アヘン戦争と米中関係 | 方丈随想録

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イギリスが中国で行った歴史的犯罪行為としてアヘン戦争がある。アヘンで苦しむ人が出ようと、アヘンによって崩壊する家庭がどれほどあろうと、中国の社会が毀損されようと、そんなことはイギリスにとっては問題ではなかった。儲かるからどんどん密輸したわけだ。当時の清朝政府が業を煮やしてイギリスの商人からアヘンを没収して廃棄し、アヘン貿易を行わない旨の誓約書を提出することでケリをつけようとした。実に穏便な措置だと思うのだが、イギリスは軍隊を派遣して戦争を起こした。実に理不尽な戦争だったわけだ。その戦争について英米の歴史教科書にどう書いてあるか調べたが、実にそっけないものだった。

イギリスの主張としては、行き過ぎた点はあったにしても、清朝の役人の取り締まりがイギリス人に恐怖感を与えたことが人道上問題であり、アヘン戦争の結果、清朝の鎖国を解き、自由貿易という歴史的進歩の過程に中国を引き入れたことで十分戦争の意味はあった、というものだろう。説得力は乏しいように思うのだが、「臭いものに蓋」をして知らん顔をして通しているわけだ。

21世紀の中国が、この度はアメリカに対してフェンタニールを売りまくっている。このフェンタニールによってアメリカでは毎日200人程度が死亡している。アメリカに持ち込んでいるのは中国ではなくてメキシコのマフィアだ。マフィアがアメリカで卸したフェンタニールを売買しているのはアメリカ人だ。中国はEコマースで需要に応えているだけなのだから、アメリカで問題になっている薬物被害には関係ない、ということらしい。しかも、中国は儲けだけのためではなく、アメリカ社会の崩壊を意図して行っている、とアメリカは認識している。アヘン戦争をやったイギリスと悪質性を比較しても同等か、中国がより悪質であるようにも思われる。

アメリカがフェンタニール系のドラッグを国内で取り締まり、国境での密輸阻止をしたとしても限界がある。メキシコ政府の取り締まりにも限界がある。フェンタニールのほぼ全量は中国発だから、結局のところ中国を抑え込むしかないということになる。フェンタニールによる死者は1日200人とすると、1年で7万人、10年で70万人となる。70万人の死者数は南北戦争時の死者数を上回るから、フェンタニールの取り締まりは戦争の域に達している。ここから出て来る結論は、アメリカは中国と宣戦布告無き戦争状態に入り、中国共産党を潰すしかないわけだ。中国の考えとしては、イギリスに許されたことは中国にも許されるという「強者が正義」というものだ。

最後に理解しがたいことをひとつ書くと、イギリスとアメリカは共にアングロ=サクソン系の国だが、アメリカはアヘン戦争の当事国ではない。北清事変では中国と戦ったが、アメリカは清から獲得した賠償金で大学や病院をつくったり、中国人留学生の費用に充当した。アメリカの対中政策は「門戸開放政策」というように、帝国主義的な要素はほとんどなかった。アメリカは親中的な国だったのだが、そのアメリカに何故新たな「アヘン戦争」を仕掛けるのか。覇権主義の魅力に取りつかれたのだろう。

ウクライナ戦争を起こしたプーチンが北京を訪問しているが、これで21世紀の対立の構図が鮮明化した。北京=モスクワ枢軸と自由民主主義陣営の対決ということになる。