≪注意事項≫
・ポケットモンスターと僕のヒーローアカデミアのクロスオーバーです。
・オリジナルキャラが登場します。
・原作改変及び捏造が多々あります。
・作者はポケモンには詳しいですが、ヒロアカについては知識にかなり抜けがありますのでその点はご了承下さい。
・ポケモンレジェンズZAと、そのダウンロードコンテンツM次元ラッシュのネタバレを含みます。ネタバレが嫌だという方はブラウザバックをして本編を進めて下さい。
以上がOKの方は続きをどうぞ!
なんか思いついて書いたはいいけど放置していました。
消すのが勿体ないので供養がてら投稿。
恥ずかしくなったら消します。
◆◇◆
≪とある警察官の視点≫
ここ数週間奇妙な通報が相次いだ。
内容は単純に「毎日悪夢を見て眠れない」というもの。
たった一人なら変な通報をするな、で終わるんだけどそれが何十人もとなれば流石に不審に思う。
しかも通報した人は皆同じ地域に住んでいる。
悪夢を見せているのは新手のヴィランの仕業である可能性が高い。
「調べたところ、悪夢を見ている人はこの範囲内にいる人だけだ。つまり……」
「その範囲の中心点に悪夢を見せている元凶、もしくは原因がある。直接現場に行って確かめてみてくれ。凶悪なヴィランが潜んでいる可能性もあるため少しでも身の危険を感じたらすぐヒーローに救援要請を出すように」
「「了解!!」」
何かあった時のために二人一組で動く。
しかし悪夢を見せるとは厄介な“個性”だ。まともに眠れず疲弊する人が続出するぞ。
「で、ここがその中心点なんだけど……」
「普通の家……だな。住人は?」
「7年前から夫婦が住んでいる。でも……なんか変だな」
目の前に見えるのはごく普通の一軒家。最近まで誰かがいた痕跡はあるけど人の気配がない。
ヴィランの隠家にしては違和感がある。どういう事だ?
インターホンを何度か鳴らしたが返答はない。突入する許可は得ているのでドアノブに手を掛けると鍵が掛かっておらず何の抵抗もなく開いた。
慎重に中へ入る。
「……誰もいない……」
「妙に薄暗くて見辛いな。お前の《暗視》で何か見えないか?」
「……特に怪しいものはないな」
俺の“個性”は暗いところでもものが良く見える《暗視》。地味だが役に立つ“個性”だ。
しかし家の中が暗すぎる。まだ昼間で天気も晴れだぞ。
「 」
「……ん?」
「どうした?」
「今何か聞こえなかったか?」
風が通り抜けるようなそんな感覚だが何かが確かに聞こえた。
何処から聞こえたか分からないそれを探しているとあるものを見つけた。
それは床に不自然に作られた扉。
恐る恐る開けて見ると地下へと降りる階段が現れた。
「…………え、行くのこれ?」
「行くしかないだろ。ヴィランの基地かもしれないから、いつでもヒーローへ救援要請を出せるよう準備しておけ」
「う、うす!」
俺が先行し、ゆっくりと階段を下りる。
手作業で作られたようで作りが歪だ。小さな地震でも崩れかねないな。
そして一番下へ辿り着くとすぐ小さな檻があるのが見えた。
その小さな檻の中に何かがいる。
黒くて小さい何か。何だあれ?
「…………ェ……」
「え?」
「……タ、す……ぇ、……て……」
「!!?」
本当に囁くような小さな声が俺の耳に届いた。
相方の制止を無視して檻へ近付くと黒い何かが生き物である事が分かった。
声を発したのはこの生き物だ。でもただの生き物が人の言葉を話せるハズがない。間違いなく異形型だ。そして明らかに弱っている。息をしているがあまりにも弱々しい。
檻を開けようとしたが雁字搦めになった鎖のせいで開かない。
相方にこれを壊せそうなものを探してくれと頼むとすぐにバールを持って戻ってきてくれた。
バールを何度も鎖へ振り下して壊し、扉をこじ開けた。
「おい! 大丈夫か!?」
檻から出したその体はあまりにも小さかった。人間の2歳児くらいしかない。
にしては軽すぎる。多分5kgもない。どう考えても痩せている。
「救急車を呼んでくれ! 相当な飢餓状態だと思う。体温も低い。早く適切な処置をしないと死んでしまう!」
「分かった!」
上着を脱いでピクリとも動かない体を優しく包む。
異形型とはいえこの大きさならまだ子供だろう。
死なせてたまるか!! 水……せめて水だけでも飲ませないと!
地下室から出てキッチンに向かい、蛇口を捻ると奇跡的に水が出た。
コップに水を注いでいたら容器に入った白い何かが目に入った。
容器には砂糖と書いてある。舐めて確かめると確かに砂糖だった。ただの水より砂糖水の方がいいかと思い、水に砂糖を溶かして子供の口に近付ける。
頼む。少しでいいから飲んでくれ!
俺の願いが届いたのか微かに口が開き水を飲んでくれた。
「生きたくて必死に声を出したんだな。頑張れ。絶対に助けてやるから」
冷え切った子供の体を摩り救急車が来るのを待つ。10分後に来てくれたが、とてつもなくその時間が長く感じた。
俺ができるのはここまでだ。後は救急隊員に任せよう。
「あの子助かるといいな。……もしかしなくても悪夢の原因ってあの子なんじゃ……」
「可能性はあるな。見た事もない姿だったから。もう少しこの家を調べよう。何かまだ残されているかもしれない」
「了解」
翌日、病院からあの子供が一命を取り留めたと連絡があった。
まだ面会謝絶だから会いに行けないがその間にできる事はある。
そして調べていくうちに衝撃の事実を知った。
「調査の結果、あの家に住んでいた夫婦は我々の調査に入る2週間前に家を出ている事が分かりました。しかもほぼ夜逃げ同然で近所の住人もしばらくいない事に気付かなかったようです」
「ならあの子供は最低でも2週間あそこに放置されていたって事だな」
1週間後。ある程度情報が集まったので捜査課の刑事が集まりその報告が行われた。
初っ端から胸糞悪いな。
「あれ? でも悪夢を見るって通報が来始めたのってその数週間前だろ。あの子が生命の危機を察して“個性”を使ったのなら時期がズレてないか?」
そして通報のあった悪夢の原因があの子だとすでに判明している。
あの子が病院に着いた直後から悪夢に魘される患者が続出したと病院から連絡を受けている。
悪夢を見せる“個性”は《ナイトメア》と名付けられた。
あの子は異形型の“個性”とその《ナイトメア》の2つの“個性”を持つ子だった。
「それが……あの子の“個性”はどうやら常時発動型らしいんです。しかもあの子自身その“個性”を制御できていません。あの子は運ばれてから一度も意識が戻っていないのですが、その状態であるにも関わらず“個性”はずっと発動し続けている。そのため個性抑制装置を外す事ができないとの事です」
「マジかよ……」
幸い個性抑制装置の効果はあってそれを付ければ周囲の人達が悪夢を見る事はなくなる。
もしかしたら一生その装置を手放せないかもしれないな。
「あの子の戸籍は?」
「ありませんでした。出生記録もありません。母親が妊娠したという診察記録は残っていたので、もしこれがあの子なら少なくともあの子は4歳ですね」
「え、4歳の子供の大きさじゃなかったぞ。まさか異形型だから虐待されてた?」
「そのようです。衰弱の具合からかなり長い間まともに食べさせて貰えなかった可能性が高いと医師が言っていました」
「成程。状況証拠から、差別を恐れ異形型で生まれたあの子の出生を隠すため地下室に閉じ込め最低限の食事を与えるだけの生活をさせていたが、常時発動型の“個性”まで発現し隠しきれない判断したため家ごとあの子を放置して逃げた、と推察できるな」
上司の推察を聞いて思わず爪が食い込むほど拳を強く握った。
個性差別問題は確かに深刻だが、それを恐れるあまり幼子をあんなところに閉じ込めるなんて……!
「両親は行方不明。これから本格的な捜査が始まるけど……あの子は“個性”の事もあるから元気になっても施設に行く事になりそうだな」
「……だろうな」
大分容態は落ち着いたそうだけど重度の栄養失調状態だったからしばらく入院が必要だ。
病院にいるうちはいいけど……施設に行ったらどうなるんだろう?
そんな事を考えながら俺は病院に足を運んだ。
理由は勿論あの子に会いに行くためだ。やっと面会許可が下りた。
まだ意識が戻らないあの子は異形型である事も考慮され人目に触れないよう個室にいる。
受付を済ませてあの子がいる病室へ行くと起こさないようそっと扉を開ける。
そこには静かに横たわるあの子がいた。
足音を立てないように近付いてその姿をじっくり見る。
あの時は必死過ぎてちゃんと見ていなかったけど髪の色は白なんだ。
肌は黒くて首には牙のような形の赤い飾りがある。
パッと見は幽霊や死神のようだ。一体どんな動物の姿なんだろう?
両腕には個性抑制装置が付けられている。かなり重そうだけどこれを付けないと周囲にいる人に悪夢を見せてしまうからなぁ。
「何はともあれ助かって良かった。早く元気になれよ」
頭を撫でるとその目がゆっくり開いた。
青色の目が俺を見る。
「……キョ……ゥ、ヤ」
「え?」
その子が目覚めて初めて口にした言葉は紛れもなく人の名前だった。
キョウヤ? 誰の名前だ? 少なくとも父親の名前じゃないな。
「……ぁ…ち、が……。だ、れ……?」
どうやらすぐ人違いに気付いたようだ。
1週間意識不明の状態だったんだし見間違えても無理ないか。
「初めまして、俺は新月夜目だ。君の名前は?」
「………………ク…ラ、ィ……」
「クラ……何?」
「ダー、ク、ラ…イ」
虐待していた連中が名前を付けるとは思えなかったけど訊いてみたら返答があった。
でもダークライって……人の名前っぽくないな。
「こ……どこ?」
「ここは病院だよ。君は重度の栄養失調で倒れていたところを保護されたんだ。ちなみに見つけたのは俺だよ。覚えてる?」
「な、い……」
「そうだろうね」
あの状態で覚えていたら逆に凄いよ。
医師から後一日発見が遅かったら死んでいただろうって言われてるくらいだ。
「……? ぇ? なぜ……こえ、……ゆめ……?」
「? いいや、夢じゃないよ。どうかした?」
「い……ゃ……」
どうしたんだろう。何か困惑してるみたいだな。
まぁ後は医師に任せるか。意識が戻ったのをこの目で見て安心した。
俺はナースコールを押してあの子の意識が戻った事を伝える。
後ろから慌しい声が聞こえたからすぐに来るな。
「じゃあ俺はこれで帰るけど腕の装置は外したら駄目だぞ。その装置は君の“個性”を抑えるものだから、それを付けている限り誰も悪夢を見ないよ。それじゃあね」
「は……? まて、そ……」
何か引き止まられたような気がするが俺ができる事はもうないから失礼しよう。
無事を確認できたらそれでいいと思っていたのに、どうしても気になってその後も時間ができたらあの子に……ダークライに会いに行った。
医師や看護師に聞いた所、虐待の影響からか簡単な文字も読めず、食器の使い方も分からなかったそうだ。
ついでに虐待されていた事も、両親の事も覚えていないという話だ。
あまりに辛い記憶だから自分で消してしまったのかもしれない。
「今日はプリンを持ってきたよ。一緒に食べよう」
「…………」
入院して1ヶ月。もう普通の食事を取れるようになったダークライに医者の許可を取ってデザートを持ってきた。
何でも最初に普通の食事を見た時「これ私が食べられるのか?」と言ったらしい。
まともに食べられなかったのなら当然の反応だな。
「昨日も来たのによく来るな」
「個室で一人だと寂しいかなーと思って」
「別に寂しくない。独りでいる事には慣れている」
慣れている、という言葉を聞くと胸が苦しくなる。
しかし淡々と答える様子を見るととても4歳には思えない。
一人称も「私」だし、あんな境遇だったのに何でこんな大人びた性格になるんだ?
「ねぇダークライ。もし良かったら俺と家族にならないか?」
なんせよ俺の心はすでに決まっているけどね。
「? それはどういう……」
「俺の子供になって欲しいって事だ。行政の許可は取ってある。後は君の返答次第。嫌ならそう言ってくれて構わないよ」
妻にも話していて了承済みだ。
てかめっちゃ乗り気だった。
「丁度子供を引き取ろうかと話していたところだったんだ。俺達夫婦は子供が望めなくてね。あ、ちなみに原因は俺だ」
「何だ種無しか。雄としての価値がないな」
「すっごい辛辣!! てかよくそんな言葉知ってるね!? 違うから!! 人より少ないだけだもん!! 一応不妊治療すれば子供は十分望めるだろうって話なんだけど、妻が病弱で不妊治療に耐えられる体じゃないから諦める事にしたんだ。でも俺も妻も子供が好きだからどうしても欲しくなって、色々準備していたんだ」
仕事仲間や友人の出産報告を聞く度にその想いは強くなった。
妻も同じ気持ちだったようで子供の楽しそうな声を聞くと寂しそうな顔をしていた。
そんな時にこんな境遇の子供を見つけたら……自分では運命だと思っている。
「お前の事はそれなりに信用している。……しかし私ではお前の子になれない」
「そう思うのが普通だよ。まだ赤の他人なんだから。でも血の繋がりなんてなくても時間を掛ければ」
「違う、そういう意味ではない」
ちらりと不安げな表情を見せるダークライ。
何かを言おうとしているみたいだから急かさずに静かに待つ。
しばらくするとダークライは重くなった口を開いた。
「私は人間より長い時間を生きている。だが何故か今は幼体になっている。……そもそも私はキョウヤとその仲間に看取られ、死んだハズなのだが……」
「え?」
何か想像の斜め上の事を話し始めた。
死んだ? ていうかキョウヤって意識が戻って最初に口にした人間の名前だ。
一体何者なんだ?
△▼△▼△▼△
≪ダークライ視点≫
ずっと独りで生きてきた。
自分自身でも制御できない特性を持つが故、誰かと関わる事ができなかった。
近くにいるだけで、私の意思とは全く関係なく悪夢を見せてしまう。
だから誰もいない島や辺境の地を住処にしていた。
ある時、住んでいた場所に移住してきた人間が大勢やってきて住処を移動せざる負えなくなった。
ここでもない、あそこでもない、と彷徨っているうちに人間の都市部に迷い込んでしまった。
長い移動で疲れ果て、それ以上動く体力がなかったため悪夢を見せる心配のない一番高い建物の上に身を潜める事にした。
ここでしばらく休んで体力が戻ったらまた移動しようと思っていたが……その建物から何か得体の知れないエネルギーが溢れ出した。
感じた事のないエネルギーだったから避けようとしたが、体力が戻っていなかったため動く事ができなかった。
後少し……後少し辛抱すれば……そう思い耐えていた。
しかし突然そのエネルギーが爆発的に増えてそれをもろに浴び……そこから先の記憶がほとんどない。
唯一覚えているのは体が内部からはち切れるような苦痛がずっと襲っていた事。
——苦しい。
——苦し…い。
——く、る…し、い……。
——だれか、…たす、け…て……。
「お、大丈夫そうだな」
その苦痛がなくなり意識を取り戻した時、目の前にいたのは人間だった。
何故人間がこんなに近くにいる? そう思ったがうっすらとこの人間と戦った事を思い出した。
どうやらあのエネルギーのせいで力が暴走し、かなり迷惑をかけてしまったようだ。
しかし私を捕まえた人間、キョウヤはそんな事全く気にしていないらしく私を普通のポケモンと同じように接した。
私を色んな所へ連れて行き、色んな体験させた。
今まで独りで生きていたためどう反応していいのか分からず困惑するばかりで、時折怒ってしまう事もあったが、それさえ享受する器の大きさを見せた。
「今は慣れてないだけさ。そのうち皆と同じように感じられる日がくるよ。焦らず自分のペースで行こう!」
決して急かさずあくまで私のペースに合わせてくれるキョウヤに気が付いたら心を許していた。
モンスターボールの中にいれば特性が発動しないのも理由だった。
誰かの近くにいても、もう悪夢を見せる事がないのだと思ったら気が楽になった。
これまで避けてきた交流にもゆっくりだが慣れていった。
キョウヤとその仲間とならもっと色んな体験をしてもいいかもしれない。
そう思い始めた頃、体が急激に弱っていくのを感じた。
メガエネルギーを長い間大量に浴び、その力が暴走した私の体はキョウヤに助けられた時にはもう限界だったらしい。
日に日に弱っていく体。
隠していたが、あっさりキョウヤにバレた。
自由奔放に見えて本当に周りをよく見ている。
キョウヤは仲間と共にあの暴走が原因だとすぐに突き止め、何とか助けようと様々な治療を施した。
しかし結果は振るわず季節が一周する頃には私は伏した状態から動けなくなっていた。
体温の維持さえできなくなり冷たくなった私の体をキョウヤの仲間が懸命に温めているが効果を感じない。
ここで終わるのか……。
以前なら死は自然の摂理だからとしか考えなかっただろう。
でも今は……もっとキョウヤやその仲間といたかったと思う。
思っていたよりこの生活を楽しんでいたらしい。
「助けてやれなくてごめんな……」
私の頭に触れ、謝るキョウヤを見て驚いた。
いつもニコニコと笑っているキョウヤが泣いていた。
他の皆もよく見たら泣いていた。
悪夢を見せると忌み嫌われ続けた私の死を悼んでくれるのか。
前にキョウヤが言った「お前も大事なMZ団のメンバーだ」という言葉は本当だったのか。
そこまで考えて私はキョウヤに礼を伝えていなかった事に気付いた。
助けてくれた礼も、これまで色々してくれた礼も伝えていない。
だがもう動く事はおろか夢を見せる力もない私では伝える術がない。
もっと早く気付いて伝えれば良かったな……。
「……頑張った。お前よく頑張ったよ。半年持たないだろうって言われてたのに1年も……。なぁ俺お前がもう一度生まれるのを待っているからさ、また俺の所においで。今度は一緒に世界を旅しよう。絶対に楽しいから……だから…………お休み」
世界を旅するか……それは楽しそうだな。
もう一度生まれるという意味は分からないがキョウヤなら本当に待っててくれるだろう。
次に会えたなら今度こそ……礼を、伝えよう。
これまでの……礼を伝えて、それか…ら…………。
「そこで私の意識は途絶えた。命を終えたのだと思う。しかしそう思うのに今はこのような状況になっている。どういう事なのか私には分からない」
私を家族として迎えたいと言う人間にこれまでの事を話した。
自分でも信じられない話だ。人間も目を見開いて驚いている。
しかしすぐ何かを考え始めた。
「これは……生まれ変わりだな」
「生まれ変わり?」
「うん。人間には輪廻転生って考えがある。死んだ命は輪廻を巡り、また新しい命として生まれるってヤツだ。本来は新しく生まれる時に前の命だった時の記憶は消えてしまうんだけど、あまりに未練が強いと記憶が残ってしまう事があるらしい。君は恩人であるキョウヤ君に礼を伝えられなかった未練と、そしてキョウヤ君の言葉から前の命の記憶……俺達で言う前世の記憶が残ってしまったんじゃないか?」
「前の命の記憶……」
成程。それなら今の状況が理解できる。
幼体なのは新しく生まれたからという事か。
キョウヤが言っていたのはこういう事だったのか。
「姿も能力も前世と同じなのはそれが“個性”に反映された結果なんだと思う。勿論全部推測だけどもし本当にそうなら君はよほどキョウヤ君の事が大好きだったんだね。目が覚めて初めて口にしたのも彼の名前だったし」
「それは……否定できないな」
言葉にされると確かにそうだったんだと痛感する。
説明を受けてここは自分が知っている場所ではなくキョウヤに会えないと分かった時とても悲しかった。
「もしかして保護される前の記憶がないのは死にかけた事で前世の記憶が一気に蘇ったからだったりする?」
「分からない。だがここで目が覚める前の事が一切思い出せないのは確かだ」
「何にせよ話してくれた事で君が妙に大人びている理由も、その名前の謎も分かった。人より長く生きてきた記憶があるから大人びてて、ダークライも前世の名前なんだね」
「ああ。だから私はお前の子になれない。普通の子供のように振舞うなど無理だ。止めた方がいい」
「いや、逆にダークライを家族として迎えたいって気持ちが強まったよ」
「は?」
私の事情を話したのに何を言う。
「そこまで前世の記憶が強く残っているなら人間の世界じゃ生きにくいだろう。前は人間と全く違う種族なんだろ?」
「ああ」
「このまま里親希望の人が現れなければ君は児童養護施設に行く事になる。でもそこで君が人間の常識や基礎知識を学ぶのは難しいと思う。施設には他にも子供が沢山いる。君だけに時間を割く事はできない。でも俺の家族になればその心配はなくなる。君はこの話をした相手といるから気が楽だろうし、俺は引き取りたいと思った子と一緒にいられる。どっちにもメリットがある。悪い話ではないだろう?」
「…………」
言われてみればそうだと思った。
私だって誰彼構わずこんな話しようしない。
この人間なら話しても大丈夫だと思ったからだ。
それに見ず知らずの人間といるというのは《ナイトメア》が封じられていても嫌だ。
長い間独りでいたからポケモン付き合いも人付き合いも苦手だ。
なら選択肢は一つ。
「分かった。迷惑をかけると思うがよろしく頼む」
「そんな事気にしなくていいよ。子供はそれが普通だからね。それじゃあ君に新しい名前をあげる」
「新しい名前?」
「そう。前世の名前のままだと日本人っぽくないからね。あ、ちゃんと妻と考えてきたから安心して。というワケで君の名前は新月極夜だ」
「きょくや……」
「うん。キョウヤは君にとって大事な人の名前なんだろうって思って似た名前にしてみた。どうかな?」
「……あまり名前に執着はないが、そういう理由なら反対はない」
むしろ少し嬉しい。
この世界での寿命がどれだけあるのか分からないがキョウヤの事を忘れずに済みそうだ。
それから人間……夜目は私を正式に迎えるために手続きがあるからと足早に帰って行った。
はぁ……一生分喋った気がする。今まで積極的に会話をした事がなかったから酷く疲れた。
そもそも前は人語など話せなかったからな。私が“個性”とやらでこの姿になっている人間だというのも信じざるおえない。
人間しかいない世界に順応できるか分からないがやれるだけやってみるか。
……こう前向きに考えられるようになったのはたった数年でもキョウヤと過ごしたからだろう。
本当に前向きだったからなキョウヤは。
やはりまた会う事ができたなら礼が言いたい……。
あれから3週間ほど経った頃、ようやく退院の許可が下りたらしく夜目が迎えに来た。
夜目の番が病院に来る事は一度もなかったが、家で私を迎える準備をしていて来る暇がなかっただけらしい。
「では俺の家に出発だ!」
「それはいいが抱き上げるのを止めてくれ」
「無理です!」
「……そうか」
もう体力は戻ったから自分で移動できるのだが夜目は断固として離すつもりはないようだ。
体も小さく力も弱いため無理矢理抜け出すことが不可能だから諦めるしかないか……。
車に乗っている間はずっと外の景色を見ていたが本当に色んな姿の人間がいるな。
本当に人間なのかと疑いたくなる。
しばらく移動すると家に着いたようで車から降ろされた。
ちなみにまた抱き上げられている。……勘弁してくれ。
「あ、妻にも君の事は話してあるから前世の事も隠さなくていいぞ。だから緊張しなくても大丈夫」
「そういう意味で緊張しているワケではない。あの……やはり降ろし」
「では家の中にGO!」
「話を聞け」
嬉しいのかなんなのか妙にテンションが上がってるな。
家の中に入ると玄関に人間の雌が立っていた。この雌が夜目の番か。
人間の美醜はよく分からんが……キョウヤの仲間のデウロが妙齢になったらこんな感じかもしれない。
「…………可愛い」
「は?」
か、可愛い? 何を言ってるんだ突然。
私が可愛いワケないだろう。
「思ってたより丸っこくて可愛い。え、天使?」
「どちらかと言えば幽霊ではないか? (ゴーストタイプではないが)」
「あ、自己紹介がまだだったわね。私は新月音羽。普通の人より数倍聴覚がいいって“個性”を持っているわ。よろしくね」
「……よろしく」
「まぁまぁ挨拶はこれくらいにして、抱っこさせて夜目」
「いいぞ」
「!!??」
止めろ! いくら何でも初対面の人間に触られたくない!
渡されるほんの僅かな隙をついて手を振り払い離脱した。
「あら逃げられちゃった。結構人見知りなのね」
「独りで生きてきた時間が長いそうだから必然的じゃないか? でもそんなに抵抗しなくてもいいだろ。これから家族になるんだからさ」
「元より触られるのは嫌いだ。それに共に暮らす事には了承したが、まだお前達を完全に信用したワケではない。ベタベタ触るな」
「「…………」」
少し言い過ぎたかもしれないが実際触られるのは嫌いだ。
前でもキョウヤ以外に触られるのは嫌だった。
いくら幼い私の面倒を見てくれるとはいえ簡単に受け入れられない。
「成程……つまり私達を信用すれば触らせてくれるって事ね」
「は?」
「そりゃそうだ。互いの事をよく知らないのは事実なんだからいきなり仲良くしようなんて無理な話だ。よし、音羽。今日から極夜に信用して貰えるように頑張ろう!」
「おー!!」
ポ、ポジティブ……。
何だこの前向きさ……キョウヤと同等か?
「とりあえず家の中を案内するわね。極夜の部屋はちゃんと用意してあるから」
「分かった」
一通り家の中を見て回る。
ミアレシティとは随分内部の構造が違うな。
説明を受けているが理解できない部分があって難しい。
もう少し人間の暮らしに興味を持っておけば良かったか?
「で、本来極夜の年齢なら幼稚園か保育園に通うんだけど」
「断る」
「そう言うと思った。まぁ人間の暮らしに慣れていない状態じゃどの道無理だろう。これからゆっくり教えるね。でも小学校には通わないといけないからそれは覚悟してくれ」
「……そこには行かないと駄目なのか?」
「義務教育だからね。余程の理由がない限りは行かないと駄目なの」
「…………」
集団生活をしないといけないとか寒気がする。
物心ついた頃からずっと独りで過ごしてきたから周りに誰かがいると落ち着かない。
だが行くしかないなら少しでも慣れないとか……。
不味い。不安しかない。
それからも話を聞いているうちに日が暮れ、夕食の時間になった。
「極夜は何か苦手なものある?」
「人間の食い物がよく分からないから苦手なものも分からない」
「それもそうね。なら色々食べてみましょう。その手だと箸を使うのは無理でしょうからスプーンかフォークで食べられるものを作るわね」
「助かる」
少し待つと台の上に料理が運ばれてきた。
病院で出されていたものと匂いが違うが……こちらの方がいい匂いがする。
さて、以前は一日に一度食べれば十分だったが今は幼体だから腹が減るのが早い。ありがたく貰うとしよう。
「知らない事が多いだろうからちょっとでもそう感じたら遠慮せずに訊いてくれ」
「それだと目の前のものがほとんど分からないぞ。これは何だ?」
「一気に言うと頭が付いていかないでしょうから一時間に一個くらいのペースがいいわね。ちなみにそれは醤油。調味料の一種で料理に使ったりするのよ」
その日は夕食を食べ終えたら眠くなってしまったので部屋で休む事にした。
そこまで長く起きていないのだがまだ体力が少ないから疲れるのも早い。
前の命の記憶があるせいで成体時との身体能力の差異が浮き彫りになっている。それが酷くもどかしい。自分の思っているように体が動かせない。
不安が残る一日になってしまった。やれるだけやってみようと思ったがすでに折れそうだ。
翌日、更にその不安を助長させるものが登場する。
「……読めない。読めるようになる気がしない」
そう、この世界の文字だ。
前でも何か分からないものだったがこっちはより複雑で何が何だか全く分からない。
「そうだろうね。しかも日本語って世界で一番難しい言語って言われてるし」
「……これも覚えないと駄目なのか? 何一つ理解できないのだが……」
「文字が読めないとできない事が多いからね。日本語が通じているのは記憶が上書きされる前の知識自体は残っているからかしら? 一先ず読み聞かせから始めましょうか。平仮名だけでも読めるようにならないと学ぶ事も難しいもの」
もう前の場所に帰りたい……。
何で別のところに生まれてしまったんだ。
前の命の記憶が残るならせめて同じ場所に生まれさせてくれ。
△▼△▼△▼△
≪とある養母の視点≫
私達夫婦は子供を望めなかった。
私は生まれ付き体が弱くて自然妊娠ならまだしも、不妊治療には耐えられないだろうと前々から言われた。
でも夫にも異常があって不妊治療をしないと妊娠は難しい。
二人で話し合って子供は諦める事にした。
けれど子供の幼い声が聞こえる度にやっぱり欲しいと思ってしまう。
なら養子を迎えようと夫と色々調べて準備していた時、夫が以前自分が発見し、保護した子を引き取りたいと言ってきた。
異形型で生まれたため、生みの親から見捨てられた子。
制御できない常時発動型の“個性”は持っているけれど“個性”を抑制する装置を付けていればちゃんと日常生活が送れる。
私もその子がいいと二つ返事で了承した。
でもその子は……極夜はある意味それ以上の問題を抱えていた。
まさか話でしか聞いた事のない前世の記憶を持っているなんて。
しかもこことは全く違う世界で生きてきた人間以外の種族だと言う。
前世の姿と能力を持って生まれた稀有な子。それが極夜。
人間よりずっと長い時間を生きていた記憶のある極夜はその記憶が足枷になってしまい、この世界の知識や常識を上手く覚えられなかった。
普通に生まれたのなら目や耳、鼻、触覚を通して成長と共に少しずつ学習していくんだけど極夜はそれができない。
それを自分自身が一番痛感しているから最初の頃は精神が不安定になって突然怒ったり、眠れなくなって体調を崩したり、他にも行動に異常が出ていた。
でも当然だわ。極夜からしたら突然何も知らない世界に放り投げられたようなものだもの。
だから私達も極夜のペースに合わせてゆっくり教える。絶対に無理はさせない。
そして一緒に暮らして一年半。現在の極夜の様子はというと……。
「あれだけ読める気がしないって言ってたのに今じゃすっかり本が好きね」
「ああ、自分でも驚いている」
ソファに座りまったりと本を読む極夜に最初の頃の不安定さはもうない。
一定の基礎知識、常識を覚える事ができた途端今までの苦戦が嘘のようにスラスラと覚えられるようになった。
すでに知識は中学生レベル。本当に前世の記憶が足枷になっていたのね。
人間の生活にも慣れてとても気楽に過ごしている。
「偉い偉い。よく頑張った」
「子供扱いするな。……まぁ体は子供だが」
もう頭を撫でても手を払ったり、嫌がったりしない。
まだ「お母さん」とは呼んでくれないけど私達に心を開いてくれているのが分かる。
最近だと甘えるようにもなってきたし可愛らしいわ。
少し距離を空けて同じソファに座っていたら極夜が近付いてくっ付いてきた。
あら、今までにない甘え方。多分甘え方が分からないから私達の反応を見ているのでしょう。
「もっとくっ付いてもいいわよ。なんなら膝の上に乗る?」
「音羽の負担になるような事はしない」
「そんなの気にしなくていいわよ。おっきくなったら簡単に甘えられなくなるんだから今のうちに思いっきり甘えておきなさい」
そこまで言うと持っていた本を置き、私に体を預けてきた。
極夜はちょっと恥ずかしそうだけど私は嬉しい。
重度の栄養失調状態だったからか体は一回りくらいしか成長していない。
ちゃんと成長できるように栄養バランスを考えて料理を作ってあげないとね。
「来年の春には小学校に通う事になるから、それまでに少しでも人に慣れておきましょう。最初は公園に遊びに行くのがいいかしらね」
「正直とてつもなく行きたくないが仕方ない」
「そんな事言わないの。友達ができるかもしれないじゃない」
「友などいらん」
うーん。これは一匹狼になりそうな予感。
ダークライがその力故に孤高に生きる種族だった事が関係してるわね。
生態系の上位者だったのなら近付く生き物なんて更に皆無だろうし無理強いは厳禁だわ。
「危ない事だけはしないでね」
「安心しろ。かぁ……二人に迷惑はかけない」
「そ……え?」
んん? 今「母さん」って言いかけなかった?
「極夜?」
「…………」
顔を覗き込むとあからさまに目を逸らした。
案外嘘つけないのよね。表情はほとんど変わらないんだけど目を見れば分かる。
「いいのよ。そう呼んでくれて」
「……血は繋がっていないだろう」
「親だと思った人を親だと呼んで何が悪いの? 私は息子にそう呼んで貰えたら嬉しいわ」
少し待つと小さな声で「母さん」と口にした。
最後の壁がなくなった感じがして思いっきり抱き締めた。
極夜はそれを一切嫌がらずに受け入れる。
「夜目も帰ってきたらお父さんって呼んであげてね」
「夜目はそう呼ぶとやかましそうだからいい」
「確かに大騒ぎしそうね。じゃあメールで騒がないように言っておくわ」
「多分無駄だぞ」
案の定大騒ぎした。それはもう近所迷惑になるんじゃないかと思うレベルで。
あまりに大騒ぎし過ぎた結果極夜に強制的に眠らされる始末。
いつもは冷静なんだけど喜びが爆発するとこうなっちゃうのよね。
「おい、これ外していいか?」
「それは流石に止めてあげて」
個性抑制装置を指差す極夜をとりあえず止めた。
髪もぐちゃぐちゃになってるし余程激しく撫でくり倒されたみたい。
極夜が怒るのも無理ないわ。過度の接触も騒がしいのも嫌いなのにそれを同時にやられたら……。
「極夜! もう一回父さんって呼んで!」
「うるさい。お前など夜目で十分だ」
「くっそー!! こんな事ならちょっと我慢すれば良かった!!」
「だから言ったのに。極夜の機嫌が良くなるまで諦めなさい」
目が覚めてすぐ極夜に駆け寄った夜目だけど完全に拒否されていた。
まだ名前で呼んでるだけ温情あるけどこれは怒りが収まるまで時間がかかりそう。
何にせよやっと家族らしくなった。
これからは家族としての時間を育んでいきましょう。
△▼△▼△▼△
≪ダークライ視点≫
何とか小学校へ通い、中学に進学して少し経った頃、父さんの転勤があり引っ越す事になった。
急ではあるが前も転々と移動していたから抵抗はない。
新しい土地で中学へ通うが小学校と同じように誰とも関わらず過ごす。
時折異形型だからとちょっかいをかけてくる奴もいたが、興味がないので無視した。
通い始めて1ヶ月ほど経った頃、昼休みに誰もいない校舎裏で本を読んでいると視線を感じた。
今までとは違う視線だった。敵意も悪意もない。
視線がする方へ顔を向けると緑がかった癖毛の男が木の影から私を見ていた。
気付かれていないと思っているのか? 顔が丸見えだぞ。
「何の用だ?」
「わっ!?」
近寄ると驚いて体が跳ね上がった。本当に気付かれていないと思っていたらしい。
小心者のように思えるがそれにしても私を恐れている様子がないな。
「あ、あの……新月……極夜くんだよね? 最近転校してきた」
「そうだが」
「僕は緑谷出久。えっとクラスは違うけど同じ学年で……その、君がこの間“個性”が暴走してしまった子を助けたって聞いて」
ああ、そんな事あったな。
何が切っ掛けか、同じクラスの生徒の“個性”が突然暴走して大騒ぎになった。
正気を失い暴れ狂ったため教師が誰も近付く事ができず手を焼いていたから、仕方なく許可を貰って【ダークホール】を使い眠らせて鎮めた。
「そ、それで君がどんな“個性”なのか気になって、あの……ミッドナイトみたいに相手を眠らせる“個性”なの?」
「……いや、私の“個性”はこの姿と周囲にいるものに悪夢を見せる《ナイトメア》だ。“個性”とは別に持っている超能力で眠らせた」
どう説明しようか迷ったが個性届けの内容をそのまま伝えた。
ポケモンとしての力をそうとしか説明できないためそう届け出ている。
緑髪の男は「ええ!?」と予想以上に驚いている。
「“個性”とは違う力を持っているなんて初めて聞いたよ」
「だろうな。最も個性抑制装置を付けている状態ではその力を一部しか使えないが」
袖をまくり服の下に隠していた装置を見せた。(一応服は着ている)
どうやら“個性”を抑制するのと同時にポケモンの能力も抑えつけてしまうらしい。
だから個性抑制装置を着けている状態では変化技しか使えない。
「本当だ。でも何でこの装置を付けているの? これを付けているの収監されてるヴィラン以外見た事ないけど」
「《ナイトメア》は常時発動型の“個性”で自分でも制御ができない。これを付けていないと周囲にいるものに無差別に悪夢を見せてしまう」
「そ、そうなんだ。大変だね」
これを着けている事と見た目のせいで罪を犯したヴィランのようだとよく言われる。
私が害なのは分かりきっている事だから気にしてはいない。
両親以外に受け入れて貰おうとも考えていないからどうでもいい。
「でもこれを付けているからこそ逆にヴィランを騙し討ちできそうだな。何もできないと思ったヴィランを不意打ちで眠らせられば無傷で制圧できる。それが複数人に効果があるなら大人数を一気に眠らせてから《ナイトメア》の抑制を外せば悪夢で戦意を喪失させられるかも? 眠らせる“個性”が強いのはミッドナイトがすでに証明してるし他にも有効活用する方法が」
何か急にブツブツと持論を述べ始めたぞ。
さっきまで持ってなかったノートに何か書いているし本当に何だこいつ。
「お前が言っている事は分かるが私はヒーローに興味はない」
「どうして? 今一番人気の職種だよ?」
「それは知っているが私には向いていない。目立つのは嫌いだ。そういうお前はヒーロー志望なのか」
持っているノートには「将来のためのヒーロー分析」と書いてある。
ヒーロー志望でもない限りそんなもの書かないだろう。
「う、うん。実は……小さい頃からの目標で」
「ならもっと体を鍛えたらどうだ? そんな人一人担ぐ事もできない貧相な体でヒーローが務まるワケないだろう」
「え!?」
見る限り腕も脚も細く鍛えているようには見えない。体力もなさそうだ。
警官である父さんは日頃から鍛錬を怠っていないからよく分かる。
「……あの、僕が無個性だからヒーローになれない……とは言わないの?」
神妙な顔で男が訊いてきた。
期待と不安が込められている複雑な目で私を見る。
「お前無個性なのか?」
「うん。結構、知られてるん…だけど……」
「関係ない。サポートタイプの“個性”でも第一線で活躍しているヒーローはいるのだろう? なら“個性”の有無など大した問題ではない。力が足りないのであればそれを補うほど鍛えればいい」
“個性”はポケモンで例えるなら特性だ。確かに強い特性を持っているため強いポケモンはいるが、それに頼らずとも生態系の頂点に立つポケモンもいる。
後者の大半は血の滲むような努力をしていた。人間でも同じだろう。
と、ここまで考えて何を初対面の人間に言っているのだと我に返った。
同時に横からすすり泣く声が聞こえたため見ると男が泣いていた。
「な、何故泣く?」
「ごめん……。でも君だけだから、僕が無個性だって知ってもそう……言ってくれたのは」
「…………」
成程。この人間はそれで悩んでいて、私がうっかり答えになる事を言ってしまったのか。
何故そのような事を口走ったのか分からないが悪い気はしないな。
「あの、新月くん。体を鍛えるってどんな事をすればいいかな?」
「そんなもの自分で考えろ。人間の鍛え方など知らん(ポケモンは分かるが)」
「そ、そうだよね。ごめん、変な事訊いて。でも君と話ができて良かったよ。ありがとう」
満面の笑みで去って行く男の後姿を見送る。
完全に姿が見えなくなってから一旦中断していた読書を再開した。
しかしあの男、終始私を恐れなかったな。あの子でさえ最初は怖がっていたのに……。
まぁいいか。どうせもう関わって来ないだろう。
と思っていたのだが男、緑谷出久は昼休みになると私のところへやってくるようになった。
「こんなトレーニングを始めて見たんだ」「こっちはあるヒーローが紹介していたトレーニングなんだ。まだすぐ疲れちゃうけど絶対効果があると思うから頑張って続けてみるよ!」という話や何の変哲もない日常会話をして時間になれば去って行く。
最初は少しうっとおしかったが、案外出久の話が面白くて気付けば私も返答やアドバイスをするようになっていた。
「いい友達じゃないか。これからも大事にしなさい」
「は?」
夕食時に出久とこんな会話をしたと話すと父さんから思わぬ言葉が飛び出した。
友達? 私と出久がか?
「そうね。極夜が誰かの話をするのは珍しい上にちゃんと名前で呼んでるなんてこれまで一回しかないもの」
「……言われてみればそうだが」
何だかんだ出久と話すようになって半年。
最早昼休みに出久が私の元へやってくるのが当たり前になってきているが、だからと言って友達ではないだろう。
「たまには極夜から会いに行ってみな。きっと緑谷君喜ぶよ」
「馬鹿を言うな。この見目の私が人前で出久と会ったら出久が何か言われるだろう。ただでさえ無個性故に他の人間から下に見られているというのに」
「ほらね」
「?」
「極夜は自分がどんな悪口を言われても何とも思わないけど、少しでも心を許した人が馬鹿にされると凄く怒るでしょ。そう思うって事は極夜は緑谷君に心を許してるし大事に思ってるって証拠よ」
「…………」
不味い。反論できる要素がない。
でも……そうか。私は出久に心を許しているのか。友として。
「出久。私とお前は友なのか?」
「違うの!!?」
しかし出久が私の事をどう思っているのか分からなかったため訊いてみたところこの返答だった。
どうやら出久はとっくに私を友達だと思ってくれていたらしい。
「ああ、いやすまない。これまで友と呼べるものがいなかったから友がどういうものなのか自分では分からんのだ。ただ両親からはそうだと言われて確かめようと……」
「そ、そうなんだ……。別に難しく考えなくてもいいと思うよ。僕は新月くんの事、友達だってずっと思ってたよ」
「そうか。ありがとう出久。これからは友としてよろしく頼む」
「こちらこそよろしく新月くん」
「極夜で構わない」
「! うん、ありがとう極夜くん」
こうして私は今世で初めての友を得た。
私が近くにいる事で出久が何か言われるのは嫌だったから他の場所で会うのを最初は拒んでいたが、出久はそんな事は全く気にしていないようで遊びに行こうとか、一緒に勉強しようと何度も誘ってくれた。
だから私も家から出る事が少しずつ増えていった。(基本学校がない時は引きこもり)
両親もその事をとても喜んでくれた。
「極夜くん、一緒に雄英高校受けない?!」
「は?」
あっという間に中学3年になった。出久と同じクラスになる事は終ぞなかったが友である事に変わりない。
そしてそろそろ進路希望の紙を提出しなければいけない時期なのだが、特に何も目標らしい目標がなかったため出久に相談してみたところそう言われた。
「一緒にヒーロー科受けようよ! 極夜くん学年一位だし実力もあるからきっと合格できるよ!」
「そう言われてもヒーローに興味がないものがヒーロー科を受験しては不味いだろう」
それ以前に身内以外どうでもいいと思っている私に人助けが仕事であるヒーローなんて無理に決まっている。
キョウヤや出久くらいお人好しでなければ務まらんだろ。
「じゃあ普通科はどう? 雄英は国立校だから普通科卒業でも就職に有利だと思うよ」
「……どうあっても私を雄英高校へ行かせたいのか出久は」
「一緒に通いたくて」
「はぁ……、一先ず両親に訊いてからな。駄目と言われたら諦めてくれ」
というワケで訊いたところあっさりOKされた。
軽いな。もう少し理由を訊いても良いのだぞ?
しかし雄英高校、自分なりに調べてみたが広い上に施設が充実している。普通の高校へ行くより楽しそうだ。
その事を出久に伝えようとLINEでいつもの場所にいると送ったのだが既読にならない。
いつもならすぐ既読になるのにどうしたのだろう。
「ーーーーー!!」
「ん?」
悲鳴のような声が聞こえたため上を向くと何かが落ちてきた。
咄嗟に掴むとそれは出久がいつも大切に持っている自分なりのヒーロー分析をまとめたノートだった。
出久がこれを落とすハズがない。何より焦げた跡がある。
出久に何かあったのだと分かり急いでノートが投げられたと思われる教室へ飛んだ。
「そんなにヒーローに就きてんなら効率良い方法あるぜ。来世は“個性”が宿ると信じて…屋上からのワンチャンダイブ!!」
「!!!」
一旦影から様子を見ようかと考えていたがその言葉を聞いて、それが出久に向けられたものだと分かりすぐ教室へと入った。
突然教室内に現れた私にその場にいた全員が硬直する。
「きょ、くや…くん……」
「ノートが上から落ちてきたから届けに来た。出久のものだろう」
「……うん、ありがとう」
私が来たからか何とか笑みを浮かべる出久。
何があったのか知らないがあんな事を言われて苦しくないハズはない。
そして……。
「おい、お前」
私の友を苦しめたのはお前だな。
「あ゛? 何だて」
「死が何なのか理解していないものが自死をしろなどと軽々しく口にするな。今すぐ出久に謝れ!」
「「「!!??」」」
私は本気の怒気と威圧を飛ばす。
それを感じ取った男二人の顔が青褪め体が震え始めた。
もう一人……出久にこの事を言った張本人は一瞬表情を曇らせたが、プライドだけはあるのかすぐ戻った。
「何で俺が無個性に謝らねぇといけねぇんだよ。ほら行くぞ」
「う、うん」
「…………」
出久に何も言わずに出て行く奴らを見て怒りが更に大きくなる。
叩きのめしてやりたくなったが出久がそれを望んでいないと分かるため仕方なく怒りを抑え、出久へ顔を向ける。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ……心配かけてごめん」
平気そうに振舞っているが今にも泣きそうな顔をしている。
あの毬栗頭が……何者かは知らんがやはり一度徹底的に潰すべきか?
「……あのさ」
「何だ?」
「極夜くん……もしかして家族の誰かが亡くなってるの? 何かそんな感じの言い方だったけど……」
そういえば出久には私の前世の事を話していなかったな。
自分は養子で両親とは血が繋がっていないとは話したが、それ以外の事はほとんど話していない。
「いや、死んだのは私だ。私は一度死んだようなものだからな」
「え?」
しかし全てを話す事は流石にできないため仕方なく少し事実を曲げて話す事にした。
出久なら大丈夫なのではないかと思ったが早々に信じられる話ではないからな。
「私の生みの親はこの姿で生まれた私を地下室に閉じ込め虐待したあげく《ナイトメア》の“個性”が発現した私を見捨てて逃げた。暗い地下室で私は今の養父に発見されるまでの2週間、飢餓で苦しんだ。後一日発見が遅かったら本当に死んでいたらしい」
「…………」
相変わらずその時の事は思い出せない。
だが頭で覚えていなくとも体はその事を覚えていたようで、急に耐え切れない空腹感に襲われたり、吐くまで食事を続けたり、一日中食べていないと落ち着かない日があったりなど明らかな異常行動があった。
数ヶ月間続いたその異常行動は気が付けばなくなっていたが……今思えば相当精神が不安定だったのだろう。
あの頃は両親にかなり迷惑をかけた。
「記憶にはないが感覚は残っている。体が死に向かう感覚が……。それがどんなものか知らずにあんな事を言うなど実に腹立たしい」
「……極夜くん怒る事あるんだね。あんまりそういうイメージなかったけど」
「身内がそう言われて怒らないものはいないだろう。私は存在自体が害だからそう言われても何とも思わないが」
「そ、そんな事ないよ。極夜くん凄く優しいじゃないか」
「そう言うのは出久と両親だけだ。……ああ、そうだ。両親から許可を得たから私も雄英高校を受験する。共に勉学に励もう」
「本当?! 一緒に通えるように頑張ろうね!」
ようやくいつもと同じように笑った出久を見てホッと一息ついた。
二日後、出久から「凄い人からトレーニングを教えて貰える事になったんだ!」と報告があった。
今まで見た事がないほど喜んでいたから余程凄い人物なのだろう。
故にそのトレーニングが完了するまでの間、学校以外では会えないと言った。
少し寂しいと思ったがヒーローになるのは出久の夢なのだから邪魔をするワケにはいかない。
途中で頑張りすぎてオーバーワークしかけていたので強制的に眠らせるという事態が起こったが、それ以外は特に問題らしい問題はなく、試験まで残り一週間になった頃、出久から連絡があった。
その人のお陰で“個性”が発現したから、慣らすのを手伝って欲しいと。
指定された場所はゴミだらけで有名な海岸だった。
そこが以前の面影がないほど綺麗になっている。
まさか出久がやったのか?
「極夜くん!」
私が来た事に気付いた出久が近付いてきた。
ふむ。“個性”が発現したというのは本当のようだ。感じる気配が違う。
……いや、いくら何でも違い過ぎないか?
「後天的に“個性”が出る事もあるのだな。何はともあれ良かったな出久」
「ありがとう! 極夜くんのお陰だよ!」
「私は何もしていない。全て出久の努力の賜物だ。だが体に不調はないか?」
「え? 特にないけど何で?」
表現は難しいが複数の力が交わっているような不思議な感じがする。
発現したばかりだからそう感じるだけかもしれないが何か気になる。
「いや、何ともないなら良い。それでどのような“個性”なんだ?」
「えっと、増強型の“個性”だよ。でも昨日使ったら腕が折れちゃって……」
「折れ……それにしては平気そうにしているな」
「トレーニングを指導した人が紹介してくれた人から治して貰ったんだ」
「……まぁ発現したばかりならそうなるのも無理ない。まだ体に力が馴染んでいないのだ。後一週間でどれほど馴染ませられるか分からんができるだけ協力しよう」
「ありがとう!」
時間が限られているため早速“個性”を馴染ませるために訓練を開始する。
どんな方法でもいいと指導している人間から言われているそうだから私なりのやり方で少しスパルタ気味にしごく。
「一ヵ所に力を乗せ過ぎだ。また骨を折りたいのか」
「ぐふっ!?」
「一気に力を込めすぎるな。今度は体が砕けるぞ」
「ぎゃ!!」
体を壊す前に吹っ飛ばして阻止する。
まだ100か0の調節しかできないが、この“個性”は凄まじい力だな。
使いこなす事ができればオールマイトに近い実力者になれよう。
「極夜くんこんなに強かったの!? 手も足も出ないんだけど!!?」
「力を使う理由がないからな。今の私にとっては無用の長物だ」
生来私の種族は戦いを好まない。
生態系の頂点に立てる実力はあるが余程の事がない限り縄張り争いもしない。
《ナイトメア》のせいでできるだけ他種族との接触を避けて生きているのに何故これほどの力を持っているのか分からんが、あっても困る事はないから深くは考えない。
「少しずつ出力を上げるイメージをしろ。頭で考えるのと実際にやるとでは勝手が違うが……そうだな。見せる方が早いか」
私は個性抑制装置を外した。やはり外すと体が軽い。
出久は私が何かすると分かって目を輝かせているが……そこまで大した事はしないからな?
「【サイコキネシス】」
念力を放ち、近くの小石を浮かせる。
何故かレベルで覚える技だけではなくキョウヤが技マシンで覚えさせた技まで使える。
しかも通常は技は4つまでしか記憶できないのに今の私にはその制限がない。
それだけでも前世より強いと思うが、更にキョウヤが色々して強くなった力もそのままなのだ。
この世界ではそこまで力を必要としていないのに何故だ?
「小石を浮かせるだけなら少しの力で十分。今かなり出力を抑えているが分かるか?」
「う、うん」
「ここから浮かせるものによって出力を変える」
少しずつ大きく重いものを浮かせ、出久に分かりやすいように出力を上げていく。
最後に私の体格の何倍もある大岩を浮かせる。
「出久の“個性”でも同じ事ができるハズだ。さて、このまま落とすのは危険だから壊すとしよう。【あくのはどう】」
悪意のオーラを放ち大岩を粉々に破壊する。
……久し振りに力を使ったが思った以上に疲れたな。
たまに使わないと体も鈍る。今後は定期的に使うとしよう。
「極夜くんこんな事できたんだね! 凄い! 実力派のヒーローになれそう!」
「私はヒーローに興味がないと言っただろう。くれぐれも今見せた力は秘密にしてくれ。変に目を付けられたくない」
「うん。分かったよ」
「日が暮れるから今日はここまでだが、明日も同じ時間に来ればいいか?」
「頼んでいいかな?」
「ああ」
———続く