緋紗奈のブログ

緋紗奈のブログ

このブログではモンハンやデジモン
日常で起こったことを自由気ままに
マイペースで描いています

どうも、こんばんわ。緋紗奈です。

実は私6月末に奥歯を抜きました。

前から痛みがあったんですけど、歯茎に炎症が起こるようになって痛くて仕方なく、嫌いな歯医者に行ったら奥歯に罅が入っていてそれが歯茎や歯根周辺の骨を圧迫していたらしい。

それでもう抜くしかないってなって処置をしました。

しかし……たった一本抜くだけなのになんと一時間も掛かってしまった……。

どうやら罅が入って結構な時間が経っていたせいで歯と骨が癒着してしまい、抜くのが困難な状況になっていたみたいです。

麻酔してるのに処置している間痛かった。

何とか抜こうと先生が歯をグリグリしていたから圧痛がとんでもないことに……。

やっとの思いで抜けたけど……一時間も口を開けっぱなしだったため顎の疲労が……(´;ω;`)

 

で、ここからが更に大変なことに。

 

なんと抜いた個所が熱を持ってしまい38度超えの発熱。

あまりに一気に発熱したためにまるで真冬の外に肌着でいるような寒さに襲われ体の震えが止まらなくなり、急いで行きつけの内科へ受診しました。(処置した歯医者へ相談済み)

今まで2度親知らずを抜いたんですけどこんなことにならなかったのになー。

体の震えが2時間近く止まらなかったから全身筋肉痛になり、しんどくて翌日の仕事休みました。

 

 

そんなこんなでしばらくまともにご飯が食べられなくてやっと普通にご飯が食べられるようになったのは先週の話。

しかしまだ違和感がある。

抜いた側では硬いものを食べられないし、なんかゆっくりしか食べられないので食事のスピードが前より遅い。

今は大分マシになりましたが、いやはや本当にしんどかったです。

お陰でフレンチトーストの作り方が上手くなりました(柔らかいモノしか食べられなかったのでふわふわのフレンチトースト作って食べてたので)

 

「おおーすげー! まさか優勝メダルを間近で見られるとは思わなかった!」

「次俺にも触らせてくれ!」

「ああ、いいぞ」

 

体育祭が終わりHRがあるという事で教室へ向かう道中クラスメイトに頼まれて優勝メダルを見せた。

今までは体育祭にも大会にも出なかったから私もこういうものを貰うのは初めてだ。

あれを叩き潰したかったのと、陽佳に私がいかに恐ろしい化け物なのか理解させて諦めさせるのが目的で一等を取ったのは正直おまけのようなものだが。

 

「極夜さーん!」

 

そう思っていたら陽佳が満面の笑みでこちらへやってきた。

あれ? 何か予想していた反応と違う。

 

「高山やっぱ来たのね。どうだった? 愛しの彼の姿は」

「もう最高にカッコよかったです! 試合中ずっと心臓バクバクでした! ますます好きになっちゃいました!」

「え゛?!」

 

か……かかかカッコいいだと?

しかも好感度が増している!?

何故そんな状態になっている!?

 

「極夜。悪いけど俺も本気のお前が戦っている姿を見て抱いた感想はカッコいいだったよ」

「は!? 嘘だろ!!?」

「本当」

「俺もそう思ったぜ」

「僕も」

「うちも……そう思いました」

「あれだけ異質な力を見たのにか!?」

「緑谷みたいに“個性”の反動で自傷してボロボロになってたんなら違ったんだろうけど、新月は完璧に使いこなしてたじゃねえか。素人目に見ても技の使い方、相手との位置取り、戦略、どれも最高レベルだった。達人級に力を使いこなす様を見たら誰でもそう思うだろ」

「そ…そんな……」

 

なら陽佳に逆効果を与えてしまっただけではないか。

諦めさせるために勝ち上がったのに意味なかった……。

 

「それにしてもあの爆豪勝己って人は緑谷さんに何を言ったんですか? あの時の会話聞こえてましたけど極夜さんがめっちゃ機嫌悪かった理由それですよね?」

「ん? 俺達は何にも聞こえなかったけど何言ってたんだ?」

「どうも爆豪勝己が昔緑谷さんに極夜さんが絶対に許せない事を言っていたみたいなんです。極夜さん身内を傷付けられるのを凄く嫌っていますので、その時の怒りをぶつけて爆豪勝己に謝罪させようとしていたんです。まぁ謝る様子も反省する様子もありませんでしたけど」

「耳良いんだな」

「ウサギなのであれくらいの距離の会話ならばっちり聞こえますよ」

 

しかもあの会話聞こえてた。

成長と共に聴覚も更に鋭くなっていたのか。

私が今日やった事全て無に帰したんだが……。

 

「何言ったんだあいつ」

「……一応ヒーロー科だから言わないでおくが私でなくとも友がああ言われていたら皆キレるだろう。あの当時は本当に殺したかった」

「そ、そんなにヤバい発言だったのか」

 

何せ本当に出久が身投げしていたら自殺教唆だからな。

だが今思えばあの時叩き潰していなくて正解だった。

お陰であいつに最大の屈辱を味わわせてやれた。

 

「高山また普通科のとこにいたのか。ほら教室戻るぞ」

「はい。それじゃあ私行きます。遅くなりましたが極夜さん優勝おめでとうございます!」

「あ……ああ」

 

去って行く陽佳を何とも言えない気持ちで見送る。

どうすればいいんだ。

もう自分ではいい方法は思いつかない。

 

「可愛げもあって良い子だよなー高山って。あんなにお前の事好き好きって言ってるんだし付き合えば? 両想いじゃなければ付き合っちゃいけないなんて決まりないぜ」

「そうそう、付き合ってるうちに好きになるかもしれないじゃん。思い切ってOKしてみよう!」

「……それは」

 

私が陽佳を拒んでいるのは好きとか嫌いとかそういう理由ではないんだ。

存在自体が害である私が傍にいたらあの子を苦しませてしまう。

好きだからこそ、苦しませたくない。

……自分が諦めるのは簡単なのに何故諦めさせるのは難しいんだ。

 

「うちもそれがいいと思う。新月さん自分で気付いていないだけで高山さんの事好きだもの」

「!!?」

 

自分の気持ちを言い当てられて思わずびくりとした。

しかも疑問形ではなく確信を持って言っている。

 

「何でそう思ったんだ?」

「うち大学生のお兄ちゃんがいるんだけど、ちょくちょく彼女を家に連れてくるの。お兄ちゃんが彼女と一緒にいるところうちもよく見るんだけど目が一緒なの。お兄ちゃんが彼女を見ている目と新月さんが高山さんを見る目が。だから新月さんも高山さんの事好きなんだなって思って」

 

成程。身近にそういう人物がいるのか。

それにしても目が一緒だと?

自分がどんな目で陽佳を見ているかなんて考えた事もなかった。

目だけで気持ちが分かる程私は陽佳を好いているというのか?

 

「あ、これ自覚したんじゃね?」

「本当だ。肌が黒いから分かりにくいけど赤くなってるな」

「反応もそんな感じするわ。自覚したんならサクッと気持ちを伝えよう。男らしくドーンとね!」

「……ち、違う。私はそんな事思って……」

 

驚きすぎて感情がセーブできない。

お陰でクラスメイトに気付かれた。

早く落ち着かないと不味い。

 

「……極夜」

「何だ人使」

「あのさ……今の一連の会話。多分高山に聞こえてるぞ」

「え゛」

 

言われて人使が指差す方向を見ると陽佳が目を見開いてこちらを見ていた。

距離は100m以上離れているが、ステージでの会話が聞こえていた事を考慮すると間違いなく聞こえている。

………………………終わった……これ……。

 

「高山ー! 新月捕獲しておくから絶対放課後C組来なさい!」

「!!!!」

 

委員長がそう言うと陽佳は笑顔で手を振って答えた。

逃げようとしたが時すでに遅し。

クラスメイト数人から拘束された。

 

「や、止めろ! 放せ! 放してくれ!!」

「はいはい。諦めて腹くくりましょうねー」

「ぐっ……」

 

本気で振り解けば勿論抜け出せる。

だがそうするとクラスメイトに怪我をさせてしまう。

爪の一撃だけでも人間には虎にひっかかれたようなものだろうからそんな怪我させたくない。

 

「人使……今から入れる保険はあるだろうか?」

「保険ってのは前もってかけておくものだぞ」

「知ってる……」

 

何故こんな事に……。

頼む。数分前に戻してくれ……。

 

 

 

 

 

HRが終わり下校時刻となったが、委員長の宣言通り私は捕獲されている。

影に逃げたいが上手い具合に照明で影を消されているので逃げられない。

本当に腹をくくるしかないか……。

 

「極夜さん」

「……陽佳」

 

そこへ陽佳がやってきた。

今まで見た事ない様々な感情が混じった表情をしているな。

だが不安よりは期待の方が高そうだ。

 

「よし、高山が来たから私達はお暇するわ。ちゃーんと話し合いなさいよ」

「分かっています。ありがとうございました」

 

クラスメイトは教室から出て行ったが覗き見する気満々ではないか。

教室の外からこっそり見ているのが分かるぞ。

そんな状況で話し合うのはかなり嫌なのだが仕方ない。

 

「えっと、あの時の会話……聞こえていました。その……そう思っていい……ですよね?」

「……ああ」

 

ここは素直に認めよう。

陽佳を好いているのは紛れもない真実だからな。

 

「いつからです?」

「知らない。自覚したのは調理実習でアップルパイを作った時だが」

「結構前……ですね。どうして黙っていたんですか?」

「私はいるだけで害を与える存在だから言うつもりがなかった」

 

思っている事を言うと陽佳の顔が歪んだ。

今にも泣きそうな、そんな顔だ。

 

「そんな事ないですよ。確かに《ナイトメア》は制御できない“個性”で他人に迷惑をかけてしまいますが装置でほとんど抑え込めているじゃないですか」

「ほとんどでは駄目だ。一緒にいれば絶対に悪夢を見せてしまう。お前を苦しめたくない。だから諦めて欲しかった。私ではなく別の異性に目を向けて欲しかった」

 

それだけは譲れない。

悪夢を見せて苦しませたら自分を殺したくなる程後悔する。

 

「近くにいれば個性抑制装置を着けていても悪夢を見せてしまう事は知っています。以前話してくれましたから。でも……それでも私は極夜さんがいいんです。悪夢を見る事になっても私は極夜さんと一緒にいたい」

 

しかし陽佳の返答を聞いて耳を疑った。

悪夢を見る事になっても私といたいだと?

 

「私……実は極夜さんと会うまで自分は生きている価値あるのかなーって思っていたんです。物心ついた頃から引っ越してばかりで長くても1年くらいしか同じ土地にいられなくて……そのせいで友達もできなくて、勉強にもついていけなくて……。でも両親は私を助けてくれた事がありませんでした。苛められてて物を壊されたり怪我をしても、同じ土地に長くいないんだから我慢しろとしか言わなかった」

「そう、だった…のか?」

「暗い話なので言いたくなったんです」

 

本当に言いたくないのか先程より泣きそうな顔をしている。

あまりに辛いなら止めた方がいいと言ったが、話すと決めたのか続きを話し始めた。

 

「自分でなんとかしようとしましたけど何をやっても駄目で、しんどくて……。助けてって言っても誰も助けてくれなくて……私は誰にも助けて貰えないんだって思ってました。でも極夜さんは……極夜さんだけは私を助けてくれた。手を差し伸べてくれた」

「…………」

「本当に嬉しかったんです。優しい人なのもすぐに分かって好きになるまでに時間はかかりませんでした。再会できるか分からなくて他の人を好きになろうと思った時期もありました。けどどうしても極夜さんの事が頭から離れませんでした。あの日、あの場所で私を助けてくれた極夜さんは誰よりもカッコいいヒーローだったんです」

 

それは言い過ぎだろうと思ったが今まで助けてくれる人がいなかったのならそう捉えても不思議ではないか。

陽佳にとって私は、私にとってのキョウヤのような存在なのだな。

 

「なので自分を悪く言わないで下さい。極夜さんは世界で一番カッコよくて素敵な人なんです。そんな人と一緒にいられるなら《ナイトメア》の件なんて全部帳消しにできちゃいます」

「私のせいで世界が滅びる夢を見てもか?」

「極夜さんの力で世界が滅びるなら受け入れます」

「何を言っているんだお前は」

 

だが陽佳の表情を見ると本当に受け入れるつもりなのだと分かる。

そうなったとしても私と共にいる。いたいのだと。

 

「……少し待っていろ」

「? はい」

 

陽佳から離れると教室の外で覗き見をしていたクラスメイトに【ダークホール】を食らわせて眠らせた。

ここから話す内容は陽佳と人使以外に聞かれては困る。

人使に「あの話をするから誰も来ないよう見張っててくれ」と言って扉を閉めた。

 

「陽佳。私には前世の記憶がある」

「え?」

 

陽佳の傍に戻ると意を決して自分の秘密を打ち明けた。

言わなくてもいいかと思ったが、私の伴侶になりたいと願う陽佳には言うべきだと思った。

全て話し終わると陽佳はポロポロと涙を流していた。

 

「何故泣く?」

「だって極夜さんの過去があまりにも悲しいものだから……。ずっと独りで抱えてきたんですか?」

「いや、両親と人使は知っている。人使が知っているのはうっかり私が口を滑らせたからだがな。今言った通り、前世ではそもそも人ではなかった。こちらで過ごして11年経つが、姿が前世と同じだから人と同じように感じられないかもしれない。普通に愛し合う事もできないだろう。深い関係になればなる程、迷惑をかける」

「そうですね。異形型の人ってそういう問題もあるって聞いた事あります。でも迷惑をかけるのはお互い様ですよ。というか一切人に迷惑をかけないなんて無理です。どんな人であろうと大なり小なり迷惑をかけるものですから」

「それは……そうだが」

「前世の事を聞いて極夜さんが自分が害だと思っている理由は分かりました。けど真実を知ってもやっぱり私は極夜さんがいいです。傍にいて、秘密の多い極夜さんを支えて、前世の辛い記憶を忘れられるくらい幸せにしたい」

 

陽佳はそっと私の手に触れる。

爪があるから危ないと離れようとしたができなかった。

ただ触れているだけなのに陽佳の気持ちが伝わるほど温かく感じた。

 

「もう一度言います。貴方が好きです。私と結婚を前提に付き合って下さい」

 

そしてあの時と同じ告白をまたしてくれた。

本当に私でいいのだろうか?

正直不安だ。諦めるのが普通だったからちゃんと愛してやれる自信がない。

だがそれも知った上で陽佳は私を選んでくれた。

 

「私も陽佳を好いている」

 

だから私も覚悟を決める。

 

「こんな私で良ければ陽佳の傍にいさせてくれ」

 

私の返答を聞いた陽佳は少し涙ぐんだがすぐ笑顔を見せてくれた。

やはり愛らしい。

陽佳の笑顔は太陽のようで好きだ。

 

「もう絶対に離れませんからね。今更なしだなんて言っても駄目ですよ」

「それは私も人の事を言えないな。前世の種族では恋人という関係がなく、互いに了承したらもう番だったから」

「じゃあ極夜さん的にはすでに夫婦って事ですか。え、明日にでも私いただかれちゃいます?」

「ちゃんと人間の基準に合わせるから安心しろ。……そうだな。高校を卒業するまでは手を出さないと約束する」

「まだ2年半以上あるじゃないですか。そんなに禁欲しなくてもいいですよ。私が良いって言ったら遠慮なく抱いて下さい!」

「考慮する」

「それ絶対考え変えない奴ですよね!?」

「ははは、さぁどうかな?」

 

陽佳が笑う顔を見ていたら自然と私も笑っていた。

それを見て陽佳の動きが止まる。

 

「どうした?」

「極夜さんが笑った顔……初めて見ました」

「そうか? まぁ家でもほとんど笑わないからな」

「びっくりしましたけど笑うと可愛いですね。普段表情が変わらないから余計ギャップを感じます。カッコいい極夜さんと可愛い極夜さんを同時に堪能できるなんてお得です」

 

陽佳はポケットから小包を取り出した。

それを私へ差し出す。

 

「極夜さんと恋人になれたら渡そうと思っていたものです。受け取って貰えますか?」

「? ああ」

 

受け取ると何か硬い輪のようなものが入っているのが分かった。

開けてもいいのか訊くといいと返事が来たので包みを開ける。

入っていたのは青色の石がはめ込まれた髪飾りだった。

 

「以前パワーストーンのお店に行った時に極夜さんの目の色にそっくりな石を見つけたので買って自分で髪飾りに加工しました。髪飾りなら私の予想より極夜さんが大きくなっていても付けられると思って」

「模様は月と……四つ葉のクローバーか?」

「はい。別れる時、極夜さん私に花冠を作って渡してくれましたよね。その中に四つ葉のクローバーがいくつもあったので」

 

陽佳は服の中に隠していたペンダントを取り出した。

ペンダントの装飾は四つ葉のクローバーだった。

本物を加工したもののようだが、まさかあの時に渡したものか?

 

「花冠は無理でしたけど四つ葉のクローバーはこうして残せました。お揃いにしたくて……嫌ですか?」

「いいや。私には少し可愛すぎるとは思ったが嫌ではない。しかし残していたとは思わなかった。大変だっただろう?」

「全然そう思いませんでした。お別れの品なんて貰った事がなかったからどうしても残したかったんです」

「そうか。ならもっとちゃんとものを贈れば良かったな」

「あれは引っ越しの当日に言った私が悪いんです。準備する時間がなくて当然です」

 

確かに引っ越すと聞いたのがその日の昼休みだった。

何か贈ろうと思ったが手持ちの金が少ないし、そもそも近くにそういう類のものを売っている店がなかったため苦渋の策で花冠を作る事にした。

中々上手くできなくて2時間近くかかった。

二限サボる事になってしまったが勉学など後でいくらでも取り返せるから後悔していない。

しかし花冠よりこちらの方が手が込んでいるだろう。

割に合わないと思うが……。

 

「割に合う合わないじゃないですよ。こういうのは気持ちです。まぁ私の方が絶対極夜さんへの愛が詰まっていると思いますけど」

「そうだろうな。陽佳、付けてくれるか?」

「は、はい!」

 

後ろを向いて陽佳に髪飾りを付けて貰う。

「いいですよ」と言われたので窓ガラスで確認する。

うん。白い髪に合うよう作ってくれているから映えるな。

 

「カッコいいです極夜さん。とても似合います」

「ありがとう陽佳。大切にする」

 

家族以外からの贈り物は初めてだから素直に嬉しい。

その気持ちが強かったようで表情が緩んでいるのが自分でも分かる。

それを見た陽佳は満面の笑みを浮かべていた。

笑うことに慣れていないが、それだけで陽佳が笑ってくれるならもう少しその感情を表に出す練習をしてみるのもありかもな。

と考えていたらクラスメイトが起きたらしい。

上手く聞き取れないが何か言っているな。

気が緩んでいる姿を見られたくないから連絡先を交換してその日は別れることにした。

教室から出た時クラスメイトから色々訊かれたが、一々相手にしていたら日が暮れるから適当に流した。

内容も「俺達が寝ている間何話したの?」とか「ちゃんと両想いになったのか教えて!」とかだったからな。

ヒーロー科の桃色の女といい何故そんなに恋バナをしたがるのだろう?

 

「幸せをお裾分けして欲しいからじゃない? 私も夜目と付き合い始めた頃よく訊かれたわ」

「そういうものなのか?」

「そういうものだろ。後単純に他人の恋バナって楽しいんだよ。まぁ訊かれている本人は恥ずかしいが強いけどね」

「ふーん」

 

帰宅して今日の事を父さんと母さんに話した。

優勝した事も喜んでくれたが一番喜んでいたのが伴侶ができた事だった。

前世の事もあるから何だかんだ心配していたようだ。

ちなみに両親は小学生の時に何度か陽佳に会った事がある。

 

「それにしても陽佳ちゃんもだけど極夜も一途だな。諦めると決めつつ5年も好きだったなんてさ」

「自分でもそう思う。前世ではあっさり諦められたのにおかしなものだ」

「それだけ愛を知らなかったのよ。私達が目一杯愛情を注いだ甲斐があったわ」

 

愛を知らなかった…か。言われてみればそうだと思った。

孤独に生きていたから知らなくて当然なんだが。

 

——ピコン

 

LINEの通知音が鳴ったので見ると陽佳からだった。

内容は「明日一緒に出掛けたいのですが空いてますか?」というものだった。

久し振りに本屋に行こうと思っていたが用事はそれくらいなものだから「本屋に用事があるくらいで他にない」と返信した。

 

「もしかして陽佳ちゃんから?」

「そうだが……何故分かった?」

「だって嬉しそうだったから。デートのお誘い?」

「まぁ……」

 

そんなに嬉しそうにしていたのか?

自分では全く気付かなかったが、母さんが言うならそうなのだろう。

しかし……そうか。二人きりで出掛けるのだからデートになるのか。

……デートって何するんだ?

 

「て顔してるな。ポケモンってデートしないのか?」

「しない。一度決めた番と永遠に添う種もいるが基本は子を成す事が目的で……というか顔に出ていたか?」

「出てたわ。難しく考えずに自然に振舞いなさい。下手な事すると失敗するわ。夜目みたいに」

「音羽ー! 若かりし頃の失敗談は止めてー!」

「……父さん何をしたんだ?」

「黙秘する!!」

 

絶対に話したくない何かをしたようだな。

だがあまり意識しても仕方ないから母さんの言う通り自然に振舞うか。

その後も連絡を取り、明日の11時に駅前で待ち合わせる事になった。

思いの外楽しみにしている自分がいるな。

やはり陽佳と一緒にいられるのが嬉しいようだ。

不安は勿論あるが陽佳となら何とかやれそうな気がする。

私の前世も、《ナイトメア》も受け入れると言ってくれた人。

これからも大切にしよう。

 

▽▲▽▲▽

≪恋するナキウサギの想い≫

 

極夜さんからの返信を見て嬉しさのあまりベッドの上で転がり回る。

初めてのデートが楽しみすぎます。

あんまり服の種類は持っていませんがなるべく可愛い服を選びましょう!

 

 

極夜さんと初めて会った頃、私は自分って何なんだろうと考えていた。

 

 

引っ越ししてばかりで友達はできず、勉強にもついていけなくて成績は常に底辺。

異形型なせいで何処に転校しても苛められる。

酷い時はものを壊されたり、石を投げられ怪我をする事もあった。

でも親は一度も助けてくれた事がなかった。

しんどいから助けて欲しいと言っても長く同じ土地にいないのだから我慢しろ、というだけ。

思い切って学校の先生に助けを求めた事もあったけど状況が変わる事はなかった。

助けて欲しいのにどうして誰も助けてくれないの?

私は誰にも助けて貰えないの?

こんな生活がずっと続くのかと考えたら絶望しかなかった。

 

「(何アレ……本当に同じ人間なんですか?)」

 

小学校4年生になって転校した学校でも案の定苛めを受けた。

とても疲れて……何だか全てがどうでもいいように感じ始めていた時その人を見た。

幽霊のような死神のような見た目。

異形型の“個性”の中でも特異な姿のその人には様々な噂が囁かれていた。

それを鵜呑みにした私は怖い人なのだと思い近寄らないようにした。

 

「後…少し……」

 

その日クラスの男子に体操着が入った袋を外に投げられた。

そのまま地面に落ちてくれればまだ良かったのに、運悪く木の高いところに引っかかってしまった。

これから体育の授業があるから否が応でも取らないといけない。

やっと手が届いたと思った瞬間足が滑って落ちた。

この高さから落ちたら大怪我を……!

…………。

……………あれ?

一瞬意識を失って目を覚ました時、体に想像していた痛みはなかった。

何が起こったのか分からず恐る恐る目を開けると、目の前にいたのは怖い噂の立つあの異形型の生徒だった。

怖くて思わず逃げてしまったけど……もしかして助けられた?

怪我してないし、何より体に残っていた感触を考えると抱き留められた可能性が高い。

どうして? 怖い人なんじゃないんですか?

確かめようにも怖くてできず、何とも言えない気持ちのまま私はその場を離れた。

数日後。

クラスの男子に校庭裏に連れ込まれた私は酷い痛みにただ耐えていた。

ウサギなら耳が長くないとおかしいだろ、と笑う男子に耳を思いっきり引っ張られた。

痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

耳が引き千切られる!

ナキウサギは耳が伸びるワケじゃないと、いくら訴えても聞いて貰えない。

必死に蹲って時間が過ぎ去るのを待っていたら急に男子の動きがおかしくなった。

フラフラ動いたり、壁に頭を自らぶつけたり、誰もいないところへ拳を出している。

意味の分からない光景に混乱しかけているとあの異形型の生徒がやってきて私の体を抱き上げた。

そのまま何処へ移動し始めたけど私は恐怖で体が動かなくて抵抗できない。

怖い事をされると覚悟したけれど着いたのはまさかの保健室だった。

その人は私をベッドに降ろすと引っ張られた事で裂けて血が出ていた部分を治療をし始めた。

傷口を綺麗に洗って薬をつけている。

助けてくれている、間違いなく。

蹲っていて何をしたのか分からなかったけどきっとこの人が私を助けるために何かしたからだ。

ならこの間もやっぱり私を助けてくれて……。

その人は治療が終わるとさっさと出て行ってしまった。

咄嗟に呼び止めたけど聞こえていないのかあっという間に姿が見えなくなった。

そんな……この間の事も含めてお礼も何も言えていないのに……。

礼も言わずに逃げた私をまた助けてくれた人。

もう一度会ってちゃんと話せばきっと真実が分かる。

 

「あ、あの……」

「ん?」

 

翌日。昼休みになるとすぐあの人を探した。

案外あっさり見つけられたので勇気を振り絞って話しかける。

 

「昨日は……ありがとうございました。それと……その前、助けてくれたのに逃げてしまってごめんなさい」

 

昨日とこの間の事の礼と謝罪を口にする。

どんな反応が返って来るのか分からなくて中々頭を上げられない。

けど何処か優しげな声で返事をしてくれた。

それどころか怪我の心配までしてくれて……やっぱりあの噂は嘘なのだと確信した。

本当に噂通りの人なら怪我の心配なんてしません。

 

「本当にありがとうございます。私は高山陽佳といいます。“個性”は《ナキウサギ》です」

「ああ、ナキウサギか。ホッキョクウサギかと思ったが、それならもう少し耳が尖っているか」

「え」

 

自己紹介をしたらその人は耳を疑う事を言った。

初めてだった。

ウサギだと言って疑問を口にしなかった人は……。

 

「あの……ウサギだって信じてくれるんですか?」

「嘘を言ったのか?」

「いいえ。でも信じてもらえた事がなくて……」

「まぁナキウサギの姿は一見するとウサギに見えないからな。だが分類は間違いなくウサギだ。無知な人間の戯言など気にせず堂々とウサギだと言えばいい」

 

涙が……溢れた。

肯定してくれた人も、こんな風に言ってくれた人も今までいなかった。

泣いている私を見てその人が困っているのは分かったのに涙が止まらない。

泣きたいなら泣いておけ、と言われたらもう止められなかった。

ようやく泣き止めた時とても心がすっきりしていた。

その人の名前は新月極夜。

もっと極夜さんの事を知りたくなって会いに来ても良いかと聞いたら「いい」と言われた。

読書の邪魔をしなければ、という条件なので邪魔にならない程度に話しかける。

返事は気が向いたら返って来る程度だったけど誰かと少しでも会話ができる事が嬉しかった。

それに他の生徒は極夜さんを怖がって近寄らない。

必然的に私の避難場所になっていた。

そうなっている事に気付いているハズなのに極夜さんは何も言ってこない。

ああ……やっぱり優しい人なんだな、と感じる度に一番最初に逃げてしまった事を後悔した。

噂を鵜呑みにして怖がった自分が恥ずかしい。

 

「はぁ……」

 

極夜さんに会いに行くようになって1ヶ月くらい経ったその日、後悔していた事と極度にお腹が減っていた事が相まって深いため息が出てしまった。

ため息をついたと同時にお腹が鳴ってしまい、それが気になったのか極夜さんが珍しく話しかけて来た。

 

「腹が減っているのか? 給食を食べたばかりだろう」

「……実はほとんど食べてないんです。給食の当番がちょっと…ネズミはチーズだけ食ってろって、それしか渡されなくて……」

 

だからネズミじゃないし、何ならネズミは穀物食だからチーズなんてほとんど食べないって!

しかしそう言っても信じて貰えず現在お腹と背中がくっつきそうなくらい空腹です。

……どうしましょう。家まで我慢しないとですけど流石にしんどいです……。

そう思っていたら極夜さんが給食のパンを渡して来た。

何で持っているのかと思ったら、どうやら食べるのが遅くて時間内に食べきれず後で食べるつもりで持っていたらしい。

 

「い、いいんですか?」

「いいから言っている。私の気が変わらないうちに受け取れ」

「ありがとうございます!」

 

お腹が空いていたせいですぐに完食。

生き返った。あのままだったらこれからの授業乗り切れなかったかもしれません。

それにしても事情を知ったらすぐに食料を分けてくれるなんて極夜さんの懐の深さが分かります。

だからこそ罪悪感が更に強くなる。

謝るなら今しかないと私はあの時の事を後悔していると話した。

極夜さんは気にしていないと言ったけど私が気になる。

ちゃんと謝らないと怖がって逃げた私をもう一度助けてくれた極夜さんに申し訳ない。

私は全力で頭を下げて謝った。

 

「お前の誠意は伝わった。謝罪を受け入れる。もう気に病むな」

 

その言葉が聞こえたら嬉しくて自然と笑みがこぼれた。

久し振りに笑えた。ここ1年まともに笑えてなかった。

笑えるようになったのは紛れもなく極夜さんのお陰だ。

この人があの時私を助けてくれていなかったら、もしかしたら私は自ら命を絶つ事を考えていたかもしれない。

私を救ってくれた唯一のヒーローだ。

そんな人を好きになるのに時間はかからなかった。

好きだと自覚してからはもっと極夜さんをよく観察した。

表情はほとんど変わらないんだけど目で意外と感情が分かったりする。

案外嘘が付けない正直者だし、どうしていいのか分からなくなって逃げちゃうところもあって可愛いと思った。

でも興味がない事にはとことん無関心。返事すらしない。

興味の欠片も抱いていない人に苛められていても無視する。

だから苛めていた人は全く反応しない彼が面白くなくて諦める。

ある意味凄い……。

反面一度興味を持った事には気が済むまで追求するし、心を許した人にはめちゃくちゃ優しい。

授業参観で(極夜さんは知られないようにプリントとか捨てて隠しているのにどうやって探るのか必ず来る)ご両親と話しているのを見た事あるんだけど声色も違う上に表情も何だか穏やか。

そして私も極夜さんが心を許している人物だと思う。……多分。

どうしてそう思うのかと言うと何かと助けてくれたから。

勉強教えて欲しいとお願いしたら私がしっかり理解できるようになるまで繰り返し教えてくれた。

誰かに教えたのは初めてだったそうなんだけど凄く分かりやすかった。

何でかと思って訊いたら、昔は物覚えが悪くて両親が根気強く何度も教えてくれたからだと思うと言われた。

お陰で成績も上がって授業にもついていけるようになった。

そして私が苛められていたら何処からともなくやってきて守ってくれた。

集団で苛めを受けた時なんて、あまりの非道な行いに怒ってそいつらを殴り飛ばした。

今考えれば相当手加減してたんだなって分かるけど当時の感想は「極夜さんめっちゃ強い……」だった。

“個性”まで使って反撃してきた相手にも素手でやり合って返り討ちにしていましたから。

でも殴った相手が怪我をしたものだから、やりすぎだと学校から呼び出されて厳重注意受けてしまった。

両親からも叱られてたけど本人は面倒くさそうにしてた。

そりゃ元野生動物なら人間のルールは面倒ですよね……。

以来苛めはぱったりなくなった。

お陰で学校に行きやすくなった。今までで一番快適だ。

だから……忘れてしまった。

この楽しい時間が長く続かない事を……。

 

「来月引っ越す。次は北の方へ行くからな」

「……え?」

 

目の前が真っ白になった。

そうでした。ここには1年しかいないと前もって言われていたんです。

後1ヶ月でここに来て1年です。

もうこの生活が終わる……。

 

「いや……です」

「あ?」

「私は、ここにいたいです……」

「何言ってるの。来た時からここにいるのは1年って言ってたでしょ」

「で、でも……ここから離れたら極夜さんに会えなくなってしまいます」

 

あの人がいたから私は楽しく過ごせています。

私の大切な人。大好きな人。

離れたくない。

 

「友達ができたのか? 作るなって言っただろ。何を馬鹿な事してるんだ」

「そうよ。そんなもの作るから離れるのがしんどくなるのよ」

「…………」

「わがまま言わないで、引っ越す事はもう決まってるのだからさっさと忘れてしまいなさい」

 

さも友達を作った私が悪いと言わんばかりの両親に対し一気に何かが冷めた気がした。

極夜さんの両親と会って、極夜さんが両親からとても愛されているのを直接見たから尚更……。

でもまだ子供の私にできる事は何もない。

引っ越しも受け入れるしかなかった。

 

「どうした? 元気がないようだが」

「何でもないです。ただちょっと家族と色々あって……」

 

明らかにしょんぼりしている私を極夜さんが心配してくれたけど引っ越すとは言えなかった。

言ったら極夜さんがどう反応するのか予想できなかったから。

結局私が極夜さんに引っ越す事を言えたのは当日の昼休みだった。

 

「なので、会えるのは今日が最後です」

「そうか……。随分と急だな」

「すみません。中々言い出せなくて」

 

極夜さんの顔を見られなかった。

どんな表情をしているのか知りたくなかった。

 

「い、ままで本当にありがとう…ございました。ここで楽しく過ごせたのは極夜さんのお陰です。この恩は……忘れません。さよなら……極夜さん」

 

一方的に別れを告げてその場から離れた。

これでいい。この方がきっぱり別れられる。忘れられる。

もう二度と会えないだろう人だ。きっとこれで……。

 

「え?」

 

学校が終わり、校門へ向かっていると極夜さんがいた。

視線が私に向いていてい私を待っているのだと分かった。

……どうしましょう。

もう姿を見られているから、今裏口に向かうのはどう考えても不自然です。

恐る恐る極夜さんの元へ向かう。

 

「極夜さん……」

「来たか。お前がいつここを通るのか分からなかったから待っていた」

「どうしてです?」

「ん」

 

パサッと頭に何か被せられた。

何かと思ったら様々な種類の花で作られた綺麗な花冠だった。

 

「こんなものしか思いつかなかった。引っ越し先でも元気でな」

「っ!!」

 

まさか贈り物をしてくれるなんて思わなかった。

多分だけどいい意味の花言葉がある花だけで作ってある。

その証拠に四つ葉のクローバーがいくつもあった。

これだけの量を見つけるのは大変だったろうに私のために………。

気が付けば私は泣いていた。

やっぱりこの人と離れたくない。

唯一私の味方をしてくれた人。

大切な人、愛する人。

二度と会えなくなるなんて嫌だ。

 

「極夜さん……再会できたら伝えたい事があるので私を忘れないで欲しいですけどいいですか?」

「再会した時? 今では駄目なのか?」

「はい」

 

だって今言ったら貴方に迷惑をかけてしまう。

そしてこれには決意の意味も込められている。

絶対に貴方と再会して想いを伝えると。

それに何年かかるのか分からないけど、長い年月を経ても再会した時に想いが変わっていなければ、私はこの人に生涯を捧げられるという証明になる。

だから今は言えない。

極夜さんは私の事友達くらいにしか思っていないかもしれないけど……。

 

「そういう約束をした事がないから保証はできないが努力しよう」

「ありがとうございます。ではお別れの言葉はなかった事にして下さい。極夜さん……またいつか会いましょう」

「ああ、またな」

 

そして私は極夜さんと別れた。

大切な人から貰った花冠を保存したくて色々したけど失敗してしまった。

でも四つ葉のクローバーは残せた。

少し形は歪だけどそれをペンダントにしてずっと肌身離さず持ち歩いた。

転校した先で辛いことがあってもこれがあれば耐えられた。

日本の最南端に引っ越した時は流石に再会できるか不安になって他の異性に目を向けようと考えたけど、どうしても極夜さんと比べてしまって駄目だった。

私はもう貴方しか愛せない。

 

「私は雄英を受験します!」

 

中学3年になって初めて親と大喧嘩した。

発端は両親が日本に飽きたから次は海外へ行くと言い出したため。

ふざけないで下さい! 海外に行ったら絶対に極夜さんと再会できなくなってしまいます!

 

「何を言ってるんだ。お前の学力で入れるワケないだろ」

「はぁ!? 誰のせいで勉強について行けてないと思ってるんですか! お父さん達が引っ越し引っ越しであちこち行くからまともに勉強する時間がないんですよ!」

 

私の目標はヒーローになるであろう極夜さんを支える事です。

雄英を志望している理由もそのヒーローを支えるサポート科のレベルが高いから。

ヒーロー科が一番有名だけど他の学科だって最高峰。

それに雄英に入学できれば学生の私にはこれ以上ない名誉だ。

プライドの高い両親なら名門校に通うな、とは言えないハズ。

……と、色々言ったけど一番の理由は雄英に受かれば極夜さんに会えるかもしれないと思ったからです。

極夜さんは物凄く頭が良いし強い。

雄英のヒーロー科を受けている可能性が高い。

だから絶対に引いたりするもんか!

数日間の口論の末ようやく両親が折れた。

 

「はぁ……分かった。受験を認めてやる。ただし雄英だけだ。他の高校には受験させない。落ちたら一緒に海外へ行く事。いいな?」

「分かりました!」

 

そして私は猛勉強し、見事雄英高校サポート科に合格できた。

条件を出したのは両親だから渋々ながら認めて学費も生活費も出してくれる事になった。

ちなみに追加条件で一度でも留年したら即退学で両親の元へ連れ戻される事になったけど上等です。

両親は可愛いペットを手放したくないだけだってもう気付いてるんですから、絶対そうならないよう努めますよ。

入学式には体調を崩してしまって出られませんでしたが登校してすぐに極夜さんを探し始めた。

けど見つけられない。

他の学校のヒーロー科も調べてみたけれどやっぱりいない。

一体何処にいるのか見当が付かなくなりしょんぼりしながら歩いていたら「新月くん」と叫ぶ声が聞こえた。

新月って…極夜さんの苗字じゃ……。

淡い期待を込めて声が聞こえた方へ行き、覗き込むと待望の姿があった。

あの頃よりずっと大きく成長してガッチリした体格になった極夜さんがいた。

カッコいい……!!

ヤバいです。ずっと見ていられる!!

すぐに声を掛けたいけどどう考えても他の生徒と練習しているから邪魔をしてはいけない。

でもやっぱり強いなぁ。一対八なのに極夜さんが全然不利に見えない。

本当は完全に終わるまで待っていようかと思ったけど気になる会話が聞こえたので思わず飛び出てしまった。

極夜さんが驚いた表情をしたから私の事を覚えていると分かって嬉しかった。

それから色々あったけど無事極夜さんとお付き合いする事になった。

まさか極夜さんの過去……前世があんな悲惨なものだとは思いませんでしたけど、でもだからこそ今は楽しい思い出を沢山作ろうと思った。

きっと極夜さんの両親も同じ考えだからあんなに極夜さんを愛していたんだと思う。

ここにいればもう独りじゃない、寂しくないよってちゃんと感じられるように。

私もそれにならって極夜さんを全力で愛そうと思います。

貴方は決して害を与える存在じゃない。

誰かを思いやれる優しい人で、愛されていい存在なんだと実感させてみせます。

 

◇◆◇◆◇◆◇

・ダークライ

ミアレシティにてメガエネルギーを浴び悪夢を見せる力が暴走し、異次元ミアレを生み出したポケモン。

ミアレシティに迷い込んだのは偶然で、プリズムタワーの最上部にいたのもミアレに住む人間とポケモンに悪夢を見せないためなので完全にただの被害者。

秩序ポケモン、ジガルデに選ばれミアレを救った英雄キョウヤに救われたが、その時にはもう体は力の暴走による多大な負荷で限界の状態であり、暴走後わずか2年で急激に老化が進み衰弱死してしまった。

死後ヒロアカの世界へ転生。

最初から前世の記憶がうっすらとだがあったため生みの親からはその姿も相まって気味悪がられており、地下室に閉じ込められ必要最低限の食事を与えられるだけの生活をしていた。

4歳になった時にダークライの特性《ナイトメア》が“個性”として発現。

周囲の人間に悪夢を見せるようになったため生みの親はダークライを放置して逃走。

2週間生き延びたのは少量ながら生みの親が食料を置いていったため。

極度の飢餓状態になり死にかけた事で前世の記憶と自我が全て蘇り、代わりに気薄だったそれまでの自我は消え去った。

引き取られた先にて新月極夜という新しい名前を与えられ、人間として暮らすも前世の記憶と自我があるせいで中々馴染む事ができずに最初の頃は何度も投げ出しそうになった。

義両親の献身的な助けで何とか暮らしていけるようになる。

慣れてからは知識が増えるのが楽しくなり本をよく読むようになった。秀才なのは完全におまけのようなもの。

他人からの好意に鈍感ではないのだが、未だに前世からの考えである「自分の存在が害そのもの」という考えが抜けきれないため受け入れるのに時間がかかってしまう。

名前で呼ぶのは受け入れた証であり、受け入れた後はヤバいくらい優しい。

今まで覚えた技が全て使えるのは記憶を持ったまま転生した事で魂の許容量が上がっているため。

覚える技はZAが基準だけどSVからも参照している。ZAだけにすると優秀な技がいくつか覚えられないので……。

ここまで多種な技を覚えているのはキョウヤがどんな型が強いのか色々研究してバトルロワイアルに積極的に参加させていたから。

ダークライもその辺は好きにさせていたのでまだこの話で使っていない技もある。

ただ争い事も他人を傷付ける行為も嫌いなので自分から戦いに行く事はない。

陽佳に好意を持ったことには割と早い段階で気付いたが、特性のせいで伴侶を持つことを諦めるのが普通だったため伝えるつもりはなかった。

今回事故とはいえ両想いになったけど本当に大事にできるか分からずかなり不安。間違いなく奥手。

でも彼女の方からぐいぐい行くから問題なし。

後日のデートでそんな彼女にたじたじになってしまう幻のポケモンである。

現在の高さは1.7m。重さは70Kg。もう少し大きくなるかも。

 

 

・高山陽佳

全身をふわふわの体毛が覆う《ナキウサギ》の“個性”を持つ女の子。

名前の由来はナキウサギの生息地が高山地帯であることと、ナキウサギの英語名“Pika”(ピカ)より。

ちなみに“個性”が《ナキウサギ》に決まった経由ですが…

①夜と言えば月。月と言えばやっぱりウサギ。でもウサギの“個性”持っているヒーローがすでに作中にいる。なら完全獣人型で珍しいウサギの種類にしよう。

②色々調べていてナキウサギを発見。更に詳しく生態を調べると生きた化石と呼ばれる希少種だと判明。

③もっと調べるとナキウサギはその見た目と英語名からピカチュウのモデルだと海外の人から勘違いされていることを知る。ダークライと恋仲にするならこのウサギしかいない!

とまぁこんな感じです。

本当にナキウサギがモチーフのポケモンが出たらタイプは地面・氷とかかな?

生来明るく社交的で前向きな性格だったが、両親や周囲の環境のせいで形を潜めていた。

ダークライに会い、精神的な余裕ができた事でその性格が表面化。

愛くるしい見た目も相まって実は結構モテるのだがダークライが大好きすぎて他の男が眼中にない。

最早ダークライ中心で彼女の世界は回っている。

ダークライが自分を唯一救ってくれたヒーローだったので彼がヒーローになる事を疑わなかった。なので学科はサポート科を選択。まさかの普通科で驚愕したが、再会できたし何よりサポート科で学ぶ知識が無駄になるワケではないのであまり気にしていない。

この度念願かなってダークライと付き合う事になった。

前世の事を聞いた時は悲しかったけど、すぐ「今世ではあんな過去吹っ飛ばせるくらい彼を幸せにするしかない!」と切り替えた。

事情を知ってダークライが恋愛に対し消極的だと気付いているので自分からぐいぐい行くが恩人を幸せにする事が大前提なのでダークライが嫌がる事をするつもりはない。

この後これまで以上に優しく接してくるダークライに更にメロメロになる。

 

 

・緑谷出久

ヒロアカの主人公。

季節外れの転校生が“個性”が暴走した生徒を助けた、という話を聞いて興味を持ちダークライを観察していた。

ヴィランっぽい見た目なのに優しく博識で無個性の自分を下に見ず対等に話してくれるダークライに早い段階で絆された。

実は本編ほど中学で苛められていない。

理由はダークライが出久を守っていたから。

出久はその事を知らないが、ヒーロー自体に興味はなくともヒーローになる夢を応援してアドバイスをくれるダークライを信頼している。

そのアドバイスのお陰で【ワン・フォー・オール】の譲渡が本編より少し早い。

譲渡後もダークライが時折指導していたから反動による怪我の程度もある程度軽い……が、そもそもが重いものなので傷痕は残っている。

体育祭の一件で普段表情の変わらないダークライが今にも泣きそうな顔をしていたのを見て、物凄く落ち込んで本編以上に反省した。

家族を、親友をこれ以上悲しませないために【ワン・フォー・オール】を使いこなせるよう更に特訓するようになる。

ちなみにオールマイトにもヒーロー科のクラスメイトにもダークライの事を「自慢の親友」だと話しているので今後も定期的にお呼びがかかり、その度にダークライが苦労するのがデフォになってしまう。

申し訳なく思うけど自己評価があまりに低いダークライが自分に自信が持てるようになるチャンスだと思っているので後悔はしていない。

 

 

・心操人使

【洗脳】の“個性”を持ち、ヒーロー科への編入を狙うヒーロー志望生。

ダークライに声を掛けたのは「先生達が話していた首席合格がこいつなら仲良くなればその手助けをしてくれそうだ」と思ったから。

けど実際話したみたら凄くいい奴だったので普通に友達になる事にした。

元気がなかったから悩み事があるのだと思い訊いたらとんでもない過去を知る。

大きな声では言えないが早く高山陽佳とくっついて幸せになって欲しいと思っていた。

だから体育祭後の会話が聞こえたのは事故ではあるけど絶好の機会だと確信。

嫌われる覚悟で逃げようとするダークライの捕縛に協力していた。

無事付き合う事になってホッとした。

惚気話をするタイプではないから進展があるかないか分からないけど、幸せそうにしているのは分かるので優しく見守っている。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや? 裏サイトの掲示板に面白い依頼が来ていますね」

「面白い依頼?」

「雄英高校普通科在籍、新月極夜の誘拐です」

「は? 今年の雄英体育祭の優勝者じゃないか。何でまた」

「なんでも夢を現実化させる研究をしているそうで、その研究のために夢に関係する“個性”を持つものを探していたようです。新月極夜の“個性”《ナイトメア》はまさにうってつけという事ですね」

「そいつにとってはそうだろうけどリスクがありすぎるだろ。あの実力見ただろ? 返り討ちにされかねねえぞ」

「ですが報酬はいいですよ。前金で1000万、成功すれば3000万を支払うと」

「…………」

「どうです? 金はいくらあってもいいですし検討してみては?」

 

 

あっという間に体育祭の日がやってきた。

あー本当に嫌だ。TVに姿が映るとか拒否反応が凄まじい。

 

「死ぬほど突っ伏してるね新月くん」

「目立つの嫌いだって言ってたしな」

「大丈夫か? そんなに嫌なら止めた方がいいんじゃないか?」

「いや、やる」

 

人使が心配しているが自分で決めたのだから腹をくくれ。

それにこれは人使が目指すヒーロー科編入へ助けにもなる。

体育祭のリザルトによってはヒーロー科編入を検討してくれるらしい。

この2週間で動体視力と回避能力を上げる訓練はしたが身体能力自体はそこまで上がっていない。

多くの人の目に留まる最終種目へ確実に行くためには手助けがいる。

 

「入場開始するわよ。ほら、皆行くよ」

「……ああ」

 

覚悟を決めてクラス全員と会場に向かう。

うわぁ……何だこの人数……。1分で胃が痛くなりそう……。

 

「選手宣言!!」

 

ステージに立つのはミッドナイトだ。1年主審はあのヒーローか。

相手を眠らせる“個性”でよく似ていると言われるから知っている。

ミッドナイトが「選手代表!! 1ーA爆豪勝己!!」と呼ぶと見覚えがある男がステージに上がった。

……あいつは……出久に自死をしろと言った……!!

 

「あいつ一応入試1位通過だったからな」

「ヒーロー科の入試な」

「学力なら絶対新月が一番だろう。超頭良いのクラス全員知ってるぜ」

「そうそう。……? 新月どうした?」

「…………」

 

クラスメイトが声を掛けているが頭に入って来ない。

あいつが出久と同じヒーロー科だと!?

ふざけるな。簡単に自死をしろと言う畜生が何故出久と同じヒーローになろうとしている!!

 

「せんせー。俺が一位になる」

「「「「絶対やると思った!!」」」」

 

更にその宣言を聞いてブチっと何かが切れる音が聞こえた。

さっきまであった人前に立つ事への嫌悪感が消え、代わりに別の感情が渦巻く。

 

「新月……何か顔怖いぞ。本当にどうしたんだ?」

「別に。ただ……もう一つこの体育祭に参加する理由ができただけだ」

 

何せずっとしたくてもできなかった事が合法的にできると気付いたからな。

毬栗頭が……あの時の怒りは消えていないぞ。

 

▽▲▽▲▽

≪心操人使視点≫

 

雄英高校の入学式。

教室に来て、書いてある席順に座ったら前の席の生徒がとんでもない奴だった。

 

「(なんだこの姿……)」

 

幽霊のような死神のような異質な姿。

でもそれ以上に雰囲気が恐ろしく重いものだった。

ただものじゃない。見ただけで分かる。

 

「新月極夜。“個性”は悪夢を見せる《ナイトメア》だ」

 

自己紹介は簡単なものだったが“個性”はかなり気になった。

悪夢を見せるってどんな“個性”だ? というかその姿が“個性”じゃないのか?

気になって訊いてみた。正直初対面だし答えてくれるとは思わなかったけど案外あっさり答えてくれた。

戸惑っている感が凄かったけど、新月の事を知りたくなって友達になろうと提案してみた。

先生達が話していた首席合格者が新月なら俺がヒーロー科に編入するための手助けも頼めるかと思ってな。

その結果……。

 

「色々考えたが身体能力がどう見ても凡人であるお前を2週間ほどで最終種目へ進めるほど鍛えるのは難しい。が、これは全体的な能力の向上を考えた場合だ。一ヵ所のみ特化させればいいところまで伸ばせるハズだ」

 

ヒーロー科の友達に頼まれて特訓すると聞いて「俺も特訓をして欲しい」と頼んだ翌日、指定された場所に向かうと新月にそう言われた。

 

「確かに全体的に上げるより一点特化させたほうが短い期間で効率的に伸ばせるだろうけど……それで何を伸ばすんだ」

「動体視力と回避能力だ」

 

そう言った瞬間新月が俺に突っ込んできて腕を振るってきた。

咄嗟に体をのけ反らせて避けた。

 

「時間が限られているからスパルタで行く。私が攻撃するからお前はひたすら避けろ。最初はお前が避けられるスピードで攻撃する。徐々にスピードを上げていくぞ」

「む……無茶苦茶だろ」

 

理屈は分かるけど本当にスパルタだった。

若干殺気を込めているらしく目前まで攻撃が迫ると殺されるんじゃないかと錯覚する。

ちゃんと寸止めしているから本当に攻撃したりするワケじゃないんだけど、怖くて目を閉じたら吹っ飛ばされた。

 

「ついでに受け身の練習もさせる。こうやって飛ばされてもすぐ立て直せるからな」

「ゲボッ……容赦ないなお前……」

 

けどすぐ体勢を立て直せるように吹っ飛ばしているのは分かる。

めちゃくちゃ器用だ。戦闘経験が豊富なのも見て取れる。

本当に同い年なのか疑問に思うな。

 

「どうかしたのか? 何か変に元気がないけど」

「…………」

 

そんな新月がある日異常に落ち込んでいた。

朝から様子が変だとは思っていたけど覇気もなければ動きにキレもない。

何かあったのか?

 

「何でもない……」

「それは無理があるだろ。何か悩み事があるのか? 相談くらい乗るよ」

「……いい。誰かに言える内容ではないんだ」

 

あっさり悩み事があると白状した。

しかも今にも消えそうなか細い声で言っているから新月にとってはかなり深刻な悩みみたいだ。

 

「そう言わずに話すだけ話してみてくれよ。悩み事って誰かに話すだけでも気持ちが楽になるからさ。俺の特訓に付き合ってくれてるんだ。これくらいしないとバチが当たる」

「そうか? お前がそこまで言うなら話すが……その………………私を好いてくれている女性がいるのだが、諦めさせたいんだ。だが自分ではいい方法が思いつかなくて……」

「え?」

 

想像の斜め上の悩み事だったから思わず耳を疑った。

新月を好きな人がいるって……。

いや、新月は異形型の中でもかなり異質ではあるけど話せば優しい奴だってすぐ分かる。

情にも厚くて頼れる男だし、そんな内面を知れば惚れる奴いるだろ。

 

「新月は何で諦めさせたいんだ?」

「……私を好いたところで良い事などない」

「そうか? 同性の俺から見ても新月は良い男だと思うぞ」

「私は存在自体が害なんだ。そんな私に惚れても苦労するのはあの子だ。だから諦めて欲しい……」

 

こいつ自分の事そんな風に思っていたのか。

確かに《ナイトメア》は周りに害を与える上に自分自身で制御ができない“個性”ではあるけど、個性抑制装置でほとんど抑え込めているんだからそこまで悪いように考えなくてもいいだろ。

 

「新月はその子の事どう思ってるんだ?」

「………………………」

「おい、分かりやすすぎるだろ。せめて否定しろよ」

 

返事をしない上にあからさまに目を逸らした。新月もその子が好きなのは確定だな。

なら諦めさせる方法を考えなくていいだろ、と思ったけど自分が害だと思ってる新月には難しいか……。

 

「私の気持ちはどうでもいい。ただ陽佳を……あの子を傷付けたくないと思ってどうしても冷たくできない。半端だろう。本気で諦めて欲しいならそんな事気にせず突き放せばいいのに」

「それだけ新月が人の思いを無視できない奴ってだけだよ。ならそれも含めてその子に全部白状すれば? お前がどう思っているのか知れば考え直すかもしれないぜ」

「それも考えたが、私の事情を全て話すとなると前世の事も話さないといけないからそれは避けたい」

「……? 前世って何だ?」

「あ」

 

今絶対口が滑っただろう。目が物語ってるぞ。

いつもは言葉を選んで言っている感じがあるけど、今はこの悩みのせいで落ち込んでいたからうっかり言ってしまったみたいだ。

 

「…………」

「…………」

「「…………………」」

「帰る」

「おっと、逃がすか。隠し事が多そうだとは思ってたけどそれ以上にワケありみたいだな。この際だ。洗いざらい全部話しな」

「う……」

 

後ろからがっちりホールドして逃げられないようにする。

新月が本気で暴れれば逃げられるけど俺が怪我をする可能性が高いから多分しない。

予想通り少し抵抗したけどすぐ諦めた。こいつ本当に誰かが傷付く事しないな。

 

「……はぁ、仕方ない。下手に誤魔化すより話そう。ただし内密で頼む」

 

そして俺は新月が隠していた秘密を知った。

マジかよ……。前世の記憶を持ってるなんて漫画でしか聞いた事ないぞ。

しかも住んでいたのはこことは全く違う世界でこの姿も、“個性”さえその前世由来。

異質だと思っていた姿にそんな秘密があったのか……。

 

「それが妙に落ち着きがあって経験豊富な理由なのか。めっちゃ年上と話してる気分になるのもそういう事か。けど100年以上生きてたって、お前おじいちゃんだったんだな」

「人間の基準ではそうだろうが同族の中では私は若い方だ」

「100歳で若い方って……ダークライってどれくらい生きるんだ?」

「正確には分からんが3~400年は生きると思う。今は一応人間だからそこまでの寿命はないハズだが……信じるのか?」

「お前案外嘘つくの下手だからな。それに信じた方が今まで感じていた違和感の正体が何なのか分かる。信じない理由がないよ」

「そうか……」

 

そう言った新月は安堵の表情を浮かべていた。

こんな秘密抱えていたんじゃ心から安心できる場所なんて少ないだろう。

 

「家族は知ってるのか?」

「知っている。知った上で私を引き取ってくれた。前世の記憶を持っているために物事を上手く覚えられず、異世界の知識があるためにこの世界の常識を何一つ知らない私を大切に育ててくれた。この世界に馴染む事ができたのは両親のお陰だ」

「そりゃご両親が大事になるよ。しかしそういう事情ならその子に気持ちを伝え辛いよな」

「ああ、だから困っている。独りで生きるのが当たり前で番を……伴侶を持つ考えもなかったから、気持ちに応えても真っ当に愛してやれる自信がないんだ。まだ異種族として生きてきた年数の方が長いからその考えが拭い切れない」

「難儀な種族だなダークライって」

「前世では《ナイトメア》を封じる手段がなかったからな」

 

難儀というか悲しい、と言った方が正しそうだ。

全てのダークライがそうとは言い切れないけど本質的には変わらなそうだし、きっと周りに害を与えないように孤独にひっそりと生きている種族なんだろう。

 

「しかしこんな形で知られるとは思わなかった……」

「だろうな。お前の前世の事知ってるのって両親だけなのか?」

「ああ。中学からの友である出久も知らない。出久なら話しても大丈夫かとは思ったが、簡単に信じられる話ではないから二の足を踏んでいた」

「それが普通の心臓だろ。だからあんまり気にするな。後から知ったとしてもそういう事情ならって誰でも納得するさ」

「そうだといいな。だが……確かに誰かに話すと気が楽になるな。ありがとう人使」

「そ、……ん?」

 

え? 今新月俺を名前で呼んだか?

呼んだ……よな?

今まで頑なに呼ばなかったのに急に??

 

「どうした?」

「い、いや……何でもない。まぁ…その子の件に関しては俺もいい案が思い浮かんだら言うよ。互いに想っているなら恋仲になってもいいと思うけど」

「無理だ。言っただろう。愛してやれる自信がない」

「変なところで臆病だな。事情を知った今なら気持ちは分からないでもないけど」

 

その日はほとんど特訓はせず新月の悩みを訊いて終わったけど、怖いものなしだと思っていた新月にこんな臆病な部分があるとは思わなかった。

人前に出るのが嫌い、目立つのが嫌だ、とは前から言ってたけどそれとは違う弱い部分。

しかもその原因が全部前世由来ってのが状況を難しくさせてる。

長年染みついた考えだから簡単に拭い去れない。

何とかしてやりたいけどどうしたらいいのか……。

 

「人使。私も体育祭で最終種目まで進む事にした。だから人使が予選通過できるよう全力でサポートする」

「なんて??」

 

翌日、突然新月にそう言われた。

あれだけ嫌がってなのにどうした!?

理由を聞いたけどそれだと新月の持っている戦闘能力が露天する事になるぞ?

絶対ヒーローに目を付けられるだろ。まぁそれも覚悟の上なんだろうけど。

けど俺も新月がどれだけ強いのか気になっていた。

生態系の上位者になれる実力がありながら誰とも関わらず、孤独に生きるダークライがどれくらい強いのか見て見たい。

 

「あ、それと私の事は名前で呼んでいいからな」

「全てにおいて唐突すぎるだろ」

 

 

 

 

 

体育祭が始まった。

第一種目は無事に通過できた。

俺が25位。極夜は30位だ。

正直に言うとめちゃくちゃ楽だった。

 

「個性抑制装置を付けている状態では相手にダメージを与えない変化技しか使う事ができない。だが障害物競走ならそれで十分だろう。妨害は私に任せて人使は先に進め」

 

そう言われたから先に進んだけど一切邪魔が入らないほど極夜の妨害が完璧だった。

しかも騒がれていないから目立たないようにやったみたいだ。

 

「前世では《ナイトメア》のせいで追われる事が多かったから逃げるのは得意だ」

「全然笑えない理由なんだけど」

「気にするな。それで人使が《洗脳》したのがその二人か」

「ああ」

 

次の騎馬戦も極夜と組む。

後二人必要だからそこまで高得点ではない人間を選んで“個性”をかけておいた。

これで序盤で点を取られても問題ない。

 

「騎手は人使に任せる」

「え、お前がやった方がいいんじゃないか? 周りをよく見てるから向いてると思うぞ」

「それは……一応考えたが、体が大きいから変に目立ってもな……」(前世より栄養状態がいいせいで標準より二回り大きい)

「これから更に目立つのにか?」

「そもそも私に騎手は無理だろう。脚がない」

「あるだろ」

「……あの脚で騎手が務まると思うか?」

「思わないな」

 

というワケで俺が騎手になって騎馬戦がスタートした。

この時に極夜が技を使っているところを初めて間近で見たけどこんな多様な技があるのか。

相手の動きを封じたり、煙幕みたいな黒い霧を出したり、近寄ってきた相手チームを眠らせて陣形を崩したりしてた。

的確かつ迅速。一切の無駄がなかった。

結果は2位。

順位が想定より高いけど体力はほとんど消耗していない。

これなら最終種目も余裕を持って挑めそうだ。

 

「早く食堂行こうぜ。今日は弁当持ってきてないんだろ」

「ああ。はぁ……人混みは嫌いだが仕方ない」

「とてつもなくデカい溜息だな。なら混む前に済ませよう」

 

食堂へ向かっていると誰かが俺達に駆け寄ってきた。

獣の異形型の生徒。

高山陽佳。極夜の想い人。

 

「極夜さん! 心操さん! 最終種目進出おめでとうございます!」

「陽佳」

 

1週間前から高山は俺達のクラスにやってくるようになった。

最初は驚いたけど毎日やってきては極夜に猛アタックしてくる様子を見て「ああ、この子本当に極夜の事好きなんだ」と、クラス全員で優しく進展を見守っているという状況だ。

 

「あれだけ嫌だって言っていたのに何かあったんですか? でもお陰で極夜さんのカッコいい場面沢山見られて満足です。特大ズーム機能付きカメラを買った甲斐がありました。これで最終種目もバッチリ撮影したいと思います!」

「……今すぐそれを壊してやろうか」

「駄目ですよ!! 結構高かったんですからこれ!!」

「そんなの知るか。映像に残るなど考えるだけでヘドが出る」

「え、なんかめっちゃ機嫌悪い……。どうかしたんですか? だ、大丈夫ですよ。見せびらかしたりしませんから」

「うるさい。さっさと私の前から消えろ。目障りなんだ」

「う゛……。わ、かりました……」

 

しょんぼりと肩を落として高山は去って行った。

めちゃくちゃ言動が荒々しかった。いつもは優しくあしらっているから差が激しい。

今日で諦めさそうとしてるのは本当なんだな。

そう思っていたらドサッと倒れた音がして極夜を見ると壁と地面に体がめり込んでいた。物理的に。

 

「……最低だ。私なんて死ねばいい……」

「ひどい落ち込みようだな」

「ああ…もう……嫌だ。頼むから今日で私の事は諦めてくれ……」

「お前の方がダメージ受けてるじゃん」

 

極夜は言い方がキツい時はあるけど相手が傷付くような事は言わない。

なのにあえて高山が傷付くよう言った。

傷付けたくないって言ってたんだ。そりゃしんどいだろう。

 

「というかそれどうなってるんだ? 完全に体の一部が地面にめり込んでるぞ」

「私は影の中に入れ、影の中を移動できるんだ。言ってなかったか?」

「言ってないよ」

 

訊かれなかったから答えなかっただけなんだろうけど言ってない事が多すぎるだろ

でも……これはまぁ仕方ない部分か。

長年誰とも関わらないようひっそり生きてきたから自分から何かを話すって概念が薄いんだと思う。

 

「それはすまない。生まれ変わってからこの力もほとんど使っていなかったから説明を忘れていた」

「別にいいよ。他にもまだ俺に言っていない力あるか?」

「使える技は大体言ったから後は……メガシンカかな?」

「メガシンカ?」

「トレーナーとの絆がもたらす進化を超えた奇跡の力だ。一時的に姿が変わり能力が大幅に上昇する」

 

は? 何だそれ。

今でも十分強い極夜の力が更にパワーアップするってのか!?

怖いと思う反面見て見たい気もする。

 

「ただメガシンカするにはメガストーンという特殊な道具が必要でな。この世界にそんなものはないからメガシンカできない」

「そ、そうか。ちょっと残念だな」

「それに私のメガシンカは自ら望んで得た力じゃないから他のメガシンカ個体に比べてかなり異形なんだ。あまり見られたくない」

「え? 自ら望んで得た力じゃないってどういう事だ?」

「前世で私が死した原因を話しただろう。私はその暴走がきっかけでメガシンカを得たんだ。今まではその力を持っていなかった」

 

極夜が前世で死んだ原因は未知のエネルギーを大量に浴びた事で悪夢を見せる力が暴走し、その暴走状態が長く続いたため寿命が大幅に削れたからだって言ってたな。

そりゃ自分が死んだ原因の力なんか見たくも見られたくもないだろ。

 

「じゃあメガシンカすると寿命が縮むのか?」

「正当な手段でメガシンカする場合は問題ない。しかし暴走メガシンカは話が別だ。無理矢理力を引き出されている状態で肉体への負担が非常に大きい。その時の事は体が引き裂かれるように苦しかった、くらいしか記憶にない……」

「…………」

「キョウヤの話によると、力が暴走し意識もほとんどなかった状態なのに私は何とか力を抑え込もうとし、夢を通じて助けを求めていたらしい。まぁそれが余計に寿命を縮めた要因なのかもしれないが」

 

それだけは記憶にあるって一体どんな苦痛だよ。

そんな状態なのに被害を少しでも抑えようとしていたところは極夜らしいけど。

 

「もう終わった話だ。それより早く食堂に行くぞ。腹が減った」

「あ……ああ」

 

こいつの前世……分かっちゃいたけど悲惨すぎるだろ。

今の両親に引き取られる前も虐待されて死にかけてたって話だ。よく普通に過ごせてるな。

そういう話聞くと余計高山と添い遂げて幸せになって欲しいと思ってしまうな。

 

▽▲▽▲▽

≪ダークライ(新月極夜)視点≫

 

休み時間が終わり会場へ戻る。

途中で尻尾の男に何か言われたが、これは以前から人使と約束していた事だ。

それにわざわざ友が不利になる情報を言うアホが何処にいる、と言ったら黙った。

最終種目はトーナメント形式でくじで対戦相手を決めるとの事だ。

くじ引きの前にひと悶着あったが、トーナメントの組がこうなった。

 

一回戦、緑谷VS心操

二回戦、轟VS瀬呂

三回戦、塩崎VS新月

四回戦、飯田VS発目

五回戦、芦戸VS上鳴

六回戦、常闇VS八百万

七回戦、鉄哲VS切島

八回戦、麗日VS爆豪

 

……あれとは決勝戦まで当たらないか。

優勝するつもりはないが、必然的にそうなってしまいそうだな。

というか一回戦……まさかの組み合わせなのだが……。

 

「じゃあ行ってくる。応援しててくれよ」

「とてつもなく応援し辛い……。両方負けて欲しくない」

「新月にとっては友達同士の対決だからそういう反応になるよな」

 

いつもと違う意味でため息が出る。

それはそれとしてあのセメントを操る“個性”かなり使い勝手がいいな。

 

『一回戦!! 成績の割に何だその顔。ヒーロー科、緑谷出久!! 対 ごめん、まだ目立つ活躍なし! 普通科、心操人使!!』

 

ついに始まったがどういう紹介の仕方だ。

私の時も変な紹介させられそうだな。

さて……私は出久に人使の事を、人使に出久の事をほぼ話していない。

それがお互い平等な条件になった。どちらが勝つかな?

そう思って見ていたら出久の動きが止まった。どうやら人使の“個性”に掛かったようだ。

これは決まったか?

………………?

何だ……? この気配……。

複数の何かが蠢くような気配がした後、出久の指が動いて衝撃波が起こり人使の《洗脳》を解いた。

 

「うわっ! 何だ今の」

「何が起こったの? 新月くん分かる?」

「……私にも分からん」

 

今はそれしか言えない。

これは……控室に行く前に本人に確かめないといけないな。

その後は出久の独壇場だった。組手に持ち込まれては人使には分が悪い。

あっさりと場外へ投げ出されてしまった。

 

「新月もう控室に行くのか?」

「ああ。その前に寄るところができたからな。人使にもそう言ってくれ」

 

恐らく出久がいるであろう保健室へ向かう。

部屋の前まで行くと中から3人の気配がした。

一人は出久、一人はリカバリーガールとしてもう一人は誰だ?

ドアをノックし、部屋に入ると出久がすぐに驚いた顔で振り向いた。

 

「ど、どうしたの? 控室はこっちじゃないよ」

「それは知っている。ただ少し出久に聞きたい事があってな」

「聞きたい事?」

「先程出久が人使の“個性”を解除する直前、お前から複数の何かが蠢くような奇妙な感じがした。何か体に不調は出ていないか?」

「…………」

 

尋ねると出久と隣にいる細身の男が難しい顔をした。

出久は分かるが何故細身の男もそのような顔をする。

 

「……君はそれを誰かに話したのかい?」

「いいや。自分でもよく分からなかったから直接訊こうと思ってな。それで出久どうなんだ?」

「えっと……体は何ともないよ。指もほら、今治して貰ったし」

「ならいい。では私は控室に行く。少々理由があって勝ち上がるつもりでいるから、出久も勝ち上がってこい。真剣勝負をしよう」

「うん。僕も極夜くんと戦えるの楽しみにしてるよ!」

 

ここに来て尋ねたい事が増えたが時間が限られているから止めておこう。

……あの細身の男が何者かとか……な。

控室に行き待っていたが、どうやら二回戦は早々に終わったらしくすぐ呼び出しが来た。

 

『ステージを乾かして次の対決!! B組からの刺客!! キレイなアレにはトゲがある!? 塩崎茨! 対 見た目はどう考えてもヴィラン!! 普通科、新月極夜!!』

 

やっぱりな。そう紹介されるだろうと思ってはいた。

間違ってはいないから訂正するつもりはないが。

 

『こんな姿だけど実は超頭脳派の生徒だぜ! 今年の入試試験でなんと歴代最高得点を叩き出した首席合格者だ!!』

「…………」

 

バラすな。というか首席合格者って本当に私だったのか。

……観客席のクラスメイトから「やっぱお前が首席合格だったのか!」「がんばれー首席合格!」という声が聞こえる。

 

『START!!』

 

合図と共に生徒のツルが伸びて向かってきた。

かなり伸びるな。操作もできる。切り離す事も可能。中々強力な“個性”だ。

どのように動くか予測しならが避ける。

生徒自身は動いていないから操作には集中力が必要と見た。

動きを緩めて攻撃を誘うと大量のツルが一気に伸びてきた。

ほぼ全方位からの拘束攻撃か。私なら逃げるのは容易いが少し試してみよう。

ここまで操作できるなら恐らくツルにある程度感覚があるハズ。

 

「【みがわり】」

 

体力を削って自分の分身を作り出す。

ツルは【みがわり】を拘束すると動きが止まった。

思った通り感覚がある。そして今私を拘束したと思い油断しているだろう。

最高速度で生徒に接近する。

 

「え!?」

「【さいみんじゅつ】」

 

目の前に現れた私を見て咄嗟にツルを操作しようとしたが遅い。

【さいみんじゅつ】が決まり、生徒の体が地面へ倒れる。

それを受け止めるとゆっくり横に寝かせる。

 

「塩崎さん行動不能! 新月くん、二回戦進出!!」

『おいおいマジかよ! 普通科がヒーロー科に勝っちまったぜ! こりゃとんだダークホースの登場だ!!』

「今の見たか? 一瞬で眠らせたぞ」

「睡眠系の“個性”? 近付かないといけないのがネックだけど強いな」

「移動速度も速かった。動きの遅いヴィランならあの速度だけで完封させられるぞ」

「てか拘束攻撃から逃げた時なんか可愛げな人形を囮にしてたよな? どうやって出したんだ?」

 

何やら騒いでるがどうでもいいので席に戻る。

しかし普通科がヒーロー科に勝っただけでえらい騒ぎようだな。

実力を隠しているのは私だけではないだろうに。

 

「おめでとう新月!」

「凄いじゃん! ヒーロー科に勝てる人なんて早々いないよ!」

「あ、……ああ。どうも」

 

席に戻ると熱烈に祝福された。

こんなに大勢に褒められる事がないから反応に困る。

 

「極夜やったな。流石だ」

「ありがとう。人使は惜しかったな。だが人使の力はヒーローに伝わっていた。編入も十分狙えるだろう」

「本当はもっと勝ち上がりたかったけど強かったな緑谷。お前が鍛えてるだけあるよ」

「戦闘経験の差は仕方ない。だが今からでも埋められるものだ。気を落とすな」

「落としてないよ。お前がさっきツルを避けた時に使った技。あれが【みがわり】か?」

「そうだ。自分の体力を削って作る身代り。一定以上の攻撃を受けるか、ある程度時間が経つと消える」

 

前世ではキョウヤが色々型を考えていた時に一時的に覚えていた。

その時はあまり使わなかったがまさか今世で使う時が来るとはな。

 

「じゃあ体力がある限りまた出せるって事ね。ねえ、ちょっと出してみせて! 可愛かったから近くで見て見たい!」

「駄目だろ。極夜はこれから戦わないといけないのに体力を消耗させようとするな」

「あ、それもそうね。ごめんなさい」

「次の試合までまだ時間があるから別に構わん。だがさっきも言った通り時間経過で消えるからな」

 

再び【みがわり】を使い人形を作り出す。

ポンっと出て来た人形を見てクラスメイトが集まってきた。

 

「きゃー! 可愛いー!」

「おおおお! え、これ売ってくれね? 妹絶対好きなんだけど!」

「無理だ。時間経過で消えると言っただろう」

「そうだったー! じゃあ誰か裁縫得意な人挙手!」

「はい! 私得意です! 作るので写真撮らせて!」

「……どうぞ」

 

予想外の人気にちょっと引いた……。

そんなに可愛いか? ただの身代りだぞ?

そもそもこれは私の体力で作った私の分身だ。気味悪くないのか?

……いや、無粋な疑問か……

少しでもそう感じていたら、私の周りで和気あいあいとしていない。

 

「大丈夫か? 難しい顔してるぞ」

「……こういう状況に慣れていないだけだ。忌み嫌われるのが普通だったから」

「聞こえてたぞー新月! 確かに最初は怖かったけどお前良い奴だってすぐ分かったからー!」

「だってさ」

「…………」

 

前と違う意味で調子が狂うな。

でも悪い気はしない。

……なんだろう。

遠い昔……こういう光景に憧れていた気がする。

 

「ところで新月。何で今の試合すぐ終わらせなかったんだ? あの速度で動けるなら速攻で終わらせる事できたんじゃね?」

「そう……言われてみればそうよね」

「確かに。目立つの嫌いって前から言ってたんだから速攻で終わらせそうなのに何でだ?」

「あの生徒の“個性”をプロヒーローに見せるためだが」

「「「「え?」」」」

「この体育祭での活躍で将来が決まるヒーロー科の生徒がいるのだろう? 今回私が勝ち上がっているのは完全に個人的な理由だ。そんな個人的の理由で、一人の未来を潰すわけにはいかない」

 

だからあの生徒の“個性”を全てプロヒーローに見せるために動いた。

動きの予測もそのため。

どのような“個性”でどんな事ができるのか知れば初戦敗退だろうと興味を持つプロヒーローは必ずいるからな。

 

「……優男だ。ここに優男がいるぞ」

「ん?」

「毎日突撃してくるサポート科の子の気持ちが分かった。これは惚れるわ」

「は?」

「今までの奴、見た目に騙されすぎだろ。味方にいたらマジ心強い奴なんだけど」

「??」

 

何か皆急に頭を抱え始めたぞ。

そんなに深刻な事を言ったか?

 

「人使?」

「お前が凄い奴ってだけだよ」

「???」

 

よく分からん。何処がどう凄いんだ?

うーん……分からないからとりあえず寝るか。

【みがわり】を2回使って少々疲れた。

人使に出久の対戦の時になったら起こして欲しいと言って目を閉じる。

「見なくていいのか?」と尋ねられたが興味がないからいい。

ちなみにこの間、寝顔をバシバシ撮られていたと知って恥ずかしくなり逃走するのは数日後の話。

 

 

 

 

 

人使に起こされ、目を開けると丁度出久の対戦が始まるところだった。

 

『今回の体育祭、両者トップクラスの成績!! まさしく両雄並び立ち今!! 緑谷対轟!! START!!』

 

開始の合図と同時に巨大な氷塊が出久を襲う。

それを出久は“個性”を使って打ち消した。

……しかし自損覚悟だと遠目でも分かる。

向かってくる氷を何度も打ち消しているが、その度に指が砕けてボロボロになっていく。

何か強い意志を持った目をしているが何を考えている?

流石に距離がありすぎて何を言っているのか聞き取れない。

 

「大丈夫なのかあれ……。もう両腕使い物にならないだろ」

「ああ。例えこの試合に勝っても次の試合は無理だ」

 

リカバリーガールの治癒能力がどれくらいなのか知らないが限度を超えているのは明らかだ。

それでも出久が止まる様子がない。

 

「——勝って…目標に近付く為に…っ、一番になる為に! 半分の力で勝つ!? まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ! 全力でかかって来い!!」

 

ようやく出久が何を言っているのか聞き取れたが……半分の力で勝つ? どういう事だ?

……そういえば騎馬戦の時一瞬だけだがあれは炎を発していたな。

という事は氷と炎の複合“個性”か。私の知る限りポケモンでもいないぞ。

だが今のところ氷しか使っていないから、もう一つを引き出させようとしているのか?

何のために? ただ勝ちたいだけならそんな事する必要は……。

 

「君の! 力じゃないか!!」

 

まるで空気を揺らすような叫び。

瞬間、熱波が発せられた。

あれがもう一つの力を使った。

そして何故か二人共笑っている。

……分からない。

何がそこまで出久も、対戦相手も熱くさせているのか……。

互いに向かっていく二人を教員が止めようとしたがそれより先に大爆発が起こった。

凄まじい衝撃波がここまでやってきたため咄嗟に近くにいた女子を庇う。

どうやら冷えた空気が熱で一気に膨張した事で爆発したらしい。

 

「……全員怪我はないか?」

「ないけど……これはとんでもないな」

「つかお前ナチュラルに女庇うってどういう事? モテたいの?」

「別に普通の行動だろう? 男の力が強いのは女を守るためだぞ」

「紳士……!」

「カッコいい」

「せ、正論パンチが痛い……これがモテる男の秘訣か」

「? それより出久はどうなった。煙でよく見えない」

 

煙が粗方晴れるとようやく出久の姿が場外にあるのが見えた。

あの爆発で壁まで吹き飛ばされたか。

 

「緑谷くん……場外。轟くん——…三回戦進出!!」

「…………」

 

敗れた事は残念に思うが今私の中にある感情の大部分が怒りだ。

出久どんな考えを持ってあんな行動していたのか全く分からない。

しかし友があんな風に身を粉にする姿を初めて見たから、それを怒りとしてしか捉えられていない。

 

「緑谷の様子見に行かなくていいのか? ステージの修復で次の試合までまだかかるぞ」

「……いい。会いに行ける気分ではない」

 

少しでも落ち着かせないとただ怒るだけで終わりそうだからな。

そうしているうちに修復が終わって私と出久の友との試合になった。

 

「はぁ……。全く出久にも困ったものだ。あれを見るとあんな“個性”発現しない方が良かったのではないかと思ってしまうぞ」

「確かに手術が必要な程の重傷だった。緑谷くんと長い付き合いである君は俺達より心配だろう」

「それよりは怒りが強い。ああ、安心しろ。お前にその感情をぶつけたりはしない」

「君がそういう事をしないと理解しているよ」

『START!!』

 

かなりの速度で駆け出す男をこちらも速度で翻弄する。

脚にエンジンがあるため脚力も申し分ない。

速度が乗った蹴りを食らえば問答無用で場外まで吹っ飛ばされるな。

私のアドバイスを聞いて速度に緩急をつけていて動きが読み辛くなっている。

まだ慣れていないのか荒さが目立つが中々に脅威。

 

「【かげぶんしん】」

「!?」

 

影で実体のない分身を作り出し男の攻撃を避ける。

本当は使うつもりなかったが、思ったよりあの特訓で技術を身に付けている。

一切技を使わずに勝つのは無理だ。

実体のない分身を攻撃した事で一瞬バランスを崩した男の腕を掴んで場外へ放り投げた。

 

「飯田くん場外! 新月くん三回戦進出!!」

「くっ……! やはり強いな君は。一撃でも入れられたらいけると思っていたんだが」

「あの短い期間でここまで伸ばせたお前も大したものだ。ヒーロー科の向上心は侮れないな」

 

人使のように何か一つを伸ばそうと思って特訓していたワケではないにも関わらずこの伸びよう。

やはり頂点になろうという気概があるものは違うな。

 

『嘘だろオイ! ヒーロー家出身にも勝利しちまうとはこの首席合格者本当になにもんだぁ!?』

「な、何だ今の」

「一瞬だけど分裂した?」

「凄い速度で動いて攻撃を受けたように見せたのか? 何にせよ判断能力が高いな。一瞬の隙も見逃さなかった」

「何で普通科なんだよ。俺めっちゃスカウトしたいんだけど」

「…………」

 

しかし勝った事でまた注目されているな。

この男がヒーロー家出身なのも相まっているか。

ステージから降りて観客席に戻る前に出久が通るであろう場所で待ち伏せをする。

予想通り出久が細身の男と共に歩いてきた。

細身の男は一旦無視し、出久に近付く。

 

「あ……極夜くん」

「出久。お前……何を考えているんだこの馬鹿が!!」

「っ!!」

 

少し時間を置いたから怒りが収まっているかと思ったが全く治まっていなかった。

殴りかかろうとした私を細身の男が手で制して止める。

それを見て我に返り握っていた拳を解いた。

 

「……すまない。だがお前の行動が許せないのは事実だ。あれはお前が自身を犠牲にしてまでやらなければいけなかった事なのか? ただ見ている事しかできなかった私がどんな気持ちでいたと思う!? 少しは周りのものがどう感じているのか考えろ!!」

「ご、ごめん……でも、僕どうしても轟くんを助けたくて……」

「…………」

 

ああ、もう……!

こんな事が言いたいんじゃないのに上手く言葉にできない。

……駄目だ。

また時間を置かないと今度こそ殴る。

 

「君は悲しいんだね」

「は?」

 

立ち去ろうとした私に、細身の男が諭すように言った。

 

「緑谷少年から君の事は聞いているよ。とても優しくて情のある友達だと。でもその姿のせいで今まで他に友達がいなかった事も。だからあんな風に戦う緑谷少年を見て本当は悲しかったのに、それが自分では何の感情なのか分からなくて、怒りという感情に置き換えてしまったんじゃないか?」

「悲しい……」

 

これが悲しい、という感情……なのか?

そういえば前世も含めそう感じた事がなかった。

親しい存在ができたのは生まれ変わってからだから……。

そこまで考えたらスッと怒りが消えた。

 

「怒鳴って悪かった……」

「極夜くん」

「だが頼む。もっと自分を大事にしてくれ。身内が倒れるのは見たくない」

「う…うん。本当に、ごめん……」

 

それ以上言う言葉が見つからなかったので観客席に戻った。

まさかあの細身の男に諭されるとは思わなかった。

何者かまだ分からんが、あの話し方からするに恐らく出久の師だろう。

良い師を得ていたようでホッとした。

 

「遅かったな。もうベスト4が揃ったぞ」

「出久と話していた。という事は私の試合はもうすぐか。戻って早々だが行ってくる」

 

あの戦いを見る限りかなり実力者だ。

これはもしかしたら……があり得るな。

 

『準決! サクサク行くぜ。推薦入学のエリート轟焦凍! 対 間違いなく今回のダークホース新月極夜!!』

 

『START!!』と聞こえてすぐ凍気が向かってきた。

避けたが中々小回りが利くようであっという間に周りを氷塊で囲まれた。

動きの速い私の行動範囲を狭める作戦のようだ。

【みがわり】や【かげぶんしん】は使えない。使ったとしてこの攻撃範囲では避けきれない。

元々姿を晦ませるための技ではない【くろいきり】でも同じだ。

なら……。

 

「終わりだ」

「!!」

 

僅かに動きが鈍った隙に腕を掴まれ体の大半を氷らされた。判断能力もあるな。

ここまで強い人間がいるとは向こうでは考えられない。

私は個性抑制装置を外した。

 

——カラン

 

「え?」

「【サイコショック】」

 

物体化させた念力で氷を砕く。

氷が砕かれたのを見て男が私から瞬時に離れた。

少し体が冷えたがこれくらいどうという事はない。

外した装置を拾うとミッドナイトへ投げて渡す。

 

「悪いが終わるまで持っていてくれ。壊れたら大事になる」

『個性抑制装置を外したぞ。新月は人に悪夢を見せる《ナイトメア》って“個性”を持ってるんだ! しかも自分じゃ制御できなくて個性抑制装置を着けていないと無差別に人に悪夢を見せちまう。でも何で今外したんだ?』

「…………」

「あれと戦う前に外す事になるとは思わなかったがここからが本番だ。遠慮せず全ての力を私にぶつけてこい」

 

やはり外すと体が軽い。基本風呂に入る時以外外さないからな。

さて、こいつには氷技は効かないからそれ以外のタイプの技を使うとしよう。

 

「【しんくうは】」

「!?」

 

手始めの威力は低いが速度のある技をぶつける。

技名の通りほとんど目に見えないからいきなり風の刃が襲ってきた感覚だろう。

右腕を狙ったが勘で避けたようだ。少し服を切った程度だが、これで次に私が何をしてくるか予測が難しくなるハズ。

 

「【あくのはどう】」

「?!」

 

素早く動きながら攻撃技を繰り出す。

【あくのはどう】が当たり怯んだ相手に接近すると吹っ飛ばす程度に威力を抑えて追撃する。

 

「【きあいだま】」

 

腹部に当たり上手く場外へ出したと思ったが氷壁を作り耐えきった。

応用力もあるな。あそこにいるNo.2ヒーローの息子らしいが一体どんな訓練をしたのか気になるな。

 

「っは! 何だお前のその技……」

「自分で考えろ。私から説明する義理はない」

『動き方が変わった上に何かオーラみたいなので攻撃してるぞ! 何だありゃあ!? あの個性抑制装置は《ナイトメア》を抑えるためのもんじゃねえのか?』

『個性届けには個性抑制装置を外せば超能力が使えると書いてあるな。恐らく《ナイトメア》を抑えると同時にその超能力も一緒に抑え込んでしまうんだろう』

『超能力だぁ!? まさかのサイキッカーって事か! こりゃとんだ強個性だぜ!! つか今までハンデ付けて戦ってたのかよ?!』

 

本当は超能力ではなく前世由来の力なんだが、そうとしか説明できないからそうしただけだがな。

本気で攻撃すると命に関わるからある程度加減をする。

しかし追い詰められているのに炎を使おうとしない。

何か理由があるのか?

 

「何故使わない? 炎を使えば多少私に対抗できるだろう。私では役不足という事か?」

「……そういうんじゃ……」

「使わないのなら終わらせるぞ。残念だな。お前の炎はあそこにいる奴と違い穏やかで美しいと思ったのだが」

「っ!!?」

「【サイコショック】」

 

先程氷を砕くのに使った【サイコショック】を今度は相手に使う。

物体化した念力が全方位から襲い、全身にダメージを受けて動きが止まった相手に【ダークホール】を当てる。

意識を失った体がその場に倒れた。

 

「轟くん行動不能! 新月くん決勝戦進出!!」

『まさかまさかの普通科が決勝戦に進んじまったー! 今年の体育祭は大波乱だぜ!!』

 

決着が付くとミッドナイトに預けた個性抑制装置を受け取り着け直す。

あの男が倒れている位置は《ナイトメア》の範囲内だ。早く着けないと悪夢を見せてしまう。

 

「すげぇ……。でもまさか途中までハンデ付けて戦ってたなんて」

「超能力が使えるか。多分今見せた技も使える力のほんの一部なんだろう。まだ見せていない技絶対あるだろ」

「念力を飛ばしたっぽい技も使い勝手良さそうだな。つか使い方うま! 本当に普通科か?」

「というかまた眠らせたよな。今度は遠距離から黒い球体をぶつけてたけど」

「眠らせる手段を2つ持ってるって事か。凄まじいな。並のヴィランじゃ対抗策ないだろ」

 

更に注目度が増しているな。

仕方ないか。優勝候補に勝ったんだし。

 

「お…お前個性抑制装置外したらクソ強ぇじゃねぇか……」

「今まで好成績だったあの人をほぼ完封しちゃったわ。何で普通科なの?」

「ヒーローに興味がない」

「こんな実力があるのにか。ヒーローに興味がないなんてこのご時世じゃ信じられねぇぜ」

 

そう言われても本当に興味がないのでな。

将来どうするかもまだ決めていないが、まぁそのうちやりたい事がみつかるだろう。

続いての試合。

あれと鳥のような影を操る男との対決だが……かなり分が悪いようだ。

爆発で閃光が発せられる度に動きが鈍くなっている様子を見るに恐らくあの影は光に弱い。

それにあれが気付いているかは知らんが相性は最悪だな。

しかしあれは洞察力もあるようでもう弱点に気付いたらしい。

爆破を使い強力な閃光を放って影の動きを抑え込んでしまった。

 

「常闇くん降参! 爆豪くん勝利!!」

『よって決勝は新月 対 爆豪に決定だあ!!』

 

無事勝ち上がってくれて何よりだ。

決勝まで来なかったらどうしようかと思っていたぞ。

 

「では控室に行くか。持っていてくれ人使」

「分かった。最初から個性抑制装置外していくのか?」

「ああ、元より手加減するつもりはない。私の目的はアイツだからな」

 

 

 

 

 

 

『さァいよいよラスト!! 雄英1年の頂点がここで決まる!! 決勝戦!! 新月 対 爆豪!! 今!! START!!』

 

意外とシンプルな実況だな。

まぁ今更めんどくさい前振りはいらないか。

 

「てめェ、ちゃんと個性抑制装置だったか外してきたんだろうなァ。半分野郎の時みてえに途中から外すとかなめた真似すんじゃねえぞ」

 

開始と同時に突撃してくるかと思ったが話しかけて来た。

なら丁度いい。私も言いたい事がある。

 

「安心しろ。ちゃんと外している。ついでにお前に言っておこう」

「あ?」

「私は勝敗に興味はない。頂点になる気もなければ、正直この体育祭自体どうでもいい」

「あァ!? なら何でここに立っとんだクソが!!」

「お前を叩き潰すためだ」

「は?」

「一年前……出久にあのような発言をしたお前を私は許していない。あの時の怒りはずっと燻っていた。それを今日この場でなら、お前に遠慮なく向けられる」

 

私は抑え込んでいた怒気と殺気を解き放った。

男の顔が僅かに歪む。

 

「さぁ来い! あの時のあの発言、死ぬまで後悔させてやる!!」

「やってみやがれ!! 悪夢野郎!!!」

 

男が突っ込んでくる。

勿論ただ突っ込んでいるワケではない。隙がない。

 

「くっくっくっく……どう料理してやろうか。お前が最も嫌がる戦い方をしてもいいなぁ……【わるだくみ】」

 

特攻を上げて様子を伺う。

爆破で威力と範囲が上がった重い一撃を避けるが判断が早くすぐに追撃が来る。

戦闘センスだけはあるな。

 

「【10万ボルト】」

「ぐあ!?」

 

後ろへ回避し電撃を食らわす。

全身に痛みが走る程度に威力は抑える。

そう簡単には終わらせんぞ。

距離を取った男に今度は氷技を使う。

 

「【れいとうビーム】」

 

氷と炎の“個性”を使う男に比べたら自由度も威力も低いが攻撃速度と射程は上だ。

男の右腕が凍り付くが、すぐに爆発で破壊した。

単調な“個性”だが上手く使いこなしているな。

 

『電気に氷まで使いやがった! 一体何種類の属性使えるんだ?!』

「マジかよ。そこらのプロヒーローより全然強いぜ」

「身のこなしも技の使い方も素人じゃないな」

「歴戦の猛者だって説明されても俺は信じるぜ」

 

まぁ前世では100年以上生きているからな。

好んで戦わなかったとはいえ、必要と感じればためらわなかった。

レベルが低い時は格上と戦う事も多かった。

生まれ変わってからここまでガチで戦うのは初だが、出久や人使に特訓をしていた事で鈍っていた勘も戻っている。

これくらい造作もない。

 

「クソがああああ!!」

 

しかし相手は戦闘センスの塊。

体勢を立て直すのが早い。

 

「苛立って叫ぶのなら私を怒らせたかつて自分を憎むんだな!! 【バークアウト】!!」

「っ!? 誰が憎むか!! 本気のてめェも超えて俺がトップになってやらあ!!」

 

【バークアウト】で攻撃を躊躇したのか次の爆発の威力が落ちた。

この世界では特攻を下げる効果はないか。まぁそれでも使いようはある。

 

「【ふいうち】」

「!!」

 

攻撃しようとした瞬間に不意を突いて技を放つ。

私もあれの攻撃を食らうが威力が下がっているから問題ない。

だが男は【ふいうち】を使った私の腕を掴んで投げ飛ばした。

 

「捨て身の攻撃!? 新月くん大丈夫なの!?」

「かっちゃんの爆破の威力どうしてか下がってたみたいだし、極夜くんも分かってて突っ込んでるから多分大丈夫」

「けど本気の新月やばいな……。俺達あんな奴から特訓見て貰ってたのか」

「うわ、すぐ反撃してる。あいつもあいつで容赦ねえな」

 

投げ飛ばした私をすぐ追いかけ、爆破の威力が加わった拳を叩き込む。

防御体勢をとったが間に合わずダメージを受けた。

……やるな。もっと強い技を使っても良さそうだ。

 

「【みらいよち】」

 

範囲を指定し、少し先の未来へ念力を送る。

 

「【サイコキネシス】」

 

爆破で砕けたステージの破片を念力で操り男にぶつけ、【みらいよち】の範囲内へ誘導する。

対人では封じたがものを操る事は封じていない。

プラスで【ダークホール】を放つ。

先程これを使い相手を眠らせたのを見ているから面白いように逃げている。

お陰で誘導しやすい。

 

「今更こんなもん食ら…!!!」

 

上手く誘導できたところで【みらいよち】が発動し、念力の塊が上空から降り注ぐ。

使うのが難しいが威力が高いのが【みらいよち】だ。

男は攻撃をまともに受けて倒れ込んだ。

倒れた男に近付き殺意を込めた目で睨みつける。

 

「出久に謝れ。今なら許してやる」

「てめェ……んな下らねぇ理由で俺の前に立ってんじゃねえ!!」

 

こいつ何処までプライドが高いんだ。

言ってはいけない事を言ったのはお前の方だぞ。

今の【みらいよち】で大分ダメージを受けてもうフラフラだろうに諦めも悪い。

最大火力を私にぶつけようとしている。

なら私はお前が最も嫌がる勝ち方をしてやろう。

突っ込んでくる男の攻撃タイミングに合わせて私も技を使う。

 

「【つるぎのまい】」

「【榴弾砲着弾】!!」

 

——ドゴオォォォォン!!

 

男が放った大技で巨大な爆発が起こる。

ステージ全体が煙で覆われ視界が失われているがこれが目的だ。

僅かに煙が晴れた瞬間男の背後に姿を現す。

 

「な!?」

「【ゴーストダイブ】!」

 

影に身を潜めて攻撃を避け、【つるぎのまい】で集中力を上げて重い一撃を食らわす。

大技を使った直後で体に反動が残る男を大きく吹っ飛ばした。

すぐ体勢を立て直したが、この様子だと気付いていないな。

 

「ゴホッ…! てめェ影に潜れんのかよ。何でもあ」

「爆豪くん場外!! よって新月くんの勝ち!!」

「……は?」

『以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭1年優勝は———C組、新月極夜!!!!』

 

毬栗頭が大技を使う時、実は場外ラインの近くで技が炸裂するように誘導していた。

そして大規模な爆発で視界が悪く、技の反動でふんばりが効かないタイミングで場外へ吹っ飛ばした、という寸法だ。

しかもステージから完全に出ているワケではなく場外ラインから僅かに体が出ているというギリギリを狙った。

力加減や位置調節が難しかったがどうだ?

プライドの高いお前にとってはこれ以上ない屈辱だろう?

 

「フザけんなァ!! もう一回やり直させろ!! こんな負け方認められるか!!」

「やかましい。もう勝敗はついた。グダグダ言うな」

「!! てめ……」

 

私に殴りかかろうと男だがフッと力が抜けて倒れた。

どうやらミッドナイトが“個性”を使ったようだ。

このままだと悪夢を見せてしまうが……まぁいいか。

私が個性抑制装置を着けるまでの間、悪夢に魘されるといい。

 

 

 

 

 

「それではこれより!! 表彰式に移ります!」

 

体育祭が終わり表彰式となった。

正直もう気が済んでいるし、いつも以上に周りに気を遣って疲れたから帰りたかったが優勝したのだから出ないと不味い。

変に拒むとあれの二の舞になる。

 

「何アレ…」

「起きてからずっと暴れてんだと」

「ん゛ん゛ーーー!!」

「もはや悪鬼羅刹」

「…………」

 

2位の表彰台、私の隣にいる毬栗頭がオコリザルが可愛いと思うほど暴れ狂っている。

あまりにも暴れるため全身に拘束具を付けられている。見るに堪えない姿だ。

 

「はぁ……馬鹿らしい。負けただけでこのような無様な姿を晒すとは実力があるだけの幼稚な子供だな」

「!! ん゛ーーーーー!!」

「煽るなよ新月。余計悪化するから」

 

そう言われても事実だからな。

これならワザと負けても良かったかもしれない。

 

「メダル授与よ。今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

「私が、メダルを持って来「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」

 

おお、TVではよく見るが間近で見るのは初めてだな。

………ん?

この匂い……出久と一緒にいた細身の男ではないか?

あまりにも見た目が違うが匂いは全く同じだ。別人だとは考えられない。

ではあれがオールマイトのもう一つの姿という事か。

一部のポケモンのようにフォルムチェンジする“個性”なのか。

そしてあの場で名乗らなかったという事は秘匿にしている姿なのであろう。

なら私は気付かなかったフリをするべきだな。

 

「常闇少年おめでとう! 強いな君は!」

「もったいないお言葉」

 

オールマイトの正体を考えているうちにメダル授与が始まったが……は?

何かオールマイトがメダル贈呈した相手に抱擁しているのだが、まさか私もされるのか?

触られるの嫌いなんだが大勢が見ている目の前でNo.1ヒーローの抱擁を拒んだらヤバいか。我慢しよう。

横で口輪を外された毬栗頭が何か言っているがすでに興味が失せているので無視した。

それが気に入らないのか更に叫んでいるがもうどうでもいい。

 

「新月少年優勝おめでとう! 緑谷少年から聞いていたが君の実力は凄まじいね」

「……どうも」

「だが本当に本気、というワケではない。あの状態でもある程度力をセーブしていただろう」

 

確かにそうだがバラさないでくれ。

横の毬栗頭が更に鬱陶しくなる。

 

「それはまぁ……手加減せずに力を使えば相手に怪我をさせてしまうから」

「やはりそうか。轟少年も爆豪少年もそこまで大きな怪我はしていなかった。見ているだけで分かったよ。君は誰かを傷付ける事をとても嫌っている」

 

優勝メダルを私の首にかけるとオールマイトは私を抱き締めた。

不思議と……それを嫌だと感じなかった。

 

「君は決して害じゃない。誰かを思いやれる優しい子だ。もっと自分に自信を持ちなさい」

 

そう……なのか?

私の見た目も、力も……周りに害を与えるものでしかないのにそんなハズは……。

でも……本当にそうなら両親は私を愛していない。

出久も人使も私の友となっていないだろう。

オールマイトが言うなら、少しはそう思っていいのだろうか……。

 

「さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にもここに立つ可能性はあった!! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていくその姿!! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!! てな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和下さい!! せーの」

 

「プ「プルスウ「おつかれさまでした!!!」ス…えっ!?」ルス」

 

「そこはプルスウルトラでしょ。オールマイト」

「ああいや…疲れただろうなと思って……」

「…………」

 

最後の最後に締まらないなぁ……。

少し天然なのか? まぁ完璧すぎるより愛嬌があるか。

私の事も諭してくれたし、この者が出久の師なら安心だな。

 

 

———続く

それから試験当日のギリギリまで制御訓練を行った。

使うのが難しいのかあまり形にはならなかったが、余程咄嗟に“個性”を使わない限り体を壊す事はないだろう。

そしていよいよ試験の時間になった。

私は特に緊張していないが出久はガチガチになっている。

 

「あまり緊張しすぎると全力を出せないぞ。もう少しリラックスしろ」

「が、ががががが頑張る」

「……駄目そうだな。試験会場が違うからここで別れるが出久なら大丈夫だ。自信を持て」

 

かなり心配だがもう時間だから出久と別れ会場へ向かう。

しかし雄英高校……映像や資料で見るより大きく感じるな。流石は国立だ。

無事試験を終え、校門で出久が来るのを待っていたのだが中々来ない。

何かあったのか?

しばらく待っているとようやく出久がやってきた。

かなり落ち込んでいる様子から、結果は芳しくなかったようだ。

 

「極夜くん……」

「帰ろう。今日はゆっくり休め」

「うん……」

 

出久の頭をポンポンと撫でる。

何があったのか気になるが出久が自分から言わない限り深く訊かない。

しんどいのは出久だからな。

それから一週間後。

家事をしている私のところへ母さんが大慌てでやってきた。

 

「極夜ー! 雄英高校から合否通知来てたわよ!」

「もうか? 思ったより早かったな」

 

母さんから通知を受け取り中身を確認する。

父さんは残念ながら仕事でいない。まぁいても大騒ぎしそうだからいい。

一応自己採点では合格ラインは超えていたが果たして……。

 

「おめでとう極夜!! 雄英高校に合格なんて凄いわ!!」

「ありがとう母さん」

 

私以上に喜んではしゃいでいるが、あんまり興奮しすぎると体調を崩してしまうので落ち着かせる。

さて私に届いているという事は出久の元にも届いてるだろう。

できれば出久も合格していて欲しいがどうなるか……。

そう思っていたら出久から着信が入った。すぐに出る。

 

『もしもし極夜くん』

「出久か。今私の元へ雄英高校から合否通知が届いた。私は合格した。出久はどうだ?」

『おめでとう極夜くん。僕も……駄目かと思ってたけど合格したよ』

「! そうか。出久もおめでとう。道は違うが互いに切磋琢磨しよう」

『うん!!』

 

入学までこちらも多々準備はあるからあまり出久の訓練に付き合ってやれないのが悔やまれる。

学校で何故か毬栗頭に絡まれたが、理由が心底下らなかったから適当に流して過ごす。

そしてあっという間に入学式の日になった。

真新しい制服に身を包み家を出る。

 

「行ってくる」

「行ってらっしゃい。頑張ってね」

「ああ」

 

途中で出久と合流して共に雄英高校へ向かった。

やたら大きい校門を潜り、互いの教室へ行く。

私は普通科だから出久の教室とはかなり離れているな。

 

「お前のその《ナイトメア》ってどんな“個性”だ?」

 

担任が来たのでクラスメイト全員の一通りの自己紹介を終え、入学式を待っていたら声を掛けられた。

初っ端から声を掛けられると思っていなかったからついポカンとしてしまった。

 

「……聞いてるのか?」

「あ……ああ、すまない。確か後ろの席の……」

「心操人使だ。さっきも言ったけど俺の“個性”は《洗脳》。俺の問いかけに答えた奴を洗脳して操るって“個性”だ」

「改めて新月極夜だ。その“個性”は異形型の私でも操れるのか?」

「問いかけに答えさえすれば異形型でも関係ない。——それでお前の《ナイトメア》はどんな“個性”なんだ?」

「…………」

 

“個性”を使おうとしていると感じ取ったので口を紡ぐ。

成程、これは強い“個性”だ。初めて対峙したものはまず見抜けまい。

 

「…………」

「………………」

「………何で分かったんだ?」

「勘だな」

「そんなんで突破してくる奴初めてだよ。ただもんじゃないって思ってたけど」

「そう肩を落とすな。それで質問の答えだが、私の周囲にいるものに悪夢を見せる“個性”だ。ただ自分では制御できない。個性抑制装置を付けてはいるが、あまり私の近くで眠らない方がいい」

 

あまりに近くにいると個性抑制装置を付けているのに悪夢を見せてしまう時がある。

前世でも特性を消せるのは一時的だったから仕方ない事だが、やはり心苦しい。

 

「制御できないって……自分の意思とは関係なく発動してるって事か?」

「そうだ。使いようのあるお前の“個性”と違って他人に迷惑しかかけない“個性”だ。隣の席のお前も《ナイトメア》の範囲内にいるから気を付けろ」

「俺も!? お前やべぇ“個性”持ってんな!? 怖ぇのは見た目だけにしとけよ!!」

 

それはよく言われる。

前世からそう言われているから何も感じないが。

 

「見た目は関係ないだろ。そもそも差別するな。どう考えてもこの“個性”で一番苦労してるの新月だろ」

「そうだよなー。傍にいるだけで悪夢見せちゃうなら気軽に人と交流できないもんな」

「本当にね。僕なら気を遣って一歩引いちゃうよ」

 

しかし次に聞こえてきた言葉で再びポカンとしてしまった。

今私は庇われたのか? 初対面の私を? 何故……。

 

「どうした? 変な顔してるぞ」

「……いや、何…でも、ない……」

 

不味い。どう反応していいか分からん。

想定外の事態に思考が上手く働かない。

その時「入学式が始まるから校庭に集まれ」という教師の声が聞こえてホッとした。

一旦この場から逃げられたが今までにない対応だからいつもと違う意味で先行きが不安になった。

未だに人付き合いが苦手なのに大勢に話し掛けられたら絶対またさっきのようになる。

不安を感じながらも校庭に集まり、校長の長い話を聞く。

あれは……ネズミか? あの子と特徴が違うからネズミでいいよな?

 

「もう帰るのか?」

 

初日が終了し、帰路につこうとしていると《洗脳》の“個性”を持つ男が声を掛けてきた。

こいつも私を恐れる様子がないな。出久と同じで興味から私に声を掛けているようだ。

 

「母が病弱でな。(入学準備に張り切りすぎた結果)昨日から体調を崩しているのだ。心配だから帰らせて貰う」

「それは心配だな。もう少しお前と話してみたかったけど明日にするよ」

「そうしてくれ。ではな」

 

何を話すかは知らんが一応そうだと覚えておこう。

校門へ向かっていると出久が歩いているのが見えた。

そういえば入学式の時姿が見えなかったな。何をしていたのだろう?

訊こうと思ったが見知らぬ人間が出久の傍にいたから止めた。

恐らく同じヒーロー科の生徒だな。

早速友ができたようだ。同じ志を持つものだから意気投合するのも早いのだろう。

邪魔をしては悪い。姿を見られないよう帰るとしよう。

しかし自分でそう判断したのに寂しい、と感じてしまった。

以前は感じなかった感情。

人間として育って11年。随分人間の心に近くなったようだ。

ポケモンとして生きてきた時間の方がずっと長いが、ただ漠然と生きてきた頃と違って日々何かしら変化があるから影響が大きい。

前世と同じ姿であるため完全に人間と同じように感じられないかもしれないが、この変化も悪くないと思っている。

 

 

 

 

 

 

翌日、授業が始まり本格的に高校生活がスタートした。

中学より格段にレベルが高くなっていて面白い。

前はつまらなくて授業中に大学の論文を読んでいたな。

 

「お前こんなところにいたのか」

 

昼になり教室で一人食事をしていたら昨日私に話しかけて来た男がやってきた。

もしかして私を探していたのか?

 

「大食堂に行けばプロの料理人の食事が安価で食べられるんだから、わざわざ弁当持って来なくてもいいだろ?」

「……人が多いところは苦手だ」

 

大分慣れたがやはり人混みは避けたい。

後単純に食べるのが遅いから急かされたくない。

すっかり食べるのが好きになったからできるだけ一人でゆっくり味わって食べたい。

 

「おかず全部手作りみたいだけど母親が作ったのか?」

「私だ」

「え?」

「昨日も言ったが母が病弱だから自然と身に付いた」

 

季節の変わり目などで温度差が激しくなると母さんはすぐ体を悪くして寝込んでしまう。

一度寝込むと1、2日は満足に動けない。家事などとてもできる状態ではない。

だから自然と家事をするようになった。今では家事の大半は私がしている。

 

「母親思いだな。何で雄英受けたんだ?」

「友が雄英に一緒に行こうと誘ったからだ」

「……そんな軽い理由で受けていいところじゃねぇと思うんだけど」

「他の事情など知らん。そういうお前はどうなのだ? まぁ恐らくヒーロー志望なのだろうが」

 

この男パッと見はそう感じなかったが、出久と同じ目をしている。

ヒーローに憧れ、それを目指そうとする強い意志が宿る目。

目指すものが何もない私には眩しすぎる目だ。

 

「……ああ。けどヒーロー科落ちて普通科で入った」

「お前の“個性”ではあの実技試験は無理だろう。戦闘系の“個性”を持つものを操っても自分の得点にならないのだからな」

 

あの後で出久から試験の内容を聞いたが、戦闘系の“個性”を持つものでなければ得点を稼ぐ事は難しい。

救助活動Pがあるなど事前に知らされていない状態ではこの男の“個性”で合格できまい。

 

「だが対人において強い“個性”を持つもの蹴落とすなど雄英も考えが甘いな」

「それだよ」

「ん?」

「お前昨日俺の“個性”を聞いて何で使いようがあるって言ったんだ? 今だって強いって言って……ヴィランみたいだとも言わないし……俺お前を操ろうとしたんだぞ」

「あれは私がああ言ったからだろう? 本気で私を操ろうとはしていない。悪意があるないくらい分かる」

「…………」

「使いようがあると言ったのは行動を縛る行為自体が強いからだ。問いかけに答えさえすればヴィランを無抵抗で捕縛できるからな。何もさせない、というのは簡単に見えて難しいものだぞ」

 

【ちょうはつ】や【かなしばり】、【ふういん】といった技を使わせない変化技は案外脅威だからな。

通常は4つしか技を覚えられないから一つでも封じられると自分がやりたい事ができなくなる。

だがこの男の“個性”は条件があるとはいえそれを全て封じられるのだ。弱いわけがない。

 

「……はっ、……何かお前と話しているとすっげー年上と話してる気分になるな」

「(実際100年以上生きているからな)独りでいる時間が長いから色々考えているだけだ」

「でも面白いな。新月、良かったら俺と友達になってくれないか?」

「は?」

 

予想外の提案に持っていたフォークを落とし固まった。

 

「そんなに驚かなくてもいいだろ」

「……すまない。だが自分から私と関わろうとする人間が今まで二人しかいなかったから、つい……」

「その見た目と《ナイトメア》のせいか。一見幽霊か死神みたいだからな」

「まぁそうだな」

「でも話してみると面白い奴だってすぐ分かるよ。理由はそれもあるけど俺はヒーロー科への編入を目指してるんだ。首席合格のお前にアドバイスして貰えると助かる」

「首席合格? 私がか?」

「ああ、名前を言ってるワケじゃなかったけど内容から新月の事だろう。歴代最高得点で合格した異形型の生徒がいるって先生が騒いでた。勿論ヒーロー科を除いてだけどな」

 

嘘だろ。確かに試験の時思ったより難易度が高かったから本気で回答してしまったが首席合格はやりすぎた。

絶対教員から注目されてる。少し手を抜いておけば良かった。

まぁそれは一旦置いておいて……。

 

「止めておけ。私の近くにいるとお前まで何か言われる。ヒーローを目指しているのに悪評がついては不味いだろう」

「そんなの気にしないよ。俺が友達になりたくて誘ってるんだ。周りの評価何かどうでもいい」

「…………」

 

気怠そうな感じだがやはりヒーローを目指すものだな。

自分の意思はしっかりしている。

会ったばかりの私に何故そんな関心を寄せるのか疑問だが、この男……心操人使がここまで言うのなら良いか……。

 

「分かった。編入について私に何ができるか分からないが、微力ながら手助けしよう」

「微力じゃねぇと思うけどな。ありがとう新月」

 

というワケで今世二人目の友を得た。

まだ互いの事をよく知らないが、出久の時の事を考えればなんとかなるだろう。

ちなみに新しい友ができたと母さんに報告したら熱があるのに大喜びしていた。

頼むから安静にしていてくれ。折角少し良くなったのに悪化してしまう。

それから数日。

学校にマスコミが侵入したり、ヴィランが襲撃したりと色々あった。

翌日は臨時休校になったが、その次の日に雄英体育祭があると発表があった。

祭典に近い催しなのは分かるが開催しても大丈夫なのだろうか?

まぁやるにしてもやらないにしても私は初戦でワザと落ちるとしよう。

TVでも生放送される催しに出るなど死んでもごめんだが生徒は強制参加だからそうするしかない。

 

——ピコン

 

帰ろうとしていた矢先出久からLINEが届いた。

内容は体育祭に向けて特訓をするから手伝って欲しいというもの。

断る理由はないから「分かった」と返信をして出久が待っている場所へ向かう。

 

「極夜くーん!」

 

出久が呼ぶ声が聞こえたので視線を向けるて……絶句した。

そこにいたのは出久だけではなかった。

 

「彼なのか?」

「うん。中学の時からの友達ですっごく強くて頭も良いんだ」

「聞いていた通り異形型なのね」

「脚がなくてふわふわ浮いてるから幽霊っぽいな。でも黒いモヤモヤのヴィランと違って嫌な感じはしねぇ」

 

見知らぬ人間が4人。恐らくヒーロー科の生徒だろうが何故いる?

私の困惑を感じ取ったのか「ごめんね極夜くん」と申し訳なさそうに謝ってきた。

 

「実は飯田くん達に極夜くんに特訓を手伝って貰うの知られちゃって……前に極夜くんの事話してたから皆興味持っててそれで会ってみたいって……」

「…………」

「ほ、本当にごめん! 極夜くんが人付き合いが苦手なのは知ってるんだけど断れなくて……」

「別に責めているワケではないのだが……」

 

それでも一言連絡して欲しかった。

そうすれば心構えくらいしてきたのに……。

 

「突然すまない。俺達が緑谷くんに無理を言ったんだ。彼を責めないで欲しい」

「だから責めているワケではない。えっと、お前は……」

「失礼、自己紹介がまだったな。1年A組学級委員長、飯田天哉だ」

「麗日お茶子です。よろしくね」

「蛙水梅雨よ」

「俺ぁ霧島鋭児郎。緑谷が強ぇって言ってたけどどれくらい強ぇんだ!?」

「……新月極夜だ」

 

今まで経験した事がないほどグイグイ来るな。

私の姿が怖くないのか?

雄英に入学してからそう感じる事は確かに少ないがここまで露骨だとやはり反応に困る。

 

「私が強いかはともかく……出久ここにいる全員、体育祭に向けて特訓をしたいという解釈でいいのか?」

「うん。極夜くんの指導は的確だからお願いしたいんだけどいいかな?」

「そんなに的確か? 構わんが私はお前達と初対面だからどれほどの実力を持っているか知らない。だから全員“個性”を使用し私に向かって来い」

「「「「えぇ!?」」」」

 

半ばヤケクソ気味にそう言うと全員驚愕の表情を見せた。

出久も少し心配そうな顔をしているが一人一人確かめていたら日が暮れる。

これが一番手っ取り早い。

 

「それだと新月くんが凄く不利になっちゃうじゃん」

「必要だと感じたら個性抑制装置を外す。遠慮せずに向かって来るといい」

「そうか? なら全力で行かせて貰うぜ!」

 

威勢がいいな。向上心もありそうだ。

なら私も手を抜かずじっくり見定めさせて貰おう。

 

▽▲▽▲▽

≪緑谷出久視点≫

 

僕が中学に上がって少し経った頃季節外れの転校生がやってきた。

クラスは違うけどかなり話題になっていた。

理由は勿論その姿。

脚がなく、常に浮いていて髪が白く肌が黒い。まるで幽霊のよう。

こんな異形型見た事がない、と誰もが口を揃えて言った。

でもそんな姿のせいで転校して早々「目が合うと呪われる」とか「凶悪なヴィランの子供だからあんな姿なんだ」という噂が流れ始めた。

異形型は差別される事が多いけどいくら何でも酷すぎる。まだ転校してきて数日なのに……。

それから1ヶ月くらい経った頃、転校生が“個性”が暴走してしまった生徒を助けた、という話を聞いた。

何でも転校生が黒い球体を投げつけたら“個性”が暴走した生徒が眠ったらしい。

何をしたのか確かめようと近くで観察する事にした。

隠れて様子を見るつもりだったけどあっさりバレた。

けど急に話し掛けられたのに怖いとは一切感じなかった。

それに僕を見る目が何か優しい感じがして思わず色々話を訊いた。

異形型ってだけでも大変なのに制御不能な“個性”まで持っているなんて……。

でも本人はその事を気にしていない上に、無個性の僕を下に見たりせずアドバイスまでくれた。

自分は差別される側なのに優しい人なんだと思った。

極夜くんの事をもっと知りたくなって昼休みになると校舎裏にいる極夜くんに会いに行った。

気が付けば僕は極夜くんを友達だと思っていた。

久し振りに友達ができて喜んでいたら極夜くんは友達が何なのか分かっていなくて訊かれた時は驚いたけど、あれだけ変な噂が立っていれば今まで友達がいなくて当然だ。

話してみれば優しくて情に厚い人だってすぐ分かるのに。

自慢の友達だからヒーロー科の皆につい教えてしまった。

その結果極夜くんに迷惑をかけちゃったけど……。

 

「成程。各々の実力は分かった」

「「「「「…………」」」」」

 

ものの10分。

全員伸びているのに息一つ乱れていない極夜くん。

やっぱり強い。個性抑制装置を外させる事もできなかった。

ヒーロー基礎学を学んでちょっとは追いついたかと思ったのにまだ届かない。

 

「つ、強ぇって……レベルじゃねぇだろ、これ……。一撃も当たんなかった……」

「き……君、ここまでの強いのに、何故ヒーロー科では…ないんだ?」

「興味がない。目立つのは嫌いだ。人前に立つなど考えるだけで寒気がする」

 

ブレないなぁ。でも目立つのが嫌いなのは本当だ。

中学の体育祭の時も絶対に競技に参加しなかったし。

 

「お前は動きが直線的すぎるな。曲がるのが難しいならスピードにもっと強弱をつけるといい。それだけでも相手に考える時間を与える事ができるハズだ」

「スピードに強弱……」

「お前は恐らく触れる事が“個性”の発動条件なのだろうが狙いが分かりやすすぎる。後単純に体力がない。もっと体力をつけて動き回れるようになるだけでも違うと思う」

「体力……」

「お前はちょっと受け身になりすぎな気がしたな。防御寄りの“個性”であるが故だろう。センスはいいから体術を極めるだけでも更に強くなる」

「う、うす……」

「この中でお前の動きが一番良かったな。ただ懐に潜り込まれた時弱いかもしれない。万が一そうなった時のために素早く打てる足技を仕込んでおくといい。その跳躍力なら脚の筋力はかなり高いハズだ」

「足技ね。あんまり考えた事なかったわ」

「……で、出久」

「!!」

 

声がいつもより低い。

これは怒られる奴だ。

 

「咄嗟的に使うなとあれほど言っただろう。神経を痛めた場合の治療は難しいんだぞ。完治しない可能性もあるのだからもっと体を大事にしろ!」

「痛い痛い痛い!! ご、ごめん極夜くん!!」

 

頭をグリグリされて地味に痛いけどこれヴィラン襲撃の時の怪我の事も言ってる!

結局あの時も脚折っちゃった。極夜くんもそれを後で知ってめちゃくちゃ心配してた。

今も散々注意された事をすれば怒るのは当たり前だ。

 

「ケロケロ。新月ちゃんは緑谷ちゃんが大事なのね。すぐ分かるわ」

「いや別……何故ちゃん付けなんだ?」

「つ、梅雨ちゃんだから」

「……意味が分からん」

 

ちゃん付けに相当びっくりしたみたい。

平静を装っているけど動揺すると目が泳ぐから分かりやすい。

 

「強ぇ上に、緑谷が言ってた通り篤い奴だなおめぇ! 男らしいぜ!」

「私の何処が熱いんだ? お前の方が熱いだろう」

「多分その熱いじゃねぇんだけどいいや。おめぇの事気に入ったぜ! 体育祭で戦える時が楽しみだ!」

「私は初戦敗退するからそれは諦めろ」

「はぁ!? 何でだよ!!?」

「目立つのが嫌いだと言っただろう」

「ぐっ……! でも俺はおめぇに勝ちてぇ! 良かったらまた稽古つけてくれ!!」

「……今日みたいな感じで良ければ動きを見る。気が向いたら出久に言うと良い」

「本当? じゃあ私もお願いしていいかしら」

「俺も頼みたい!」

「わ、私も」

「全員か。……構わんが私は教師ではないからそこは考慮しろよ」

 

うーん。相変わらず押しに弱いなぁ。

本人は自覚ないみたいなんだけど、どうも人との交流に関しては受け身っぽいんだよね。

警戒心は強いんだけど友好的に接してくる人の押しには弱いみたいで案外あっさり受け入れてる。

勿論何でも受け入れるわけじゃないけど邪険にできないのは確かだ。

 

「なら明日早速頼むぜ!」

「明日は駄目だ。先約がある」

「明後日ならいいのか?」

「今のところ予定はないな。駄目そうなら出久に連絡をいれておく」

「分かったよ。また明後日頼むね」

「ああ」

 

というワケで体育祭までの2週間、極夜くんが特訓をしてくれる事になった。

前みたいに極夜くんと一緒に特訓ができて嬉しいな。

そして約束の日になったんだけど……。

 

「出久、何故人数が増えている」

「えっと……切島くんがちょっと口を滑らせちゃって……」

 

うっかり「これから新月に稽古つけて貰うんだ」って言っちゃったんだよね。

それで興味を持った芦戸さんと上鳴くん、尾白くんが付いてきちゃった。

極夜くんが虚無の顔をしている。あ、これは不味いかも……。

 

「いいだろ新月。皆ヒーロいでででででで!!! タンマタンマ!! 頭割れる!!」

「ちょ……極夜くんアイアンクロー止めてあげて!!」

「新月ちゃん怒ってるの?」

「怒ってるんじゃなくてこの人数に囲まれた事がないから多分反応に困って……」

「つまり八つ当たりか。それは良くない。全員で止めよう!」

「って力強!!」

 

二人掛かりで何とか引き離した。極夜くんの動揺具合が分かるなぁ。

しかしどうしよう。極夜くんあまりにも自分が経験した事がない場面に遭遇するとどうしていいか分からなくなって逃げちゃうんだよね。

 

「急に押しかけてごめん。でも切島が話してた君の事が気になったの。あ、私芦戸三奈。よろしく!」

「…………」

「見た事ない異形型だね。こっちちゃんと目ある?」

「……どうでもいいだろう」

「いいじゃんか教えるくらい」

「…………」

「ちょっと、答えてよー!」

「芦戸さん無理に訊くのは良くないよ。初めまして、俺は尾白猿人だ」

「俺は上鳴電気。じゃあ腰のヒラヒラしてる部分は何だ? スカートみてぇだな」

「これは………………………………皮膜……? みたいなものだと思う」

「「自分で知らないのかよ!!」」

「考えた事がなかった」

 

あれ? 何か会話が成立してきた?

それから三人と会話をしていたら落ち着いたみたいでいつもの雰囲気に戻った。

 

「そもそも何故私の元へ来る。担任に頼んだ方がいいと思うが」

「相澤先生もヒーローだから頼み辛くて」

「はぁ……この人数だから個々には見れんぞ。それでもいいのか?」

「全然いいよー。こういうのって自分と同等か格上の人とやった方が伸びるって聞くし」

「なら俺達で組手するからさ、新月はそれ見ててくれよ。それで直した方がいいとこ見つけたら言ってくれ!」

「分かった。そうしよう」

 

その日は交代交代で組手をして極夜くんにアドバイスを貰う形になった。

僕は咄嗟に“個性”を使おうとしたところを極夜くんに吹っ飛ばされる、を何度かやってしまったけどそれ以外は問題なく終わった。

終わる頃には極夜くんも大分皆と打ち解けて普通に話せるようになっていた。

皆ももう極夜くんの性格に気付いて和気あいあいと接している。

それに少し戸惑いながらも受け入れている極夜くん。

やっぱり押しには弱いみたいだ。

八人で極夜くんに特訓を見て貰って五日目。

今日は全員で極夜くんに挑んでようやく個性抑制装置を外させる事に成功した。

そう、成功したまでは良かった……。

 

「う、動けない……」

「何だこれ……苦しい……」

「見えない、力で……締め付けられてる感じが、する」

 

前に海浜公園で見せた技。

三人の動きが完全に抑え込まれている。

目が光っていて力を放っているのは分かるのにそれが何か分からない。

予想外の動きに全員の足が止まる。

 

「ふむ。物に使うのと人間に使うのでは勝手が違うな。この技は対人では封印する事にしよう」

 

フッと目から光が消えて動きを抑え込まれていた尾白くん、上鳴くん、芦戸さんが倒れ込んだ。

相当苦しかったのか顔色が悪い。

 

「い……今の何? 目が光ってたけど」

「簡単に説明すると強い念力で動きを無理矢理抑えつけていた。だが人間に使うには強すぎたな」

「個性抑制装置を外せば超能力が使える、という事か?」

「ああ、その解釈でいい」

「嘘だろ!? ただでさえ強ぇのにそれ外せばんな事できんのかよ!!」

 

皆驚いているけど僕はまだ力を隠していると思っている。

現に岩を粉々にした黒いオーラを出す技は使っていない。

極夜くんは個性抑制装置を付け直すとまだ倒れている3人に近付いた。

 

「すまない。少々加減を誤った。軽い【さいみんじゅつ】をかけるから少し眠ると良い」

 

そう言うと何か手から波動みたいなものが出て、それを浴びた3人があっという間に眠ってしまった。

これ……中学の時に“個性”が暴走した生徒に使った眠らせる力?

でも聞いていたのと違うような……。

 

「一瞬で寝ちゃったわ。個性抑制装置を外してないのにどうして?」

「これは“個性”とは関係ない、私が生まれつき持っている力だ。個性抑制装置をつけるとこの力も同時に抑制されてしまうがこれくらいのことはできる」

「その力で強制的に眠らせたの? ミッドナイトみたい。これだけでもプロヒーローとして十分活躍できるポテンシャルがあるよ。ヒーロー目指さないの?」

「興味がない」

「そうか。君は優しい人間だから向いていると思うのだが……」

 

それは僕も同じ意見だ。

本当に興味がないのなら“個性”が暴走した生徒なんか無視すればいいのに、わざわざ先生に許可を貰ってまで助けたんだ。

十分ヒーローに向いていると思うのに……姿のせいでずっと差別されてた影響かな?

 

「しかしここまで近寄らないと効果がないのは少し使い辛い気もするな。ミッドナイトは香りを嗅がせるだけでいいが集団で襲われた場合対処は難いだろう」

「言われてみればそうかも。私みたいに近寄らせなきゃいいってヴィランが気付いて遠距離から攻撃されたら大変だよ」

「……私は眠らせる技を二つ持つ。一つは今見せた【さいみんじゅつ】。もう一つは【ダークホール】だ」

「「「え」」」

 

ここで僕も聞いた事がない話が飛び出した。

眠らせる技が二つあるだって!?

極夜くんは手で黒い球体を作り出すとそれを前方へ投げた。

投げられた球体は地面に当たると炸裂し、広い範囲へ広がる。

 

「今のが【ダークホール】だ。あの範囲内にいたものを全員眠らせられる」

「何だそれ強え!!」

「す、凄い……。緑谷くんもびっくりしてるけど知らなかったの?」

「うん、知らなかった……」

 

これだ。これを中学の時に使ったんだ。

確かにこれなら遠くから安全に鎮静化させられる。

多分訊かれなかったから詳しく言わなかっただけなんだろうけど何かちょっと複雑な気分……。

 

「やはり君はヒーローになるべきだ! その心意気と力はヒーローに相応しいと俺は思う!」

「私もそう思うわ」

「言っているだろう。興味がない」

「ブレねぇなぁ。でもヴィランにはならないでくれよ。俺ダチと戦いたくねぇからさ」

「……それにもならないから安心しろ。両親に迷惑かけたくない」

「家族思いなんだね。気持ちは分かるよ」

 

それもあるけど極夜くんがヴィランになる事は操られでもしない限りないと思う。

姿から誤解されやすいけど極夜くん争い事も嫌いなんだよね。

 

「極夜さんがヴィランになるなんて億が一にもありえません! 極夜さんは人と争う事を嫌っていますから!」

 

その時、僕と同じ意見を述べる甲高い声が響いた。

声が聞こえた方へ顔を向けるとそこには獣の異形型だろう人物が立っていた。

体形から女の人だ。全身を柔らかそうな灰色が混ざる茶色の体毛に覆われていて耳が丸い。

ネズミっぽいけど何か違うような……。

 

「は……?」

 

その人物を見た極夜くんの予想外の反応にびっくりした。

滅多に動かない表情が明らかに変わっていた。

 

「お久し振りです極夜さん。また会えましたね」

「…………陽佳(ひか)……」

 

更にびっくりしたのが極夜くんがその人物を名前で呼んでいる事だった。

極夜くんは親しくしてもいいと思った人しか名前で呼ばない。

名前で呼ぶくらいあの人と親しいって事? 一体何者なんだ?

 

▽▲▽▲▽

≪飯田天哉視点≫

 

突然現れた獣の異形型の女子生徒。

どうやら新月君と知り合いらしい。

しかもただの知り合いというワケではないようだ。

その証拠に新月くんが見た事がない程驚きの表情を浮かべている。

 

「極夜さん!」

「!!?」

 

と、女子生徒が新月くんに両手を広げて抱き着こうとしてきた。

それを新月くんは小さな動作で避ける。

避けられた女子生徒はバランスを崩し眠っていた三人に突っ込む形で転んだ。

 

「!? いったぁ!!」

「な、何だ!?」

「え? だ、誰?」

 

その衝撃で三人は目を覚ました。

少し眠ったお陰で顔色は良さそうだ。

 

「いっっったいです極夜さん。何で避けるんですか!?」

「私が触れられるのが嫌いなのを知っているだろう。何故抱き着こうとする。それはそれとて三人に謝れ」

「あああああ! ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

 

避けた新月くんも悪いと思うが、触られるのが嫌いなのを知ってて抱き着こうとした彼女も彼女か。

 

「大丈夫よ。びっくりしちゃったけど」

「うん。鍛えてるからこれくらい平気だ」

「本当にごめんなさい。私はサポート科の高山陽佳といいます。“個性”は《ナキウサギ》です」

「「「「え!? ウサギ!?」」」」

 

どんな“個性”なのかと思いばウサギだと?

そうは見えないな。耳も長くない上に顔つきもウサギというよりネズミだ。

 

「あ、疑ってますね。でも本当にウサギなんですよ。ほら、ウサギの特徴である二重の前歯が見えますか?」

 

高山くんが口を開けてその証拠を見せてくれた。

確かに前歯が二重になっているがこれがウサギの特徴なのか?

 

「ナキウサギは皆が知ってるウサギと違い耳が短く丸い。後ろ足もそこまで大きく発達していない。それに加えナキウサギは氷河期の生き残りと呼ばれる希少種であり生息域も限られている。知らなくても無理はない」

「詳しいね極夜くん」

「たまたまその当時動物の図鑑をよく見ていた」

 

いつもと同じように淡々と答えているが様子が違うように思える。

やはりただの知り合いではなさそうだ。

とても親しそうでもあるが果たして尋ねていいものか。

 

「二人共すっごい仲良さそうな感じだけどどんな関係なの?」

 

そう思っていたが芦戸くんが何の迷いもなく尋ねた。

 

「小学四年生の時に一年ほど同じ学校に通っていた。クラスは違うが」

「私は親の仕事のせいで長くてもそれくらいしか同じ土地にいられなくて、この“個性”と転校生であるために苛められていたのを極夜さんが助けてくれたんです」

「へー、そうなのか。何だお前ヒーローみてぇな事してるじゃねぇか。あんなに興味ないって言っておいてよ」

「それとこれとは話が違うだろう」

 

確かに人助けをするのとヒーローに興味がないは違う。

しかし苛められていた子を助けた話といい、“個性”が暴走した生徒を助けた話といい、新月くんはヒーローに向いていると思うのだが……。

 

「けど極夜さんカッコよくなりましたね。あの時は小さくてちょっと丸っこい感じがあって可愛いって印象もありましたけど、大きくガッチリと成長した姿は最高にカッコいいです」

「私の見目がその類のワケないだろう。今すぐ目をくり抜いて洗って来い」

「「「自分の姿に対する評価低ぅ!!!」」」

「そうかしら? 私も新月ちゃんの姿カッコいいと思うわよ」

「目の錯覚だ」

 

どれだけ自分の容姿が恐ろしいと思っているんだ。

今までどれほど周りから酷評されてきたのかよく分かる。

緑谷くんの言う通り新月くんは優しい人間なのに個性差別問題は本当に深刻だ。

 

「極夜さん。最後に会った時に『もし再会できたら伝えたい事があるので私を忘れないで欲しい』って言ったの覚えてますか?」

「覚えている。名前を呼んだ時点でそんな事分かりきっているだろう」

「ですよね。よ、よし! じゃあ……極夜さん!!」

「何だ?」

「貴方が好きです!! 私と結婚を前提に付き合って下さい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前……頭打ったか? まさか熱があるのか? 今すぐ病院行ってこい」

「「「「「ナチュラルに正気を疑うな!!!」」」」」

 

一瞬時が止まったのではないかと思う衝撃の告白を聞いた後の新月くんの返答に全員が突っ込んだ。

 

「ちょっと新月!! 女の子の一世一代の告白に対してその返事はなしだよー!!」

「むしろ当然だろう。私に惚れる女がいるか」

「「「今目の前にいますぅぅ!!!」」」

 

新月くん……あまりにも自己評価が低すぎる……!!

折角好意を寄せてくれる女性がいるのにこれではどちらも浮かばれない。

 

「そう言うと思いました。でも私は本気で極夜さんが好きです」

 

が、高山くんは全く応えていなかった。

というかそう言われると最初から予測していたようだ。

緑谷くんと同じくらい新月くんへの理解度が高いな。

 

「再会した時に気持ちが変わっていなかったら告白するんだって決めていました。絶対に極夜さんに好きだと言わせてみせます。これから極夜さんに猛アタックするので覚悟して下さい!!」

 

何という気迫だ。これが恋する乙女というものか。

聞いた事はあるが他人である僕がここまでの熱量を感じるものなのか。

 

「……何を馬鹿な事を。私はお前に興味なんかない」

「え!? 何処に行くの極夜くん!!」

「帰る」

「「はぁ!?」」

「待ってくれ新月。いくら何でもそれは……」

 

皆の制止を無視して本当に新月くんは帰ってしまった。

ポカンと立ち尽くす僕達だが、くすくすと笑い声が聞こえた。

見ると高山くんが笑っていた。今の一連の行動に笑う要素などないと思うが……。

 

「逃げられちゃいました。変わってないですね極夜さん」

「全然気にしてないのね。もしかしていつもの行動なの?」

「あまりにもキャパオーバーするとどうしていいか分からなくなって逃げちゃうんです。今もヤバいくらい心拍数高くなっていました。見た目では分かりませんが相当動揺していましたよ」

「え、そんな事分かるんだ」

「ウサギなので耳は良いんです」

 

動物系“個性”故の能力か。

それなら表情がほとんど変わらない新月くんの気持ちも察しやすい。

 

「でもあいつ興味ないって言ってたぜ?」

「嘘ですよ。極夜さん本当に興味がなかったら完全に無視します。返事すらしません」

「そうだよね。極夜くんの興味がない事への無関心さは僕も知ってるから、返事をしてる時点で関心を寄せてる証拠だ」

「分かってくれます? あの無関心さヤバいですよね。自分が苛められてても全く意に介しませんから」

「うん。あまりに無関心すぎて反応しないから苛めてる側が諦めるんだよね」

「そうそう!」

「急に新月オタクトーク始まったんだけど……」

 

それだけ新月くんをよく観察していた結果だろう。

自分について多くを語らないからそうするしかないとも言えるが。

 

「それでもヒーローを目指しているあたりやっぱり極夜さんは極夜さんですね。何だかんだ言いつつ困っている人を放っておけないところも変わって」

「いや新月くんは普通科だ」

「え」

 

事実を言ったら高山くんが固まった。

どうやらヒーロー科の僕達といるところを見て新月くんもヒーロー科だと勘違いしていたらしい。

 

「えええええ!! 極夜さんヒーロー科じゃないんですか!?」

「そうよ。今日は体育祭に向けて特訓をしていたの。新月ちゃんには手伝って貰っていただけよ」

「マジですか!? そんなぁ……ここに進学するなら絶対ヒーロー科だと思ってサポート科にしたのにぃ!!」

 

ガックリと項垂れている高山くんだが、あれだけ目立つのが嫌い、興味がないと言っていた新月くんがヒーロー科に入る確率はかなり低いと思うぞ?

 

「僕も誘ったんだけど断られちゃった。普通科ならいいよって言ってくれたんだけど」

「ううう……通りでいくら他校を含めたヒーロー科を捜しても見つけられないワケです。でも会えただけ親の反対を押し切って雄英に入っただけありました。普通科だとも分かりましたし明日から突撃します!!」

「私は応援するよ! ああいうタイプ絶対押しに弱いからガンガンいっちゃおう!」

「勿論です!!」

「すごい熱量だな。こっちが押されるよ」

「芦戸恋バナ大好きだからな」

 

その日は新月くんが帰った事もあって解散となった。

芦戸くん達はもう少し高山くんと話をしたいという事で残ったが、恋する乙女は強いな。

普通ならあそこまで言われたら諦める人も多いだろうに。

しかし新月くんは何故深く人と関わる事を避けるのだ?

何度も会っているがそういう印象を受けた。

何か過去にそれを避ける、避けたくなる出来事があったのだろうか?

心的外傷のため避けているなら何とかしてやりたいが自分ではどうすればいいか分からない。

帰ったら兄さんに相談してみよう。

 

▽▲▽▲▽

≪ダークライ(新月極夜)視点≫

 

家まで帰り、母さんと父さんに「ただいま」と言ってすぐ部屋に入った。

服を雑に脱ぎ捨てると床にへたり込む。

まだ心臓の鼓動がうるさく高鳴っている。

陽佳は耳が良いから聞かれたくなくて逃げてしまったが……まだ私は陽佳を好いていたのか。

もう二度と会う事はないと思っていた陽佳を……。

 

陽佳に会ったのは小学四年の六月だった。

 

久し振りの晴れ間に校舎裏の誰もいない場所へ行き本を読もうとしていたら木の上に何かがいる事に気が付いた。

猿かと思ったが大きさから人間のようだ。何をしている?

不審に思いながら見ていたらそれが木から落ちた。

あの高さから落ちたら大怪我をすると思い咄嗟に駆け寄り抱き留めた。

抱き留めた人間は獣の異形型だった。

完全な獣人型で顔立ちが丸く愛らしい印象の女だった。

ミミロルに似ているからウサギか? 耳は短いが確かこの世界には耳が短い種類がいたな。

 

「……う。え……え? きゃあああああ!!」

 

目を開けた生徒は私の姿を認識するとすぐ逃げた。

まぁいつもの事だ。幼い子供にこの姿は恐ろしいからな。

特に気にせずそのまま木の下で普段通り過ごした。

数日後。

帰ろうと校門へ向かっていると悲鳴が聞こえてきた。

しかも異様な感じの悲鳴だったため気になり聞こえた方へ向かう。

向かった先で見たのは先日木から落ちたミミロルに似た生徒が複数人に無理矢理何かをされている光景だった。

まだ距離があって何をされているかまでは分からない。

だが明らかに多勢に無勢。流石に見て見ぬふりはできない。

 

「何をしている」

 

威圧を放ちながら近付く。

これで逃げ出すと思ったのだがどうやら興奮しているらしく応えていない。

 

「うわっ、お化けがきた! おまえら目ぇ合わせんなよー。呪われるぞー」

「間近で見るとホント気持ちわりぃ。これが同じ人間って信じらんねぇよな」

「…………」

 

雑音を無視し地面に蹲るミミロル似の生徒を見た。

耳の付け根からかなり出血している。

どうやら耳を強く引っ張られたらしい。

 

「あ、こいつか? ウサギの“個性”らしいんだけどウサギに見えねぇから本当にウサギか確かめてたんだ」

「耳長くないしな。引っ張ったら伸びんのかと思ったら全然伸びないんだよ」

「こいつウサギじゃなくてネズミだろ」

 

訊いてもいないのに自分達が何をしたのかベラベラ話し、ゲラゲラと笑う無知な子供。

実に不愉快だが、相手をしている時間が勿体ない。

 

「【あやしいひかり】」

 

変化技を放ち、ミミロル似の生徒以外を混乱状態にする。

調整せず使ったからこの齢の子供ならしばらく混乱状態から脱しないだろう。

ミミロル似の生徒は蹲っていて【あやしいひかり】を目にしていないから問題ない。

何が起こったのか分からず困惑しているミミロル似の生徒を抱き上げて保健室に運んだ。

しかし残念ながら教員は不在だった。

……仕方ない。後は任せようと思っていたが自分でやるか。

 

「ううう……」

「痛むだろうがじっとしていろ」

 

土で汚れていた傷口を水で洗い、軟膏を塗って処置をする。

ガーゼで覆いたかったが体毛が思ったより柔らかくて難しいので諦めた。

 

「これでいい。傷が悪化するようなら医者に行け」

「は、はい……」

 

治療が終わったので「ではな」と言って保健室を後にした。

どういう経由であんな事になっていたか知らないが大勢に囲まれ、恐ろしい目に遭っているのだから私は早々に退散しよう。

呼び止められたが、空耳だという事にした。

 

「あ、あの……」

「ん?」

 

翌日。昼休みに人気のない場所で本を読んでいるとあのミミロル似の生徒がやってきた。

 

「昨日は……ありがとうございました。それと……その前、助けてくれたのに逃げてしまってごめんなさい」

 

深々と頭を下げる生徒。

どうやら礼を言いたくて私を捜していたらしい。

 

「気にするな。慣れている」

「で、でも……」

「気にするなと言っている。耳の怪我は大丈夫か?」

「はい。まだ……少し痛みますけど」

 

ふむ。腫れているが血は止まっているな。

この様子なら化膿する心配もないだろう。

 

「本当にありがとうございます。私は高山陽佳といいます。“個性”は《ナキウサギ》です」

「ああ、ナキウサギか。ホッキョクウサギかと思ったが、それならもう少し耳が尖っているか」

「え」

 

丁度この世界にどんな生き物がいるのか知りたくて動物図鑑を読んでいたから少し調べていた。

しかし生きた化石と呼ばれる希少種まで“個性”で発現するとは面白いな。

だが私の発言に生徒は目を大きく見開いた。

 

「あの……ウサギだって信じてくれるんですか?」

「嘘を言ったのか?」

「いいえ。でも信じてもらえた事がなくて……」

「まぁナキウサギの姿は一見するとウサギに見えないからな。だが分類は間違いなくウサギだ。無知な人間の戯言など気にせず堂々とウサギだと言えばいい」

「…………」

「どうした?」

 

急に膝を付いて座り込んだので視線を向けると生徒がボロボロと泣き始めた。

は? な、何故泣く。

おい待て。泣いている女の扱いなんか知らんぞ。

 

「え……と、何故泣いているのか知らないが、泣きたいなら泣いておけ。今ここには私しかいない」

「……は、…はい……」

 

しばらくの間泣いていた生徒だが次に顔を上げた時には晴れやかな顔をしていた。

少し目が赤いが、これくらいなら目立たないだろう。

 

「急に泣いてしまってごめんなさい。よければ貴方の名前を聞いてもいいですか?」

「新月極夜だ」

「極夜さんですね。また会いに来てもいいですか?」

「……読書の邪魔をしなければいい」

「ありがとうございます」

 

その日以来、生徒は時間を見つけては私に会いに来るようになった。

何の変哲もない話をして時間になれば去っていく。

特に返事もしない私に話しかけて何がしたいのか分からなかったが、悪意も敵意も感じないので放っておいた。

 

「はぁ……」

 

そんな日々が続いてしばらく。妙に生徒の元気がない事に気が付いた。

意識を向けると同時に生徒の腹の虫がなった。

 

「腹が減っているのか? 給食を食べたばかりだろう」

「……実はほとんど食べてないんです。給食の当番がちょっと…ネズミはチーズだけ食ってろって、それしか渡されなくて……」

 

そういえば今日はチーズがあったな。

しかし偏見がすぎるだろう。ネズミはチーズが主食ではないぞ。

 

「やる」

「え?」

 

少し考えて後で食べようと思っていた給食のパンを渡した。

食べるのが遅いから時間内に食べきれない事があり、後で食べられるものはあえて残して昼休み中に食べていた。

袋に入っていて未開封だから問題ないだろう。

 

「い、いいんですか?」

「いいから言っている。私の気が変わらないうちに受け取れ」

「ありがとうございます!」

 

生徒はパンを受け取ると結構な勢いで食べ始めた。

よほど腹が減っていたらしい。

 

「ごちそうさまでした。生き返りました。やっぱり極夜さんは優しいですね」

「ただの気まぐれだ」

「気まぐれでここまでできる人は早々いませんよ。だからこそ噂を鵜呑みにしてしまった自分を恥じています」

「?」

「極夜さんの噂は転校してすぐ耳にしていました。だから怖い人だと思っていたんです。自分も個性差別を受けてて辛い思いをしているのに他の人にしてしまうなんて最低です」

 

私の噂か。

「目が合うと呪われる」「幽霊に“個性”が宿った存在」「凶悪なヴィランの子供」等々あったな。

前世でも似たような事を言われていたから気にしていなかった。

私の存在が害である事に変わりがないからな。

 

「前も言ったが気にしていない」

「私が気になるんです。だからもう一度謝らせて下さい! 本当にすみませんでした!!」

 

あの時よりも深々と頭を下げる生徒を見てキョウヤを思い出した。

そうか。この生徒もキョウヤと同じで真っ直ぐなのだな。

ここで「気にしていない」と言うのは間違いだ。

 

「お前の誠意は伝わった。謝罪を受け入れる。もう気に病むな」

「ありがとうございます極夜さん」

 

パッと顔を上げた生徒は満面の笑みを浮かべていた。

愛らしいな。

元々可愛らしい顔をしていたが笑うとより際立つ。

 

「ところで何の本を読んでいるんですか?」

「これは生物学の本だ」

「何が書いてあるのか全く分からない……。もしかして極夜さん頭良いですか?」

「さあ? テストは常に全科目90点以上取っているが」

「めっちゃ頭良いじゃないですか。今度勉強教えて貰ってもいいですか?」

「ああ、いいぞ」

 

それから私も陽佳と話すようになった。

今日は何があった等の日常会話をしたり、陽佳に勉学を教える。

外で遊んだりする事は一度もなかったが、それでも陽佳と一緒にいるのが楽しいと感じるようになっていた。

陽佳に好意を抱いていると、気付いたのは季節が冬に変わり始めた頃だ。

その日調理実習がありカレーを作る事になっていたが材料の中にリンゴがあった。

そういえば陽佳はリンゴが好きだと言っていたな。

 

——「私リンゴが好きなんです。特にアップルパイ! 青森にいた時に食べたアップルパイが超絶品でそれ以来大好物になりました! アイスとか乗っていたら更に最高ですけどカロリー爆弾なので食べた後は全力で運動します!」

 

リンゴを砂糖で煮る上にパイ生地を使うから糖質も高いんだったか。

少しでもそれらを抑える方法あっただろうか?

パイ生地に何か別のものを混ぜるとか?

砂糖も上白糖ではなくきび砂糖にすれば良さそうか?

後は……。

 

「おーい新月くーん」

「何だ?」

「今日カレー作る日なんだけど何でアップルパイ作ってるの?」

 

教員に言われて手元を見ると後はオーブンで焼くだけのアップルパイがあった。

 

「………………………何故だろうな」

「自分で分かんないの? まぁカレーも同時並行で作ってるから今日は多めに見るけど次は気を付けてね」

「すまない。無意識だった」

 

流石にここまで作って捨てるのは勿体ないためちゃんと完成させた。

私が作ったものを食べる輩はいないから陽佳に全部やるか。

 

「美味しいー!!」

 

アップルパイを頬張り笑顔を見せる陽佳。

あの場にある材料だけで作ったからかなり質素ではあるが、それでも美味そうに食べている。

 

「料理までできるなんて極夜さん万能ですね。私なんて簡単なものしかできません」

「万能ではない。裁縫はてんで駄目だし、指の本数が少ないから楽器も演奏できない。その点は陽佳の方が優秀だ」

「それは仕方ないですよ。誰でも得手不得手ありますから。あ、そう考えたら万能な人なんていませんね。すみませんでした」

 

ニコニコと笑う陽佳を見て胸が温かくなる。

注意されたが作った甲斐があったな。

…………。

ああ、それで無意識に作っていたのか。陽佳が喜ぶ顔が見たかったから。

私はこの子に惚れているのか。

 

「今度お礼に何か持ってきますね。クッキーなら作れますので」

「あまり期待せずに待ってやろう」

「ちょっとヤバい発想してません? 大丈夫ですよ! 暗黒物質にはなりませんから!」

 

だが気付いたところで何だというのだ。

前世でも好意を寄せた異性はいたが、番になった事は一度もない。

制御できない特性を持つが故、番となっても苦しめてしまうだけ。

だから私の種族は番を持つ事を諦める。それが普通。

今世でもこんな姿の私と番になったところで苦労をかける。

いつものように諦めればいい。私が諦めればそれで全て丸く収まる。

 

——「貴方が好きです!! 私と結婚を前提に付き合って下さい!!!」

 

まさかあんな事を言ってくるとは思わなかった。

陽佳が私に好意を寄せていたなんて全く気付かなかった。

私が悪いのか?

諦めると決めたハズなのにどうしても放っておけなくて何度も助けていたから……。

どうしたらいいのか分からない。

私ではなく別の異性に目を向けて欲しいが、真っ直ぐな陽佳が別の異性に目を向けるとは思えない。

まして五年もずっと想っていたのなら簡単に諦めたりもしないだろう。

私が気持ちに応えればいいのかとも思ったが真っ当に陽佳を愛せる自信がない。

納得のいく結論が出せずモヤモヤした気持ちのまま数日を過ごした。

 

「極夜さんおはようございます!」

「…………」

 

そしてあの日以降、陽佳は私を見つけては積極的に声を掛けてくるようになった。

会う度に思わずドキリとしてしまうが平常心でいないと駄目だ。

心音が乱れると最悪陽佳に気付かれてしまう。

 

「何度も言うが私に構うな。早く自分の教室に行け」

「まだ時間があるので大丈夫ですよ。久し振りに会えたので極夜さんと沢山話がしたいんです。いやーあの後五年で北から南まで行きましたよ」

「いくら何でも移動しすぎだろう」

「父と母が一ヵ所に長くいるのが嫌いなのでそうなっていたんです。でも私は正直もう引っ越しはこりごりですね。いい加減一ヵ所に止まりたくて雄英に受験する事にしたんです。ここなら受かれば名誉ですから流石の両親も私が一人暮らしする事に反対できないと思いまして」

「理由が少し不純ではないか?」

「極夜さんこそ緑谷さんに誘われたから雄英に入ったんじゃないですか。一緒です」

「それもそうだな」

 

諦めさせたいなら冷たくあしらうのが一番だ。

だが陽佳を傷付けたくないという気持ちが勝ってしまってそうできない。

しかも本心では陽佳といるのが嬉しいらしく、つい以前と同じように会話してしまう。

 

「もう少しで体育祭ですね。私極夜さんの事全力で応援するので頑張って優勝目指して下さい!」

「そんなもの目指さないぞ。私が目立つのが嫌いなのを知ってて何故そう言う」

「極夜さんが戦ってる姿を見たいんですよ。素手で苛めっ子を殴っているところしか見た事ないから本気だとどれくらい強いのか気になって」

「何を……」

 

その時ある考えが思い浮かんだ。

そうだ。

私がいかに恐ろしい化け物なのか知れば怖がって諦めるんじゃないか?

 

 

———続く

≪注意事項≫

・ポケットモンスターと僕のヒーローアカデミアのクロスオーバーです。

・オリジナルキャラが登場します。

・原作改変及び捏造が多々あります。

・作者はポケモンには詳しいですが、ヒロアカについては知識にかなり抜けがありますのでその点はご了承下さい。

・ポケモンレジェンズZAと、そのダウンロードコンテンツM次元ラッシュのネタバレを含みます。ネタバレが嫌だという方はブラウザバックをして本編を進めて下さい。

 

以上がOKの方は続きをどうぞ!

 

なんか思いついて書いたはいいけど放置していました。

消すのが勿体ないので供養がてら投稿。

恥ずかしくなったら消します。

 

 

◆◇◆

≪とある警察官の視点≫

 

ここ数週間奇妙な通報が相次いだ。

内容は単純に「毎日悪夢を見て眠れない」というもの。

たった一人なら変な通報をするな、で終わるんだけどそれが何十人もとなれば流石に不審に思う。

しかも通報した人は皆同じ地域に住んでいる。

悪夢を見せているのは新手のヴィランの仕業である可能性が高い。

 

「調べたところ、悪夢を見ている人はこの範囲内にいる人だけだ。つまり……」

「その範囲の中心点に悪夢を見せている元凶、もしくは原因がある。直接現場に行って確かめてみてくれ。凶悪なヴィランが潜んでいる可能性もあるため少しでも身の危険を感じたらすぐヒーローに救援要請を出すように」

「「了解!!」」

 

何かあった時のために二人一組で動く。

しかし悪夢を見せるとは厄介な“個性”だ。まともに眠れず疲弊する人が続出するぞ。

 

「で、ここがその中心点なんだけど……」

「普通の家……だな。住人は?」

「7年前から夫婦が住んでいる。でも……なんか変だな」

 

目の前に見えるのはごく普通の一軒家。最近まで誰かがいた痕跡はあるけど人の気配がない。

ヴィランの隠家にしては違和感がある。どういう事だ?

インターホンを何度か鳴らしたが返答はない。突入する許可は得ているのでドアノブに手を掛けると鍵が掛かっておらず何の抵抗もなく開いた。

慎重に中へ入る。

 

「……誰もいない……」

「妙に薄暗くて見辛いな。お前の《暗視》で何か見えないか?」

「……特に怪しいものはないな」

 

俺の“個性”は暗いところでもものが良く見える《暗視》。地味だが役に立つ“個性”だ。

しかし家の中が暗すぎる。まだ昼間で天気も晴れだぞ。

 

「     」

「……ん?」

「どうした?」

「今何か聞こえなかったか?」

 

風が通り抜けるようなそんな感覚だが何かが確かに聞こえた。

何処から聞こえたか分からないそれを探しているとあるものを見つけた。

それは床に不自然に作られた扉。

恐る恐る開けて見ると地下へと降りる階段が現れた。

 

「…………え、行くのこれ?」

「行くしかないだろ。ヴィランの基地かもしれないから、いつでもヒーローへ救援要請を出せるよう準備しておけ」

「う、うす!」

 

俺が先行し、ゆっくりと階段を下りる。

手作業で作られたようで作りが歪だ。小さな地震でも崩れかねないな。

そして一番下へ辿り着くとすぐ小さな檻があるのが見えた。

その小さな檻の中に何かがいる。

黒くて小さい何か。何だあれ?

 

「…………ェ……」

「え?」

「……タ、す……ぇ、……て……」

「!!?」

 

本当に囁くような小さな声が俺の耳に届いた。

相方の制止を無視して檻へ近付くと黒い何かが生き物である事が分かった。

声を発したのはこの生き物だ。でもただの生き物が人の言葉を話せるハズがない。間違いなく異形型だ。そして明らかに弱っている。息をしているがあまりにも弱々しい。

檻を開けようとしたが雁字搦めになった鎖のせいで開かない。

相方にこれを壊せそうなものを探してくれと頼むとすぐにバールを持って戻ってきてくれた。

バールを何度も鎖へ振り下して壊し、扉をこじ開けた。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

檻から出したその体はあまりにも小さかった。人間の2歳児くらいしかない。

にしては軽すぎる。多分5kgもない。どう考えても痩せている。

 

「救急車を呼んでくれ! 相当な飢餓状態だと思う。体温も低い。早く適切な処置をしないと死んでしまう!」

「分かった!」

 

上着を脱いでピクリとも動かない体を優しく包む。

異形型とはいえこの大きさならまだ子供だろう。

死なせてたまるか!! 水……せめて水だけでも飲ませないと!

地下室から出てキッチンに向かい、蛇口を捻ると奇跡的に水が出た。

コップに水を注いでいたら容器に入った白い何かが目に入った。

容器には砂糖と書いてある。舐めて確かめると確かに砂糖だった。ただの水より砂糖水の方がいいかと思い、水に砂糖を溶かして子供の口に近付ける。

頼む。少しでいいから飲んでくれ!

俺の願いが届いたのか微かに口が開き水を飲んでくれた。

 

「生きたくて必死に声を出したんだな。頑張れ。絶対に助けてやるから」

 

冷え切った子供の体を摩り救急車が来るのを待つ。10分後に来てくれたが、とてつもなくその時間が長く感じた。

俺ができるのはここまでだ。後は救急隊員に任せよう。

 

「あの子助かるといいな。……もしかしなくても悪夢の原因ってあの子なんじゃ……」

「可能性はあるな。見た事もない姿だったから。もう少しこの家を調べよう。何かまだ残されているかもしれない」

「了解」

 

翌日、病院からあの子供が一命を取り留めたと連絡があった。

まだ面会謝絶だから会いに行けないがその間にできる事はある。

そして調べていくうちに衝撃の事実を知った。

 

 

 

 

 

 

 

「調査の結果、あの家に住んでいた夫婦は我々の調査に入る2週間前に家を出ている事が分かりました。しかもほぼ夜逃げ同然で近所の住人もしばらくいない事に気付かなかったようです」

「ならあの子供は最低でも2週間あそこに放置されていたって事だな」

 

1週間後。ある程度情報が集まったので捜査課の刑事が集まりその報告が行われた。

初っ端から胸糞悪いな。

 

「あれ? でも悪夢を見るって通報が来始めたのってその数週間前だろ。あの子が生命の危機を察して“個性”を使ったのなら時期がズレてないか?」

 

そして通報のあった悪夢の原因があの子だとすでに判明している。

あの子が病院に着いた直後から悪夢に魘される患者が続出したと病院から連絡を受けている。

悪夢を見せる“個性”は《ナイトメア》と名付けられた。

あの子は異形型の“個性”とその《ナイトメア》の2つの“個性”を持つ子だった。

 

「それが……あの子の“個性”はどうやら常時発動型らしいんです。しかもあの子自身その“個性”を制御できていません。あの子は運ばれてから一度も意識が戻っていないのですが、その状態であるにも関わらず“個性”はずっと発動し続けている。そのため個性抑制装置を外す事ができないとの事です」

「マジかよ……」

 

幸い個性抑制装置の効果はあってそれを付ければ周囲の人達が悪夢を見る事はなくなる。

もしかしたら一生その装置を手放せないかもしれないな。

 

「あの子の戸籍は?」

「ありませんでした。出生記録もありません。母親が妊娠したという診察記録は残っていたので、もしこれがあの子なら少なくともあの子は4歳ですね」

「え、4歳の子供の大きさじゃなかったぞ。まさか異形型だから虐待されてた?」

「そのようです。衰弱の具合からかなり長い間まともに食べさせて貰えなかった可能性が高いと医師が言っていました」

「成程。状況証拠から、差別を恐れ異形型で生まれたあの子の出生を隠すため地下室に閉じ込め最低限の食事を与えるだけの生活をさせていたが、常時発動型の“個性”まで発現し隠しきれない判断したため家ごとあの子を放置して逃げた、と推察できるな」

 

上司の推察を聞いて思わず爪が食い込むほど拳を強く握った。

個性差別問題は確かに深刻だが、それを恐れるあまり幼子をあんなところに閉じ込めるなんて……!

 

「両親は行方不明。これから本格的な捜査が始まるけど……あの子は“個性”の事もあるから元気になっても施設に行く事になりそうだな」

「……だろうな」

 

大分容態は落ち着いたそうだけど重度の栄養失調状態だったからしばらく入院が必要だ。

病院にいるうちはいいけど……施設に行ったらどうなるんだろう?

そんな事を考えながら俺は病院に足を運んだ。

理由は勿論あの子に会いに行くためだ。やっと面会許可が下りた。

まだ意識が戻らないあの子は異形型である事も考慮され人目に触れないよう個室にいる。

受付を済ませてあの子がいる病室へ行くと起こさないようそっと扉を開ける。

そこには静かに横たわるあの子がいた。

足音を立てないように近付いてその姿をじっくり見る。

あの時は必死過ぎてちゃんと見ていなかったけど髪の色は白なんだ。

肌は黒くて首には牙のような形の赤い飾りがある。

パッと見は幽霊や死神のようだ。一体どんな動物の姿なんだろう?

両腕には個性抑制装置が付けられている。かなり重そうだけどこれを付けないと周囲にいる人に悪夢を見せてしまうからなぁ。

 

「何はともあれ助かって良かった。早く元気になれよ」

 

頭を撫でるとその目がゆっくり開いた。

青色の目が俺を見る。

 

「……キョ……ゥ、ヤ」

「え?」

 

その子が目覚めて初めて口にした言葉は紛れもなく人の名前だった。

キョウヤ? 誰の名前だ? 少なくとも父親の名前じゃないな。

 

「……ぁ…ち、が……。だ、れ……?」

 

どうやらすぐ人違いに気付いたようだ。

1週間意識不明の状態だったんだし見間違えても無理ないか。

 

「初めまして、俺は新月夜目だ。君の名前は?」

「………………ク…ラ、ィ……」

「クラ……何?」

「ダー、ク、ラ…イ」

 

虐待していた連中が名前を付けるとは思えなかったけど訊いてみたら返答があった。

でもダークライって……人の名前っぽくないな。

 

「こ……どこ?」

「ここは病院だよ。君は重度の栄養失調で倒れていたところを保護されたんだ。ちなみに見つけたのは俺だよ。覚えてる?」

「な、い……」

「そうだろうね」

 

あの状態で覚えていたら逆に凄いよ。

医師から後一日発見が遅かったら死んでいただろうって言われてるくらいだ。

 

「……? ぇ? なぜ……こえ、……ゆめ……?」

「? いいや、夢じゃないよ。どうかした?」

「い……ゃ……」

 

どうしたんだろう。何か困惑してるみたいだな。

まぁ後は医師に任せるか。意識が戻ったのをこの目で見て安心した。

俺はナースコールを押してあの子の意識が戻った事を伝える。

後ろから慌しい声が聞こえたからすぐに来るな。

 

「じゃあ俺はこれで帰るけど腕の装置は外したら駄目だぞ。その装置は君の“個性”を抑えるものだから、それを付けている限り誰も悪夢を見ないよ。それじゃあね」

「は……? まて、そ……」

 

何か引き止まられたような気がするが俺ができる事はもうないから失礼しよう。

無事を確認できたらそれでいいと思っていたのに、どうしても気になってその後も時間ができたらあの子に……ダークライに会いに行った。

医師や看護師に聞いた所、虐待の影響からか簡単な文字も読めず、食器の使い方も分からなかったそうだ。

ついでに虐待されていた事も、両親の事も覚えていないという話だ。

あまりに辛い記憶だから自分で消してしまったのかもしれない。

 

「今日はプリンを持ってきたよ。一緒に食べよう」

「…………」

 

入院して1ヶ月。もう普通の食事を取れるようになったダークライに医者の許可を取ってデザートを持ってきた。

何でも最初に普通の食事を見た時「これ私が食べられるのか?」と言ったらしい。

まともに食べられなかったのなら当然の反応だな。

 

「昨日も来たのによく来るな」

「個室で一人だと寂しいかなーと思って」

「別に寂しくない。独りでいる事には慣れている」

 

慣れている、という言葉を聞くと胸が苦しくなる。

しかし淡々と答える様子を見るととても4歳には思えない。

一人称も「私」だし、あんな境遇だったのに何でこんな大人びた性格になるんだ?

 

「ねぇダークライ。もし良かったら俺と家族にならないか?」

 

なんせよ俺の心はすでに決まっているけどね。

 

「? それはどういう……」

「俺の子供になって欲しいって事だ。行政の許可は取ってある。後は君の返答次第。嫌ならそう言ってくれて構わないよ」

 

妻にも話していて了承済みだ。

てかめっちゃ乗り気だった。

 

「丁度子供を引き取ろうかと話していたところだったんだ。俺達夫婦は子供が望めなくてね。あ、ちなみに原因は俺だ」

「何だ種無しか。雄としての価値がないな」

「すっごい辛辣!! てかよくそんな言葉知ってるね!? 違うから!! 人より少ないだけだもん!! 一応不妊治療すれば子供は十分望めるだろうって話なんだけど、妻が病弱で不妊治療に耐えられる体じゃないから諦める事にしたんだ。でも俺も妻も子供が好きだからどうしても欲しくなって、色々準備していたんだ」

 

仕事仲間や友人の出産報告を聞く度にその想いは強くなった。

妻も同じ気持ちだったようで子供の楽しそうな声を聞くと寂しそうな顔をしていた。

そんな時にこんな境遇の子供を見つけたら……自分では運命だと思っている。

 

「お前の事はそれなりに信用している。……しかし私ではお前の子になれない」

「そう思うのが普通だよ。まだ赤の他人なんだから。でも血の繋がりなんてなくても時間を掛ければ」

「違う、そういう意味ではない」

 

ちらりと不安げな表情を見せるダークライ。

何かを言おうとしているみたいだから急かさずに静かに待つ。

しばらくするとダークライは重くなった口を開いた。

 

「私は人間より長い時間を生きている。だが何故か今は幼体になっている。……そもそも私はキョウヤとその仲間に看取られ、死んだハズなのだが……」

「え?」

 

何か想像の斜め上の事を話し始めた。

死んだ? ていうかキョウヤって意識が戻って最初に口にした人間の名前だ。

一体何者なんだ?

 

△▼△▼△▼△

≪ダークライ視点≫

 

ずっと独りで生きてきた。

自分自身でも制御できない特性を持つが故、誰かと関わる事ができなかった。

近くにいるだけで、私の意思とは全く関係なく悪夢を見せてしまう。

だから誰もいない島や辺境の地を住処にしていた。

ある時、住んでいた場所に移住してきた人間が大勢やってきて住処を移動せざる負えなくなった。

ここでもない、あそこでもない、と彷徨っているうちに人間の都市部に迷い込んでしまった。

長い移動で疲れ果て、それ以上動く体力がなかったため悪夢を見せる心配のない一番高い建物の上に身を潜める事にした。

ここでしばらく休んで体力が戻ったらまた移動しようと思っていたが……その建物から何か得体の知れないエネルギーが溢れ出した。

感じた事のないエネルギーだったから避けようとしたが、体力が戻っていなかったため動く事ができなかった。

後少し……後少し辛抱すれば……そう思い耐えていた。

しかし突然そのエネルギーが爆発的に増えてそれをもろに浴び……そこから先の記憶がほとんどない。

唯一覚えているのは体が内部からはち切れるような苦痛がずっと襲っていた事。

 

——苦しい。

 

——苦し…い。

 

——く、る…し、い……。

 

——だれか、…たす、け…て……。

 

 

 

「お、大丈夫そうだな」

 

その苦痛がなくなり意識を取り戻した時、目の前にいたのは人間だった。

何故人間がこんなに近くにいる? そう思ったがうっすらとこの人間と戦った事を思い出した。

どうやらあのエネルギーのせいで力が暴走し、かなり迷惑をかけてしまったようだ。

しかし私を捕まえた人間、キョウヤはそんな事全く気にしていないらしく私を普通のポケモンと同じように接した。

私を色んな所へ連れて行き、色んな体験させた。

今まで独りで生きていたためどう反応していいのか分からず困惑するばかりで、時折怒ってしまう事もあったが、それさえ享受する器の大きさを見せた。

 

「今は慣れてないだけさ。そのうち皆と同じように感じられる日がくるよ。焦らず自分のペースで行こう!」

 

決して急かさずあくまで私のペースに合わせてくれるキョウヤに気が付いたら心を許していた。

モンスターボールの中にいれば特性が発動しないのも理由だった。

誰かの近くにいても、もう悪夢を見せる事がないのだと思ったら気が楽になった。

これまで避けてきた交流にもゆっくりだが慣れていった。

キョウヤとその仲間とならもっと色んな体験をしてもいいかもしれない。

そう思い始めた頃、体が急激に弱っていくのを感じた。

メガエネルギーを長い間大量に浴び、その力が暴走した私の体はキョウヤに助けられた時にはもう限界だったらしい。

日に日に弱っていく体。

隠していたが、あっさりキョウヤにバレた。

自由奔放に見えて本当に周りをよく見ている。

キョウヤは仲間と共にあの暴走が原因だとすぐに突き止め、何とか助けようと様々な治療を施した。

しかし結果は振るわず季節が一周する頃には私は伏した状態から動けなくなっていた。

体温の維持さえできなくなり冷たくなった私の体をキョウヤの仲間が懸命に温めているが効果を感じない。

ここで終わるのか……。

以前なら死は自然の摂理だからとしか考えなかっただろう。

でも今は……もっとキョウヤやその仲間といたかったと思う。

思っていたよりこの生活を楽しんでいたらしい。

 

「助けてやれなくてごめんな……」

 

私の頭に触れ、謝るキョウヤを見て驚いた。

いつもニコニコと笑っているキョウヤが泣いていた。

他の皆もよく見たら泣いていた。

悪夢を見せると忌み嫌われ続けた私の死を悼んでくれるのか。

前にキョウヤが言った「お前も大事なMZ団のメンバーだ」という言葉は本当だったのか。

そこまで考えて私はキョウヤに礼を伝えていなかった事に気付いた。

助けてくれた礼も、これまで色々してくれた礼も伝えていない。

だがもう動く事はおろか夢を見せる力もない私では伝える術がない。

もっと早く気付いて伝えれば良かったな……。

 

「……頑張った。お前よく頑張ったよ。半年持たないだろうって言われてたのに1年も……。なぁ俺お前がもう一度生まれるのを待っているからさ、また俺の所においで。今度は一緒に世界を旅しよう。絶対に楽しいから……だから…………お休み」

 

世界を旅するか……それは楽しそうだな。

もう一度生まれるという意味は分からないがキョウヤなら本当に待っててくれるだろう。

次に会えたなら今度こそ……礼を、伝えよう。

これまでの……礼を伝えて、それか…ら…………。

 

 

 

 

 

 

「そこで私の意識は途絶えた。命を終えたのだと思う。しかしそう思うのに今はこのような状況になっている。どういう事なのか私には分からない」

 

私を家族として迎えたいと言う人間にこれまでの事を話した。

自分でも信じられない話だ。人間も目を見開いて驚いている。

しかしすぐ何かを考え始めた。

 

「これは……生まれ変わりだな」

「生まれ変わり?」

「うん。人間には輪廻転生って考えがある。死んだ命は輪廻を巡り、また新しい命として生まれるってヤツだ。本来は新しく生まれる時に前の命だった時の記憶は消えてしまうんだけど、あまりに未練が強いと記憶が残ってしまう事があるらしい。君は恩人であるキョウヤ君に礼を伝えられなかった未練と、そしてキョウヤ君の言葉から前の命の記憶……俺達で言う前世の記憶が残ってしまったんじゃないか?」

「前の命の記憶……」

 

成程。それなら今の状況が理解できる。

幼体なのは新しく生まれたからという事か。

キョウヤが言っていたのはこういう事だったのか。

 

「姿も能力も前世と同じなのはそれが“個性”に反映された結果なんだと思う。勿論全部推測だけどもし本当にそうなら君はよほどキョウヤ君の事が大好きだったんだね。目が覚めて初めて口にしたのも彼の名前だったし」

「それは……否定できないな」

 

言葉にされると確かにそうだったんだと痛感する。

説明を受けてここは自分が知っている場所ではなくキョウヤに会えないと分かった時とても悲しかった。

 

「もしかして保護される前の記憶がないのは死にかけた事で前世の記憶が一気に蘇ったからだったりする?」

「分からない。だがここで目が覚める前の事が一切思い出せないのは確かだ」

「何にせよ話してくれた事で君が妙に大人びている理由も、その名前の謎も分かった。人より長く生きてきた記憶があるから大人びてて、ダークライも前世の名前なんだね」

「ああ。だから私はお前の子になれない。普通の子供のように振舞うなど無理だ。止めた方がいい」

「いや、逆にダークライを家族として迎えたいって気持ちが強まったよ」

「は?」

 

私の事情を話したのに何を言う。

 

「そこまで前世の記憶が強く残っているなら人間の世界じゃ生きにくいだろう。前は人間と全く違う種族なんだろ?」

「ああ」

「このまま里親希望の人が現れなければ君は児童養護施設に行く事になる。でもそこで君が人間の常識や基礎知識を学ぶのは難しいと思う。施設には他にも子供が沢山いる。君だけに時間を割く事はできない。でも俺の家族になればその心配はなくなる。君はこの話をした相手といるから気が楽だろうし、俺は引き取りたいと思った子と一緒にいられる。どっちにもメリットがある。悪い話ではないだろう?」

「…………」

 

言われてみればそうだと思った。

私だって誰彼構わずこんな話しようしない。

この人間なら話しても大丈夫だと思ったからだ。

それに見ず知らずの人間といるというのは《ナイトメア》が封じられていても嫌だ。

長い間独りでいたからポケモン付き合いも人付き合いも苦手だ。

なら選択肢は一つ。

 

「分かった。迷惑をかけると思うがよろしく頼む」

「そんな事気にしなくていいよ。子供はそれが普通だからね。それじゃあ君に新しい名前をあげる」

「新しい名前?」

「そう。前世の名前のままだと日本人っぽくないからね。あ、ちゃんと妻と考えてきたから安心して。というワケで君の名前は新月極夜だ」

「きょくや……」

「うん。キョウヤは君にとって大事な人の名前なんだろうって思って似た名前にしてみた。どうかな?」

「……あまり名前に執着はないが、そういう理由なら反対はない」

 

むしろ少し嬉しい。

この世界での寿命がどれだけあるのか分からないがキョウヤの事を忘れずに済みそうだ。

それから人間……夜目は私を正式に迎えるために手続きがあるからと足早に帰って行った。

はぁ……一生分喋った気がする。今まで積極的に会話をした事がなかったから酷く疲れた。

そもそも前は人語など話せなかったからな。私が“個性”とやらでこの姿になっている人間だというのも信じざるおえない。

人間しかいない世界に順応できるか分からないがやれるだけやってみるか。

……こう前向きに考えられるようになったのはたった数年でもキョウヤと過ごしたからだろう。

本当に前向きだったからなキョウヤは。

やはりまた会う事ができたなら礼が言いたい……。

 

 

 

 

あれから3週間ほど経った頃、ようやく退院の許可が下りたらしく夜目が迎えに来た。

夜目の番が病院に来る事は一度もなかったが、家で私を迎える準備をしていて来る暇がなかっただけらしい。

 

「では俺の家に出発だ!」

「それはいいが抱き上げるのを止めてくれ」

「無理です!」

「……そうか」

 

もう体力は戻ったから自分で移動できるのだが夜目は断固として離すつもりはないようだ。

体も小さく力も弱いため無理矢理抜け出すことが不可能だから諦めるしかないか……。

車に乗っている間はずっと外の景色を見ていたが本当に色んな姿の人間がいるな。

本当に人間なのかと疑いたくなる。

しばらく移動すると家に着いたようで車から降ろされた。

ちなみにまた抱き上げられている。……勘弁してくれ。

 

「あ、妻にも君の事は話してあるから前世の事も隠さなくていいぞ。だから緊張しなくても大丈夫」

「そういう意味で緊張しているワケではない。あの……やはり降ろし」

「では家の中にGO!」

「話を聞け」

 

嬉しいのかなんなのか妙にテンションが上がってるな。

家の中に入ると玄関に人間の雌が立っていた。この雌が夜目の番か。

人間の美醜はよく分からんが……キョウヤの仲間のデウロが妙齢になったらこんな感じかもしれない。

 

「…………可愛い」

「は?」

 

か、可愛い? 何を言ってるんだ突然。

私が可愛いワケないだろう。

 

「思ってたより丸っこくて可愛い。え、天使?」

「どちらかと言えば幽霊ではないか? (ゴーストタイプではないが)」

「あ、自己紹介がまだだったわね。私は新月音羽。普通の人より数倍聴覚がいいって“個性”を持っているわ。よろしくね」

「……よろしく」

「まぁまぁ挨拶はこれくらいにして、抱っこさせて夜目」

「いいぞ」

「!!??」

 

止めろ! いくら何でも初対面の人間に触られたくない!

渡されるほんの僅かな隙をついて手を振り払い離脱した。

 

「あら逃げられちゃった。結構人見知りなのね」

「独りで生きてきた時間が長いそうだから必然的じゃないか? でもそんなに抵抗しなくてもいいだろ。これから家族になるんだからさ」

「元より触られるのは嫌いだ。それに共に暮らす事には了承したが、まだお前達を完全に信用したワケではない。ベタベタ触るな」

「「…………」」

 

少し言い過ぎたかもしれないが実際触られるのは嫌いだ。

前でもキョウヤ以外に触られるのは嫌だった。

いくら幼い私の面倒を見てくれるとはいえ簡単に受け入れられない。

 

「成程……つまり私達を信用すれば触らせてくれるって事ね」

「は?」

「そりゃそうだ。互いの事をよく知らないのは事実なんだからいきなり仲良くしようなんて無理な話だ。よし、音羽。今日から極夜に信用して貰えるように頑張ろう!」

「おー!!」

 

ポ、ポジティブ……。

何だこの前向きさ……キョウヤと同等か?

 

「とりあえず家の中を案内するわね。極夜の部屋はちゃんと用意してあるから」

「分かった」

 

一通り家の中を見て回る。

ミアレシティとは随分内部の構造が違うな。

説明を受けているが理解できない部分があって難しい。

もう少し人間の暮らしに興味を持っておけば良かったか?

 

「で、本来極夜の年齢なら幼稚園か保育園に通うんだけど」

「断る」

「そう言うと思った。まぁ人間の暮らしに慣れていない状態じゃどの道無理だろう。これからゆっくり教えるね。でも小学校には通わないといけないからそれは覚悟してくれ」

「……そこには行かないと駄目なのか?」

「義務教育だからね。余程の理由がない限りは行かないと駄目なの」

「…………」

 

集団生活をしないといけないとか寒気がする。

物心ついた頃からずっと独りで過ごしてきたから周りに誰かがいると落ち着かない。

だが行くしかないなら少しでも慣れないとか……。

不味い。不安しかない。 

それからも話を聞いているうちに日が暮れ、夕食の時間になった。

 

「極夜は何か苦手なものある?」

「人間の食い物がよく分からないから苦手なものも分からない」

「それもそうね。なら色々食べてみましょう。その手だと箸を使うのは無理でしょうからスプーンかフォークで食べられるものを作るわね」

「助かる」

 

少し待つと台の上に料理が運ばれてきた。

病院で出されていたものと匂いが違うが……こちらの方がいい匂いがする。

さて、以前は一日に一度食べれば十分だったが今は幼体だから腹が減るのが早い。ありがたく貰うとしよう。

 

「知らない事が多いだろうからちょっとでもそう感じたら遠慮せずに訊いてくれ」

「それだと目の前のものがほとんど分からないぞ。これは何だ?」

「一気に言うと頭が付いていかないでしょうから一時間に一個くらいのペースがいいわね。ちなみにそれは醤油。調味料の一種で料理に使ったりするのよ」

 

その日は夕食を食べ終えたら眠くなってしまったので部屋で休む事にした。

そこまで長く起きていないのだがまだ体力が少ないから疲れるのも早い。

前の命の記憶があるせいで成体時との身体能力の差異が浮き彫りになっている。それが酷くもどかしい。自分の思っているように体が動かせない。

不安が残る一日になってしまった。やれるだけやってみようと思ったがすでに折れそうだ。

翌日、更にその不安を助長させるものが登場する。

 

「……読めない。読めるようになる気がしない」

 

そう、この世界の文字だ。

前でも何か分からないものだったがこっちはより複雑で何が何だか全く分からない。

 

「そうだろうね。しかも日本語って世界で一番難しい言語って言われてるし」

「……これも覚えないと駄目なのか? 何一つ理解できないのだが……」 

「文字が読めないとできない事が多いからね。日本語が通じているのは記憶が上書きされる前の知識自体は残っているからかしら? 一先ず読み聞かせから始めましょうか。平仮名だけでも読めるようにならないと学ぶ事も難しいもの」

 

もう前の場所に帰りたい……。

何で別のところに生まれてしまったんだ。

前の命の記憶が残るならせめて同じ場所に生まれさせてくれ。

 

△▼△▼△▼△

≪とある養母の視点≫

 

私達夫婦は子供を望めなかった。

私は生まれ付き体が弱くて自然妊娠ならまだしも、不妊治療には耐えられないだろうと前々から言われた。

でも夫にも異常があって不妊治療をしないと妊娠は難しい。

二人で話し合って子供は諦める事にした。

けれど子供の幼い声が聞こえる度にやっぱり欲しいと思ってしまう。

なら養子を迎えようと夫と色々調べて準備していた時、夫が以前自分が発見し、保護した子を引き取りたいと言ってきた。

異形型で生まれたため、生みの親から見捨てられた子。

制御できない常時発動型の“個性”は持っているけれど“個性”を抑制する装置を付けていればちゃんと日常生活が送れる。

私もその子がいいと二つ返事で了承した。

でもその子は……極夜はある意味それ以上の問題を抱えていた。

まさか話でしか聞いた事のない前世の記憶を持っているなんて。

しかもこことは全く違う世界で生きてきた人間以外の種族だと言う。

前世の姿と能力を持って生まれた稀有な子。それが極夜。

人間よりずっと長い時間を生きていた記憶のある極夜はその記憶が足枷になってしまい、この世界の知識や常識を上手く覚えられなかった。

普通に生まれたのなら目や耳、鼻、触覚を通して成長と共に少しずつ学習していくんだけど極夜はそれができない。

それを自分自身が一番痛感しているから最初の頃は精神が不安定になって突然怒ったり、眠れなくなって体調を崩したり、他にも行動に異常が出ていた。

でも当然だわ。極夜からしたら突然何も知らない世界に放り投げられたようなものだもの。

だから私達も極夜のペースに合わせてゆっくり教える。絶対に無理はさせない。

そして一緒に暮らして一年半。現在の極夜の様子はというと……。

 

「あれだけ読める気がしないって言ってたのに今じゃすっかり本が好きね」

「ああ、自分でも驚いている」

 

ソファに座りまったりと本を読む極夜に最初の頃の不安定さはもうない。

一定の基礎知識、常識を覚える事ができた途端今までの苦戦が嘘のようにスラスラと覚えられるようになった。

すでに知識は中学生レベル。本当に前世の記憶が足枷になっていたのね。

人間の生活にも慣れてとても気楽に過ごしている。

 

「偉い偉い。よく頑張った」

「子供扱いするな。……まぁ体は子供だが」

 

もう頭を撫でても手を払ったり、嫌がったりしない。

まだ「お母さん」とは呼んでくれないけど私達に心を開いてくれているのが分かる。

最近だと甘えるようにもなってきたし可愛らしいわ。

少し距離を空けて同じソファに座っていたら極夜が近付いてくっ付いてきた。

あら、今までにない甘え方。多分甘え方が分からないから私達の反応を見ているのでしょう。

 

「もっとくっ付いてもいいわよ。なんなら膝の上に乗る?」

「音羽の負担になるような事はしない」

「そんなの気にしなくていいわよ。おっきくなったら簡単に甘えられなくなるんだから今のうちに思いっきり甘えておきなさい」

 

そこまで言うと持っていた本を置き、私に体を預けてきた。

極夜はちょっと恥ずかしそうだけど私は嬉しい。

重度の栄養失調状態だったからか体は一回りくらいしか成長していない。

ちゃんと成長できるように栄養バランスを考えて料理を作ってあげないとね。

 

「来年の春には小学校に通う事になるから、それまでに少しでも人に慣れておきましょう。最初は公園に遊びに行くのがいいかしらね」

「正直とてつもなく行きたくないが仕方ない」

「そんな事言わないの。友達ができるかもしれないじゃない」

「友などいらん」

 

うーん。これは一匹狼になりそうな予感。

ダークライがその力故に孤高に生きる種族だった事が関係してるわね。

生態系の上位者だったのなら近付く生き物なんて更に皆無だろうし無理強いは厳禁だわ。

 

「危ない事だけはしないでね」

「安心しろ。かぁ……二人に迷惑はかけない」

「そ……え?」

 

んん? 今「母さん」って言いかけなかった?

 

「極夜?」

「…………」

 

顔を覗き込むとあからさまに目を逸らした。

案外嘘つけないのよね。表情はほとんど変わらないんだけど目を見れば分かる。

 

「いいのよ。そう呼んでくれて」

「……血は繋がっていないだろう」

「親だと思った人を親だと呼んで何が悪いの? 私は息子にそう呼んで貰えたら嬉しいわ」

 

少し待つと小さな声で「母さん」と口にした。

最後の壁がなくなった感じがして思いっきり抱き締めた。

極夜はそれを一切嫌がらずに受け入れる。

 

「夜目も帰ってきたらお父さんって呼んであげてね」

「夜目はそう呼ぶとやかましそうだからいい」

「確かに大騒ぎしそうね。じゃあメールで騒がないように言っておくわ」

「多分無駄だぞ」

 

案の定大騒ぎした。それはもう近所迷惑になるんじゃないかと思うレベルで。

あまりに大騒ぎし過ぎた結果極夜に強制的に眠らされる始末。

いつもは冷静なんだけど喜びが爆発するとこうなっちゃうのよね。

 

「おい、これ外していいか?」

「それは流石に止めてあげて」

 

個性抑制装置を指差す極夜をとりあえず止めた。

髪もぐちゃぐちゃになってるし余程激しく撫でくり倒されたみたい。

極夜が怒るのも無理ないわ。過度の接触も騒がしいのも嫌いなのにそれを同時にやられたら……。

 

「極夜! もう一回父さんって呼んで!」

「うるさい。お前など夜目で十分だ」

「くっそー!! こんな事ならちょっと我慢すれば良かった!!」

「だから言ったのに。極夜の機嫌が良くなるまで諦めなさい」

 

目が覚めてすぐ極夜に駆け寄った夜目だけど完全に拒否されていた。

まだ名前で呼んでるだけ温情あるけどこれは怒りが収まるまで時間がかかりそう。

何にせよやっと家族らしくなった。

これからは家族としての時間を育んでいきましょう。

 

△▼△▼△▼△

≪ダークライ視点≫

 

何とか小学校へ通い、中学に進学して少し経った頃、父さんの転勤があり引っ越す事になった。

急ではあるが前も転々と移動していたから抵抗はない。

新しい土地で中学へ通うが小学校と同じように誰とも関わらず過ごす。

時折異形型だからとちょっかいをかけてくる奴もいたが、興味がないので無視した。

通い始めて1ヶ月ほど経った頃、昼休みに誰もいない校舎裏で本を読んでいると視線を感じた。

今までとは違う視線だった。敵意も悪意もない。

視線がする方へ顔を向けると緑がかった癖毛の男が木の影から私を見ていた。

気付かれていないと思っているのか? 顔が丸見えだぞ。

 

「何の用だ?」

「わっ!?」

 

近寄ると驚いて体が跳ね上がった。本当に気付かれていないと思っていたらしい。

小心者のように思えるがそれにしても私を恐れている様子がないな。

 

「あ、あの……新月……極夜くんだよね? 最近転校してきた」

「そうだが」

「僕は緑谷出久。えっとクラスは違うけど同じ学年で……その、君がこの間“個性”が暴走してしまった子を助けたって聞いて」

 

ああ、そんな事あったな。

何が切っ掛けか、同じクラスの生徒の“個性”が突然暴走して大騒ぎになった。

正気を失い暴れ狂ったため教師が誰も近付く事ができず手を焼いていたから、仕方なく許可を貰って【ダークホール】を使い眠らせて鎮めた。

 

「そ、それで君がどんな“個性”なのか気になって、あの……ミッドナイトみたいに相手を眠らせる“個性”なの?」

「……いや、私の“個性”はこの姿と周囲にいるものに悪夢を見せる《ナイトメア》だ。“個性”とは別に持っている超能力で眠らせた」

 

どう説明しようか迷ったが個性届けの内容をそのまま伝えた。

ポケモンとしての力をそうとしか説明できないためそう届け出ている。

緑髪の男は「ええ!?」と予想以上に驚いている。

 

「“個性”とは違う力を持っているなんて初めて聞いたよ」

「だろうな。最も個性抑制装置を付けている状態ではその力を一部しか使えないが」

 

袖をまくり服の下に隠していた装置を見せた。(一応服は着ている)

どうやら“個性”を抑制するのと同時にポケモンの能力も抑えつけてしまうらしい。

だから個性抑制装置を着けている状態では変化技しか使えない。

 

「本当だ。でも何でこの装置を付けているの? これを付けているの収監されてるヴィラン以外見た事ないけど」

「《ナイトメア》は常時発動型の“個性”で自分でも制御ができない。これを付けていないと周囲にいるものに無差別に悪夢を見せてしまう」

「そ、そうなんだ。大変だね」

 

これを着けている事と見た目のせいで罪を犯したヴィランのようだとよく言われる。

私が害なのは分かりきっている事だから気にしてはいない。

両親以外に受け入れて貰おうとも考えていないからどうでもいい。

 

「でもこれを付けているからこそ逆にヴィランを騙し討ちできそうだな。何もできないと思ったヴィランを不意打ちで眠らせられば無傷で制圧できる。それが複数人に効果があるなら大人数を一気に眠らせてから《ナイトメア》の抑制を外せば悪夢で戦意を喪失させられるかも? 眠らせる“個性”が強いのはミッドナイトがすでに証明してるし他にも有効活用する方法が」

 

何か急にブツブツと持論を述べ始めたぞ。

さっきまで持ってなかったノートに何か書いているし本当に何だこいつ。

 

「お前が言っている事は分かるが私はヒーローに興味はない」

「どうして? 今一番人気の職種だよ?」

「それは知っているが私には向いていない。目立つのは嫌いだ。そういうお前はヒーロー志望なのか」

 

持っているノートには「将来のためのヒーロー分析」と書いてある。

ヒーロー志望でもない限りそんなもの書かないだろう。

 

「う、うん。実は……小さい頃からの目標で」

「ならもっと体を鍛えたらどうだ? そんな人一人担ぐ事もできない貧相な体でヒーローが務まるワケないだろう」

「え!?」

 

見る限り腕も脚も細く鍛えているようには見えない。体力もなさそうだ。

警官である父さんは日頃から鍛錬を怠っていないからよく分かる。

 

「……あの、僕が無個性だからヒーローになれない……とは言わないの?」

 

神妙な顔で男が訊いてきた。

期待と不安が込められている複雑な目で私を見る。

 

「お前無個性なのか?」

「うん。結構、知られてるん…だけど……」

「関係ない。サポートタイプの“個性”でも第一線で活躍しているヒーローはいるのだろう? なら“個性”の有無など大した問題ではない。力が足りないのであればそれを補うほど鍛えればいい」

 

“個性”はポケモンで例えるなら特性だ。確かに強い特性を持っているため強いポケモンはいるが、それに頼らずとも生態系の頂点に立つポケモンもいる。

後者の大半は血の滲むような努力をしていた。人間でも同じだろう。

と、ここまで考えて何を初対面の人間に言っているのだと我に返った。

同時に横からすすり泣く声が聞こえたため見ると男が泣いていた。

 

「な、何故泣く?」

「ごめん……。でも君だけだから、僕が無個性だって知ってもそう……言ってくれたのは」

「…………」

 

成程。この人間はそれで悩んでいて、私がうっかり答えになる事を言ってしまったのか。

何故そのような事を口走ったのか分からないが悪い気はしないな。

 

「あの、新月くん。体を鍛えるってどんな事をすればいいかな?」

「そんなもの自分で考えろ。人間の鍛え方など知らん(ポケモンは分かるが)」

「そ、そうだよね。ごめん、変な事訊いて。でも君と話ができて良かったよ。ありがとう」

 

満面の笑みで去って行く男の後姿を見送る。

完全に姿が見えなくなってから一旦中断していた読書を再開した。

しかしあの男、終始私を恐れなかったな。あの子でさえ最初は怖がっていたのに……。

まぁいいか。どうせもう関わって来ないだろう。

と思っていたのだが男、緑谷出久は昼休みになると私のところへやってくるようになった。

「こんなトレーニングを始めて見たんだ」「こっちはあるヒーローが紹介していたトレーニングなんだ。まだすぐ疲れちゃうけど絶対効果があると思うから頑張って続けてみるよ!」という話や何の変哲もない日常会話をして時間になれば去って行く。

最初は少しうっとおしかったが、案外出久の話が面白くて気付けば私も返答やアドバイスをするようになっていた。

 

「いい友達じゃないか。これからも大事にしなさい」

「は?」

 

夕食時に出久とこんな会話をしたと話すと父さんから思わぬ言葉が飛び出した。

友達? 私と出久がか?

 

「そうね。極夜が誰かの話をするのは珍しい上にちゃんと名前で呼んでるなんてこれまで一回しかないもの」

「……言われてみればそうだが」

 

何だかんだ出久と話すようになって半年。

最早昼休みに出久が私の元へやってくるのが当たり前になってきているが、だからと言って友達ではないだろう。

 

「たまには極夜から会いに行ってみな。きっと緑谷君喜ぶよ」

「馬鹿を言うな。この見目の私が人前で出久と会ったら出久が何か言われるだろう。ただでさえ無個性故に他の人間から下に見られているというのに」

「ほらね」

「?」

「極夜は自分がどんな悪口を言われても何とも思わないけど、少しでも心を許した人が馬鹿にされると凄く怒るでしょ。そう思うって事は極夜は緑谷君に心を許してるし大事に思ってるって証拠よ」

「…………」

 

不味い。反論できる要素がない。

でも……そうか。私は出久に心を許しているのか。友として。

 

「出久。私とお前は友なのか?」

「違うの!!?」

 

しかし出久が私の事をどう思っているのか分からなかったため訊いてみたところこの返答だった。

どうやら出久はとっくに私を友達だと思ってくれていたらしい。

 

「ああ、いやすまない。これまで友と呼べるものがいなかったから友がどういうものなのか自分では分からんのだ。ただ両親からはそうだと言われて確かめようと……」

「そ、そうなんだ……。別に難しく考えなくてもいいと思うよ。僕は新月くんの事、友達だってずっと思ってたよ」

「そうか。ありがとう出久。これからは友としてよろしく頼む」

「こちらこそよろしく新月くん」

「極夜で構わない」

「! うん、ありがとう極夜くん」

 

こうして私は今世で初めての友を得た。

私が近くにいる事で出久が何か言われるのは嫌だったから他の場所で会うのを最初は拒んでいたが、出久はそんな事は全く気にしていないようで遊びに行こうとか、一緒に勉強しようと何度も誘ってくれた。

だから私も家から出る事が少しずつ増えていった。(基本学校がない時は引きこもり)

両親もその事をとても喜んでくれた。

 

「極夜くん、一緒に雄英高校受けない?!」

「は?」

 

あっという間に中学3年になった。出久と同じクラスになる事は終ぞなかったが友である事に変わりない。

そしてそろそろ進路希望の紙を提出しなければいけない時期なのだが、特に何も目標らしい目標がなかったため出久に相談してみたところそう言われた。

 

「一緒にヒーロー科受けようよ! 極夜くん学年一位だし実力もあるからきっと合格できるよ!」

「そう言われてもヒーローに興味がないものがヒーロー科を受験しては不味いだろう」

 

それ以前に身内以外どうでもいいと思っている私に人助けが仕事であるヒーローなんて無理に決まっている。

キョウヤや出久くらいお人好しでなければ務まらんだろ。

 

「じゃあ普通科はどう? 雄英は国立校だから普通科卒業でも就職に有利だと思うよ」

「……どうあっても私を雄英高校へ行かせたいのか出久は」

「一緒に通いたくて」

「はぁ……、一先ず両親に訊いてからな。駄目と言われたら諦めてくれ」

 

というワケで訊いたところあっさりOKされた。

軽いな。もう少し理由を訊いても良いのだぞ?

しかし雄英高校、自分なりに調べてみたが広い上に施設が充実している。普通の高校へ行くより楽しそうだ。

その事を出久に伝えようとLINEでいつもの場所にいると送ったのだが既読にならない。

いつもならすぐ既読になるのにどうしたのだろう。

 

「ーーーーー!!」

「ん?」

 

悲鳴のような声が聞こえたため上を向くと何かが落ちてきた。

咄嗟に掴むとそれは出久がいつも大切に持っている自分なりのヒーロー分析をまとめたノートだった。

出久がこれを落とすハズがない。何より焦げた跡がある。

出久に何かあったのだと分かり急いでノートが投げられたと思われる教室へ飛んだ。

 

「そんなにヒーローに就きてんなら効率良い方法あるぜ。来世は“個性”が宿ると信じて…屋上からのワンチャンダイブ!!」

「!!!」

 

一旦影から様子を見ようかと考えていたがその言葉を聞いて、それが出久に向けられたものだと分かりすぐ教室へと入った。

突然教室内に現れた私にその場にいた全員が硬直する。

 

「きょ、くや…くん……」

「ノートが上から落ちてきたから届けに来た。出久のものだろう」

「……うん、ありがとう」

 

私が来たからか何とか笑みを浮かべる出久。

何があったのか知らないがあんな事を言われて苦しくないハズはない。

そして……。

 

「おい、お前」

 

私の友を苦しめたのはお前だな。

 

「あ゛? 何だて」

「死が何なのか理解していないものが自死をしろなどと軽々しく口にするな。今すぐ出久に謝れ!」

「「「!!??」」」

 

私は本気の怒気と威圧を飛ばす。

それを感じ取った男二人の顔が青褪め体が震え始めた。

もう一人……出久にこの事を言った張本人は一瞬表情を曇らせたが、プライドだけはあるのかすぐ戻った。

 

「何で俺が無個性に謝らねぇといけねぇんだよ。ほら行くぞ」

「う、うん」

「…………」

 

出久に何も言わずに出て行く奴らを見て怒りが更に大きくなる。

叩きのめしてやりたくなったが出久がそれを望んでいないと分かるため仕方なく怒りを抑え、出久へ顔を向ける。

 

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ……心配かけてごめん」

 

平気そうに振舞っているが今にも泣きそうな顔をしている。

あの毬栗頭が……何者かは知らんがやはり一度徹底的に潰すべきか?

 

「……あのさ」

「何だ?」

「極夜くん……もしかして家族の誰かが亡くなってるの? 何かそんな感じの言い方だったけど……」

 

そういえば出久には私の前世の事を話していなかったな。

自分は養子で両親とは血が繋がっていないとは話したが、それ以外の事はほとんど話していない。

 

「いや、死んだのは私だ。私は一度死んだようなものだからな」

「え?」

 

しかし全てを話す事は流石にできないため仕方なく少し事実を曲げて話す事にした。

出久なら大丈夫なのではないかと思ったが早々に信じられる話ではないからな。

 

「私の生みの親はこの姿で生まれた私を地下室に閉じ込め虐待したあげく《ナイトメア》の“個性”が発現した私を見捨てて逃げた。暗い地下室で私は今の養父に発見されるまでの2週間、飢餓で苦しんだ。後一日発見が遅かったら本当に死んでいたらしい」

「…………」

 

相変わらずその時の事は思い出せない。

だが頭で覚えていなくとも体はその事を覚えていたようで、急に耐え切れない空腹感に襲われたり、吐くまで食事を続けたり、一日中食べていないと落ち着かない日があったりなど明らかな異常行動があった。

数ヶ月間続いたその異常行動は気が付けばなくなっていたが……今思えば相当精神が不安定だったのだろう。

あの頃は両親にかなり迷惑をかけた。

 

「記憶にはないが感覚は残っている。体が死に向かう感覚が……。それがどんなものか知らずにあんな事を言うなど実に腹立たしい」

「……極夜くん怒る事あるんだね。あんまりそういうイメージなかったけど」

「身内がそう言われて怒らないものはいないだろう。私は存在自体が害だからそう言われても何とも思わないが」

「そ、そんな事ないよ。極夜くん凄く優しいじゃないか」

「そう言うのは出久と両親だけだ。……ああ、そうだ。両親から許可を得たから私も雄英高校を受験する。共に勉学に励もう」

「本当?! 一緒に通えるように頑張ろうね!」

 

ようやくいつもと同じように笑った出久を見てホッと一息ついた。

二日後、出久から「凄い人からトレーニングを教えて貰える事になったんだ!」と報告があった。

今まで見た事がないほど喜んでいたから余程凄い人物なのだろう。

故にそのトレーニングが完了するまでの間、学校以外では会えないと言った。

少し寂しいと思ったがヒーローになるのは出久の夢なのだから邪魔をするワケにはいかない。

途中で頑張りすぎてオーバーワークしかけていたので強制的に眠らせるという事態が起こったが、それ以外は特に問題らしい問題はなく、試験まで残り一週間になった頃、出久から連絡があった。

その人のお陰で“個性”が発現したから、慣らすのを手伝って欲しいと。

 

 

 

 

 

指定された場所はゴミだらけで有名な海岸だった。

そこが以前の面影がないほど綺麗になっている。

まさか出久がやったのか?

 

「極夜くん!」

 

私が来た事に気付いた出久が近付いてきた。

ふむ。“個性”が発現したというのは本当のようだ。感じる気配が違う。

……いや、いくら何でも違い過ぎないか?

 

「後天的に“個性”が出る事もあるのだな。何はともあれ良かったな出久」

「ありがとう! 極夜くんのお陰だよ!」

「私は何もしていない。全て出久の努力の賜物だ。だが体に不調はないか?」

「え? 特にないけど何で?」

 

表現は難しいが複数の力が交わっているような不思議な感じがする。

発現したばかりだからそう感じるだけかもしれないが何か気になる。

 

「いや、何ともないなら良い。それでどのような“個性”なんだ?」

「えっと、増強型の“個性”だよ。でも昨日使ったら腕が折れちゃって……」

「折れ……それにしては平気そうにしているな」

「トレーニングを指導した人が紹介してくれた人から治して貰ったんだ」

「……まぁ発現したばかりならそうなるのも無理ない。まだ体に力が馴染んでいないのだ。後一週間でどれほど馴染ませられるか分からんができるだけ協力しよう」

「ありがとう!」

 

時間が限られているため早速“個性”を馴染ませるために訓練を開始する。

どんな方法でもいいと指導している人間から言われているそうだから私なりのやり方で少しスパルタ気味にしごく。

 

「一ヵ所に力を乗せ過ぎだ。また骨を折りたいのか」

「ぐふっ!?」

「一気に力を込めすぎるな。今度は体が砕けるぞ」

「ぎゃ!!」

 

体を壊す前に吹っ飛ばして阻止する。

まだ100か0の調節しかできないが、この“個性”は凄まじい力だな。

使いこなす事ができればオールマイトに近い実力者になれよう。

 

「極夜くんこんなに強かったの!? 手も足も出ないんだけど!!?」

「力を使う理由がないからな。今の私にとっては無用の長物だ」

 

生来私の種族は戦いを好まない。

生態系の頂点に立てる実力はあるが余程の事がない限り縄張り争いもしない。

《ナイトメア》のせいでできるだけ他種族との接触を避けて生きているのに何故これほどの力を持っているのか分からんが、あっても困る事はないから深くは考えない。

 

「少しずつ出力を上げるイメージをしろ。頭で考えるのと実際にやるとでは勝手が違うが……そうだな。見せる方が早いか」

 

私は個性抑制装置を外した。やはり外すと体が軽い。

出久は私が何かすると分かって目を輝かせているが……そこまで大した事はしないからな?

 

「【サイコキネシス】」

 

念力を放ち、近くの小石を浮かせる。

何故かレベルで覚える技だけではなくキョウヤが技マシンで覚えさせた技まで使える。

しかも通常は技は4つまでしか記憶できないのに今の私にはその制限がない。

それだけでも前世より強いと思うが、更にキョウヤが色々して強くなった力もそのままなのだ。

この世界ではそこまで力を必要としていないのに何故だ?

 

「小石を浮かせるだけなら少しの力で十分。今かなり出力を抑えているが分かるか?」

「う、うん」

「ここから浮かせるものによって出力を変える」

 

少しずつ大きく重いものを浮かせ、出久に分かりやすいように出力を上げていく。

最後に私の体格の何倍もある大岩を浮かせる。

 

「出久の“個性”でも同じ事ができるハズだ。さて、このまま落とすのは危険だから壊すとしよう。【あくのはどう】」

 

悪意のオーラを放ち大岩を粉々に破壊する。

……久し振りに力を使ったが思った以上に疲れたな。

たまに使わないと体も鈍る。今後は定期的に使うとしよう。

 

「極夜くんこんな事できたんだね! 凄い! 実力派のヒーローになれそう!」

「私はヒーローに興味がないと言っただろう。くれぐれも今見せた力は秘密にしてくれ。変に目を付けられたくない」

「うん。分かったよ」

「日が暮れるから今日はここまでだが、明日も同じ時間に来ればいいか?」

「頼んでいいかな?」

「ああ」

 

 

 

———続く