[本]
「百年文庫(2):絆」(2010年ポプラ社155p)
※第1巻は2011/10/5に読んだ。10年前かよというツッコミはなしで。
海音寺潮五郎「善助と万介」(1958)
コナン・ドイル「五十年後」(John Huxxford's Hiatus By Sir Arthur Ignatius Conan Doylel1890)
山本周五郎「山椿」(1948)
の3篇を収める。
長い歳月を経ても、人と人の繋がりが失われることはないという共通の筋立てを持つ。
ふだん時代小説を毛嫌いしているので、海音寺&山本は「日本文学100年の名作」シリーズに続けて触れる良い機会。山本周五郎の作品は「その木戸を通って」にも感心したが、本作もあたたかな読後感で、人気があるわけだ。
コナン・ドイルの「五十年後」、女と結婚を約して海外へ出稼ぎに行った男が現地で記憶を失い、別の名前で別の人生を送った五十年後に、ようやく全てを思い出して故郷へ帰ると、視力を失い死の床にあった老女は男をいまだ待ち続けていた……という、「その木戸を通って」の逆バージョンな、堂々たるメロドラマ。「シャーロック・ホームズ」だけの人じゃなかった。
(2021/01/12 記)
「百年文庫(3): 畳」(2010年ポプラ社172p)
林芙美子「馬乃文章」(1935)
獅子文六「ある結婚式」(1963)
山川方夫「軍国歌謡集」(1962)
短編の林、掌編の獅子に、ボリューム的には本書の2/3を占める中編な山川の3篇を収める。
「馬乃文章」、売れない作家志望の男が家賃を払えず、妻子と共にやむなく友人の家に転がり込み、妻を働きに行かせて自分は「まだ、何も書いていないが、軈(やが)て、何かいいものが書けるだろう。
……これはダメなパターンだと思う。
そんな悲惨な暮らしぶりなはずなのに、なぜかみんな明るく楽しそう。「三丁目の夕日」的戦後復興の世界観かな? と思いきや、戦前な作品なところが興味深い。
「ある結婚式」、15ページほどの掌編。式を嫌う二人の新婚夫婦のため、媒酌人を頼まれた「私」が自宅で手作りの結婚式を企画する、私小説風味の作品。こちらも若者らの初々しい姿を見つめる視点が優しい。
「軍国歌謡集」、120ページに迫る中編。アパートの下の道から、夜、決まった時間に聞こえてくる女の軍歌の歌声。二階の一部屋で暮らす男はその声だけを手掛かりに彼女への愛を募らせていて、彼の部屋に転がり込んで酒浸りな「私」は、ある夜、女に軽いつもりでいたずらを仕掛ける。
山川方夫と言えば、高校の教科書の「夏の葬列」が有名だけれど、本作もドラマティックな展開の末の苦い読後感が印象的。
(2021/01/14 記)