近年報告されたITMIGの多施設共同研究が参考になるかもしれない。
ありがたいことに無料で読める。
縦隔病変の研究は少数例のものが多く、また病理や手術のデータに基づいているため、生検や切除されない多くの病変が反映されていなかった。そこでInternational Thymic Malignancy Interest Group (ITMIG) が主導して研究を行うことにした。アジア、ヨーロッパ、北アメリカの11施設で多施設共同研究を行い、バイアスを避けるために各施設の画像診断データベースを検索することにした。本研究の目的は原発性の孤発性縦隔病変の頻度や典型的な部位、地域による頻度の違いについての理解を深めることである。
各施設で2011～2014年のCT、MRI、PET-CTの所見で”縦隔結節”、”縦隔病変”、”縦隔腫瘤”、”縦隔異常”という単語を含む症例を後方視的に検索した。18歳以上がincludeされた。再発例は除かれ、リンパ腫については縦隔原発で孤発性の症例がincludeされた。新たに縦隔病変を指摘された3504 例のうち、フォローの画像や病理がない196例が除外され、3308例が対象となった。
では年齢別の病変頻度を引用しよう。
カッコ内はその年齢における病変の割合だ。
年齢別の縦隔病変の頻度 (n=3305※)
|
|
18～29歳 |
30～39歳 |
40～49歳 |
50～59歳 |
60～69歳 |
70歳以上 |
合計 |
|
胸腺腫 |
29 (7.3%) |
62 (14.7%) |
122 (22.9%) |
194 (27.2%) |
177 (26.0%) |
150 (27.1%) |
734 |
|
良性嚢胞 |
16 (4.0%) |
60 (14.2%) |
109 (20.5%) |
186 (26.1%) |
164 (24.1%) |
126 (22.7%) |
661 |
|
リンパ腫 |
176 (44.0%) |
122 (28.8%) |
87 (16.3%) |
53 (7.4%) |
51 (7.5%) |
43 (7.8%) |
532 |
|
胸腺癌 |
12 (3.0%) |
22 (5.2%) |
27 (5.1%) |
49 (6.9%) |
51 (7.5%) |
25 (4.5%) |
186 |
|
転移 |
7 (1.8%) |
18 (4.3%) |
27 (5.1%) |
37 (5.2%) |
41 (6.0%) |
38 (6.9%) |
168 |
|
神経原性腫瘍 |
20 (5.0%) |
25 (5.9%) |
22 (4.1%) |
33 (4.6%) |
25 (3.7%) |
11 (2.0%) |
136 |
|
胚細胞腫瘍 |
65 (16.3%) |
42 (9.9%) |
15 (2.8%) |
8 (1.1%) |
3 (0.4%) |
1 (0.2%) |
134 |
|
良性甲状腺病変 |
1 (0.3%) |
3 (0.7%) |
9 (1.7%) |
23 (3.2%) |
33 (4.8%) |
51 (9.2%) |
120 |
|
胸腺過形成 |
24 (6.0%) |
17 (4.0%) |
27 (5.1%) |
15 (2.1%) |
7 (1.0%) |
1 (0.2%) |
91 |
|
小細胞癌 |
0 (0.0%) |
1 (0.2%) |
4 (0.8%) |
16 (2.2%) |
25 (3.7%) |
21 (3.8%) |
67 |
|
その他 |
50 (12.5%) |
51 (12.0%) |
84 (15.7%) |
100 (14.0%) |
104 (15.3%) |
87 (15.7%) |
476 |
※ 3例で情報が得られず、n=3305となっている。
元の文献には上記の年齢別グラフが掲載されている。
そちらも大変参考になるので是非確認して頂きたいが、嚢胞や甲状腺病変かどうかは容易に分かることも多そうなので、この2つを除いたグラフを作ってみた。
年齢別の縦隔病変の割合 (ただし良性嚢胞と良性甲状腺病変を除く)
ただし、上記は縦隔部位を考慮していないので注意が必要だ。
この研究では前縦隔病変が7割を占めており、その割合は全病変の割合に比較的近い。このため前縦隔病変については上記が比較的参考になりそうだ。
中縦隔や後縦隔病変では胸腺腫/胸腺癌などが少なく、割合は変わってくるだろう。
あと、転移の原発巣や良性嚢胞の内訳についての記載は見つけられなかった。
奇形腫も記載がなかったが、一例もないとは考えにくいので、胚細胞腫瘍に含まれているのだと思う。
縦隔部位ごとの頻度も引用する。本文では前縦隔/中縦隔/後縦隔の3つに分けて記載されているが、リンパ腫は複数の領域にまたがるものが多かったようだ。Supplement 4により詳細に記載されていたので、そちらを引用する。
部位別の縦隔病変の割合 (n=3308)
|
|
全体 |
前縦隔 |
前～中 縦隔 |
中縦隔 |
中～後 縦隔 |
後縦隔 |
前～後 縦隔 |
前縦隔 と後縦隔 |
|
胸腺腫 |
734 (22.2 %) |
712 (30.8 %) |
14 (4.7 %) |
7 (1.6 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
1 |
|
良性嚢胞 |
661 (20.0 %) |
553 (24.0 %) |
5 (1.7 %) |
75 (16.8 %) |
3 (6.4 %) |
25 (13.9 %) |
0 (0.0 %) |
0 |
|
リンパ腫 |
532 (16.1 %) |
333 (14.4 %) |
136 (45.5 %) |
34 (7.6 %) |
8 (17.0 %) |
9 (5.0 %) |
10 (55.6 %) |
2 |
|
胸腺癌 |
186 (5.6 %) |
172 (7.4 %) |
13 (4.3 %) |
1 (0.2 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
0 |
|
転移 |
168 (5.1 %) |
64 (2.8 %) |
22 (7.4 %) |
66 (14.8 %) |
8 (17.0 %) |
4 (2.2 %) |
4 (22.2 %) |
0 |
|
神経原性腫瘍 |
136 (4.1 %) |
24 (1.0 %) |
2 (0.7 %) |
5 (1.1 %) |
7 (14.9 %) |
97 (53.9 %) |
1 (5.6 %) |
0 |
|
胚細胞腫瘍 |
134 (4.1 %) |
116 (5.0 %) |
15 (5.0 %) |
1 (0.2 %) |
0 (0.0 %) |
2 (1.1 %) |
0 (0.0 %) |
0 |
|
良性甲状腺病変 |
120 (3.6 %) |
40 (1.7 %) |
17 (5.7 %) |
58 (13.0 %) |
4 (8.5 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
1 |
|
胸腺過形成 |
91 (2.8 %) |
90 (3.9 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
0 |
|
小細胞癌 |
67 (2.0 %) |
10 (0.4 %) |
23 (7.7 %) |
32 (7.2 %) |
2 (4.3 %) |
0 (0.0 %) |
0 (0.0 %) |
0 |
|
非小細胞癌 |
55 (1.7 %) |
27 (1.2 %) |
7 (2.3 %) |
15 (3.4 %) |
4 (8.5 %) |
2 (1.1 %) |
0 (0.0 %) |
0 |
|
肉腫 |
51 (1.5 %) |
19 (0.8 %) |
9 (3.0 %) |
11 (2.5 %) |
3 (6.4 %) |
8 (4.4 %) |
1 (5.6 %) |
0 |
|
非小細胞肺癌 |
41 (1.2 %) |
5 (0.2 %) |
9 (3.0 %) |
24 (5.4 %) |
1 (2.1 %) |
2 (1.1 %) |
0 (0.0 %) |
0 |
|
その他 |
331 (10.0 %) |
145 (6.3 %) |
27 (9.0 %) |
117 (26.2 %) |
8 (16.7 %) |
31 (17.2 %) |
2 (11.1 %) |
1 |
|
合計 |
3308 |
2310 |
299 |
446 |
48 |
180 |
18 |
5 |
Supplement 4に基に作成
縦隔型肺癌は重要な鑑別疾患の一つと思い、そのあたりまで引用した。
もとのデータにはより頻度が低い病変についても記載されている。
なお縦隔区分にはITMIG区分が用いられている (当然だが)。prevascularが前縦隔、visceralが中縦隔、vertebralが後縦隔に相当するそうなので 1)、元の文献を読むときはご参考にください。
1) 原 眞咲: 縦隔の区分. 画像診断 37: 1151-1162, 2017.
食道癌はより頻度が低いところに現れる。
長くなるので、続きは別のページへ…