一晩中雨が降っていた。
起きてもまだ雨。
空気が落ち着くので雨も好きだ。特に森の雨はいいな。
視界のチェックをして朝風呂を満喫した。
窓を開けてフィトンチッドを吸収し細胞を活性化した。
最高の気分やん。
富山のホテルの露天風呂で変態に出会って以来、
おばちゃんは温泉が怖くなった。
露天風呂は恐怖以外何ものでもない。
ここは2階だから大丈夫。
朝ご飯を食べよう。バイキング好きな夫は張り切っていた。
こちらはメインダイニングの入り口。
次回はここでディナーを食べるもんね。
朝から絶好調!蒸し野菜に手前のセロリ味噌が高原っぽい。
パンも美味しい。
ホテルオリジナルのリンゴドレッシングが気に入った。
期待の夫は、パン&焼きそば。
「リゾートホテルに焼きそばがあるんやね、誰が食べるんやろ
って思ってたらここにおった。」
回りの中高年のおじさんもちゅるちゅる焼きそばを
召し上がっていた。
女性は今自分がいる空間に溶け込んで、馴染むことは苦に
ならない。
それどころかオサレな自分に酔い演出できる。
おっちゃんはそういうことは苦手らしい。
いつもどこでも変わらない、変えられない。
「セロリ味噌が美味しいわ。」というおばちゃんの感想を聞き
ご飯に乗せて嬉しそうに持ってきた。
「ほら、オードブルみたいやろ。」と満足げに
お皿を差し出した。
おばちゃんは写真をすばやく撮り、いつものように
見て見ぬふりをした。
夫はホテルを気に入り、また来ようぜと言った。
よかった~。
お暇しよう。
「高原へいらっしゃい」のロケに使われた系列のヒュッテへ
行った。
以前はお土産物屋さんと喫茶店があったが
今は使っていない様子で扉が閉まっていた。
夫が中庭に入り込み、「ここからのアングルがええと思う。」
と言った。そうですかと言いながらスマホで撮った。
のっぺりした写真ばかりやね。
「そういえば、何も予定なく走っているけどどうする~?」
「う~ん、全く観光地に興味ないもんな、観光地って一通り
行ったやろ?」
「清泉寮でソフトクリーム、イングリッシュガーデン、八ヶ岳
倶楽部、全部行った。あとどこ?」
雨で八ヶ岳連峰はひと山も見えなかった。
通り過ぎた後、おばちゃんが「あーー!!産直や!」と言い
Uターンした。
ヤマホ青果びっくり市
新鮮な野菜と果物などがてんこ盛りでお買い得だった。
「あと2泊するから葉物は買われへーん、くやちい。」と
言いながらもおばちゃんのお買い物籠は山盛だった。
車での移動だから大荷物になっても大丈夫、ただ車の中に
入れっぱなしにしていると傷むだろうなあ。
久しぶりに悩んだ。
先日、菅平のお土産をくれたしんちゃんに大好きなぶどうと
とうもろこしを送った。
「旅行へ来て一番テンションが上がってるよな。」
「鼻血が出そうやわ。」
後ろ髪を引かれつつお暇した。
ここも必ず再訪する。ヤマホ青果びっくり市。
お昼ご飯は美味しいお蕎麦を食べようと近辺を調査。
お目当ての2軒は定休日でさらに1軒は閉店していた。
国道沿いで偶然看板を見つけたお店に決めた。
勝山そば店
気取りのないお店特有の飾り物がいっぱい。
夫はこういうお店が好きだ。
おばちゃんは、小物をごちゃごちゃ飾っているお店は大抵
隅々まで掃除が行き届いてないことが多く苦手だ。
両極端の凸凹夫婦。だからウマが合うのかな。
天ざる
お蕎麦は鬼殻も一緒に挽いた10割、湯練りらしい。
香りがよかった。
瓜のお漬物と素麺瓜の甘酢
「うわあ、実家のお漬物みたい。同じ匂いがする。」と
おばちゃんがお箸を置くと、夫は「やったー、嬉しい。
オレが大好きな味やーん。」と喜んだ。
よかったよかった。
さらに目的地のないドライブを続け、エーコープでトイレ休憩。
もちろんお買い物をした。
石臼挽きの強力粉や蕎麦やバターナッツかぼちゃを買った。
嬉しい嬉しい、おばちゃんのテンションは上がる一方だ。
ちょっと早いけど蓼科へ行こう。
オーベルジュ、シャレーグリンデル
チェックインを3時と勘違いし3時前に到着したら本当は
4時がチェックイン時間だった。
「チェックイン時間まで近所を散歩するか。
ちょっとトイレ借りてくるわ。」夫が戻って来て
「めっちゃ神経質やぞ。」と早口で2回言った。
そして「早いけどチェックインさせてくれるって。トイレ貸して
くださいっていったらな、『座ってしてください。』って言われた。
びっくりしたわ、そんなん初めて言われた。神経質やぞ~、
お前気をつけろよ!。」小さな声で言った。
「スーツケースを持ち込むからダスターを持っていくわ。」
「こんにちわ~!すみません、早く来てしまって~。」と
満面の笑顔で入るとコックコートを着た女性シェフが
「いらっしゃいませ~、遠くからありがとうございます。」と
気持ちよくお迎えしてくださった。
玄関には無表情のラフなラフ過ぎる格好の男性がいて
手に雑巾を持ち「スーツケースのキャスター拭きますので。」
と真剣な顔でごしごし拭いた。
「あの、車で拭いてきました。」とダスターを見せたが無視。
いらっしゃいませよりもキャスター拭き、あ、トイレに座って
といったのはご主人の方だなと一瞬でわかった。
夫が手続きをしている間に、スーツケースを2階に運んで
くださった。
シェフが「オーナーが網戸の説明をしますから、上がって
聞いてくださいね。」とおっしゃった。
普通は網戸よりも非常口や食堂やリビングの説明ちゃうん?
と思った。
2階に上がるとオーナーが待ち構えていて
「この網戸は繊細な作りです。こうやって上げ下げして
途中で窓の開け閉めをしないでください。
もし網戸が破れると枠ごと変えなければなりません。
気を付けてください。」と真剣な顔で説明された。
網戸はスクリーンのようにロール式だった。
息苦しさを感じた夫がいつもののんきな口調で
「へえ、すごい。こんな網戸があるんですね。
初めて見ました。」と言うと「○○製です。」とおっしゃった。
そんなんどうでもええ、興味ないわ。
オーナーが退出した直後、夫がふうとため息をついた。
雨がほぼ止んでいたので散歩に行こうと夫を誘った。
蓼科のチェルトの森という別荘地の中にオーベルジュはある。
今まで泊まった何軒かのオーベルジュに比べて建物は
ちゃちい。ペンションレベルだ。
後で聞くと以前のオーナーはペンションを経営していて
中古物件らしい。
素敵な別荘を見ながら夫とお部屋で話せなかった毒を吐き
お散歩した。
「雑巾オーナーってあだ名付けてん。だいたいさあ、人の
持ち物を雑巾で拭くって失礼ちゃう?普通なら使い捨ての
ウェッティとかペーパータオルやん。明らかに雑巾やった。
おまけに拭きましたよとダスター見せても無視やし。」
「ちょっと病的やな、トイレ座って使えなんて。オレが出た後
すぐチェックしてたわ。」
「網戸への執着ぶりが尋常ではないわ。網戸が壊れたら
枠ごと変えなあかんってあんな厳しい顔で言われたら会話に
ならんわ。」
「そんなに網戸網戸言うんなら開け閉めでけへんやつを
付けとけや。お前、絶対触ったらあかんで。」
「あだ名はアミドやね。」
美しい森の中へ毒を吐きまくり、爽やかな気持ちで
オーベルジュに戻った。
つづく。