


ラグナが質問しようとしたが、その前にミハイルが襲い掛かってきた。
幻術は、目で見なければいい。
とっさにバーナードに教えられたので、目を閉じ、全身の感覚だけでミハイルの位置を探る。


「闇穴―ダーク・ホール―!」」
「炎拳ッ!」


ミハイルの放った魔法を、ラグナが炎の拳で燃やし尽くす。
それを見て、バーナードが剣を抜き、相手を凍らせた。
そして剣を振りかぶり、ミハイルの右腕を斬り落とす。


「ぐっ……!!!」
「スキありですよ……! ラグナ、今です! 安心してください、さっきも言ったとおり、アレはただの幻! 中身は悪魔です、遠慮なく!!!」」
「了解ッ!」


ラグナがミハイルの頭上高くジャンプし、魔法を詠唱する。


「これで終わりだ! 偽ソウ先生!!!」
「……ッ!!!」
「紅蓮鳳凰弾!!!」


鳳凰を象った炎の魔弾が、ミハイルに向かって飛んでいく。
ミハイルは絶叫し、完全に消え去った……。


「ふぅ……。んで? バーナード……スノエルって確か、アンジェのダチだろ? 何でそいつがお前のために命懸けたんだ?」
「……話すと長くなりますが、よろしいですか?」
「あぁ」

ラグナが頷くと、バーナードはコホン、と咳をし、木の幹に腰掛けて話し始めた。

「全ては、スノエルが死んだ三ヶ月前にさかのぼります。あの日、私は寮に戻る途中……悪魔に襲われました。そこを助けてくれたのが、スノエルだったんです」
「ふーん……。じゃあ、何でスノエルは死んだんだ?」
「三ヶ月前のあの日から、私とスノエルは、その悪魔について調べ始めました。さっきの奴です」
「アンジェから聞いた話じゃ、スノエルはお前に酷い事言われて死んだって……」
「いいえ、違います。それは私とスノエルが計画したウソ。全ては、アンジェリカを救う為です」
「??? ますます話がわからなくなってきたんだけど」


混乱するラグナをよそに、バーナードは話を続けた。
彼は、スノエルと共にあの悪魔、ミハイルの調査を行っていたらしい。
その結果、驚きべき事実が発覚したそうだ。


「彼女は……アンジェリカの正体は、悪魔です」
「え……?」

バーナードが発した言葉に驚き、息を詰まらせる。
まさか、自分の周囲にまだ悪魔が居たなんて。
ベリアル以外にも、まだ居たなんて、知らなかった。

「……正確に言うと、アンジェリカは父親が悪魔。だから、悪魔の血を引いている。そして、彼女は……スノエルを殺したんです」
「……!!!!!!」
「ラグナ、貴方も見たはずです。バトルロワイヤルの時の、彼女の豹変した姿を」
「あぁ……。あの時は気が狂っただけかと思ってたんだけど……そんな理由が……」
「とにかく、またいつ暴走するかわかりません。最悪の場合、彼女を殺す事になってしまっても……私は、彼女を救いたいんです」
「……んじゃ、俺は部屋戻るわ。お前もがんばれよ」
「……あ、はい」


そう言ってバーナードと別れ、寮に戻った。
何やら寮が騒がしい……何があったのだろうか?
人ごみを掻き分け、寮の中へと。
そこには、血まみれになって倒れている龍が居た。


「龍!? どうしたんだよ、おい!!!」

駆け寄って、龍の体を揺さぶりながら叫ぶ。
ラグナの隣では、ルウが泣きながら龍の手当てをしている。


「ルウ……何があったんだ?」
「わかんない……。後で一緒にルセアのお見舞い行くから、ここで待ち合わせって約束してて……、ちょっと用事で遅れたから、急いでここに来たら……うわあああああ!!!」
「落ち着けって。この怪我なら、先生に診せに行ったら2日ぐらいで治るから。俺はこの辺の後片付けしてっから、お前は龍をつれてってやれ。な?」
「……うん」
「後で何かおごってやるよ」
「ありがと……」


涙を拭きながらルウが言い、彼女は龍を背負って歩いていった。
後から雪やアンジェ達が来たが、「何が起こったかはその辺の野次馬に聞いてくれ」と言って、どこかへと向かった。
こんな事をするのは、奴しか居ない。
そう、奴とは―――


「サディーク……!!! テメェ、いったい何がしてェんだよ……!!!!!」


魔法学校の敷地から少し離れた場所。
そこに、ラグナは居た。
自分の親友を傷つけたサディークを、倒すために。
サディークの居場所は、彼の魔力を感じ取れればすぐにわかる。
だから、ラグナはこの場所に来た。
魔力を感じ取るためには、できる限り高い場所の方が良いからだ。


「さて、と……」


怒りに燃える心を落ち着かせ、精神統一する。
目を閉じ、魔法学校以外の場所で魔力の大きい者が居る場所を探る。
そして……見つけた。


「……行くか」


怒りを込めて呟き、立ち上がろうとした瞬間、後ろに人の気配を感じた。
戦闘態勢に入って振り返ると、そこにはレン、バーナード、アンジェが。


「ラグナ、一人で行く気か?」
「私もついて行かせてよ! 一人より、大勢の方が楽でしょ!?」
「私も同感です。ラグナ、貴方が友達を思う気持ちは、私達と一緒です。私にも、龍の仇をとらせてください」
「……下手すりゃ死ぬぞ。ま、お前らがそう簡単にくたばる奴じゃねェって事は知ってっけどよ」
「じゃあ……」
「ついてきても良いぜ? そんだけの覚悟があるんなら、な」


そして、ラグナ達は箒に飛び乗り、日本へと向かった……。
本当なら雪を連れて行ったほうが良かったのかもしれない。
雪は日本人だから、自分達よりは日本に詳しいはずだ。
だが、サディークの居場所はわかっている。
そこさえ叩き潰せば、いいのだから―――




―――日本、某所―――

「クックッ……」
「何がおかしい? エンド」
「おかしい? だってそうでしょ……。僕達の思い通りに、ラグナ・ウィングはここへ向かっているんだから」
「余計な者までついてきているが、な」


ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべるエンドという少年の言葉に、大柄の男が付け加えた。
そして、彼らの後ろにある玉座に座っているのは……サディーク。
その後ろには、巨大な機械のようなものが見える。


「まァ、確かにな……」

そう呟いた直後、玉座のスイッチを押す。
ポチッ、という音とともに、サディークの背後の巨大な装置が起動した。


「さぁ! 『Alece』を復活させようじゃないか!!!」


             

 

                                   つづく

【第十五話・Alece】


所変わって、ギリシャ。
アンジェとバーナードは相変わらず、喧嘩を続けていた。


「ちょっと! ついてこないでくれる!?」
「何言ってるんですか? 貴女が私の前を歩いているだけでしょう」
「二人とも、落ち着けって……」
「悪魔を全部倒したからって、気を抜くな。もし、ほかに悪魔が居たらどうするんだ」
「生憎ですが、私は貴方がたと協力する気はありませんので。では」


そういって、バーナードは箒に飛び乗り、魔法学校へと帰っていった。
そんな彼を見て、アンジェが舌打ちをする。


「あの事はもう、許してあげるって言ったのに……ッ」
「あの事???」
「別に、何でもないッ」


少しイライラした口調でアンジェが言い、箒に乗ろうとした時……、ダークネスとウィン♂が、猛スピードでこちらへ近づいてきたのだ。
何やら二人ともかなりあわてている様子で、こちらへ向かってくる。


「どうかしたんですか? 先生」


二人の様子がおかしかったので、レオンが二人に聞いた。
二人は呼吸を整え、大きく深呼吸してから口を開いた。


「イギリスのバン、ウィン♀、セナトゥ、フィーリ、雪が……何者かに、消された」
「え……!?」


話を聞いたとたん、アンジェが口を大きく開き、驚きの表情でダークネスを見つめる。
その瞳からは、今にも涙が流れそうだ。


「ウソ……ですよね……?」
「……残念だが、ウソじゃないんだ」
「………」


言葉も出なくなった。
衝撃が大きすぎて。
大切な友達が消えた事が、大きすぎて。















―――だが、その悲しみをかき消すように、彼女らの目の前に一つの映像が。


「うぃーっす、アンジェ居るか~?」
「立体映像……?」
「お、居た居た。なんかさ、セナトゥ達がこっちにいきなり現れたんだけど……。んで、一応連絡しときてェんだとよ。つか、俺らボロボロなんで、雪たちに代わるわ」
「アンジェ、やっほ~」
「雪……!!! 吹っ飛ばされたんじゃ……?」
「そいつぁ、俺に説明させてもらおうか」


会話をさえぎるかのように、セナトゥが出てきた。
彼はポケットから小さなペンダントを取り出し、アンジェに見せた。


「これのお陰だよ。俺の爺ちゃんの代から受け継がれてる魔法のペンダント。これ持ってたら、どこにでもワープできるんだ。一日に三回まで、だけど」
「じゃあ、ウィン♀先生達は……」
「居っるよ~☆」
「っつーわけでよ、俺らワープで先に学校帰ってっから。アンジェ達も、早く帰って来いよな」
「わかった、すぐ帰るね」


そして、映像は途切れた。
今のはウィン♀の魔法の一つである。
ウィン♀は、風魔法以外に、こういうちょっと別の魔法を持っている。
何故こんな魔法が使えるかはなぞだが。


「じゃあ、帰ろう!」


アンジェは箒に飛び乗り、レン達に笑顔で言いながら箒を飛ばした。
目指すは、みんなが待っている魔法学校……!


―――魔法学校―――


「あ~……疲れた」


フラフラと魔法学校の寮に入っていく少年が一人。
ほかの仲間達は、食堂で夕飯を食べてくるそうだ。
まぁ、自分は腹がそんなに減ってない……というか、眠いので自分の部屋で寝る事にした。
ガチャッ、と部屋の扉を開けると……そこには、サディークが。


「よう」
「……何してんだ? 裏切り者が」
「……酷い言われ様だな」
「当たりめェだろ。仲間に魔法本気で使うなんて、何考えてんだ」
「まぁ、そんな事はどうでもいい……」
「何だと?」
「俺達の計画に、協力してくれ」
「計画?」
「『Alece復活計画』だ」
「……???」


サディークの放った言葉がわからず、首をかしげる。
だが、『Alece』という言葉……。
それだけが、頭の隅に引っかかっていた。
そして、いつの間にかサディークは消えた。


「……夢、か?」


目をゴシゴシと擦るが、やはり変化は無い。
先ほどと同じ風景、同じ部屋。
ただ一つ、頭の隅に引っかかる言葉『Alece』……。
何か、自分の中でとてつもなく大きなものだったのは微かに覚えている。
だが、それを思い出すことは……できなかった。


「寝るか……」


そう呟くと、全身の力が抜け切ったように、ベッドに倒れこんだ。


第一章 完

【第十四話・怒り】


―フランス―

少年の悲しみを表すかのように、降り注ぐ雨。
彼の双眸には、既に光など映っていないのかもしれない。
彼の中に今ある感情、それは抑えようの無い『怒り』。
敬愛する人を殺された恨みで黒く染まった少年は、フラフラと立ち上がり、魔法を詠唱した。


「ルセア!!!」


既に狂い始めてるルセアを呼び戻すかのように、雪が叫んだ。


「殺す……殺してやるよぉ……何もかも……!」


そんな彼を、友達を見て、ラグナと龍がボロボロの身体を動かす。
無論、ルウと雪もだ。
そんな彼らを見て、レイが「援護するわ!」と言う様に頷いた。


「とりあえず、龍とルウはルセアをとめてくれ! 暴走したら、何しだすかわかんねェ! 俺は……」


そういいかけたところに、悪魔が襲い掛かってきた。
残酷な笑みを浮かべ、凄まじいさっきを放ちながら。


「俺はコイツの相手をする!」
「フ、無駄だと言うのがまだわからんのか? 貴様程度の実力では、このジャック様にかなうはずが無いと!」


ジャックがラグナに『死―デス―』を放とうと構える。
それを見て、ラグナは即座にジャックの背後へと回りこんだ。
力の差はあるが、スピードでは彼ら魔法学校の生徒……とくに、体術に優れたイフリートの生徒であるラグナと龍には及ばなかった。


「レイ先生! 俺らがコイツと戦うから、援護頼むッ!!!」
「わかった!」
「いくぜええええ!!!」


ラグナと龍が、ジャックに息つく間も与えないほどのスピードで攻撃を決めていく。
少しずつだが、確実におしてきている……。
だが、遠くからルセアを抑えているルウの脳裏に、ひとつの疑問が浮かんだ。
なぜ、奴は死―デス―を使わないのか……。
その答えは、すぐに出た。


「がはっ……!」


ジャックの魔力が、無くなりかけているのだ。
『死―デス―』それはまだ、未完成の魔法。
完成していない状態で悪魔達が奪った為、一発に多量の魔力を消費する。
だが、ジャックはそれを知らなかった。
ただ、ベリアルが奪ってきた魔法を見て、使ってみようと思い、使っただけ。


「何故……だっ! 何故……この俺が………ッ!!!」


どんどん崩壊していく自分の体を見つめ、何かにすがるかのように声をだすジャック。
今の彼には、もはや戦う力など残っていないかのように見えた……が。


「死ねぇぇぇぇぇ!!!」


最後の力を振り絞り、ジャックが暴れだした。
最早理性などというものなど、とうに捨ててしまったような叫び。
そして、血まみれの拳で……目の前の二人を殴った。


(体が軋んできやがった……そろそろ決めねェと……)


フラッ、とラグナが倒れそうになるのを、龍が支えた。
彼らの背後では、雪が闇魔法を詠唱している。


「どいてください、兄上……。私が今できる事は……奴の足止めだけです」


そういうと、雪はいくつもの魔弾をジャックに向けてはなった。
ジャックは既に暴走し、自分の周囲全てに魔法を放った。


「ウアアアアアアアア!!!」


狙いなど定められてはいないが……圧倒的な破壊力を持つ光線が、ジャックの周囲に降り注いだ。
だが、その光線はいとも簡単にシヴァの防御魔法によって封じられる。


「じゃあ、私とルウちゃんは防御魔法を」
「りょーかいっ!」


ハァ、ハァ、と息を切らしながら、イフリートの二人が立ち上がる。
既に体など限界を迎えており、戦える状態ではない。
だが、まだその目は死んではいなかった。


「龍……まだいけるだろ?」
「もちろん……! まだまだ暴れたりねェ!」 
「グガ……アァ……!!」


魔力が底を尽き、スキだらけになる悪魔、ジャック。
これでトドメをささなければ……もう、コイツを倒すチャンスは来ない。


「灼熱魔法……フレア・バースト!!!」


二人が同時に魔法を詠唱し、極太の熱線を放つ。


「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


ジャックの手が、足が、体が、崩壊していく。
炎が消えると同時に、ジャックもまた、消滅した。
いつの間にか雨は止み、空は晴れていた。
勝利したのだ……たった一人の人間の、命と引き換えに……。


「……帰りましょう、ソウは教師として当たり前のことをやった。ソウは、私達の心の中で行き続ける……。ね?」


レイが、ルセアを慰めるように言い、他の四人も箒に飛び乗った。


同時刻、イギリス―――

「だらァァァァァァッ!!!」


サディークが、圧倒的な力でクロウを攻めていた。
凄まじいラッシュ……そのスピードに、フィーリやセナトゥが入るスキは無かった。
ちなみに、雪はというと……セナトゥが、ラグナ達の所へワープさせたのである。
自分達よりも、彼らといた方が安全だと考えたからだ。
だから、フランスでの戦いで、雪は居た。


(何だ……? この男の異常なまでの強さは……!)


次々と攻撃を加えられ、大量に吐血するクロウ。
力の差は一目瞭然だった。
これが、彼の本気。
Aランク悪魔など、赤子のように扱う、絶対的な力。
その力の根源は……大魔道師から、膨大な魔力を受け継いでいるからだ。
そう、彼は大魔道師の実の孫。
だからこそ、他の誰よりも、強い。


「つ、強い……」
「スゲェ……」


フィーリとセナトゥが、愕然と目の前の光景を見つめる。
異常な力、それがサディークの中を駆け巡っていた。
彼は今、記憶喪失の状態にある。
だが、その失われた記憶もまた、一撃一撃命中させる度に復活してきている。
一体、どういうことなのだろうか……?


(そうだ……俺は、こんなトコで燻ってるわけにはいかねェ。もっと、もっとだ! もっと力を……力を!)


強さへの圧倒的な執着。
それが、今の彼を動かしている。
彼がここまで力を求める理由とは、一体……?


「火拳ッ!!!」


巨大な火の拳を放ち、悪魔を一気に消し去る。
その力は、炎の神、イフリートの如く。
パキ、ポキ、と拳を鳴らし、フィーリらに振り返った。


「じゃあな、クズ共」
「え……?」


ニヤリ、とサディークが不敵な笑みを浮かべ、二人に掌を向ける。
そして魔法を詠唱した。


「サディーク……何を……!!!」
「消えろ。ビッグ・バン!」
「!!!!!」


巨大な爆発が巻き起こり、辺り一面を焼け野原へと変える。
煙が晴れた時、そこにはフィーリとセナトゥの姿は無かった……。

                                         つづく

【第十三話・ランクA悪魔、出現!】


―――フランス―――


「チッ! 多すぎだろ、この悪魔の数はよぉ!」


次々と襲い掛かってくる悪魔達を薙ぎ倒しながら、龍が叫ぶ。
だが、叫んでも仲間の返事は無い……一体何処へ行ったのだろうか?
何故、悪魔がこんなに増えたかというと……それは、三十分前にさかのぼる。


―――30分前―――


「よっしゃぁ! 悪魔共フルボッコじゃぁぁぁぁ!!!」


怒りを通り越し、もはや『バカ』としか言いようが無いくらいの大声で叫んでいる龍。
そんな彼をよそに、他のメンバー達はキョロキョロとせわしなく辺りを見回していた。
その事を全く気にも留めていないバカが一人居る。
それが、龍だ。


「なぁ、皆……悪魔の数、少なすぎねェか?」
「だよね、私も思った」
「どこかに隠れている……とか?」
「どっちにしろ、私達が行動を起こすのを待っていると思います。兄上、ここは各自二組にわかれて戦うべきでは?」
「だな。んじゃ、ルセアと雪、龍とルウ。んで、俺は一人……それで良いだろ?」
「いや、しかし兄上が……」
「安心しろ。俺が死ぬわけねェだろ?」
「で、ですが……」
「雪、早く行こ? ラグナもああ言ってるんだし、大丈夫だよ」
「じゃあ、死ぬなよ! バカラグナ!」
「誰がバカだ、誰が」


そして、彼らは散り散りになって悪魔を倒すことになった。
それが、三十分後のこの事態を引き起こしたのだ……。


「誰も反応しねェ……まぁ、死んだわけじゃねェよな……。がんばってみるかァ!」


自分に渇をいれ、魔法を詠唱する。
大地が揺れ、悪魔共を灼熱の業火が包む。


「プロミネンス・ドラゴン!」


龍が叫ぶと同時に、ドラゴンを象った炎が悪魔を数体焼き尽くす。
所詮、ランクDの悪魔……相手ではない。
ただ、こうも数が多いとかなり厄介だ。
だが龍はあきらめることなく、次々と悪魔を倒していく。
そして、あと数体となった所で……背後から何者かに吹っ飛ばされた。


「ぐあっ!」


近くの民家に激突し、フラフラと立ち上がる。
先程の悪魔達との戦闘により、結構なダメージを受けた……魔力ももう少ししかない。
こんな状況で、まさか……コイツが来るなんて。


「角の生えた……悪魔……?」
「よぉ、魔法学校の生徒だろ? じゃあ、早速……死んでもらおうか」
「……ッ!!!」


一瞬の出来事だった。
悪魔が龍の目の前から消えたと思うと、龍の体から大量に血が噴出した。
たった一撃で、これほどのダメージ。
これが、ランクA悪魔の実力なのだろうか。


「く……そ………ッ」
「弱ェな、お前。ゴミ以下だぜ?」


ペロッ、と手に付着した龍の血をなめながら、悪魔があざ笑うかのように言った……。
そして、龍以外のメンバーは何処へ行ったのだろうか……。
龍がランクA悪魔と遭遇している頃、龍と一緒に悪魔を倒すはずだったルウは……。


「ここ、どこ……?」


道に迷っていた。
彼女の周囲の悪魔の数は少なく、ランクDだらけだったので軽く倒せるレベルだ。
だが、そんな彼女の目に……信じられない、信じたくない光景が飛び込んできた。
目の前には、血まみれになって倒れている最愛の人が。
そんな彼の傍には、血で真っ赤に染まった右手を舌でなめている角の生えた悪魔が。
逃げなきゃ―――その感情で、彼女の心は一杯になった。
ルウが龍に駆け寄ろうとした瞬間……悪魔が、ルウに気づいた。


「もう一匹はっけ~ん……じゃあ、死ね」
「ルウ、逃げろ!!!」


悪魔がルウに猛スピードで接近していく。
もうダメだ……二人があきらめた、その時だった。


「炎ノ斧―フレイム・アックス―!」
「何ッ!?」


炎を纏ったかかと落としが悪魔に襲い掛かるが、あと少しのところでよけられてしまう。
悪魔が距離をとろうと、後ろに後ずさりしたが……それも無駄だった。


「シヴァイル・プラント!」


悪魔の足元から極太の木が生えてきて、悪魔を縛りあげる。
そして、それが一気に爆発し、辺りを煙が包む。
呆然とその状況を見ている龍の傍に、雪が駆け寄り、回復薬を傷口に塗った。


「少し痛いですけど、我慢してくださいね」
「……ッ!!!」
「雪!? って事は……今の二人は……」
「ナメやがって!!! 人間如きに、この俺が倒されるとでも思っていたのかァァァァ!!!」

煙が腫れると同時に、悪魔が空高く舞い上がる。
ハァ、ハァ、と息を切らしながら、五人が悪魔を見つめた。
ラグナとルセアが魔法を詠唱しはじめるのを見て、雪がルウに何かささやく。

「ルセア……何分ぐらいアイツ拘束できる?」
「一分かな……相手の力が強すぎるから、シヴァイル・プラントでもそれが限界かも……」
「一分あれば、充分! あの魔法を発動するまでの時間、なんとか持ちこたえてくれ!」
「了解!」
「あの魔法……?」
「雪! ルウ! 二人はとりあえず、龍の手当てを! その傷じゃ戦えない!」
「わ、わかった! ラグナとルセアも、気をつけてね!」
「ああ、安心しろ! 作戦通りやれば、勝てる!」


ラグナの言葉に「わかった」と返すように雪が頷き、ルウと共に龍を少し離れた場所へと運んでいった。
ルセアが再びシヴァイル・プラントを発動させ、悪魔を縛り上げる。


「チッ……!」
「僕の友達を傷つけた罪……その命で償ってもらうよ」
「この程度の拘束魔法で……ッ!!!」
「!?」


ルセアの予想は外れた。
悪魔はあっという間にルセアの拘束から脱出し、避難している雪達に襲い掛かろうとする。


「死ねえッ!」
「……ッ!!!」


悪魔が、雪を殴り飛ばし、ルウと龍に巨大な魔弾を放った。
二人が死んだ……ルセアが諦めたような顔で背後のラグナに振り返るが……そこに、彼は居なかった。


「……え?」
「死んだか……」


煙が晴れていくと共に、悪魔がニヤリ、と笑みを浮かべる。
だが、その視線の先にいたのは―――


「死なせるかよ」
「貴様……ッ!!!」


ラグナが、悪魔の攻撃を受け止めていた。
だが、あれ程巨大な魔弾を食らったのだ、かなりのダメージが入っている……。
ボタボタと大量の血を流しながらも、目の前の敵を見つめる。


「おい、龍……、戦れるか?」
「当たりめェだ!!!」
「ちょ、龍!? そんな怪我で、戦えるわけ……」
「何言ってやがる! 一人でコイツに勝てるわきゃねェだろ! そうだろ? ラグナ」
「ああ!」
「じゃ、僕が援護するよ」
「任せたぜ……ルセア」
「ルウは雪と一緒にどこかに隠れてて」
「……嫌だ」
「え?」
「私も戦う!」
「で、でも……」
「良いじゃんか、ルセア。雪も戦いたがってるぜ?」


龍の言葉を聞き、ルセアが振り返るとそこには雪が。
息を荒げてはいるが、幸い、そんなに酷い怪我ではなさそうだ。


「戦えるの……? 雪……」
「当たり前です、あの程度でやられてたら兄上の妹である資格がありませんから」
「妹って……義妹だろーが、オイ」
「いいえ、妹です」
「はいはい……」
「馴れ合いは終わったか? クズ共」
「先生達が居なくたって……テメェ一匹ぐれぇ、殺してやるよ」
「フ……人間というのは、つくづくバカな生き物だな。力の差というものもわからんのか」
「黙ってろ!」


龍が悪魔に向かって、炎を放つと同時に、ルセアが魔法を詠唱し始めた。
大地が割れ、そこから巨大なドラゴンが現れる。


「深遠の竜―ウッド・ドラゴン―!」
「スゲェ……!」


ルセアの魔法に惚れている銀髪のバカが一人居るが、それはスルーしておこう。
悪魔がドラゴンに向かって手を向けた。
そして、魔法を詠唱する。


「……!!! ヤベェ……、逃げろ!!!」
「え!?」
「死―デス―」


悪魔の掌から一筋の光線が放たれ、ドラゴンを一瞬で消滅させる。
これが、『死―デス―』。
その光に触れたものは、例えどんなに屈強な者であっても、死の苦しみを味わうことなく消えてしまう魔法。


「ウソだろ……!?」
「炎帝―フレイム・エンペラー―!」


驚きを隠せないルセアの隣で、ラグナが魔法を発動した。
これは、全身に炎を纏い、自身の能力を飛躍的に上げる魔法……。
だが、その反動も魔力の消費量も凄まじく、一日に一回が限界の魔法だ。


「お前ら、アレは絶対当たるなよ!!! 当たったら、死ぬぞ!!!」
「あぁ……今のでわかったよ、あの魔法の危険さが」
「私の防御魔法でも防げそうに無いね……」
「防御が不可能なら、攻める。そうでしょう? 兄上」


雪が確かめるようにラグナのほうを向くと、ラグナは「ああ」というように頷いた。


「さぁ、来い……クズ共!!!」
「行くぜ!」


だが、その戦いをさえぎるように空中から二人の人影が。
ガイア担任のソウと、シヴァ担任のレイだ。
ソウは、ラグナ達生徒の傷を一度見、「よくやったな、後は任せろ」と言って全員の傷を治癒した。
ルセアはまだ習得していないが、これが回復魔法である。

「さぁ、後は下がりなさい。ここは私とソウに任せて。ね?」

「……気ィつけろよ、レイ先生」


龍が不安そうにつぶやいた。
この場に居る誰よりも、目の前の悪魔の危険性を知っているのは自分だからだ。


「わかってる。生徒を残して死ぬわけ無いじゃない」
「そういう事だ。後は任せろ」
「……はい」


悔しそうに龍が返事するのを確認し、ルウが龍を運んでいった。
ラグナが雪を、ルウが龍を運び、ルセアは彼らの先導を行っていた。
そんな彼らを見、悪魔がニヤリと笑みを浮かべる。


「戦いは、頭も使わないとな!!! 死―デス―!!!」
「しまった! ルセア君、逃げて!!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」


ルセアの悲鳴が、周囲に響く。
誰もが眼を見開かせ、もう間に合わないと思った……だが、突如何者かが、ルセアを突き飛ばした。


「え……?」
「生徒を守るのは、教師の務めだ!」


ソウが、ルセアの代わりに死―デス―を食らったのだ。
みるみるうちに消えてくソウの体……。
これを食らった者は、どんな治癒魔法を持ってしても元には戻らない。
それは、レイが一番良く知っていた。
なぜなら彼女もまた、大魔道師がこの魔法を作っている過程を知っているからだ。


「ソウ……せんせ……?」


全身の力が抜けたかのようにその場にぺたん、と座り込み、ルセアが空を見上げる。
ポタ、ポタ……と雨が降ってきた。


「ヒャハハハハハハハハ!!! 四賢者の一人を倒した!!! 倒したんだぁ!!!」
「ウソだ……こんなの………ウソだああああああああああ!!!!!」


フランスの小さな村に、少年の悲しき叫びが響いた……。
だが、これで終わりではない。
悪魔はまだ、死んでは居ないのだ……。
                             つづく

【第十二話・出発】


「眠ぃ……」
「俺も……」
「私も……」


朝まで騒いでいた生徒+教師らが、眠そうにラグナの部屋から出てきた。
因みに、この後たっぷりとバンに怒られたのは言うまでも無い。
それから数時間後―――


「よし! それじゃあ出発だ! 目的地はわかってると思うが、一応確認しておくぞ。フランスが、ラグナ、ルウ、ルセア、龍、ソウ、レイ。イギリスが、サディーク、フィーリ、セナトゥ、雪、俺、ウィン♀。ギリシャが、レン、バーナード、アンジェ、レオン、ダークネス、ウィン♂だ。わかったな?」
「は~い……」


全員が声を揃えて、気だるそうに言った。
次の瞬間、バンが目の前のバカ集団を一人ずつ殴り、叩き起こした。


「ったく……魔法学校を代表していくんだから、もっとしっかりしろ! ってか、レイ達は教師だろ! もちっと真面目にやれ!」
「はいは~い……」
「んじゃ、行くぞ!」


一人だけやる気のあるバンに続き、生徒&教師軍団が箒に飛び乗った。
それぞれ、向かう所が違うので、互いに「がんばれよ」など言葉をかけ、教師らの後に続いた。
数時間あれば目的地に到着するだろう……。


「それで、悪魔のランクは?」


ルセアが、自分のすぐ前を飛んでいるソウに聞いた。
ソウは手早く自分の服のポケットから資料を取り出し、皆に見せる。


「ランクD~Cだ。それと、Bが数体。ランクAの角の生えた悪魔と牙の鋭い悪魔には近づくな、お前達じゃ勝てない」
「……チッ」
「龍、何か不満でも?」
「気に入らねェな。ランクDやCの雑魚なんて相手にしてたら、腕がなまっちまう。どーせなら、Aの奴と戦わせてくれよ」
「それは絶対に駄目だ! お前たちが、ランクAの悪魔に勝てるわけないだろう!?」
「わかんねェだろ、そんな事」
「ダメだ」


ソウが冷徹な目でにらんできたので、龍は黙り込んだ。
そんな事を言っている間に、目的地……フランスへと到着した。
彼らが降り立ったのは、とある田舎町。
それと同時に、村が一瞬にして姿を変えた。
そう、一見平穏に見えるこの村は……既に、悪魔によって占領されていたのだ。


「じゃあ、みんな。気をつけてね。角の生えた悪魔と牙の鋭い悪魔に会ったら、私かソウに言うのよ」
「りょーかーい」
「じゃあ、行ってくるね、レイ先生」
「行ってらっしゃい。私とソウは、このあたりの悪魔を倒しておくわ」
「レイ先生、気ィつけろよ……変な予感すっから」
「ありがと、ラグナ君。心配要らないから、早く行きなさい? みんな、待ってるわよ」
「……あぁ」


嫌な予感がする。
誰かが死にそうな、そんな予感が。
自分、龍、ルウ、ルセア、ソウ、レイ……。
誰かが死ぬのか?
それとも、自分たちとは別の場所……今ここに居ない奴らの誰かが?
そんな変なことを考えていると、悪魔が目の前に迫ってきた。


「ラグナ、危ない!」
「へ?」


ルセアがとっさに叫んだが、気がついたときにはもう遅い。
悪魔に顔面をつかまれ、ラグナは家を何軒か貫通させられた。
ボタボタと、血が流れ落ちる。
悪魔は勝利の笑みを浮かべたが、調子に乗り始め、更にラグナを殴り続けた。
ランクC辺りの悪魔だろうか……?
結構な強さだ。
だが、そんな攻撃は利かないとでも言ったかのように、悪魔は目の前の血まみれの少年に腕をつかまれた。
バキバキと、骨が折れる音がする。


「ったく、人が考え事してる時に不意打ちとは……ビビッてんのか? あ?」
「ギャアアアアアア!!!!!!!!!」


悪魔の悲痛な叫び声が、辺りにこだまする。
そして、ラグナは悪魔の腕を……燃やし尽くした。


「弱ェな……。命まではとらねェでおいてやるよ。とっととここから退散しな。いちいち殺すのもメンドくせぇ」


悪魔は体を震わせながら、どこかへと逃げ去っていった。
不意を突かれたからか、かなり苛立っている。
もともと、彼は正々堂々とした勝負以外は好んでいない。
というか、イフリートの生徒は皆、真剣勝負以外好まない者ばかりだ。
だからこそ、不意打ち等には人一倍キレる。


「おい、龍」
「あ?」
「ここらの悪魔、全部……ぶっ倒すぞ」
「あったりめェだ! ナメられたまま終わってられっかよ!」
「じゃあ、僕とルウで援護するよ。攻撃には向いてないし」
「龍、がんばってね!」
「おう!」


イフリート二人を戦闘に、四人は走り出した。
悪魔を倒すために……。


―――イギリス―――


「あ~……弱ェ奴ばっかで、手ごたえねェな」
「ですね……」


気絶した悪魔の山の上に座っているサディークとフィーリ。
何故かはわからないが、初対面で意気投合したようだ。
ちなみに、彼らが座っている悪魔の山の下では、雪がスヤスヤと寝息を立てている。
そんな彼らを、空高くから見つめる者が一人……。
Aランク悪魔の、クロウだ。
彼は二枚の翼を羽ばたかせ、一気にサディークらの前へと降り立った。
ズドォォン! という激しい轟音と共に、サディークらが座っていた悪魔の山が崩れ去る。
地面には巨大な穴が開き、そこからマグマが噴出した。
まさに人知を超えた戦い。
ランクD如きの悪魔とはケタ違いの実力を持つ敵が、サディークらの目の前に舞い降りた。


「ランクA悪魔、クロウか」
「ほぅ……オレの事を知っているのか」
「大体の悪魔の情報はすべて把握しています。と、いうわけでクロウ……貴方には死んでもらいますかね」
「セナトゥ! 雪をつれて逃げろ! 今のお前らの魔力じゃ、コイツとは戦えねェ!」
「わ、わかった!」

セナトゥが雪を抱っこしてその場から立ち去るのを確認し、サディークらはクロウに向き直った。


「さーて……とっとと戦ろうぜ?」
「良いだろう……ランクAの悪魔がどれほどの強さか、見せ付けてやる」


そして、戦いが始まった。
いや、「戦い」などという生ぬるいものではない……。
これは、人間と悪魔の「戦争」だ。
誰が死んでもおかしくない戦い。
それがまさに今、始まったのだ―――


―――ギリシャ―――


「アンジェ、バーナード。早く行こう」


レンが二人を呼び、ギリシャ郊外の村へと向かっていく。
フランス、イギリスとは違い、この辺りは悪魔の数が少ないようだ……。
辺りを見回し、悪魔を探す。
レンは昔から魔を感知する能力がある。
これは、彼の先祖クロス・ライトの代から受け継がれている能力らしい。
そして、先日ド派手な戦いを繰り広げたアンジェとバーナードは……。


「私、まだアンタの事許してないんだからねッ」
「わかっていますよ……、私も謝る気はありません」
「はぁ……、お前ら、いい加減にしろよ。魔法学校代表で来てるんだぞ? 俺たちは。それに、油断していると悪魔に殺されかねない……そんな状況で喧嘩していて良いのか?」


イライラしているアンジェとバーナードの二人に、レオンが淡々とした口調で話しかけた。
そんな会話を後ろから見ているダークネスとウィン♂。
彼らはあくまで『引率』という立場なので、戦いには参加しない。
というか、ギリシャの悪魔のランクからして、彼らが参加したらあっという間に終わるだけだ。
ということで、二人は生徒達の実践訓練も兼ねて、まだ未熟なこの四人を選んだのである。
フランス、イギリスは生徒も教師も強者ぞろい。
それだけ、相手の悪魔が強いということだ。


「よし! レン、アンジェリカ、バーナード、レオン! お前達四人は、ちゃんとチームワークを生かして戦うんだ! 慣れない相手だから、大変かもしれないが……これは一応、実践訓練も兼ねてある。では、行くぞ!」


というウィン♂の叫びと同時に、四人が悪魔を探しに飛んでいった。







同時刻、とある場所―――

蝋燭明かりだけの薄暗い部屋の中、正装した数人の人間が円卓を囲んで食事をしていた
年齢も性別もバラバラ……
そんな彼らに共通しているのは、『ある人物の呼びかけによって集まっている』という事だった。
物静かな雰囲気の中、大柄の男が怒鳴り声を上げた。


「遅い! まだ奴は来ないのか!!!」


そう言って、壁を殴りつける。
殴った直後、壁が腐食していき、バラバラと崩れ去った。
一種の魔法のようなものだろうか……?
怒り狂う男に、小柄な少女が宥める様に話しかけた。


「そう怒らないでよ~……ね?」
「チッ……」


この少女にはかなりの権力があるらしく、簡単に怒り狂う男を黙らせた。
そして、少し遅れて……彼らを集めた『ある人物』がやってくる。


「お、来た来た♪」
「では、はじめようか……『Alece復活計画』を!!!」

       

                                   つづく

【第11話・アンジェとバーナード、因縁の戦い】


ベリアルが魔法学校から『死―デス―』を奪って、一日が過ぎた……。
ついに今日は、バトルロイヤル開幕の日。
この日勝ち残るか負けるかで、悪魔討伐に行けるかいけないかが決まる。
恐らく生徒全員、悪魔討伐には行きたいのだろう。
教師が引率するという事もあって、皆やる気が出ている。


「よし……行くか!」


銀髪の少年―――ラグナが準備を終えてスタジアムへ向かうと、そこには既に大量の生徒が。
アンジェや龍達の姿も見える。
こんな事態になってしまったので、一回戦の敗北などは無しになったのだろう……セナトゥ達も居た。
バトルロイヤルの開始時刻は12時……、今はまだ11時だ、開始まであと一時間ある。
ベンチに座り、奪われた魔法『死―デス―』について考える事にした。


(えっと……まず、『死―デス―』って魔法は、相手を一瞬で消し去る魔法で……それが悪魔に奪われたんだよな。んで、その魔法を悪魔達から奪い返す為に、今回のバトルロイヤルが開かれたわけだ。まぁ……勝ち残る奴なんて、予想がつくけどな)


という事を考えていると、彼の隣に着物姿の可愛らしい少女がちょこん、と座った。
そう、雪だ。


「兄上、何か考え事ですか?」
「ん? あぁ、雪か……ちょっとな」
「?」
「……今朝、プリント置いてあっただろ? 部屋の前に」
「はい」
「アレについて考えてたんだよ。ベリアル……悪魔を逃がしちまったのは、俺だしな……」
「そうだったんですか……、ルセアの魔法なら、捕まえられたかもしれませんね……」
「あぁ、アイツ束縛魔法使えたんだっけ?」
「はい」
「そっか……。っと、そろそろ始まるみてェだな。んじゃ、雪、また後でな!」
「はい!」


そう言って、雪と別れた後、ラグナはスタジアムへと入場した。
昨日より圧倒的に広くなっている……これなら、生徒が何人入っても大丈夫だろう。
あまりにも広いため、サディーク達がどこに居るかサッパリわからない。
キョロキョロと辺りを見回していると、バンが拡声器を使って大声で話し出した。


「えー、今朝お前らの部屋の前に置いてあったプリントで大体の事は把握してると思うんで、これからバトルロイヤルをしてもらう。制限時間は二時間、残り五分まで生き残ってた生徒と、最後まで残っていた生徒は教師と共に悪魔討伐へ向かってもらう。では、開始!」


その声と同時に、生徒らが激しい闘いを始めた。
弱い奴はすぐに倒され、強い奴は生き残る。
まさに弱肉強食という言葉が当てはまりそうな状況だった。
ラグナは、襲い掛かってくる生徒らの攻撃を口笛を吹きながら避け、強そうな生徒を探す。
やはり、自分と本気でぶつかり合えるのは龍かサディークだろう……。
なんて事を考えていると、目の前にサディークが。


「お、ラグナ! 勝負するか?」
「ん? 良いけど……残り時間五分まで続くか?」
「……さぁ?」
「ま、いっちょやるか!」
「来い!」


そして、バカ二人の激しいぶつかり合いが始まった。
互いに一歩も引かぬ攻防戦。
実力は、全く互角だった。
どちらも炎属性の魔法を操り、体術を得意とする魔法使い。
その激しい魔法と拳のぶつかり合いで、周囲に居た生徒はあっけなく吹き飛ばされた。
そして、彼らから少し離れた場所で、因縁の対決が始まろうとしていた……。


「……アンジェリカ」
「バーナード……ッ!! あんただけは……私が………ッ!!!!!」
「おやおや、そこまで気を昂らせて……、あまり興奮しすぎると、理性を失いますよ?」
「うるさい……! スノエルの仇! ここでとらせてもらうっ!!!」
「何を言ってるのやら……、人殺しは犯罪ですよ?」
「あんたには言われたくないっ!」
「そうですか……。なら、力づくででも、止めてあげましょう。貴女の愚かしい行為を」
「黙れ、偽善者!!! あんたの体、ぶち壊してやる!!! 闇神斬殺!」


スパン、という音と共に、バーナードの背中から血が噴出した。
あまりにも一瞬の出来事……傷口には、闇の炎が宿っている。
これは、イフリートの炎魔法と、カオスの闇魔法を合体させた技……。
異空間より闇炎(ヤカ)を纏った剣を出現させ、それで相手を斬るという技だ。
魔力は、そんなに使わない。


(は、速い……ッ!!!)
「鉄壁を誇る氷属性の魔法といえど、発動する前に斬られたら意味無いでしょ?」


そう言って剣を振り回すアンジェの顔は、狂気に満ちている。
復讐に取り付かれた顔。
あの日から、彼女は心のそこから笑うという事を忘れていた。
友達の前で見せる笑顔も、『偽り』の笑顔。
そして今、彼女の心は喜びに震えている。
憎んでいた相手に一撃を加えてやった。
そして、更に次の一撃、もう一撃と、攻撃を連続で加えていく。
もっと、もっと痛めつけなくちゃ。
これぐらいで、スノエルの恨みが晴らされるもんか。
もっと、もっと、もっと―――


「ヒャハハハハハハハハハ!!!!!」


狂気に満ちた顔で、アンジェが笑い出す。
そのあまりに大きな声に、彼女の周囲に居た生徒は恐怖し、怯え始めた。
それは観戦している者も同じ。
ほとんどの者が、恐怖に体をこわばらせた。
そして、そんな彼女に反応した者が数名……。


「姉上……?」
「アンジェ……」
「アンジェ……さん………?」
「おい、ラグナ。お前のダチ、ヤバくねーか?」
「……悪ィ、サディーク。ちょっと行ってくるわ」
「……お、おう」


そう言って、ラグナはアンジェのもとへと向かった。
バーナードは血まみれになり、地面に倒れこんでいる。
それに気づいた教師らが止めに入ろうとしたが、すでに遅かった。
アンジェが、バーナードの頭向けて、刀を突き刺そうとしたのだ。
だが、その瞬間―――


「………」


ラグナがアンジェの剣を握り、へし折った。
彼は見据える、目の前の、イカレた目をした少女を。
復讐に取り込まれ、哀れな復讐者となれ果ててしまった友達を。
もう、やめろと。口に出さず、その目だけで伝える。
きっともう、言葉は届かないだろうから……。


「……ラ……グ………ナ………」
「ん?」
「ご……め………ん………」
「気にすんな。保健室連れてってやるからよ」
「うん………」


そう言って、アンジェは眠った。
ラグナはアンジェとバーナードを担ぎ上げ、保健室へと連れて行った……。
因みにその間、試合は一時中断していた。
数時間後、試合が再開した。
バカ二人(ラグナとサディーク)が最後まで接戦を繰り広げており、タイムアップまで戦いを続けていた。
その日の夜……悪魔討伐に向かうメンバーと、その場所が決定された。


目的地     メンバー
  
フランス    ラグナ・ウィング、ルウ・アフマリア、ルセア・アーウィング、音無龍、ソウ、レイ

イギリス    ザーク・G・サディーク、フィーリ・ツヴァイス、セナトゥ・エリエット、月詠雪、バン、ウィン♀

ギリシャ    レン・ライト、バーナード・シュヴァルツ、アンジェリカ・サフィーネヴィン=ジャイリーブ、レオン・グリフォード、ダークネス、ウィン♂


「ありゃ? アンジェとバーナード、参加してんの?」
「あぁ、ルウと雪が、必死に頼み込んでくるもんでな……仕方なく、だ」
「へェ~……。バンちゃん、年食ってる割には良いことするじゃん♪」
「黙ってろ、ボケ」

ガン! とバンがラグナの頭を叩きながら言った。

「痛って~! 何も叩く事無ェだろ!?」
「五月蝿い。今日はもう遅いんだ、さっさと部屋戻って寝ろ」


因みに、現在時刻3時である。
あと数時間後には、悪魔討伐の為に出発するというのに……。


「……んで? アンジェとバーナード、過去に何があったんだ? サディークも記憶喪失らしいし……」
「実はな……俺もあれから調べたんだが、どうもこの件、ベリアル以外の悪魔が関わっているらしい」
「と、いうと?」
「第二魔法学校に、ベリアル以外の悪魔が潜入してるって事だ」
「……マジ?」
「まだ推測だけどな。だが、悪魔が関係しているのは間違いない。スノエルという生徒の自殺から始まり、アンジェはおかしくなった。スノエルを振っただけのバーナードを憎み、バーナードもまた、アンジェを挑発し、自分を殺すことを促すような態度を取っていた……。そして、サディークの記憶喪失。俺は、これらの出来事全てが、悪魔に関わってると思ってる」
「……そっか。俺さ、アンジェの部屋で、アイツが第二魔法学校に居た時のアルバム見たんだよ。……なんか、家族みたいな感じだった。『家族』ってのが、どんなモンかわかんねェけど……みんな、笑ってた」
「……」
「どした? バンちゃん?」
「いや、なんでもない……」


バンはあることを考えていた。
十年前、悪魔との決戦で大魔道師と共に戦った後、ラグナを拾ったときの事を。
あの時からずっと、バンはラグナの親代わりだ。
血のつながりはなくとも、ずっと。


「んじゃ、俺そろそろ寝るわ! おやすみ、バンちゃん」
「ああ、お休み」


そう言ってバンと別れ、ラグナが自分の部屋に戻ると……何故か、明かりが点いていた。
殺気を放ち、恐る恐る扉を開けると、そこには―――


「「「「「「「「「「「「「「「「「お疲れ様!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
「……へ?」


なんと、ラグナの部屋には、明日悪魔討伐に行くメンバー(バン以外)が全員揃っていたのだ。
部屋の状況を見るからにして……マジック・グランプリの終了祝いだろう。
コーラやシャンパン、お菓子など、様々なものが置いてある。


「ってか、お前ら……なんで俺の部屋でやってんだよ」
「え? だってラグナだけ来てなかったし……」
「そうそう! ほら、お酒飲む~?」
「……未成年なんすけど」
「え~……つまんなぁ~い」
「ってか、ウィン♀先生とレイ先生、テンション高すぎでしょ」
「お兄ちゃぁ~ん……遊ぼ?」
「雪まで……お前、コーラ飲んだだろ」
「コ~ラァ~? そんなの、飲んでないよぉ~」
「ルウもかよ……」
「まぁ、ルウは俺が寝かしつけとくから、楽しんどいてくれよ!」
「ん? お、おう……」


そして、彼らは一睡もせずに騒いでいた。
もちろん、その後全員がたっぷりとバンに怒られたのは、言うまでも無い。

                    
                                                  つづく

【第十話・最終兵器と呼ばれた魔法】


「行くぜ……!」
「雑魚が……数秒で消し炭にしてやる!」


ラグナとベリアル、二人の戦いが始まった。
スタジアムから離れているこの場所では、先生はおろか、生徒にも聞こえないだろう。
ラグナにとって初めての、ランクB悪魔との対決……。
それが、彼の闘争本能を呼び覚ましていた。
激しい殴り合いを繰り広げ、校舎に少しヒビが入る。


「なかなかやるじゃねェか! もっと、俺を楽しませてみろよっ!」
「良いぜ…・・・。その余裕ぶった顔、ぶっ飛ばしてやらぁ!」


二人が同時に魔法を放ち、それが衝突して凄まじい衝撃波を生んだ。
流石に、これはスタジアムの方まで響いたらしい。
今は試合が行われている頃なので、そう何人も生徒や教師は来れないと思うが…・・・。
そんな中、ベリアルが何かを見つけた。


(ん? これは……! へへっ、今日はなんて良い日だ……、戦ってる間に、目当てのモンが見つかるとはよ)
「フレア・ナックル!」
「ぐぅっ!」


不意をつかれ、壁にめり込むベリアル。
だが、その右手に目当てのモノは握られている。
ラグナは、それが何なのか、ベリアルが何を握っているのかも知らない…・・・。


「悪ィが、これで退散させてもらうぜ? 目当てのモンは、回収したしな。あばよ、銀髪野郎」
「おい、待て!」


ベリアルを追いかけようとしたが、彼はあっという間に飛び去ってしまい、既に姿は見えていなかった。
それと同時に、バン、ソウ、レイの三人がラグナの傍に駆け寄ってきた。


「おい、何があったんだ?」
「……まさか、悪魔が?」
「とりあえず……その傷治さないとな。治癒―キュア―」


暖かい光がラグナを包み込み、傷を回復させた。
そして、ラグナは教師らに今起こっていた事を全て話した。
その話を聞いた途端、教師らの顔が曇った。
何かを考えているような、不安な顔……。


「どうしたんすか?」
「いや、まぁ……。お前しか見てないから、お前だけに言うが……ベリアルが盗んだモノは……大魔道師様が、魔界を消滅させる為に完成させようとしていた魔法の記録なんだ」
「って事は、つまり……その、世界の運命を握るかもしれないモンが、悪魔の手に渡ったと?」
「そういう事になるわね……」
「ま、まぁ、とりあえず試合見てくっから、後でもっかい聞いてもいいかな? 今の話」
「……ああ」
「じゃ、じゃあ、試合見てくるわ! また後でな、皆!」


そう言って、彼はスタジアムへと向かった。
大きな歓声が聞こえる……かなり盛り上がっているようだ。


「……ってか、何でベリアルはそんなモン盗んだんだ? 魔界を消滅させる為の魔法なんて、悪魔には意味ねェはずだしな……。いや、でも俺ら魔法使い側に置いとくより、自分達で奪って保管しといた方が良いって寸法か?」


そんな事を呟きながら歩いていると、前方不注意で誰かにぶつかってしまった。
「イテッ!」と言いながら頭を抑えながら立ち上がり、相手に「わりぃ」と謝罪する。
だが、目の前に居たのは……。


「よう、魔法学校の……ラグナ、だったか?」
「第二魔法学校のサディーク……。お前、試合見てねェのか?」
「あぁ、他の奴らは目を凝らして見てっけどな。別に、俺は他人の戦いになんて興味は無ェ。俺が興味あんのは、メチャクチャ強ェ奴と、面白そうな出来事だけだ」
「テメェ……今の俺の独り言、聞いてたろ」
「ん? あぁ、悪ィけど、聞かせてもらったぜ? 大変な事になってるみてーだな……。うし! そんじゃ、俺と協力してベリアルの野郎とっ捕まえるか?」
「は? 何で俺がテメェと?」
「いや、ついさっき気づいたんだけどさ……。俺、魔法学校来てからの記憶がサッパリ無いんだわ。んで、仲間に聞いたら変な目で見られるしよ……、だから、この状況を説明してくれそうな奴を探してたんだ。そしたら、ついでに面白そうな話聞けたしよ。ちょうど暇だし……協力させてくんねェか?」
「はぁ!? どういう事だよ、それ! まぁ、そう言われて見れば初めて会った時と雰囲気変わってるけど……」
「そうなのか? 俺は今、お前に初めて会ったばっかで……生徒の名前とか全部、選手名簿見たから」
「へェ……。そんじゃ、いっちょ探しに行くか。あのヤローを」
「おう!」


そう言って、サディークが意気込むと同時に、試合が終了したのか、スタジアムの方から歓声があがった。
試合が終わったのだろう。
これで、今日の試合は終了のはず……。
と、いう事は……。


「おーい、ラグナ~!」
「さっさと食堂行くぞ~!」
「……」
「疲れた……」


龍、アンジェ、ルウ、雪の四人が手を振りながら歩いてきた。
ルウは、龍の背中でスヤスヤと寝息を立てている。
というか既に、全員が眠そうだ。


「っと、迎えが来たみてェだな……。んじゃ、サディーク、また後でな!」
「お、おう……」


ラグナ達が食堂に到着すると、既に大勢の生徒らが夕食を食べ始めていた。
その中には、第二魔法学校の奴も……まぁ、サディークにしか用が無いので、話しかけなかったが。
とりあえずラグナは、眠そうにしている雪とルウを部屋に送った後、残ったメンバーと、ルセアを呼び、先程の事を話した。
皆は少し話がわかりづらかったようだが、とりあえずサディークの部屋に行き、彼と共に職員室へ向かった。


「失礼しまーす」
「おう、来たかー……って、何でそんなに増えてんだよ!?」
「いやぁ、だって気になるじゃないッスか」
「魔界を消し去る為だけの魔法なら、悪魔が奪っただけだろ? 魔法学校総動員で、潰しにかかりゃあ良い話じゃねェか。何でそこまで注意する必要があるんだ?」
「私も、サディークの意見に賛成。今の戦力なら、大魔道師様と、先生達+私達で、充分勝てると思う」
「僕も賛成かな。怪我治ったし、充分戦えるから」

生徒らの言葉を聞き終わり、バンが口を開き、話し始めた。

「えっと……まずお前ら、俺の説明不足で悪いと思うが……その記録書には、別の魔法も記されてたんだよ。まぁ、最終兵器として使う予定だったんだがな」
「「「「「最終兵器……?」」」」」
「その名も『死―デス―』。対象に小さな光線を当てたとたん、その対象が消滅する魔法だ。あまりにも危険すぎるから、禁術としてあの記録書と共に封印したんだが……」
「ちょ、それってヤバいんじゃ……」
「じゃあ、悪魔たちは近いうち必ず……その禁術を使い、人間界に攻めてくる、って事ですよね? バン先生」
「あぁ、そういう事だ」


アンジェの質問にバンが頷くと同時に、生徒らの顔が曇った。
ただし、バカ以外だが。
無論、バカとはラグナ、龍……サディークの事である。
まぁ、自分が興味を持った事に対しては、結構真面目に分析するのだが……。


「んで? その魔法、避けりゃぁ良いんだろ?」
「だったら簡単な話じゃねェか。攻撃避けて、悪魔がもっかいその魔法発動する前に……」
「「「叩き潰す!!!」」」


バカ三人が、声をそろえて言った。
それにあわせ、アンジェとルセアも頷く。


「よし、んじゃぁ……。マジック・グランプリで、誰がどこへ行って悪魔討伐するか、決めるか」
「へ? それって、どういう……」
「だから、マジック・グランプリの参加生徒全員でバトルロイヤルをして、生き残った奴らと、残り時間五分までに倒れなかった奴の中から俺ら教師がベストメンバーを選出し、悪魔討伐に行くってわけ。元々は、生徒同士の仲を深める為のモンだったんだが……状況が状況なだけに、変更せざるを得ない。悪魔と戦えるのは、この魔法学校に居る俺達だけなんだからな」
「なるほど……。それなら、実力のある生徒だけを簡単に選べて、悪魔討伐が楽になる、という事ですね?」
「ああ。んで、チーム戦無しだから、お前らもバラバラになって戦ってもらうぞ。強い奴と戦うか、それとも弱い奴から倒していくか。はたまた、逃げ回って制限時間がなくなるのを待つか。どんな戦法だっていい、バトルロイヤルは、スタジアムを大魔道師様に少し広くしてもらって行う。といっても、隠れる場所など無いがな。まあ、頑張ってくれ」
「りょーかーい」


と、いうラグナのだるそうな返事で、バンの話は締めくくられた。
その後、彼らは各々の部屋へ戻り、眠りについた……。
そして、この会話を聞いていた人物が二人……、先程寝かせたはずの、ルウと雪である。


「雪、聞いた? なんか面白そうな事が始まるみたいだよ! まぁ……私は、龍に助けてもらうから良いけど」
「ルウ、聞いてなかったの? バトルロイヤルだから、全員敵だよ」
「ウソ!? じゃあ……私に勝ち目、無いじゃん」
「諦めないで、私も頑張るから、ね?」
「……うん」
「それじゃぁ、おやすみ、ルウ」
「おやすみ、雪」


翌日、全生徒の部屋の扉の前に、一枚のプリントが置かれていた。
そこには、『死―デス―』が悪魔に奪われた事、バトルロイヤルの事が書いてあった……。




次回、バトルロイヤル開幕!
勝ち残るのは一体、誰なのか!?      
                                  つづく

【第九話・第三試合、ルウVSセナトゥ】


「さて……。そろそろ私の出番だね。行こうか、ダブルソード」


控え室でピンク色の髪の少女……ルウが、愛用の武器にやさしく語りかけていた。
他の仲間たちは、雪とフィーリと一緒に保健室へ向かった。
ただ一人、龍だけが観客席に居る。
その事を励みに、少女はスタジアムへと上がった。
スタジアムには、既に相手の選手が来ていた。
綺麗な顔立ちの女の子……に見えるが、男である。
名はセナトゥ。アトラスクラスの生徒だ。


「じゃあ、思いっきり行くよ!」
「ああ、来い!」


そして、試合が始まった。
セナトゥは次々と武器を作り出し、ルウに攻撃を仕掛ける……。
だが、ルウとてシヴァの生徒。防御魔法に関してはかなりの実力だ。
剣術は……中の上ぐらいだろう。
カキィィィン! と、二人の武器が激しくぶつかり合い、彼らは互いに壁際へと吹っ飛ばされた。


「なかなかやるな……!」
「セナトゥこそ……、強いよ」
「女顔だからって、ナメんなよ?」


セナトゥは魔法を詠唱し、新たな武器を作り出した。
そして、風で相手を吹き飛ばす。
これが、アトラスクラスの魔法……錬金術と、風を操る魔法である。


「出でよ、グングニル!」
「で、デカッ……!」


セナトゥの叫びと共に、巨大な槍が出現した。
これがセナトゥの最高の武器。
グングニルを構え、再び魔法を詠唱する。


「真空撃!!!」
「クッ!!!」


風を利用し、超高速でルウに襲い掛かる。
あまりの速さに、ルウは自分の周囲を氷で覆って身を守ることしかできない……。
反撃のチャンスを探してみるが、全く見つからない……、それどころではない。
次々と攻撃を仕掛けられ、もはや防ぐ事も難しくなってきた。
嫌な汗が額から流れてくる……。
それは、「恐怖」という感情。
いつ攻撃されるかわからない恐怖が、彼女の中に渦巻いている。
そして、次の瞬間……少女の右腕に、槍が突き刺さった。


「ぐっ……!」
「わ、悪ィ……。突き刺すつもりは無かったんだけどさ……」


悪気が無いにせよ、大怪我を与えてしまった為、謝罪するセナトゥ。
そんな彼の手を振り払い、ルウが即座にダブルソードでセナトゥの腹を切った。


「……ッ!!!」
「スキだらけだよ、セナトゥ」
「お互い様、か……!」
「そーゆー事。ほら、続き、戦ろ?」
「おう!」


激しい攻防が、再び始まった。
そして、その戦いを観客席から見つめる男が一人。
音無龍だ。


「ルウ……頑張れよ!!!」


その声が聞こえたかのように、ルウがコクリ、と頷いた……ように見えた。
そして、次の瞬間―――


「ぐあっ!」
「……私の勝ちだね」


ダブルソードをセナトゥの喉元へと突きたて、ニッコリと笑いながら言う。


「ああ、俺の負けだ」


悔しそうな笑みを浮かべながら答え、ルウの差し出した手を握った。
そして、大きな拍手と共に試合が終わる―――
一方その頃、魔法学校校舎に忍び込んだ悪魔、ベリアルは……。


「チッ……、広すぎて何がなんだかわかりやしねぇ……!」


自分より上の悪魔に命令され、ある物を探していた。
キョロキョロと辺りを見回していると、見覚えのある銀髪が。


「……魔法学校の生徒さんじゃねーか」
「あ゛? テメェ……この間、アンジェを襲ったヤローだな? 何しにきやがった?」
「別に? テメェみてェな雑魚に、関わってる暇は無いんでね」
「……そうかよ。けど、悪魔が学校に侵入してんのを、見逃すわけにはいかねェな」
「へェ……じゃあ、どうする、と?」
「テメェを倒して、魔法学校から追い出す!」
「良い度胸だ……、一つ聞いてやる。テメェは今迄、どれぐらいの強さの悪魔と戦った?」
「……ランクD」
「ハハッ! 最低ランクじゃねェか! なら、ランクBの俺には勝てねェなァ?」
「……うるせェな。授業の出席回数とかが足んなかっただけで、実際Bぐらい行けるっつーの」
「なら、見せてもらおうじゃんか。その実力ッ!」
(あの技は、魔力の消費がデケェからあんまり使いたくねェんだけど……。そうも言ってられねーよな……。よし! いっちょ、やるか!)
「さあ、来い!」
「ボッコボコにしてやらァ!!!」


                                                     つづく   

【第八話・第二試合、開始! そして……】


「……秘策でもあるのか?」
「ああ、あるね。お前を倒す、とっておきの技が」
「何だと?」
「瞬断走―フラッシュジャッジメント・ダッシュ―」


龍がニヤリ、と笑い、魔法を唱えると同時に高速で動き出した。
もはやレンには、龍の動きは捉えられない。
振りの大きい大剣では、よほどの力が無い限り、今の龍の動きについていく事は不可能だろう。
そして、次の瞬間……レンの背後に、龍が現れた。
両手をレンの背中に押し付け、魔法を唱える。


「フレア・ブラスター!」
「がああああああああああっ!!!」


レンが悲鳴を上げながらその場に倒れこんだ。
直撃……既に気絶しているだろう。
いくら防御力の高いシヴァといえど、ガードのできない状況、そして超至近距離での魔法を食らえば、ひとたまりも無い。
それと同時に試合が終了し、龍は控え室へと戻った。
因みに、レンは担架で保健室へ運ばれたらしい。


―――控え室


「龍~! お疲れ様~っ!!!」
「うぃーす」


龍が控え室へ入ると同時に、ルウが飛びついた。
試合が終わってすぐ、控え室へと駆けつけていたのだ。
傷は既にガイア担任兼保険医のソウに回復させてもらったらしい。


「ねぇ、龍。さっきのあの技……、何?」
「ああ、アレか? アレはだな……」
「イフリートの生徒全員が一番初めに教えてもらう魔法。瞬間的な判断力……まあ、反射神経みたいなもんだ。それとスピードを上昇させる魔法だよ」
「へぇ……。じゃあ、兄上も使えるんですね」
「マジで!? ラグナ、見せてよ!」
「……断る」
「何で?」
「……だるぃから」


そう言うと、ラグナはいびきをかいて眠ってしまった。
その直後、校長のアナウンスが。


「これより、一回戦第二試合を始める! 生徒は、スタジアムへ!」


そのアナウンスが響くと同時に、ルウが話を切り出した。


「で……誰が行く? 私、行こうか?」
「ここは私が行きます」
「雪、がむば~」
「うん、待っててね、アンジェ」


雪がアンジェの頬にキスをし、部屋を出て行った。


「雪とアンジェって……、そんな関係だったのか」
「違うから。次言ったら殺すよ?」
「……サーセン」
(アンジェさん怖っ……!)


―――スタジアム


「……フィーリさんですか、私の相手は」
「よろしくお願いします、雪」
「はい、よろしくです」


妙ににこやかな表情を浮かべている二人。
それもそのはず……、この二人は、クラスは違えど、普段から仲が良いのだ。


「さて、容赦はしませんよ? 雪」
「わかってます」


そして、試合が始まった……。
開始と同時に、フィーリが八本の刀を抜き、器用に操りながら雪へと斬りかかる。
雪は自分の小さな体を上手く使い、その攻撃を回避していった。


「闇ノ波動―ダーク・ショック―!」
「アイス・ウォールッ!」


雪がフィーリの不意を突いて放った攻撃も、シヴァ特有の防御魔法によって防がれてしまった。
フィーリは高く飛び上がり、刀を何本か雪目掛けて投げた。


「クッ……!」


一本の刀が肩へと突き刺さり、苦痛に顔をゆがめる雪。
そして、次の瞬間―――フィーリが、雪の背中を斬りさいた。


「……安心してください。死にはしませんから」
「……闇ノ球―ダーク・ボール―」
「えっ!?」


フィーリが雪を倒したと思い込み、背中を向けたその瞬間……。
黒球が、フィーリに直撃した。


「痛ぁ~……っ!」
「……フィーリさん、私はまだ『参った』なんて一言も言ってませんが?」
「……流石」


ニヤリ、と不気味な笑みを浮かべ、フィーリが再び雪に斬りかかった。
フィーリの刀と、雪の魔法が激突し、激しい爆発が巻き起こる。
何故爆発したのか……それは、フィーリの刀の刀身に、魔力が流れているからだ。


「流石フィーリさん……油断はできませんね」
「そろそろ、貴女は限界が来てるんでしょう? 少し息が荒いですよ」
「……ッ!!!」


雪の最大の弱点―――それは、体力の少なさだった。
魔法より、剣術を鍛えてるフィーリはかなりタフだが、自分の魔法でもフラつきそうになる雪は……もう限界がきてもおかしくない状態だった。


「一気に決めます。この一撃で……! 分身の斬撃―ミラージュ・スラッシュ―!」
「きゃあああああっ!!!」


大量の分身が現れ、それらが次々と雪の体を切り裂いた。
血まみれになって、その場に倒れこむ雪。
試合は……終了した。
もちろん、雪は死んでいるわけではない。
フィーリは、雪の体力がつきかけていることを知り、かすり傷程度で済むようにしたのだ。
よって、雪が倒れたのはフィーリの攻撃ではなく、単なる体力切れ。
まあ、それでもフィーリの勝ちには変わらないが……。


「大丈夫です、私が保健室まで連れて行きますから……」


少しバテているフィーリが雪を担ぎ、保健室へと向かっていった。
それと同じ頃、魔法学校校舎上空に、黒いシルエットが。


「……こちらベリアル。魔法学校上空に到着したぜ」
「……よし、命令どおり、校舎内から例の物を手に入れて来い、いいな」
「りょーかい……!」


ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべ、ベリアルは魔法学校校舎内へと舞い降りていった……。
そのことを、生徒らは誰も知らなかった……。


                                        つづく