日本脳神経外科学会による脳腫瘍全国統計2005-2008に基づき、本邦の脳腫瘍の組織型の頻度を調べてみた。

2005~2008年にかけて原発性脳腫瘍は16,722例登録されたようだ。

本邦の脳腫瘍の年間発生例の1/4~1/5程度が登録されているらしい。1)

なお、2009~2015年の登録は2022年1月時点では進行中らしい。

 

なお、組織分類はWHO 2007に基づいているようだ (最新はWHO 2021)。

古いデータだが、それでも本邦の実情が分かるという点で貴重だと思っている。

 

今回は、このうち脳室内腫瘍について記載する。

 

1) 成田善孝ら. 脳腫瘍の治療結果を可視化する大規模データの収集・臨床試験の必要性 ―脳腫瘍全国集計調査報告の活用について―. Jpn J Neurosurg 24:699-704, 2015.

 

 

さて、この報告の特徴として「登録数の多い上位25腫瘍」を定義し、小脳や前頭葉といった部位ごとに頻度の高い上位5腫瘍を示している。

 

上位25腫瘍には「髄膜腫 (Grade I~III)、びまん性星細胞腫、乏突起膠腫 (Grade II)、退形成性星細胞腫、退形成性乏突起膠腫、膠芽腫、PCNSL、毛様細胞性星細胞腫、上衣腫、退形成性上衣腫、髄芽腫、血管芽腫、Germinoma、神経節膠腫、中枢性神経細胞腫、神経鞘腫、類上皮腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、脊索腫」などが含まれている。*
 

上位25腫瘍を合計すると全原発性脳腫瘍の約88 %程度になるようだ。

 

* 詳細な定義は、本文の4. General features of top 25 tumors (2005-2008) の章の表 1) Definition of top 25 tumors をご参照下さい。

 

 

「上位25腫瘍」のうち、各脳室内における頻度の高い上位5腫瘍

 

 

1位

2位

3位

4位

5位

側脳室

(n=268)

 

髄膜腫

(Grade I)

68

(25 %)

PCNSL

 

66

(25 %)

中枢性

神経細胞腫

63

(24 %)

膠芽腫

 

24

(9 %)

Germinoma

 

18

(7 %)

第三脳室

(n=107)

 

頭蓋咽頭腫

 

40

(37 %)

PCNSL

 

19

(18 %)

Germinoma

 

16

(15 %)

毛様細胞性

星細胞腫

8

(7 %)

上衣腫

 

5 

5 %)

第四脳室 

(n=178)

 

髄芽腫

 

52

(29 %)

上衣腫

 

51

(29 %)

退形成性

上衣腫

28

(16 %)

PCNSL

 

17

(10 %)

毛様細胞性

星細胞腫

7 

4 %)

 

Brain Tumor Registry of Japan (2005-2008). Neurol Med Chir (Tokyo). 2017 Apr; 57(Suppl 1): sl9–sl102. を基に作成

とくに 4. General features of top 25 tumors (2005-2008) の表 8) Ranking of top 25 tumors depending on original region を参照した


 

注意点として、あくまで「上位25腫瘍の中での」ランキングとなっており、これら以外の腫瘍はランキングの対象外となっている。nの数にも含まれていない。

上位25腫瘍以外は部位ごとの登録数も記載されていない。


そこで上位25腫瘍以外も含めた「全原発性脳腫瘍」の部位別登録数をみると、側脳室 365、第三脳室 148、第四脳室 220 となっており*、上位25腫瘍以外も2~3割と無視できない数を占めている。

 

* 2. General features of primary brain tumors (2005-2008) の表 7) Tumor location を参照

 

 

脳室内にできる腫瘍として比較的有名だと思ったが、「上位25腫瘍」に含まれなかったものとして、以下があった。

 

 上衣下巨細胞性星細胞腫 (SEGA) 17例

 上衣下腫 21例
 CNS PNET 34例 (WHO2016で消えた)
 脈絡叢乳頭腫 39例

 脈絡叢乳頭癌 12例
 松果体細胞腫 25例
 Pineal parenchymal tumour of intermediate differentiation 15例

 松果体芽腫 8例

 

これらの発生部位は不明だが、登録数の合計は170例程度になり、上位25腫瘍以外の脳室内腫瘍が180例ぐらいあるのと割と近い数にはなった。


これらがもし特定の脳室内に集中してできていたならば、症例数からは上記のランキングに食い込んでいた可能性は否定できない (ものもある)。

 

実際、側脳室内腫瘍について調べた別の報告では以下のような頻度となっており、SEGAや脈絡叢乳頭腫が、中枢性神経細胞腫や膠芽腫の間に割り込んでいる。

 

 

側脳室内腫瘍 上位5種 (n=97)

 

中枢性神経細胞腫

30

上衣下巨細胞性星細胞腫 (SEGA)

12

Transitional meningioma

8

脈絡叢乳頭腫

8

Grade 4 星細胞腫

6

 

Ojha S, Fernandes G, ShenoyA. Tumors of the lateral ventricles: a clinico-pathological study. Int J Med Res Rev 2015;3(10):1118-1123.

 

 

  松果体領域

 

 

ちなみに、松果体領域の「上位25腫瘍」のランキングは以下のようになっているが、松果体細胞腫や松果体芽腫は上位25腫瘍に含まれていない。

これらの数も併せて記載しておく。

 

 

「上位25腫瘍」のうち、松果体領域における頻度の高い上位4腫瘍

 

 

1位

2位

3位

4位

松果体領域

(n=183)

Germinoma

 

150 (82 %)

髄膜腫

(Grade I)

9 (5 %)

膠芽腫

 

8 (4 %)

PCNSL

 

4 (2 %)

 

 

上記以外で気になった、松果体領域にできる腫瘍の登録数

 

松果体細胞腫

25

Pineal parenchymal tumour of intermediate differentiation

15

松果体芽腫

8

Papillary tumor of the pineal region

0

 

Brain Tumor Registry of Japan (2005-2008). Neurol Med Chir (Tokyo). 2017 Apr; 57(Suppl 1): sl9–sl102. を基に作成

とくに 4. General features of top 25 tumors (2005-2008) の表 8) Ranking of top 25 tumors depending on original region および

3. General features of WHO2007 primary brain tumors (2005-2008) の表 1) Number of Primary Brain Tumors according to WHO2007 Classification を参照した

 

 

次はテント下腫瘍について記載する。