◇◆◇◆◇
両面宿儺との激突から2年くらい経ちました。
宿儺はどうしているのかと言うと……。
「宿儺それ取ってくれ」
「分かった」
俺と一緒に農作業しております。
俺がした提案っていうのは極単純、俺の部下になれってヤツだ。
30日に1度必ず戦って上下関係をハッキリさせるという条件付きでな。
場所は何もない近くの海岸(近くって言っても人間の足だと半日かかるが)
ここならガチ戦闘してもそこまで被害は出ない。
宿儺は宿儺で対処法を学んでより厄介になったけど、俺は俺で完全体での戦闘に慣れて宿儺をガンガン押していけるようになった。
今のところ負けなしだぜ!
そして戦っていて分かった。
デストロイアとしての本性か俺割と戦闘狂。
戦う前は「あー、またやるのか。嫌だなー」なんだけど、いざ戦闘が始まるともうノリノリなのよ。
お陰で戦い終わってすぐは気持ちが昂ぶりすぎて誰彼構わず攻撃したくなる。
一旦クールタイムを設けないと村人と顔を合わせられない。
しかしマジで強ぇな宿儺は。
動きが速いからゴジラはゴジラでもファイナルウォーズのゴジラと戦ってる気分だ。
「こんなものが食べられるとは思えなかったが、中々美味よな」
「まあ一見泥臭そうだもんな」
今村総出で収穫しているのは蓮根である。
前に近くの沼地で自生しているのを見つけて持ち帰った。
誰も食べられると知らなかったからまだ蓮根を食べるという文化がないんだろう。
歴史変えちゃったかもしれないけど許してくれ。
蓮根は切らなければ長期保存できる食材なのよ。
ちなみに蓮は種も食べられる。
これが結構美味い上に栄養価の高い優れもの。
蓮は捨てるところがない。葉もお茶に加工出来る。
何でこんなに詳しいかというと前世の祖父母が蓮根農家で色々教えてくれたからです。
「宿儺様すぐ調理しましょうか?」
「任せた」
宿儺が裏梅に料理を任せて沼地に入る。
蓮が栽培可能な深い沼地を作ったからある程度背が高くないと泥に足を取られて動けなくなってしまうのよね。
誰がこの沼地を作ったかって? 勿論俺です。
【ミクロオキシジェン】で地面を緩くして、そこに山から引いた水を入れればお手軽沼地の完成!
ここまで立派な蓮の群生になるには大分時間がかかったが、初夏には綺麗な蓮の花が見られるようになったから蓮の花が満開になったら村人全員でお花見するのが恒例になってる。
しばらくすると裏梅が料理を終えて戻ってきた。
ここで小休憩だな。
「ふむ。やはり美味いな」
「これも食ってみるか?」
「何だこれは?」
「試しに作ってみた辛子蓮根ならぬ山葵蓮根(辛子を見つけられなかったので山葵で代用)」
「ぐっ!?」
「おお! 宿儺でもこれ辛いか。その顔笑えるな」
「緋蓮(ひれん)、オマエ今すぐ殺してやる……」
んで、あれから皆俺のことを緋蓮熾翅神(ひれんおきしじん)と呼ぶようになった。
完全体になって姿がガラッと変わって虫っぽいところが尻尾くらいしかなくなったから、皆で話し合って考えたらしい。
別に呼び方なんかどうでもいいんだけど神から離れね?
「はいはい。そういうのいいから鼻から息吸って口から吐きなさい。刺激収まるから」
竹で作ったコップに水を入れて宿儺に渡す。
宿儺俺の言うことちゃんと聞いて実践してるな。
山葵の辛さで鼻がツーンとした時はこの方法が一番。
宿儺には俺の部下でいる間は絶対人間を殺さないように言ってある。
代わりにどうしてもイライラして鏖殺したくなったら俺が相手することになってる。
最初のうちは数日に1回とか結構な頻度だった。
けどここ最近はほぼ戦わなくなった。
宿儺の心境に何かしら変化があったらしい。
俺の接し方が良かったかな?
宿儺は見た目のせいで親から愛情を貰えなかったんじゃないかと考え、俺はずっと家族と同じように接していた。
宿儺だって人間だ。
人間ってのは愛情を求める生き物。
愛されたい、愛して欲しいと思うのが普通。
けど宿儺はどんなにそう思っても恐れられてしまい愛されることがなかった。
だからその欲求を別の欲求に置き換えているんじゃないかと思った。
この様子だと正解だったっぽいな。
なんか反抗期の弟みたいな感じ。
宿儺は俺のことどう思ってるか知らんけど。
それからしばらく。
これも恒例行事になりつつある30日に1度の宿儺との激突の日がやってきました。
はー、またかー、やっぱ嫌だなー。
そう思いつつ始まったらノリノリになるんだろうが。
「そろそろ行くか宿儺」
呼び掛けるが宿儺は寝っ転がったまま動かない。
あれ、どうした?
いつもならこう言えば意気揚々とするのに。
「……いい」
「ん?」
「このままオマエの下で良い」
え、ええええええええええ!?
何で!? どうして急にそんなこと言うの!?
そんな素振りなかったじゃん!
「前々から考えていたことだ。オマエの傍は居心地が良い。このままオマエの下であっても悪い気はせん。……それ以前にオマエは部下だと言いながら俺を部下ではなく対等なものとして接してきた。どれほど戦いで上下関係を決めようが、これからもそれは変わらんだろう?」
「まぁな。俺にとって宿儺はもう家族だから」
「……」
俺のその発言に宿儺は無言になってしまった。
どうしたのかと思ったら宿儺の顔が少し赤くなっていることに気が付いた。
俺が家族だと言ったことに照れてただけか。
そう言われたことないから反応に困ってるんだろうな。
「……緋蓮」
「何?」
「兄上……と呼んでもいいだろうか?」
「…………………………………………………………………へ?」
マジですか。
宿儺が俺のことどう思ってるか分からなかったが、そんな風に思ってくれてのか。
俺の接し方間違ってなかったんだ。
わー嬉しいなぁ。
「駄目か?」
おっと、嬉しすぎて思わず立ち尽くしちゃった。
いかんいかん。
しょんぼりしてる宿儺の顔がちょっと可愛いけど早く答えてやらないと。
「勿論いいぞ。じゃあ俺も宿儺のこと弟として接するな。遠慮なく兄として頼ってくれ」
「ああ、分かった」
それから宿儺の態度が更に軟化した。
俺も甘えたそうにしてるなーとか分かるようになったし、そういう時は傍にいてあげる。
当たり前だけど宿儺甘えるの下手だからな。
俺ののんびりまったり生活にもすっかり慣れて一緒に昼寝したりとかもするようになった。
平和だなー。
やっぱ平和っていいね。
そんな平穏な日々が5年ほど続いたある日……
宿儺が村から姿を消した。
裏梅もいない。
気配も呪力の痕跡もない。
村人に聞いても誰も分からないとの回答だった。
何か変な事件に巻き込まれたのだろうか?
嫌な予感がして捜しに行こうとしたのに邪魔が入った。
呪術師が村に押し寄せてきた。
「ここに緋蓮熾翅神という名の化け物がいるそうだな。ここに連れて来い」
かなりの数だ。
数十人はいるな。
しかし化け物か、久し振りにそう呼ばれたな。
近くの村の人からも神様と呼ばれてるから。
とりあえず対応は村人達に任せる。
「緋蓮様は今弟君がいなくなられてオマエ達の相手をしている場合ではない。お引き取り下さい」
「その弟とやらは呪いの王両面宿儺だろ。はっ、呪いの王を弟と呼ぶなどその神も大したことないな」
呪術師の発言にイラッと来たのは俺だけではない。
宿儺が呪いの王と呼ばれているのは知ってるが今それ言うか?
対応していた村人もかなりイラッと来たみたいで何時ぞや同様早く帰れオーラがダダ漏れになっている。
いや、俺のこと化け物と呼んでた時からイライラしてたけど。
「貴様らも紛いものに騙されているのだ。世にも恐ろしい姿をしているらしいな。そのような見目の神などいるわけなかろう。いたとしても邪神だ」
「緋蓮熾翅神様は我らを騙していません。農耕を教え、厄災から守って下さった。神でなかったとしてもこの村の守護者であることに変わりありません」
「そうだ! 緋蓮熾翅神様は死にかけてまでも私達を何度も救って下さった素晴らしいお方だ! 何も知らぬ余所者が緋蓮熾翅神様のことをとやかく言うな!」
力説してるのはいいんだが恥ずかしいから止めてくれない?
俺そういうつもりでここにいるんじゃないです。
「可哀想に騙されきっているようだな。後で考えを改めさせる必要があるな。とにかく、邪神であろうが呪霊であろうが呪いの王を倒してしまうほど強大な力を持つ存在を野放しにはしておけない。聞こえているか緋蓮熾翅神とやら、我らに従うか封じられるかどちらか好きなほうを選べ」
2つしか選択肢ねぇのかよ!
頭おかしいんじゃね!?
……不味い。
今にもキレそうだけど俺キレると自動的に破壊衝動に支配されてしまうから怒りを抑えないと。
「緋蓮熾翅神様を奪おうと言うのか!?」
「酷い…」
「緋蓮様を貴様らなどに奪われてなるものか!」
村人の1人が呪術師の胸ぐらを掴んだ。
それが気にくわなかったのかその呪術師が村人を殴ろうと拳を振り上げる。
戦う力のない一般人が呪術師に殴られたらひとたまりもない。
俺は飛び出し、騒動の中心部に降り立った。
「緋蓮熾翅神様!」
「その手を下ろせ。用があるのは俺だろう」
驚いたのかその呪術師は振り上げていた手をゆっくり下ろす。
そういや呪術師に姿を見せるのはこれが初めてか。
写真なんてない時代だ。姿なんて人伝に聞いた情報しかないだろう。
この反応を見るに聞いていた姿と全然違ったらしいな。
「こ、これが神だと?」
「本当に呪霊ではないのか? 今まで見たどんな呪霊よりも禍々しいぞ」
失敬な。デストロイアの姿格好いいだろう。
キモい呪霊なんかと比べんな。
俺は尻尾で村人にもっと下がるように指示を出す。
いつ戦闘になってもいいように身構え、威嚇の意味を込めて翼を目一杯広げて体をより大きく見せる。
それだけなのに数人が怯えて後ろに下がっていく。
思ってたより小物みたいだな。
「で? 聞いていたんだが随分と勝手な要求だな。勿論俺はどちらも選ばない。俺は自分のいる場所を守りたいだけだ。オマエらに迷惑を掛けた覚えなんかない。分かったらさっさと帰れ」
「い……言っただろう。これまで数多の呪術師が何度挑んでも敗れ続けた呪いの王を倒し、しかも従えてしまう存在を野放しにはしておけんと」
「従えてねぇよ。宿儺は俺の家族だ。もう呪いの王じゃない。次その言葉言ったらぶっ飛ばすぞ」
宿儺を呪いの王と呼んだ呪術師を睨み付ける。
矜持だけは高いようでビビっているのに睨み返してきた。
「だとしたら貴様は呪いの神だな。呪霊以上の異形な見目、両面宿儺を倒す実力。最早疑いようがない。哀れだな、両面宿儺を倒したばかりに貴様はこれからそう呼ばれることになるのだ」
「呪いの神なら倒さねばならん。人の負の感情から生まれた神などこの世にいていいハズがない。今後はオマエを倒すために多くの呪術師がここへ訪れるだろう」
うーん、それは嫌だな。
てか俺この村でのんびり過ごしたいだけだからほっといて欲しいんだけど。
「両面宿儺の存在が貴様の足枷となるのだ。面白かったぜ、そう伝えた時の呪いの王の顔と来たら…」
「あ゛?」
悠長に考えていたんだが、その発言を聞いた瞬間ブチッと何かが切れた音が聞こえた。
重力が何倍にもなったような異様な空気が辺りを包み込む。
「何だって?」
「あっ……」
「宿儺に何て言ったって?」
自分を落ち着かせるために極めて冷静にそいつに問い質す。
今キレたら駄目だ。村人も巻き込んでしまう。
「だ、だから両面宿儺の存在が貴様の足枷になると言ったのだ。他にも何か言ったが両面宿儺の反応が面白くて覚えてないな」
「へえ」
なるほどね。
宿儺が姿を消した理由はそれか。
ここ数年人間らしい感情が出て来ていたから、コイツに言われたことが余程ショックだったんだろう。
――ボトッ…
「は?」
そしてそれを知って平然でいられるほど俺は気性が穏やかではない。
爪を振るい、呪術師の腕を切り落とす。
角の攻撃が【ヴァリアブル・スライサー】という技名なら、こっちは【ヴァリアブル・クロー】とでも名付けようか。
角で出来るなら爪でも出来るんじゃね? と思って編み出した技だ。
威力はかなり落ちてしまうが使い勝手が良い。
「ぎゃああああ! 腕が…腕があああああ!」
「くそっ、コイツはやはり呪いの神だ! しかしこの人数では祓えるか分からん、封印しろ!」
「は!」
呪術師の1人が何か汚らしい箱を取り出した。
はあ? そんなので俺を封印出来るの?
でもかなりの呪力を感じるな。
これは放置しておいたらヤバそうだ。
「【オキシジェン・デストロイヤーレイ】」
というワケで迷わず汚らしい箱に向かってぶっ放す。
それを持っていた呪術師の手ごと箱が消滅した。
「ひ、ひぃ!? 嘘だろ、特級呪物が壊れるなんて……!」
「特級呪物だが何だが知らねぇけど俺に壊せないものはねぇんだよ」
もうすでに戦意喪失しているみたいだが、これだけでは俺の怒りは収まらない。
殺しはしない。
だが、二度と俺に挑もうと考えられない恐怖を与えてやろう。
「【デストロイ・フィールド】」
俺を中心にした半径50mに【オキシジェン・デストロイヤー】をばら撒く。
「……!? が、あ……?」
「い、ぎ……」
範囲内の酸素が破壊され無酸素状態になる。
酸素を取り込めなくなった呪術師達がパニック状態になり始めた。
この方法もう使わないつもりだったんだけど、宿儺に「勿体ないな。他に被害を出したくない兄上の気持ちは分かるが、それなら領域展開のように攻撃範囲を決められるようにしたらどうだ?」と提案された。
てなワケで宿儺と裏梅に教えて貰いながら【オキシジェン・デストロイヤー】をばら撒く範囲、濃度を調整できるように特訓したのだ。
今のところ半径200mまで選択可能。
もっと極めれば更に広い範囲を攻撃出来るな。
濃度は一瞬であらゆるものを破壊出来る高濃度から、大気中の酸素だけを破壊する低濃度まで調節出来るようになった。
呪術師の領域展開よりヤバい必殺技の完成である。
とはいえ使うのにかなりの体力と集中力がいるから、正直あんまり使いたくない。
「ああああああああ!」
「ひいいいいいい」
今回は恐怖を与えるのが目的だから呪術師達の表皮を破壊する。
相当な激痛が走っているだろうし、皮膚が溶けていくのが分かるから恐ろしいだろ。
呪力で強化しようが細胞に含まれている酸素を破壊しているから無意味だ。
【オキシジェン・デストロイヤー】を使ったデストロイアの攻撃は基本防御不能。
素で耐えられるのは多分スペースゴジラくらいだろう。
さて、呪術師達が完全に恐慌状態になる前に止めてやるか。
俺は【デストロイ・フィールド】を解く。
「二度とこの村に来るな。もし来たら……完全なる破壊が全ての呪術師に降りかかると上の連中に伝えておけ」
「は、はいいいいいいい!!」
転びながら逃げていく呪術師達。
あまりに滑稽なその様を見て怒りが収まった。
それと同時に悲しい気持ちが湧き上がる。
「……宿儺」
何で相談してくれなかったんだよ。
オマエは抱え込みそうだから、なんかあったら相談しろっていつも言ってたのに。
捜しに行きたいけど、呪術師に敵と認定されてしまった状態じゃ無理だ。
絶対に邪魔される。
それにあの脅しだっていつまで効果があるか分からない。
いつか呪術師の軍勢が押し寄せてくるかもしれない。
そうなったらいくら俺でも村を守り切れないよな。
「なあ、ちょっと話があるんだ」
俺は決めたことを皆に説明することにした。
◇◆◇◆◇
「それはまことですか?」
「ああ、もう決めた。ほとぼりが冷めるまで俺は眠りにつく」
もうこれしか道は残っていない。
このままここいても村の皆に被害が行く可能性の方が高い。
なんてったって俺の攻撃は周りを巻き込んでしまうのがほとんどだ。
肉弾戦だけで倒せるほど呪術師も甘くない。
なら俺がいなくなるのが一番安全だ。
眠りにつく時も呪術師の連中に姿を見せながら海まで行く。
でもって深海……人間が絶対に見つけられない場所で眠りにつこう。
深海ならまず見つけられることはないからな。
「そんな……緋蓮様がいなくなられたら我らはどうすれば……」
「大丈夫だって。必要な知識は全部教えてただろ。俺がいなくても問題ないさ」
万が一俺が突然いなくなってもいいように教育はして来た。
実際最近は俺が指示しなくても皆自主的に動いていたから大丈夫なハズだ。
しかし村人全員不安げな顔をしている。
そりゃな。ここ十数年身近にいた守り神がいなくなるのは不安だろう。
いや本当に泣かないでくれ。
決意が鈍りそう。
「皆よ。不安な気持ちは分かるが緋蓮様は私達のことを思って眠りにつくことを決められたのだ。引き留めてはいかん。今までずっと私達を守って下さった緋蓮様に出来ることは、緋蓮様が心残りがないよう見届けることだ。そうであろう?」
すすり泣く声が聞こえる中、村長の息子が立ち上がって全員に問いかけた。
「し、しかしもし何か災厄が起こった時俺達だけじゃ……」
「何を言う。私達だけでも対処出来る方法を緋蓮様は教えてくれていただろう。その上緋蓮様は大雨が続いた時のために川幅を広げ、日照りが続いた時のために何カ所も溜め池を作り、敵襲があった時逃げ込め隠れられる場所まで作って下さった。これでも不足かもしれんと緋蓮様もおっしゃっていたが、だからといっていつまでも緋蓮様に甘えていてはならない。それでは緋蓮様は心さえ休まらん。オマエ達はそれでいいのか?」
「……」
次期村長の言葉に全員が黙った。
おおー、流石にしっかりしてるな。
5歳くらいの時から見てるけど、その頃からしっかり者なんだよね。
彼が皆をリードしてくれるなら安心だ。
「ありがとな。そう言ってくれて」
「滅相もございません」
「でもいきなりこんなこと言って混乱させてしまったのは事実だ。本当にすまない」
深々と頭を下げようとすると村の皆に止められた。
「緋蓮様に頭を下げさせるなんて」「そんなつもりじゃ……」「謝らないで下さい」
そんな声が聞こえてくる。
最初化け物と呼ばれたのにいつの間にかすっげー慕われてるな。
「緋蓮様、こんな時にまで私達のことを思って下さりありがとうございます。すぐに眠りにつかれるのですか?」
「いや色々準備したことがあるからそれが終わったらだ」
「分かりました。私達もそれまでに緋蓮熾翅神様がいなくとも大丈夫なように心を変えておきます」
「頼むな」
というワケで善は急げ。
話ながら思い付いたことを全部やるぞ。
先ずは村が全部入るくらいデカい俺の領域を作る。
これは前宿儺に教えて貰った結界術の応用。
領域というよりは縄張りって言う方が近いかもだけど、円を描くように印を置いて作っていく。
なるべく長く持つようにその印には俺の牙を使う。
牙を引っこ抜くのはめっちゃ痛いが、どうせ半日で生えてくるので我慢です。
ただ地面に埋めるだけにしようと思ってたんだけど、村にいる大工がちっちゃい祠を作ってくれることになった。
あらかじめ場所を指定しておいて祠が完成したらそこに牙を置く。
……牙置くだけだから質素でいいと言ったのにやたら立派だな。
祠を作るのも含め2週間かかったけどトータルで6ヶ所牙を置き準備完了。
そんでもって帳を下ろすような感じで印を結び領域を作る。
領域を作るために使うのは3年前から俺の中に宿ったよく分からん力だ。
宿儺も裏梅も感じたことがないらしい。
このよく分からん力が宿ってから【オキシジェン・デストロイヤー】の制御が楽になったんだよな。
よく分からん力に感謝です。
これで村人に危害を加えようと考えているヤツは非術師であろうが術師であろうが領域内にいる間ずっと圧迫感を感じることになる。
ただ呪霊の発生を抑制することは出来ないからそっちの対策には武器を作ることにした。
頭に生えている立派な一本角をバキッと折ります。
いってー! 前宿儺に角折られた時取っておけば良かった!
角も半日で生えてくるけど痛いものは痛い。
痛みに耐えながら折った角を槍に加工する。
リーチのある槍なら剣よりは安全に呪霊を祓えるハズだ。
柄の部分には俺の甲殻を使う。
これなら早々壊れたりしない。
なんか作ってたら楽しくなってきたな。もっとこだわって作ろ。
そしてお昼くらいから始めて夕方にようやく完成。
俺が見ても禍々しい見た目の槍。
突き刺さると微量の【オキシジェン・デストロイヤー】が放出するようにしておいた。
大抵の呪霊ならほぼワンパンだ。
宿儺が「特級呪具を易々と作るな」とか言いそうなものが出来たぞ。
やりすぎたー!
これ村人に渡して大丈夫? ドン引きされない?
「まさか緋蓮様が御身を削って武器を作って下さるなんて……。御神体として祀らせて頂きます!」
大丈夫でした。
俺の姿を受け入れてくれた人達だから心配なかったようだ。
「御神体にするなよ。強い呪霊が現れた時用に作ったんだから使えって」
「分かっております。もしその時が来たらすぐ使えるようにしておきます」
本当かな?
俺への信仰心がやたら強いから大事にしすぎて使わないんじゃないかと思っちゃうんだけど。
まぁ使うと言ってるんだし信じるか。
さて、これでやりたいことは終わったな。
準備の間に宿儺が帰ってきてくれたら良かったんだが、やっぱり帰ってこなかったな。
あの呪術師マジで宿儺に何言ったんだよ。
「俺はもう眠りにつく。もし宿儺が戻ってきたら“捜してあげられなくてごめん。けど何があっても宿儺は俺の家族だから、それだけは忘れないで欲しい”と伝えてくれ」
「分かりました。……緋蓮熾翅神様。私達はいつでも貴方様の帰りをお待ちしています。いつか目覚める時になったらまたここにいらして下さい」
やっべ。そんなこと言われたことないから泣きそう。
目覚めるのがいつになるのか俺にも分からないのに、それでも待っててくれるという言葉が嬉しい。
「……ああ、ありがとう。じゃあまたな」
もの凄く名残惜しいけど行かないと。
フワリと飛び上がって自分自身にも村人達にも後腐れないように急いで離れる。
絶対に後ろ振り返ったら駄目だ。戻りたくなってしまう。
振り返りたい気持ちを抑えるために正面だけを向いて、最高速度で飛び続ける。
俺飛ぶと【オキシジェン・デストロイヤー】ばら撒いてしまうからあんまり低い位置飛びたくないんだが、今回は俺の姿が見えるようにしないとだから細心の注意を払わないといけないな。
下で他の村人が「化け物だ-」って叫んでいる声が聞こえるけど想定内。
ようやく海まで辿り着くと、追ってきてたらしい呪術師が数人やってきた。
よしよし、計画通り。
「こ、こんなところまでやってきて何のようだ呪いの神!」
「何も? ただ俺はこれから寝るからオマエらにそれを知らせておこうと思っただけだ」
「……は? な、何故だ?」
「知らせておかないと俺を捜しに村まで来るだろ? だからだよ。これ以上村の皆に迷惑掛けたくないからな」
俺の発言に驚いた様子の呪術師。
コイツらあの時村に来てた呪術師じゃないな。
見かけたから追ってきただけみたいだ。
「貴様本当に呪いの神か? 呪いがそんなこと考えるなんて……」
「だから違うって言ってるだろ。確かに宿儺を倒したけど俺オマエらに何かしたか? ただあそこでのんびり過ごしたかっただけなのにいきなり押しかけて来やがって」
「……そうだな。我の耳にもオマエが人を殺めたという報告は入っていない。むしろ率先して非術師を守っていたと聞いておる」
おや? あの時のヤツらと違って話が通じてる。
一方的な意見押しつけるアイツらの印象が強すぎて考えてなかったけど、呪術師も千差万別みたいだな。
「その村ではオマエを農業の神として信仰しているそうだな。その姿とは似ても似つかないものだ」
「知ってること教えてたらいつの間にかな」
まんま鉄腕D○SHの知識だけどね。
他にも鯉の養殖とかしてたし(これはほぼ自分用)
「そうか。もっとよく調べるべきだったな。ただ呪いの王を倒した存在というだけで危険視するのは浅はかだった。すまない」
一番年上だと思われる呪術師が頭を下げ俺に謝った。
謝られると思ってなかったからビックリ。
けどこれなら言伝を頼んでも問題なさそうだな。
「悪いと思ってるなら村の皆にはもう手を出さないでくれ。そんでもって俺は海の中……誰も来られない深いところで眠りについたとお偉いさんに伝えて貰えるか?」
「承知した呪いの神……いや緋蓮熾翅神」
「頼んだぜ呪術師さん」
俺は海に飛び込んでとにかく深く潜る。
ここまで深いところに来るのは初めてだな。
けど元水中生物だから苦しくないし、水圧も硬い甲殻のお陰で問題ない。
そして光が一切届かない深い海底へ辿り着くと穴を掘ってその中に入る。
元々眠るのは好きだから苦じゃない。
いつ起きるか自分でも分からないほど意識を深く落とす。
冷たい海の底で俺は静かに眠りについた。
◇◆◇◆◇
眠り続けてどれくらいだろうか。
恐らく数百年単位で眠っているんだが、眠っている間にやらかしました。
状況から考えれば仕方ないことなのだろうが、眠っている時に
《Hey、そこの君! 条件満たしてるから神になっちゃわない?》
という声が聞こえた。
眠っていた俺は特に何も考えずに答えた。
ご自由にどうぞ、と。
そしたらギッチョン。
《じゃあOKってことでいいよね。やったぁー嬉しい! こういう場合本来は下位神からのスタートになるんだけど君の力でそれは勿体なさ過ぎるから僕の権限で最上位神にしてあげるNE☆》
…………。
What’s!?
え、え、ええ!?
ちょ……待って、それマジ!?
何て混乱していたら本当に神格化したらしい。
眠っているのに力がもの凄く強くなったのが分かる。
適当に返事するんじゃなかったーーーー!!!
い、いらない。いらないですそんな力。
今すぐお返しします!
《無理でぇーす♪》
ちっくしょー! 返却不可かよ!
てか何だよこの調子の良い神様は!
こんな神様いていいの!?
それよりどんな神になったんだ?
神なら何かしら司る力があるよな。
《破壊とね、後ずっと農業の神として信仰されてたからそっちの力もあるよん》
あっ、教えてくれるのね。それはどうも。
つまり破壊と農業の神ってことね。
元々持っていた力と何で信仰されてかで決まるっぽい感じか。
……いや、破壊と農業って全然分類違うじゃん! そういうのありなの!?
《ありだよー》
そうですか。
まぁなっちまったもんは仕方ない。
新米の神様として頑張るとするか。
《頑張ってね。応援してるよ♡》
あ、はい。頑張ります。
てかその前にいつ目が覚めるのか分かんないんですけど。
すっげー騒いでるけどまだ休眠中です。
どれくらい寝てるんだろ。
結構長い間寝てると思うが……。
その時宿儺の気配を感じた。
え? 何で突然宿儺の気配がしたんだ?
宿儺はあれだけ強くても人並みの寿命しかないって前に言ってたからもう死んでるハズ。
けどこれは間違いなく宿儺の気配だ。
でもすぐ気配が小さくなってしまってどこにいるかまでは分からない。
どこにいるんだ?
事情はどうあれ今度は捜しに行きたい。
捜して見つけて、あの時直接言えなかったことを言ってやりたい。
俺は休眠状態を解除し体を起こす。
流石に動き辛いな。
長年動いていなかったから当然か。
急いで捜しに行きたい気持ちを抑えてゆっくりと体を慣らす。
いきなり戦闘になることも踏まえて時間をかける。
ようやく問題ないと思えるくらい動けるようになると海面目指して浮上した。
ふう、久し振りに海から出たな。
全身が濡れていてうまく飛べなさそうだから泳いで海岸へ向かう。
陸に上がると改めて宿儺の気配を探るが、やはりどこにいるか分からない。
でもいるのは間違いないから身を潜めてまた気配が強くなるのを待つことにした。
山に入って斜面に穴を掘りそこに隠れる。
しかし大分眠ってたみたいだな。建物がもう近代的になってる。
今何年くらいだろう?
それを調べるには人里に降りないと何だが、この姿だと無理だよな。
神になったらしいけど見た目は全然変わってない。
デストロイアの姿好きだから嬉しいことだが、人の姿に変身とか出来ないみたいだ。
別に変身出来なくてもいいけど情報を得る手段が欲しい。
なんかいい方法ないかな。
うんうん考えていると宿儺の気配がまた強くなった。
今度はすぐ小さくなってないな。
これなら捜しに行ける。
隠れていた場所から出て宿儺の気配がする場所まで全速力で飛ぶ。
もたもたしてるとまた見失ってしまうから急がないと。
しばらくしてようやく宿儺がいると思われる場所までやってきた。
でも帳が降りていて入ることが出来ない。
どうしようかなー。
うん、悩んでいる時間勿体ないからぶっ壊そう。
帳下ろした人ごめんね。
尻尾で思いっきり叩くとバキンと大きな音を立てて帳が壊れた。
帳が壊れ、中の様子が露わになったその場所に宿儺がいた。
……あれ? なんか姿違う。
腕4本じゃないし、体も小さい。
けど宿儺であることは間違いない。
俺はすぐ宿儺の目の前に降り立つ。
「宿儺、やっと見つけた」
俺の姿を見て明らかに驚く宿儺。
目をこれでもかと言うほど見開いている。
「あ……緋蓮……」
しかし久し振りにあった宿儺は俺を兄とは呼んでくれなかった。
いや、呼ぼうとはしてたけど止めている。
「どうした? もう俺のこと兄と呼んでくれないのか?」
「俺は……オマエをもう兄と呼べぬ」
そう言った目はとても悲しいものだった。
やっぱあの呪術師9分の1殺しにするべきだったか。
宿儺にこんな目させやがって……絶対に許さねぇ。
え、それもう死んでるって?
聞こえないな。
「宿儺が呪術師から何か言われたのは知ってる。何を言われたんだ?」
「覚えておらん。ただ……いや、何でもない」
「宿儺?」
宿儺は完全に口を閉ざし黙ってしまった。
言おうか迷っているのではなく言いたくないんだろう。
……時間が経ちすぎたんだ。
もう元の関係には戻れないかもしれない。
「宿儺、ごめんな」
でもせめて償いはさせてくれ。
「は……? な、何故あ…緋蓮が謝る」
「弟のオマエを守れなかったからだ。俺は兄失格だ」
宿儺が一度や二度呪術師に何かを言われたくらいでショックを受けるとは思えない。
きっとそれより前に何かあったはずだ。
これまで一人で生きてきた宿儺は人に弱っているところを見せたがらない。
でも些細な変化くらいはあっただろうに俺はそれに気付いてやれなかった。
「苦しんでいるのに気付いてあげられなくてごめん。こんな不甲斐ない兄じゃ愛想尽いちゃうよな。なのにそれにも気付かずに兄貴面して悪かった」
「緋蓮……」
「けどやっぱ俺にとってオマエは大事な弟なんだ。最後くらい兄としてオマエを苦しみから救ってやりたい。勿論これはただのエゴだ。宿儺が嫌がるなら強制はしないし、もう二度と姿を見せるなって言うならその通りにするから」
「……」
俯いたまま動かない宿儺。
どんな顔をしているのか見えない。
しばらくしてようやく顔を上げてくれた。
……え? なんかめっちゃ泣きそうじゃね?
「緋蓮を不甲斐ないと思ったことなど一度もない。むしろ……尊敬していた。村にいる全てのものから慕われ、畏れられる偉大なものだ」
すっかり重くなった口を宿儺はようやく開く。
おお? 宿儺が素直にこういうこと言うの初めてだな。
その証拠に顔が若干赤い。
「いつからか自分でも分からん。だが気が付けば俺は緋蓮を兄のように慕っていた。緋蓮の傍にいるのが心地良い。何があっても守ってくれるのだと安心する。弟だと言ってくれる度に嬉しいと思うようになった」
確かに弟って言うと嬉しそうな表情してたな。
最初のうちは恥ずかしいって気持ちのほうが勝ってたみたいだけど。
「だがそれと同時にかつて緋蓮の家族を殺した自分が憎くなった。緋蓮が愛している家族を身勝手に殺した己を呪わずにいられなかった」
「……」
あの襲撃の時のことか。
宿儺は村人を何人か殺している。
実際身内を殺された村人は宿儺を村に置くことに反対していた。
最終的には納得してくれたけど、それでもしばらくは宿儺に対しかなりの憎悪を持っていた。
変わった宿儺を見て、いつの間にかなくなっていたらしいが……そうか。
ずっと罪悪感を感じていたのか。
「だが償い方など知らぬ。どうしていいか分からなかったが、このようなことを緋蓮に言っても良いのかどうか迷っておった。そんな時に呪術師が村に来るようになった」
「俺を封印するためにだろ。そう言ってたし。……もしかしてかなり前から村に来てたのか?」
「ああ。呪術師には面倒なヤツがおらん。そんなヤツらとただ穏やかに過ごしていたいだけの緋蓮を接触させたくなかった。だから追い返していた。その中の一人に何かを言われたのだが……本当に何も覚えておらん。気が付いたら裏梅を連れて村から離れていた」
覚えていないのはあまりにもショックが大きすぎて記憶から消してしまったんだろう。
しかも気が付いたらって……それほどショックだったのか。
「それからは夢現のような感じで……久方振りに意識が戻ったと思えば1000年以上経った時代に受肉していた」
それまで意識もほとんどなかったってこと?
精神状態ヤベぇだろ。
てか1000年以上も俺寝てたのかよ。
いくら何でも寝過ぎー!
「夢現の間、自分が何をしていたのかも分からぬ。もしかしたら緋蓮の言いつけを破っているやもしれん。緋蓮の信頼を裏切っておる俺に緋蓮を兄と呼ぶ資格などない。……さっき言ったのはそういうことだ。だから緋蓮も俺を弟などと呼」
「あ、それは無理」
「は?」
宿儺の言葉を即刻切って声を出す。
久し振りに「コイツ何言ってるの?」って顔してるが、無理なものは無理だ。
「な、何故だ? 今の俺の言葉を聞いていただろう」
「聞いたぞ。でもそれを聞いても俺の気持ちは変わらない。それよりごめんな。やっぱあの時すぐ捜してやるべきだった。そうすればオマエはここまで苦しまなかっただろう。すまない」
事情を聞いても宿儺が俺にとって大事な家族であるという気持ちは揺るがない。
むしろ本当に申し訳なく思う。
あの時の状況を考えれば仕方なかったことだけど、それでも待たずに捜してやるべきだった。
「緋蓮が謝る必要なかろう。緋蓮はただでさえ守るものが多いのだ。俺にばかり気をかけていられないのは当然だ」
「それでもさ。それに守るものが多いって言ってもオマエは特別だ。村の皆を家族って言っていても弟だとハッキリ身内と呼んでいるのはオマエだけなんだぜ。裏梅は弟の友達って感じだな」
村の皆のことも大事だけど、近しい名称で呼んでいたのは宿儺だけだ。
だから村の皆も宿儺のこと弟君って呼んでた。
「……何度も言うが裏梅は友ではないぞ?」
「そういう感じだって。だから優先するのは当たり前だろ。でもあの時それを選択しなかった。本当に兄失格だな」
ゆっくり宿儺に近付く。
そして宿儺の真正面まで来ると膝を地面についてしゃがみ、宿儺と視線を合わせる。
ふいっと目を逸らすが嫌がっている様子はない。これなら大丈夫そうだな。
俺は腕を宿儺の背中に回してそっと抱き締める。
「何をしている。離せ」
そうは言っても振り解く素振りはない。
本気で嫌な時はすぐ拳が飛んでくる。そうしない時は宿儺が甘えたい証拠だ。
「離しません。なぁ宿儺、もう一度チャンスを……機会をくれないか? 今度は兄としてしっかりするから戻ってきてくれ。1000年以上経ってる今じゃ俺の家族はオマエしかいないんだ。オマエまでいなくなったら寂しいよ」
あの村はどうなっているか分からない。
もしかしたら過疎化でなくなっているかもしれない。
子孫は残ってるだろうけど、俺の知っている人達じゃない。
俺が家族と呼んだ人はもう宿儺だけ。
宿儺までいなくなったら俺マジで立ち直れる自信がない。
「……機会も何も俺は緋蓮を見限っていない。緋蓮こそこんな呪われた俺を弟と呼んで良いのか?」
「呪いなら祓えるだろ。オマエにかかっている呪いの量を考えれば時間はかかるだろうけど俺も協力する。オマエ1人で背負う必要はないんだ」
「……」
「それに俺は破壊の神だから宿儺の呪いも壊せるかもな。だから大丈夫。いつか普通に生きられる時が来るさ」
宿儺の体から力が抜けて俺に完全に寄りかかる。
チラッと宿儺を見ると泣いていた。
下手くそな泣き方だ。
泣いたことがないってすぐに分かるな。
見られるのは絶対に嫌だろうから翼を使って姿を隠す。
それに安心したのか宿儺は話し始めた。
「緋蓮の部下になって俺は知らなくて良かったことを知った。誰かに守られている安心感というものを初めて感じ、無償の愛情を与えられる幸福感を知った。……もう知らなかった頃には戻れぬ」
知らなくて良かったことか。
そうだよな。
あの村に来て俺と対峙し、敗れなければ恐らく永遠に知らなかったことだ。
全うに愛されて嫌な思いをするヤツはほとんどいないとは思ってるけど、宿儺もそうであって良かった。
「何かあったら相談しろと言われていたのに、何も言わずにいなくなって悪かった……。
兄上の信頼を……裏切ってしまって、すまない。
勝手な、ことだとは重々…は分かっておる。
だが、俺を……見捨てないでくれ。
今兄上に見捨てられたら俺は……どう歩んで良いのか分からん……」
まるで迷子の子供のように宿儺は泣きじゃくる。
というかそのものだな。
生きる指標さえ失っていたんだな。
唯一残されたものに縋るのは当たり前だ。
「心配しなくても見捨てたりしないよ。自分の道が見つかるまで俺の傍に良いし、俺もちゃんと協力してやるからな」
「ありがとう……」
「うん。じゃあ喧嘩してたワケじゃないけど仲直りな」
「ああ……」
もう宿儺泣き止んでるし、これで一件落着かな。
宿儺の頭をそっと撫でて腕を解いた。
そして改めて冷静になり、周囲を確認した俺は宿儺に訊いた。
「ところでこれどういう状況?」
「……」
目が覚めてから宿儺を捜すことしか考えてなかったから今どういう状況なのか全く分からん。
なんか所々戦闘した痕跡はあるけど何があった?
「てか今気付いたけどオマエ何で胸に穴空いてんの!? 心臓ないじゃん! 誰にやられた!?」
「これは自分でやった」
「何でだよ! とりあえず痛々しいから今すぐ治せ!」
「しかし……」
「早くしろ!」
「……はい」
宿儺が反転術式で胸の傷を治したのをしっかり確認する。
よしよし。心臓もちゃんと動いてるな。
これで心置きなく話せる。
「で。何があったんだ?」
「いや……」
言い淀んでいるってことはなんか悪いことしたな。
俺に絶対怒られるのを。
ここは後ろにいるヤツに訊くとするか。
「おい、そこに少年。何があったか話せるか?」
後ろにいるのはウニみたいな癖毛の中学生……高校生1、2年生くらいの少年。
怪我してるけど重傷ってワケじゃないし話せるだろう。
「訊いてどうするつもりだ緋蓮熾翅神」
「それはこれから決める。とりあえず話してくれないか?」
「……分かった」
そして俺はその少年、伏黒恵から何があったのか詳しく聞いた。
ふむふむ。成る程ね。
よーく分かりました。
「宿儺」
「兄上……これは」
「俺に迷惑掛けるのはいいが人様に迷惑掛けるんじゃない!!」
――ゴツンッ!!
「っ!!」
宿儺の頭に怒りの一撃をぶち込む。
何だそりゃ!
道を見失って自暴自棄になっていたのだと思うけど、どう考えてもやり過ぎだ!
「虎杖悠仁って子はオマエの指取り込まざるを得ない状況だったんだろ!? なのにどういう言い方だよ! もっと別の伝え方あるだろ!」
「し、しかし此奴は呪いのことを甘く見過ぎていたから身の程を分からせようと」
「これまで呪いに全く触れてこなかった一般人が2週間足らずで呪いの怖さなんか分かるか!! 今すぐ悠仁に謝れ!!」
「わ、悪かった小僧」
「はい! 名前で呼ぶ!」
「……すまん虎杖悠仁」
約1000年振りのお説教。
多分女性のこと小馬鹿にして以来だな。
俺が宿儺に説教しているのを見た恵が宇宙背負ってるみたいだが、呪いの王として有名な宿儺が説教受けているのを見たらそうなるか。
「よし。じゃあ俺も謝るから悠仁に変わってくれ」
「は? 何故兄上が」
「オマエが自暴自棄になったのは俺のせいだからな。変わってもオマエ話せるんだろ?」
「ああ。分かった」
すうっと体から刺青のような模様が消え、髪も落ち着いた感じになる。
顔もなんか年相応の少し幼げな印象になった。
「虎杖悠仁君でいいかな?」
「お、おう」
「俺は……」
と、自己紹介しようとして今世で自分から名乗るのは初めてだと気が付いた。
どう言ったらいいんだろう?
まぁ思い付いた通りに言うか。
「俺はデストロイア。神としての名前は緋蓮熾翅神。どっちでも好きなほうで呼んでくれ。個人的にはデストロイアのほうが嬉しいけど」
「じゃあデストロイアって呼ぶな。アンタが五条先生が言ってた両面宿儺を唯一倒したっていう神様か。悪魔とドラゴンが混じったみたいな姿してるらしいって聞いてたけど、かっこいいな!」
「お! それは嬉しいね。あの時代だと化け物って呼ばれることがほとんどだったから。それよりすまなかった。俺のせいで酷い目に遭わせてしまった。申し訳ない」
頭を下げる俺を見て後ろにいる恵が驚く。
俺が頭下げると大抵の人驚くんだよなー。何でだ?
「いいって。俺が自分で選んだんだから。それよりずっと宿儺が寂しがってるっていうか、無理してるような感じしてたから不思議に思ってたんだ。今日謎が解けたよ。案外寂しがり屋だな宿儺って」
「……何をふざけたことを言っているのだ小僧。そんなワケなかろう」
「デストロイアに会えないからヤケクソになってたんだし実際そうだろ? 宿儺すっげーデストロイアのこと大好きじゃん」
「はっ!? 小僧、いい加減なことを」
「俺も宿儺のこと好きだぞ。大事な家族だからな」
「……チッ」
「めっちゃ分かりやすく照れてるな」
「はははは。宿儺そう言われるの慣れてないから仕方ない。俺は母親がアメリカ人だったから慣れっこだけど」
「え? デストロイアって親人間なの?」
「前世が人間だったんだ」
「で!? マジ!?」
「マジマジ」
前世が人間であること、実はほぼ隠してない。
宿儺に以前「何故そんな知識を持っている?」と質問された時下手に隠そうとしたら逆にボロが出てしまったのだ。
それ以来うっかり口か滑ったりとか疑問に思われたりしたら隠さないで話してる。
とはいえ今までそれを話したのは宿儺と裏梅だけだが。
しかし悠仁は人懐っこい性格だな。
完全に宿儺と真逆。こりゃ俺が来るまで相当険悪な仲だっただろう。
「……兄上ほど人間臭いものはおらんぞ。しかし兄上に名があったのか。初めて聞いたが」
「特に訊かれることなかったし、言わなくても支障がなかったから言わなかったんだ。それに名前ってよりは種族名に近いしな」
「「種族名?」」
「そうそう。1995年に俺の同種が東京で大暴れしたことがあっただろ。あっちのほうが断然体大きいけど」
「??? え、そんな事件あったっけ? 俺知らないんだけど伏黒知ってる?」
「俺も知らない」
「へ?」
え、え、ええ!?
2人とも知らないなんて、そんなことある!?
かなりの大事件だよな? 東京壊滅しかけてるんだ。
今2018年だって恵言ってたし歴史にも載ってるハズ。
あ、もしかして発生した年代が違うとかある?
それなら知らなくて仕方ない。
「けど流石にゴジラの名前は知ってるだろ。大怪獣なんだから」
「「知らないな」」
「……」
……嘘だろ。
ゴジラの名前さえ知らないなんて俺がいた前世の世界ではあり得ない。
ゴジラ作品に興味がなくても絶対に一度は耳にしたことがある名前だ。
ゴジラがいる世界なら尚更あり得ない。
だって世界中が何とか倒そうと奮闘している脅威の存在。
考えられる可能性はただ一つ。
「まさか俺異世界転生して異世界転移してるの!? どういうことだよそれ!!」
俺の発言にこの場にいた全員が驚く。
過去にトリップしてるとは思ってたけど、異世界転移してるなんて誰が気付くか!
いや、でもよくよく考えれば気付ける要素はあった。
だってゴジラの世界に呪いという理があったら、ゴジラの世界は呪霊がわんさかいることになる。
映画観てるだけでも分かる。
怪獣が現れるだけでどれほど負の感情が発生するのか。
年単位で呪霊が大量発生することになるんだから、いくら呪術師がいても足りるワケない。
即行で過労死するわ!
それに絶対にいるじゃん!
ゴジラへの恐怖で生まれた特級呪霊とか!
……。
え、それなんて白目ゴジラですか?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・デストロイアに生まれ変わった主人公
死んだと思ったらゴジラの世界にデストロイア微小体の1体として転生。
転生後、他の微小体が起こしたシャフトの溶解による崩壊で発生した時空の歪みに飲まれ呪術廻戦の世界に転移した運が良いのか悪いのか分からない人。
実は界渡りの際【オキシジェン・デストロイヤー】の性質が変化していて酸素だけではなく呪いまで破壊出来るようになっている(本人知らず)
転生してすぐは生きることに必死だったが、幼体に成長後は食糧確保のために人間と交流しようと模索。
無事に交流出来るようになったので、牛を効率よく育てて貰おうとテレビで得た農業の知識を教えていたら神として信仰されるようになる。
最初は赤甲の蟲神。
完全体になってからは技名と、主人公が持ってきた蓮が赤い花を咲かせたことから緋蓮熾翅神と呼ばれるようになる。
村にやってきた1級呪霊を命からがら倒しその呪力を吸収して中間体へなり、そして呪いの王両面宿儺と対峙した際に両面宿儺のエネルギーを摂取したことと【開】の爆炎を受けたことで完全体へと進化。
1個体で成長したために分裂体になることは出来ないが、スペックは劇中のデストロイアとほぼ同じ。
快、不快でのみ判断する宿儺に人の情を教えようと接していたら本当の弟のように思うようになった。
人間だった時は5人兄妹の長男だったので根っからのお兄ちゃん属性。
あの両面宿儺でさえ主人公の前ではただの弟になってしまう。
間違いなく呪胎九相図1番の脹相と仲良くなる。
穏やかでのんびり屋だけど曲がったことが嫌いな性格。
特に身内を傷付けられることに激しい怒りを感じ、一度その怒りに火が付くと手が付けられないほど凶暴になる。
神格化後は制御出来るようになったが、それでも激昂すると大変なことになるので怒らせない方がいい。
破壊の神であるが、1000年以上もの長い間農業の神として信仰されていたのでそちらの力もある。
雨乞いや痩せた土地を蘇らせる力も持っているので農業の神の力も相当強い。
小説内で言っていた“よく分からない力”は信仰されたことで得た神性であり、この神性が宿ってから【オキシジェン・デストロイヤー】の制御が格段に楽になった。
しかし完全なる神へと至ったことでデストロイアとしての進化は止まっている。
とはいえ神の力はまだまだ昇華出来るので、すでに両面宿儺より強いのに成長の余地があるヤベーヤツ。
ちなみに村に作った領域は神格化した時から神域に変化しており、呪霊の発生もほぼなくなり村に危害を加えようという意識がないものにとってはもの凄く居心地の良い空間になっている。
生まれて1000年以上経ってようやく自分がゴジラという作品もゴジラもいない世界に転移していると気付いた。
本物のゴジラに会えるかも、とワクワクしていたからめちゃくちゃショックを受ける。
「俺の生涯の楽しみがーーーー!!!」
・お兄ちゃん大好きな両面宿儺
最強の呪いの王。
呪霊ではないのに異形な姿をした蟲神と呼ばれる存在がいるという噂を耳にし、興味本位で足を運び主人公に出会う。
敗れたからには勝者に従うのが自然と主人公の部下になったが、まさかあのように接せられるとは思わず最初は不快で仕方なかった。
だが自分を普通の人として扱ってくれる主人公に次第に絆されていき、いつの間にか兄のように慕うようになる。
主人公の前ではただの人として過ごせるので傍にいることを望んでいたが、かつて兄の家族を殺した罪悪感に苦しんでいる時にある呪術師に言われたことが原因で心神喪失状態になってしまう。
気が付いたら裏梅を連れて村から離れ、気が付いたら呪物となって眠っていた。
受肉の際に意識を取り戻したが、自暴自棄になっていたことで本編の宿儺と同じ行動を取っている。
主人公と再会し、受け入れて貰えたことでようやく落ち着きを取り戻す。
指摘されると怒るけど唯一の理解者である兄のことが大好き。
そしてそんな兄を「かっこいい」と言った虎杖悠仁に対して好感度が上がっている(大体初対面の人には化け物と呼ばれるため)
ので本編より仲良くなる。
「チッ、兄上に対し馴れ馴れしくするな小僧。まぁ無礼な態度を取るよりマシだが」
・こっちもいつの間にか絆されていた裏梅
両面宿儺の忠臣である呪阻師。
最初は警戒しまくっていたが、褒め上手であり分け隔てなく接する主人公に自然と心を許すようになる。
宿儺が村から離れた時、何度も帰ろうと進言していた。
宿儺が呪物となることも止めることが出来ず、自信を失いながら自分も呪物となって眠った(本編で明確な描写はないがそういうことにした)
現在は本編同様呪阻師側にいるけど、これは宿儺を完全復活させて主人公と再会させるためであり、その必要がないと分かれば主人公側に戻ってくる。
「宿儺様と緋蓮様を悪く言うものは殲滅してもよろしいでしょう?」
・スペキャしてた伏黒恵
目の前で行われているやり取りに理解が追いつかなくて宇宙を背負ってた人。
呪いの王を唯一倒した呪いの神と呼ばれる存在のことは知っていたが、まさか目の前に現れるとは思わず動くことが出来なかった。
突然声を掛けられ更に驚くも、見た目はともかく話しやすい感じがして今までのことを素直に打ち明けた。
「任務中すみません五条先生。今すぐに帰ってきて下さい」
・本編の主人公虎杖悠仁
宿儺と変われないし、心臓取られちゃったし、伏黒は死にそうだし、どうしたらいいのか分からなくなっていた所に悪魔とドラゴンが融合したような真っ赤なヤツが現れてビックリ。
しかもそれが五条先生が言っていたかつて宿儺を倒した緋蓮熾翅神という神様だと気付いて更にビックリ。
どんなヤツなのかと思いきや、ただの弟思いのお兄ちゃんで宇宙を背負った。
宿儺も一気に丸くなったし、こんないいお兄ちゃんが近くにいるなら大丈夫そうだと思ってる。
「いやいや。どんなに否定してもお兄ちゃん大好きオーラダダ漏れだからな」
・主人公を最上位神にした自由奔放な存在。
面白いのないかなーとうろうろしていたら、神格化の条件を満たしている主人公を発見。
この子が神格化したらめっちゃ楽しそう! と主人公に念話で話を持ちかけた。
「こんな人間臭い神いないんだよねー。僕の領域にやって来て欲しいな♪」
続かない☆
小説内で破壊した特級呪物は獄門疆ではありませんのでご注意を。
前編でも書いた通り、偶然見つけたゴジラのエナドリを兄に勝手に飲まれた怒りから生まれた小説です。
私はゴジラの敵怪獣でデストロイアがダントツ好きです。
他は甲乙付けがたいけど、強いて言うならメガギラスが2番目かな?
ゴジラならFWゴジラが好きですね。
記憶はちょっと怪しいですが、最初に見たゴジラ作品はVSシリーズのゴジラVSモスラです。
でも映画はゴジラVSスペースゴジラが好き。
なるべくデストロイア本来の設定から逸脱しすぎないように資料を読み漁りました。
久々に調べ物しまくって楽しかったです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇