21世紀は米中百年戦争の時代(2) | 方丈随想録

方丈随想録

感じたこと、思いついたことを気ままに投稿します。

「奇妙な戦争」という言葉がある。その言葉は、1939年9月にドイツ軍がポーランドに侵攻したので英仏はドイツに宣戦布告をしたのだが、英仏軍とドイツ軍との地上戦は翌年の5月から始まったので、約8か月間英仏とドイツとの間は戦闘状態がない平和な時期があった。戦争に入っても戦闘がなかったので「奇妙な戦争」という言葉が生まれたのだ。

米中間の対立も「奇妙な戦争」である。それは中国がアメリカに対して仕掛けた知能戦で、アメリカの国力をそぎ落とし、孤立化させ、発砲はしないが軍事力で恫喝しつつ、従来の国際秩序を中国本位のものに改造していくという戦略をとる。一見、紳士的に振る舞い、国際協調をしているような印象を振りまきつつ、一方で暴力的に国際法や国際的な合意を踏みにじるのである。その例を前回のブログで二つ紹介した。ここでもう一つ挙げてみると、地球温暖化に対する取り組みがある。中国も温室効果ガス排出削減に取り組む国際組織に加盟している。その取り組みに関して太陽光パネルの生産、あるいはEVの生産では世界でトップのシェアを実現し、さも環境問題に熱心であるかのように振舞っている。ところが、こうした太陽光パネルやEVの生産のために多量の炭酸ガスを排出している。更に、太陽光パネル生産にウィグル人を酷使したり、EV生産に多額の政府補助金を投入するなどして人権やWTOの規約を蹂躙しているのである。また、南シナ海においては、国際海洋法条約を無視して人工島をつくり、近隣国の排他的経済水域等の権利を平気で侵害している。これが国連に復帰し、安保理の常任理事国になった中国の姿なのだ。

中国は兵器の使用を伴わない「奇妙な戦争」を仕掛けている。いくつかを列挙すると。

(1)工業製品のダンピング輸出によるアメリカの工業力の減殺

(2)サイバー攻撃による先端技術の窃盗(軍事技術を含む)

(3)ロビー工作やハニトラによる政策誘導や情報取得

(4)孔子学院を設置し、各種のスパイ工作

(5)ネットを利用した世論誘導と大統領選挙干渉

(6)中南米諸国への経済支援によるアメリカの中南米への影響力排除と反米国家への支援

(7)南太平洋やインド洋における島嶼国家への進出による海上覇権の将来的拡大

(8)ロシアと提携した北朝鮮の軍需工業の拡大

(9)南シナ海における人工島の建設と軍事基地化

(10)コロナウィルスCovid-19の製作および拡散による経済を含む国際秩序の破壊

(11)フェンタニールの大量製造と輸出による21世紀の「アヘン戦争」の開始

   メキシコのマフィアに責任を負わせているが、フェンタニーㇽの製造企業は中国企業であ   り、政府からの補助金が入っている。中国は製造企業に対する管理能力を否定しているが、中国政府が悪意を持ってアメリカ社会の混乱を目指している。習近平が首席につく2014年までのアメリカ国内でのフェンタニールによる死者は年間5000人未満であったが、2022年には7万人を超している。習近平がゴーサインを出した「新型アヘン戦争」のアメリカ人死者数は数十万人に達する。アメリカが史上最大の死者を出した南北戦争の犠牲者数と大差ないとすれば、米中は事実上「戦争状態」にあるわけだ。ただ「戦争状態」という認識が成立しにくいだけなのだ。

200年前、イギリスは中国にアヘンを売りまくり、アヘンを取り締まった中国政府に難癖をつけて戦争を吹っ掛けたが、21世紀は中国がメキシコ経由でアメリカに「見えない戦争」を仕掛けているわけだ。アメリカは当然防衛に努めるだろうが、その際QUADなどの西側連合の参加と結束が求められる。日本も対岸の火事では済まなくなる。