アンインストール


アンインストール



何度も何度も 繰り返す

握りしめた指先は冷たかった




久しぶりに夕陽の話をした

上手に笑えていたかな

想い出には出来たけど 懐かしいは消えないんだね


向けられた視線の先の手首の傷

私がつけたんじゃないよ

だけどね 今の私じゃ説得力もないよね



黒いの布でおおってかくして

そうしないと 弱さをひけらかしているみたいだから







私は重い重い足かせなのかな


だったらごめんね






頭の中で鳴り響く音楽に

今日もきんと耳鳴りがしたよ





ダイヤルを押して 電話をかける



「もしもし、こんな夜更けにごめんね」


どうしたの


「なんでもないんだけどね」


悲しくなったの


「何もいってないじゃない」


泣きたいの


「少し気が向いただけだよ」




まだ 甘えられないの?





無言電話 無言電話

心の中でダイヤルをまわしては

いつもガシャンと受話器を落とす


そのまま踏みつけて砕いて






「もしもし、」



どうして素直になれないの

どうして 現実にそうして電話できないの

どうして いつも私に聞くの


私は私 そんな私にそういって甘えても

私は私 私を甘やかす事なんて出来ないんだよ



「そうだね、。」



ほら、またそうやって

気持ちに痛みを残すんだ

そんなに悲しいなら なんでここにこんなことかいてるの



「ばかみたいって思ってるよ」



私相手に電話して そうして気持ちを落ち着けるんだね

・・・早く 私以外の誰かに会いたいね



「怖いけどね」



真夜中に電話できるような メールできるような

そんな人を見つけても甘えきれないんだね

そんな私を可哀想だって思って 喜んでるでしょう



「自己陶酔も甚だしいね」



でも そうすることしか出来ないんでしょう

早く 誰かを


本当に信じられる日がくるといいね



「きっと近いよ ここに言葉に出来てるもの」



そうだね





無言電話 無言電話

かけた相手は 心の中のもう一人の私


悲しいとつらいに極端に弱くなってしまった私が作り出した

唯一 私を裏切らないと信じられる人


こうなってしまったのを 病気のせいにするのはずるいけど

甘え方なんて もう忘れちゃったんだよ

残念だけど 甘え方はまだ知らないんだよ



甘えてしまって なくすのが怖いから

いつまでも甘えられないんだよ




心のおくがじくじくいたいよ





一日何件も着信ならしてごめんね

無言電話 私から私へ





「こんな夜中にごめんね」


私しかいないんだから仕方ないよ






鏡の前で笑ってみたら

なんだか 涙がでそうだったから

あわてて電話をきったよ




頭のなか ぐちゃぐちゃだね

新しいことが始まることが 怖くて仕方ないっていったら

心配かけるかな かけるよね

でもね でも  

私 ちゃんと上手に笑えるか自信ないんだよ


遊び方も 友達も もうずいぶん遠くにいっちゃったから

四月なんて 永遠にこなきゃいいのになんて

思ったりもするんだよ




楽しみと 恐怖って

どうして背中合わせなんだろうね



電話の向こうの私は

やっぱり困った顔で ごめんね、 なんて謝ってた





なんのごめんねなのか

私でもわからないよ、ごめんね、。


ごめんね。





ぐっと息を詰めて 眉を寄せて

爪を皮膚に食い込ませて

そのまま息をしないで

瞬きも我慢する


そうするとね


泣かないでいられるんだよ




そのままゆっくり息をはいて

それからちょっと吸って

一度ゆっくり瞬きをして

耳鳴りがするくらい 奥歯をかむ

わからないようにするのが

ちょっと難しいけど すぐに出来るようになるよ


そうしてね


笑うんだよ 大丈夫っていうんだ

えへへ、なんて くだけて笑うんだよ




平気だよ 大丈夫だよ




そうしてちくせきされていくものに

いつか押しつぶされて 泣き崩れる夜がきてもね

たぶん もう一人じゃないから大丈夫だよ


あなたはもう大丈夫だよ

大丈夫じゃない時に 大丈夫な人がそばにいるよ


それにね 変わることはもう怖くないでしょう


全部 あの人からの贈り物

それは 私もわかってるよ








そうするとね 私はどうなのって聞かれる


答えはいつも同じ 「大丈夫だよ」




その度 きんと耳鳴りがするのは

きっと気のせいだから