「まだ先か……」
箒に乗りながら、ラグナが呟く。
空は快晴、スピードも快調だ。
そんな中、ラグナは『Alece』について考えていた。
何かが引っかかる……。
だが、その『何か』がわからない。思い出せない。
実を言うと、自分は過去の記憶がほとんど無い。
覚えているのは、『誰か大切な人が居た』という事だけ。
そんな事を繰り返し考えているうちに、目的地に到着した。
「ここが……サディークの居場所」
目の前に在るのは、巨大な要塞。
日本の中枢都市ではなく、さらに離れた島にあるこの場所に、このような建物があるとは予想外だ。
第一、こんな辺鄙な場所にこんな物を建てて、何がしたいのだろうか。
「ここで合ってるのか? ラグナ」
「ああ、ここからサディークの魔力を感じる。間違いねェよ」
レンの問いにラグナが答え、アンジェとバーナードの方に振り返る。
バーナードが剣を抜き、アンジェは戦闘態勢に入った。
それを確認し、ラグナが要塞へと入り、三人が後に続いた。
その様子をモニターで見ていたサディークは……。
「よし、エンド。牢獄から奴を出して来い。戦力にはなるはずだ」
「了解しました。で……、その後は?」
「お前に任せる。ラグナ以外は、どうしてもかまわない。この計画に必要なのは、あの男だけだからな……!!!」
「了解しました」
そう言ってエンドは姿を消した。
そして、エンドの隣に居た大柄の男がサディークに話しかける。
「サディーク様、あのバーナードとかいうガキ、殺してもいいッスか? アイツとは、ちぃと因縁があるもんで……」
「あぁ、良いぞ。行って来い」
「はっ」
大柄の男が姿を消し、一瞬でバーナード達の前へ。
不敵な笑みを浮かべ、バーナードに襲い掛かる。
「……ッ!!!」
「バーナード!?」
「お、お前は……!!!」
「久しぶりだな、バーナード・シュヴァルツゥ!!!」
男が、次々とバーナードに打撃を加えていく。
魔法は使っていないのに、すさまじい一撃だ。
そして、男の背中には大きな翼が。
「貴様……あの時の……!!!」
「ほぅ、覚えていたのか?」
「ッ!!! ラグナ! レン! アンジェリカを連れて、ここから逃げてください!!! コイツは……私が倒します!!!」
「で、でもッ!!!」
バーナードの叫びに反抗するように、アンジェも叫ぶ。
あの悪魔は強い……見ただけで、そう感じ取れた。
恐らく、アンジェの中の悪魔の血がそう感じ取ったのだろう。
アンジェ本人は、自分の半分が悪魔という事を、知らない。
だからこそ、最愛の友を殺したことを知らない。
「……バーナード、戻ってくるよな?」
「……当たり前です」
少し悩んでからバーナードが呟くのを見、アンジェの手を引っ張って駆け出した。
レンが後に続き、バーナードに「後で追いかけて来いよ」と言って、走り出す。
「……はい」
そして、戦いが始まった……。
†第十七話『愛してる』
「なんで……」
「?」
「なんで、バーナードを放って行ったの……?」
アンジェが哀しそうな顔でラグナに聞く。
何故、仲間を放って行ったのか。
何故、一緒に戦おうとしなかったのか、と。
「あの悪魔は……アイツが倒さなきゃいけねェんだよ。バーナードがさっき、テレパシーで俺に言った。『コイツは私の村を襲った悪魔の一人。だから、私が倒さなきゃならないんです』ってな」
「でも……協力すれば良いじゃん! 何で、何でバーナードを一人にしたの!?」
「……じゃあ、戻るか?」
「……」
「戻れるわけねェだろ。アイツが、お前を守ってくれ、って俺に言ったんだ。わざわざ約束破ってまで戻れねェよ」
「じゃあ……バーナードが死んでも良いの!?」
「……ッ!!!」
レンがアンジェの頬をひっぱたいた。
哀しそうな顔で。
どうして、理解できないんだ、という表情で。
「わからないのか……? バーナードは、アンジェを傷つけたくなかったんだよ! だから、アンジェを俺達に託して、一人で戦ってるんだ! それに……アンジェは、バーナードがあんな悪魔にやられるとでも思ってんのか!?」
「思って……ない」
「なら信じろ、アイツを。……な?」
「……うん」
一方その頃、バーナードは……。
「はあああああッ!!!」
「だりゃああああッ!!!」
バーナードの剣が、悪魔の拳が激しくぶつかり合い、あたりに地響きを起こす。
だが、その途端バーナードの剣が腐食し始めた。
「!?」
「なかなか効果が現れねェと思って焦ったが……やっと、か」
(コイツ……今、何をした!?)
バーナードが驚き、すぐさま剣を捨てた。
昔から使っている剣で、かなり気に入っていたのだが……最早、相棒とも呼べた剣は腐食しきっていた。
それを見てバーナードが少し考え込み、すぐさま悪魔に向き直る。
「貴様……今のは……?」
「俺がテメェに教えるとでも思ったか?」
「いえ、気になっただけなので」
静かにそういいながら、悪魔の腹を氷の剣で突き刺す。
剣が無くとも、氷で大体の物を造る事は可能だ。
だが、それ程長くは持たない。
この悪魔は、どういうわけか、自分の手で触れたものを腐食させる事ができるからだ。
「デュラン……! 私の……俺の村に人間として進入し、焼き尽くした悪魔め……!!!」
バーナードの怒りが頂点に達し、口調も、目つきも変わる。
彼は魔法で氷を出現させ、自分の体を包み込んだ。
デュランの攻撃をガードし、それから魔法を詠唱する。
(攻撃力は低いけど……弱点さえつけば!!!)
「無駄だ」
バーナードの考えをかき消すかのように、デュランの拳がバーナードの氷を貫き、彼に一撃を食らわせた。
「がっ……!!!!!」
「貴様程度の防御魔法で、俺の攻撃が防げるとでも思ったか? クズが」
「うがああああああッ!!!」
悪魔が両腕を魔法で巨大化させ、その両腕でバーナードの体を締め上げる。
バキバキと鈍い音が鳴り響き、バーナードの骨が折れていく。
デュランが笑みを浮かべ、バーナードを圧しつぶそうとした時―――
「バーナードを……放せッ!!!」
「!?」
突如、甲高い少女の叫び声が響き、デュランが壁際まで吹っ飛んでいく。
瓦礫の中から立ち上がり、デュランが目の前を見据えると……そこには、アンジェが。
「どっかで見た顔だと思ったら……アイツのガキか……」
「……アイツ?」
「いや、なんでもねェよ……。アンジェリカ=サフィーネヴィン・ジャイリーブ」
「気安く私の名前を呼ぶな!!!」
その叫びと共に、アンジェがデュランを蹴り飛ばす。
本当に、これがカオスクラスの攻撃力なのだろうか?
どちらかといえば、体術に秀でたイフリートクラスの蹴りだろう。
「ぐ……ッ!!!」
「漆黒の翼―ブラック・フェザー―!」
アンジェの叫びと共に、どこからともなく黒き羽が舞い降りる。
それは徐々に形を変え、一本の巨大な剣へと姿を変えた。
「全てを打ち滅ぼし、永遠の無を与えし剣よ……我に今、その力をッ!!!」
「そ、それは……ッ!!!」
「永遠の終焉―エンド・オブ・エタニティ―!!!」
異常なまでの爆発が巻き起こり、要塞の一部をかき消す。
圧倒的なまでの力。
アンジェとデュランの実力差は、誰が見ても明らかだった。
「ぐ……うぅ………」
「まだ生きてたのね……」
「キサ……マ………ッ!!! 何故……同族である我らを……!!!」
「……同族? 馬鹿馬鹿しい。私は……友達を、仲間を傷つけるような奴なら、例え同じ種族でも、家族でも……私がそいつを消す。ただ、それだけだよ」
「……そう………か」
デュランが消えると同時に、倒れていたバーナードが目を開けた。
そこには、悪魔と同じ翼を生やしたアンジェが。
「アンジェ……リカ……その姿は………」
「ごめん……私がスノエルを殺したって事も、何もかも全部、知ってた。けど……誰かの所為にしなくちゃ、まともな状態で居られなくて……ごめん」
「……良いですよ、貴女が理解していたのなら、それで良い。スノエルの死は、無駄じゃないはずです。だって―――」
「?」
クスッ、と笑みを浮かべ、アンジェを抱きしめる。
肋骨が何本か折れているが、そんな事は関係ない。
「―――貴女に、めぐり合えたから……」
「ちょっ、バーナード!? は、恥ずかしいからやめてよぉ……」
「愛しています、アンジェリカ」
やさしく呟き、彼は彼女の頬にキスをした。
絶対に、貴女を守る……。
その誓いを、胸に秘めて―――
つづく